⑳
あたしは、店長の言葉に甘えて
雄輔さんに家まで送ってもらうことにした。
それより他にどうしようもなかった。
ほんとに自分で動けない。
恐るべし、ぎっくり腰・・・・
「無理すんなよ。
で、ちょっとワリぃけど我慢な。」
そういうと、あたしのマンションの階段を
ひょいとお姫様だっこして
トントンと登り始めた。
「ちょっと!やめてください!」
慌てて降ろしてもらおうとしたものの
「んじゃ、歩けんのか?」
と、問いかけられると答えはノ―。
「じゃ、黙ってじっとしてろ。」
・・・・・・・・・・・
実は初めての体験だった。
お姫様だっこなんて。
ありえない。
同じマンションの人が偶然部屋から出ようと
ドアを開けた時、
うっかりあたしと目が合った。
話したこともない人だったけど
慌てて目をそらすと、ドアを急いで閉めてしまった。
もう・・・・・
ものすごーーーくはずかしい。
だけど、ほんのちょっと、
胸の奥に感じたあったかいものを
あたしは意識的に奥に引っ込めた。
気にしちゃいけない。
優しいなんて勘違いしちゃいけない。
嬉しいなんて思っちゃいけない。
後で、裏切られたと思うくらいなら
最初から、なにもなければいい。
だけど、心臓の鼓動は正直で
体に当たる筋肉が逞しくて
嫌でも、雄輔さんにオトコを感じた。
「部屋のカギは?」
問いかけられて、
「鞄の中です。」
と答えると、
お腹の上にそっと鞄をのせられた。
器用な人・・・
「開けられる?」
手だけなら動かせたので
鞄からカギを出し、雄輔さんに差し出す。
「お邪魔します。」
そういうと雄輔さんはカギを開け
あたしの部屋に入った。