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思いもよらなかった菊池課長との再会以来
あたしは、前以上にふさぎこんでしまった。
気持ちがどうやっても上向かない。
3カ月もたっているのにまだ、
気を抜くと涙がこぼれそうになる。
『何も思わない。考えない。』
そう心に決めて、あたしはまた
いつもの業務へと体だけ動かし始めた。
「うわぁ!、やばい…」
事務所から変な声が聞こえてきた。
雄輔さん?
やばいって・・・何かやらかしたのかな。
滅多に困った顔なんてしない雄輔さんが
いつになく困った顔をしていた。
見るともなく見ると
事務所のパソコン画面を凝視している雄輔さん。
在庫管理の表かな?
手元には解説書があるけれど
基本、パソコンなんて使える人に聞くのが
一番上達が早い。
使う機能なんて知れている。
「どうすんだ?これ・・・」
ぶつぶつ言いながらなんかやってる。
残念なことに、このさくら堂には
従業員自体それほどいない小さな書店。
教えてくれる人がいないのに
それを本見ながらやるのってほんと大変。
「うそだろ・・・・」
突然ガクッと雄輔さんが倒れた。
「どうしたんですか?具合でも悪いんですか?」
さすがにびっくりしたあたしが声をかけると
力なく雄輔さんは顔をあげ
パソコン画面を指差した。
「やっと作った表が、3時間もかかったのに
一瞬で消えちまった・・・・
信じらんね―――――!」
ちらっと画面を見ると、白紙状態になっていた。
でも、戻るでしょ?
やり直しで。
あたしはポンとリターンキーを押した。
一瞬で数字が戻ってくる。
当たり前だ。
上書きしてなければ戻ってくる。
「作業していたのは、これですか?」
あたしは雄輔さんに声をかけると
雄輔さんはものすごく嬉しそうな顔して
「すげーーー!ありがとう。たすかったぁ・・・・・」
と、心底安堵した。
そんな大したことしてないんだけど・・・・