表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さくら咲く  作者: みほ
12/110

いつものようにさくら堂で仕事をしていた時


この世で一番会いたくない人に出会った。



「ねぇ、菊池さん、この本いいと思わない?」


奈々美さんが甘えたように言った。


「どれ?」


一番聞きたくて、一番聞きたくない声。


胸の奥が、焼けただれたように痛む。



「あ・・・」


一瞬合った視線。


菊池さんが口を開く前に


あたしは事務所の奥にと逃げ込んだ。



事務所の隅にうずくまって


必死で嗚咽を抑える。


こんなとこ見られたらみんなびっくりする。


お願い、早く胸の痛みよ消えて!



エプロンをぎゅ―――っと握りしめ


必死でこらえようとしたけど


耳の奥に菊池さんの声が何度も何度も聞こえて


胸が張り裂けそうだった。



「どうしたんだ?何かあったか?」


たまたま事務所にやってきた雄輔さんが


びっくりしてあたしに声をかけた。



「おい!どっか痛いのか?」


大きく横に頭を振る。


一瞬間が空いて、次の瞬間


ギュっと抱きしめられる感触がした。



え?っとパニックになる前に


「泣いていいから。」


と、声がした。


「っつーーーか、泣け!」


ギュッと頭を抱えられ、胸に押し付けられた。


あたしは、一瞬びっくりしたものの


我慢しきれず、堰を切ったように


涙が止められなくなった。



「そろそろラブシーンは終わりにして


仕事に戻ってもらおうかね。」


あたしの涙が収まったころ


突如店長の声がした。



慌ててあたしたちはぱっと離れた。



ポリー叔母さん、もとい


店長の目がほんのちょっと優しかった。


それが逆に恥ずかしくて


「顔洗ってきます!」


と、あたしはトイレに駆けだした。



あたしの去った事務所では


「ありがとよ。あんたもたまには


いい仕事すんね。」


と、店長が雄輔さんに言った。



「何があったか全然分かんないんですけどね・・・


大丈夫かな・・・」


心配そうな顔した雄輔さんに


店長は一枚の封筒を差し出した。



「これは?」


不思議そうな顔した雄輔さんに


「必要経費。」


店長はそう言って、ニコッと笑った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ