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さくら咲く  作者: みほ
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タクシーの止まったところはおばさんのいる病院。


「え・・・このままいくわけ?」


思わずつぶやいたあたしに


「当然だろ。ほら。」


と、手を差し伸べた雄輔さん。


「でも・・・」


みんなびっくりすると思うけど。


こんな恰好で病院なんて行っていいわけ?


「大丈夫だって。」


そう言って、雄輔さんはあたしをタクシーから引っ張り出すと


予想通りびっくりして2度見する周りの視線を感じながら


おばさんのいるフロアへとまっすぐに進んで行った。




おばさんのいる階に着くと、


受け付けに


「お世話になります。」


と声をかける雄輔さん。


「あら、素敵♪」


と、看護師さんたちの目があたしたちに集まる。


でも、誰にとがめられるわけでもなく・・・




すたすたとおばさんの病室の前に行き、


ドアを軽くノックして部屋に入る。


最近では座ることも少なくなったおばさんだったが


あたしたちの出現に少なからずどきもを抜かれたらしい。


「これは・・・」




言葉にならないおばさんにほほ笑むと雄輔さんが口を開いた。


「オレたちの晴れ姿、ぜひ店長には祝って欲しくって。


どうです?綺麗でしょ、コイツ。」


と、あたしを片手で引き寄せた。




・・・・・・あたしは胸がいっぱいになって半分泣き顔。




「これで安心できそうだね。雄輔、しっかりすんだよ。」


弱弱しくなったけどいつものおばさんの口調。


「もちろんです。」


優しい眼差しの雄輔さん。


「これで、やっとお前に託せるね・・・」


おばさんは痩せた手をあたしに伸ばした。


その手をそっと握る。


「あの書店は、あんたのために作ったんだよ。


しっかり受け取っておくれ。」


おばさんはそう言ってほほ笑んだ。


「そんなこと言わずにまた戻ってきてよ。」


「いや、そんな元気はないさ。それより・・・」




おばさんは、昔話を聞けと言いながら話し始めた。




「あたしゃ昔、添い遂げようと約束した男がいてね。


そのつもりで準備も進めてきた。


ところが、式の数か月前に、交通事故でね。


あっけないもんさ。


その頃はまだ若かったから、あたしもあとを追うことばかり


考えていたんだよ。


そんな頃だった。お前が生まれたのは。


柔らかい、小さなお前を見て生きるってことを考えさせられたよ。


小さくても必死に生きてるお前に、


あたしは、命を救われた。


死ぬくらいなら、この子のために生きていこうと


その時決めたのさ。


ゆくゆくはお前に残すつもりで


書店を開いたんだ。


小さかったお前と一緒に、さくら堂書店は


少しづつ成長した。


あたしが必死で育てたからねぇ。」




そこまで言うと、おばさんは、ほうとため息を一つついた。


「お前も綺麗に育った。花嫁姿を見せてくれて


ホントに嬉しいよ。雄輔にしちゃ上出来だ。


こんなとこまで来てくれるなんて思ってもみなかったからねぇ。


ありがとよ。」




「店長に褒められんのも久々だなぁ。」


照れたように雄輔さんが笑った。




「それに、偶然じゃなかったんだな。さくら堂って名前。」


ポツリとつぶやいた雄輔さんにおばさんが笑って言った。


「もちろんだとも。敢えてこの名前を付けたのさ。」


そう言っておばさんはあたしの手を握り直した。


「もう、あたしの助けも要らないねぇ。


雄輔と幸せにおなり。」


「ええ。」


あたしの目から大粒の涙があふれた。




「それから雄輔、この子も店もちゃんと守らないと


許さないからね。」


「言われなくてもきっちり守ってやるよ。」


しみじみと雄輔さんが答えた。




「さぁ、そろそろお行き。


来てくれてほんとにありがとう。


それと、おめでとう。」


おばさんの言葉に、あたしたちは病室をあとにした。


「ありがとうございました。」

雄輔さんは、受け付けで声を掛けた。

「喜んでいただけました?」

「ええ、もちろん。」

どうやらあたしの知らない間に、

前もって病院の許可を取ってくれていたみたいで

それなら、スムーズに行けたわけね・・・


「連れてきてくれてありがとう。」


帰りのタクシーであたしは雄輔さんに言った。


「いや、オレも会いたかったし。店長に。」


雄輔さんはそう言ってあたしの手をそっと握った。


「ちゃんと守るから。店も、さくらも。」




・・・・・・




ああ、何でこんなとこでそんなこと言うかな。


書店ではあえてみんなに下の名前は伏せていた。


なんか、同じって思われたくなくて。


でも、おばさんの話を聞いて


同じ理由を知った今、初めて雄輔さんが呼んでくれた名前に


涙腺がまた崩壊した。




「お?オレのセリフがカッコよくて感動したか?」


なんて、あえて視線をそらしてる雄輔さんに


「うん。」


と答えてみる。


ちらっと隣を見ると、ありえないくらい真っ赤だった。


ふふ・・・。




今日はあたしの人生で最高の一日。


こんな幸せな日が来るなんて思わなかった。


人生って何が起こるか分からない。


でも、毎日を頑張って生きていれば


いつか花開く日もやってくる。


あたしは、今心から思う。




明日はあなたにも、さくら咲く日がやってきますように。










―完―

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