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「あんなとこで、ものすごく恥ずかしかった・・・」
店を出てから雄輔さんにポツリとこぼすと
「あれは空気をよまねぇお前が悪い(笑)」
と、髪をなでられる。
「でも・・・・」
と、真面目な顔して雄輔さんは言って
「あの返事はもう取り消せねーからな。」
と、あたしの目を覗き込んだ。
「あ・・・はい。」
思わずほほ染めたあたしに
雄輔さんは、とろけるように優しいキスをくれた。
「ああ、どうしよう!遅れちゃう・・・」
あたしは朝からバタバタ。
「お待ちしておりました。さあ、こちらへ。」
ここは、神社の側にある新婦の控室。
今まで経験したことないプロのメイクさんと
プロのスタイリストさんが
あたしの花嫁姿を仕上げていく。
うわぁ・・・これ、誰よ・・・っていうような
綺麗な花嫁さんが仕上がって行く。
真っ白な着物を着せられて
特注の鬘も乗せられて
きりっとした、真っ赤なルージュと
ふわっとかぶされたわたぼうし。
「綺麗だよ。」
鏡に映るあたしを、雄輔さんが見つめて言った。
「ありがと・・・」
照れながらも嬉しいあたし。
「さぁ、お時間です。まいりましょうか。」
係のお姉さんの声に雄輔さんはにこりとほほ笑んで
「んじゃ、行くか。」
と、あたしに手を差し出した。
袴姿の雄輔さんに手を引かれながら
神社の回廊にあがる階段の前に来た。
玉串奉納の説明を簡単に受ける。
「出来るかなぁ。」
かなりの早口で説明されて
あたしは覚えられたような気がしない。
朝から怒涛の準備でもういっぱいいっぱい。
式の途中で真っ白になったらまずいじゃない?
「あの・・・」
と、もう一度確認をと思ったら
「オレと、おんなじようにやればいいから。
心配すんな。」
と、雄輔さんがあたしに言った。
不思議と、安心させられた。
式は滞りなく進んだ。
たった一つだけ心残りがあったけど。
そう、おばさん。
今日の式にはおばさんも招待したんだけど
体調が悪く出席はかなわなかった。
「やっぱり無理だったね。来てほしかったのにな。」
式の後、披露宴の入場前に雄輔さんに言うと
「そうだな・・・」
と、何かしばらく考えていたが
「ま、さっさと披露宴始めっか。
みんな待ってるからな。」
と、係員に準備オッケーの合図を送った。
冷たい・・・・と思ったけど
主役の花嫁が仏頂面ってのも頂けない。
大きく開いた扉から割れんばかりの拍手に包まれて
あたしたちは会場内へと足を進めた。
「はぁ・・・疲れた・・・着物って重い・・・」
華やかな打ち掛けは、腕をあげることもままならないほど
結構な重さがあって
着ているととても疲れる。
しかも、履物がまた歩きにくい・・・・
式を無事終え、お客を見送り
やっと、一息ついた時花嫁の控室に
雄輔さんがやってきた。
「疲れてるとは思うんだけど
そのままちょっと来てくんねー?」
そう言って、あたしの手を取る。
「あんま時間ねーンだ。休ませてやれねーけど
ちょっと頑張ってくれな。」
雄輔さんも羽織袴の姿のまま。
「ちょっと・・どこに行くの?」
「いいから、黙ってついてきてくれ。」
・・・・・・・・・・・・
雄輔さんはそのまま建物からあたしを連れだし
停めてあったタクシーに乗り込み
そのままあたしも引っ張りこむと
「じゃ、お願いします。」
と、運転手さんに声をかけた。
うそ・・・・このままどこに行くつもり?