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さくら咲く  作者: みほ
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おばさんの容体は緩やかに悪化して行った。


あたしはその現実を直視したくなくて


必要以上にさくら堂書店のために頑張った。


売り上げは、右肩上がり。




様々な工夫を考え、客を増やし、頑張った。


そんなあたしに雄輔さんは心配しつつもじっと見守ってくれた。


「やりたいことは協力すっから。」


と、全面的に経営方針には賛成してくれた。


だけど、まだ若い女というだけで交渉事には不利なことも多い。


そんな時は雄輔さんが前面に立ってくれた。




「ま、オレ、男だからさ。」


そう言って屈託なく笑って、必要な交渉を進めてくれる。




誰かの背中を追っかけて仕事をするのは大変だけど


何かあれば最終的には守られていた。


菊池さんのあとを追っかけてた頃には気付かなかったけど


方向性を示してもらってからの頑張りと


自分で方向を確認しながらの頑張りでは


気持ちの不安定さに大きな差があった。




これでいいんだろうか。


やっぱりこうすべきなのか?




日々悩みながらの全力疾走に、正直疲れてきた。


おばさんって、ほんと大変だっただろうな。


そう思いながらも、もうダメだと、何度思ったことか・・・




ギリギリで仕事をしていたある日、


ほんの少しのミスで取り引き先の担当者に


「ホントにそんなんでお宅、大丈夫なわけ?」


と、冷たく言われた一言に涙がこぼれた。




頑張ってるのに・・・


悔し涙をこらえようとすればするほど


熱く込み上げるものが抑えきれなくて


いつもおばさんが仕事していた2階の事務所で


声を押し殺して泣いた。




「おーい、これいくら発注かけとけばいい?」


雄輔さんがあたしを探して事務所を覗き、


そして、あたしの様子に気付くとそっと近寄ってきた。


気付いてても顔の上げられないあたしの傍で立ち止まる。




「ごめん・・・あとで・・」


と言いかけたあたしをふんわり抱き寄せると


「大丈夫。一人じゃねーから。な?」


優しく囁いた。




不思議とその声のおかげで


す――っと気持ちが穏やかになった。


優しい魔法みたい。




「ありがとう。」


少し腫れぼったい眼を気にしながらも


雄輔さんにぎこちなくほほ笑むと


「どういたしまして。」


と、ひだまりみたいな笑顔で返された。




そしてその日の夜。


「あのさぁ、提案があるんだけど。」


夕飯に誘われて、レストランで食事をしながら


雄輔さんがあたしに言った。




「なに?」


「昼間のことなんだけど。」


あ・・泣いてるとこ見られたっけ・・・


「疲れてんだろ?もう一人で頑張ろうとするのはやめねー?」


「え?いつも助けてもらってるし・・・」


何が言いたいのか分からず、戸惑いながら答えると


「この先ずっと支えてやりてーんだけど。


そりゃ、仕事のスキルは、およばねーとこばっかかもしんねーけど


もっと、こう、支え合ってだなぁ・・・」




何か赤い顔して一生懸命力説してるんだけど


いまいちどういう提案なのかが分からない。




「だから今でも充分助けてもらえてると思ってるよ。」


キョトンとして答えるあたしに


「あーーーーー!もう!そうじゃなくて!」


バサッとテーブルに突っ伏した雄輔さんが


またいきなりガバッと顔をあげて言った。




「結婚しねーかっつってんの!」




・・・・・・・・・・・


雄輔さんの声に周りの騒音が消えた。


あのさぁ・・・周りの視線が痛いんですけど・・・


そりゃ確かに雄輔さんは好きだし


頼りになるけど、今ここで?みんな見てるよ・・・




「イヤか?」


不安そうに聞く雄輔さん。




「・・・・・・・・・・イヤじゃない・・・」


小さくつぶやいたつもりのあたしの声は


意外とみんなに聞こえてた。




パン、パンと誰かが手を叩く。


それをきっかけに、レストランが


知らない人たちの集まりのはずなのに


拍手の波に包まれた。




ウソでしょ・・・・


あたしの人生にこんなことが起こるなんて。


ドラマではありうるかもしれないけど


こんなの恥ずかしすぎるんですけど。




おまけにレストランの店長から


「お幸せに。」


と、デザートの差し入れまで頂いた。


ありえない。。。


嬉しいというよりもこの日は


恥ずかしくて仕方がなくて・・・




あたしは出来るだけ早く食事を終えて


やけに嬉しそうな雄輔さんを急かすように


その店を出た。


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