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さくら咲く  作者: みほ
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あの・・・雄輔さんが眉間にしわ寄せてらっしゃいます・・・


理由は。。。


あたしですかね。やっぱり。




朝、


「何やってんのよあんたたち!」


という甲高い片桐さんの声に


慌てて飛び起きたものの、


雄輔さんと密着状態で立てないという・・・




「何でこんなとこでいちゃついてんのよ!


んなもん部屋に戻ってやんなさいよ!」


と、朝から散々ぶつぶつお小言を頂きました・・




「ったく。。。オレだってそうしてーよ。」


と聞こえてしまったのはスルーしよう。




「2時間で戻ってこい!オレ、準備してっから!ほら早く!」


そう言って雄輔さんに店を追い出される。


着替えもシャワーもごはんも済ませてギリギリ帰ってこれる時間。


そう言えば、あたし、昨日のお昼から何も食べてないや。




さすがに反省。


体調管理は仕事の基本だっけ・・・


あたしは、一分でも早く戻るべく


急いで自分の部屋へと戻った。


着替えも出来てないなんて情けない・・・


帰り道も、自己嫌悪に浸る。




「ワリぃと思うんなら、埋め合わせしろよな。」


戻ったあたしに、雄輔さんはニカッと笑って


それからすごくまじめな顔して言った。


「今日は閉店後すぐに帰んぞ。


もし急ぎがあんなら、店は見とくから事務所で


今からやっとくんだぞ。」




・・・・・・・・・・・・・




ソファーでなんて寝てたから体も痛い。


雄輔さんも付き合って一緒にいてくれたから


きっと疲れてるはず。




たまには、彼女らしいことしないといけないな。


夕飯は何か作ろうか・・・


そんなこと思いながらその日は1日仕事をこなした。


そして、宣言通り雄輔さんは閉店後すぐに


あたしを連れだした。




「店長んとこ行ってみねーか?」


雄輔さんは帰りがけ、ふとあたしに言った。


「え?・・・いいけど。」


何でだろ・・・




あたしたちの中では、店長はまだおばさんだ。


おばさんは、少しずつ、確実に弱って行くのが


あたしにも分かる。それがつらくて


最近は少し足も遠のいていた。




「こんばんは・・・」


おばさんの病室をのぞくと、おばさんが座って


本を読んでいた。


「おや、珍しい、お揃いでどうしたんだい。」


「あ、それどうですか?気に入ると思って選んだんですけど。」


雄輔さんがおばさんに声をかける。




「まあまあだね。あんたにしちゃ上出来だけど。」


そう言っておばさんはくすりと笑った。


「ま、あんたたちも順調なようで良かったよ。」


そう言われて初めて、あたしと雄輔さんが


手をつないでいたことを思い出した。


慌てて放そうとする手を雄輔さんはぎゅっと強く握る。




「その子は、すぐ暴走するから、


雄輔、あんたがしっかり捕まえといてやんな。


ほっとくと倒れるまで仕事するからね。」


そう言ってニヤッと笑う。




「もう倒れるほどしてます。だから今日は


無理に連れだしてきましたよ。」


そう言って雄輔さんはほほ笑んだ。




「ほら、そろそろ面会も終わりの時間だ。


遅くならないうちに帰った方がいい。


今日はありがとう。」


お見舞いの本を置いてあたしたちが帰る時


ふとおばさんを振り返ると


少しやつれた顔に笑みを浮かべて


見送ってくれた。


何かその笑顔が切なくて胸が苦しくなった。




「さ、帰んぞ。お前まで倒れたらあの店


マジでつぶれンだぞ。だから・・・」


雄輔さんはそこまで言うと声をひそめて


「オレが今日は強制的に寝かせてやるから。」


と、耳元で囁いた。


「明日は休みだしな♪」


満面の笑みを浮かべた雄輔さん。




「もう!何言ってんの!」


思わずプッと頬を膨らませると


「そうそう、落ち込んだ顔してるよりその方がいい。」


と、あたしの頬をつついてきた。


え?落ち込んだ顔?




「店長見て、顔ひきつってたぞ。おまえ。


見まいに行って、暗い顔してんじゃねーの。」


そう言って頭をグイッと抱き寄せた。




その頃、病室ではおばさんがぐったりと横たわっていた。


「たった10分ほどの面会なのに、こんなに疲れるなんてねぇ・・」


歳のせいとは思えない疲労感がやるせない思いにさせる。




「あの子が落ち着くまで、見届けたいもんだけど…」


おばさんのため息は誰にも届かなかった。


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