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あたしは、おばさんのために頑張った。
手術はうまく行ったけど、その後の回復がいまいち
芳しくないような気がする。
おばさんの入院期間は確実に長くなっていた。
この時あたしは知らなかった。
おばさんとの悲しい別れがそう遠くないことを。
でも、あたしは、
出来るだけおばさんが心配することのないように
そして、もし可能ならまたおばさんに戻ってきてもらうために
順調なさくら堂書店のままで残しておきたくて
前の会社の退職以来初めて全力で
書店の経営に没頭した。
「頑張るのはいいけどな、無理すんなよ。」
そんなことを言ってくれる雄輔さんには
笑顔でありがとうとだけ返して
あたしは、持てるだけの時間をすべて
店のために費やした。
あの頃のように・・・・
「あんた、雄輔とはうまくいってんのかい?」
時折見舞いに顔を出すあたしにおばさんは
ズバッと直球で聞いてきた。
「ええ。ご心配なく。」
そう返したあたしの心に一抹の不安が宿る。
前もそんなこと思ってて、ダメになったっけ・・・
そんな思いを振り切るかのように
あたしは仕事に没頭した。
そして、あたしの悪い癖。
気がつくと日付が変わろうとしていたある日、
事務所のドアが静かに開いた。
「いい加減にしとかないと、体壊すぞ。」
手にコンビニの袋を提げた雄輔さんが
あたしの後ろに立った。
「そろそろもう終わろうと思ってたとこ。」
そう言って立ち上がったあたしは
フラッとめまいに襲われた。
無理もない。
ごはんもろくに食べずに仕事してんだから。
「あぶねー!」
ギュっと抱きとめられて体を支えられる。
「ありがと・・・・」
「ありがとじゃねーよ。何でそんなに無理すんだよ。」
逞しい胸に体を預けたまま
ふ―――っと長い溜息を吐く。
「見てらんねーし。」
ボソッとつぶやくように言った雄輔さんは
「これ以上無理すんなら、オレが強制収容してやるから。」
なんて、あたしに囁いた。
「何よそれ・・・意味分かんないけど。」
なんとも言えない心地よさに包まれて
自分がものすごく疲れていたことに気付く。
このままこうして眠りに落ちてしまいたい・・・
そんなことをふと思う。
そして・・・
あろうことか、そのままあたしは意識を手放した。
「マジか・・・?ありえねーーー。
どんだけ疲れてたんだよ、コイツ・・・」
クタッと寄りかかったまま動かなくなってしまったあたしに
雄輔さんは呆れたようにつぶやいたけど
あたしには届くはずもなく・・・
あたしを抱えてソファーに座った雄輔さんは
「こんなになるまで頑張ることねーンだぞ。」
と、小さくため息ついてあたしを抱き寄せたまま
ほんの少しのつもりで目を閉じた。
そしてそのまま翌朝出勤してきた片桐さんの悲鳴で起こされるまで
あたしたちは、事務所のソファーで爆睡していた。