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その人は突然やってきた。
「あの・・・あんた邪魔なんだけど。」
いつものようにさくら堂書店で本の整理をしていると
突然後ろから声をかけられた。
「あ・・・すみません。」
てっきり通路を塞いでたか、みたい本の前を
あたしが占領してたか・・と思ったのに
「なにそれ、天然?」
って、鼻でフンっと笑う声がした。
え・・・?
「何雄輔に色目使ってんの?
優しいからって、図に乗ってんじゃないよ。
はっきり言って邪魔なの。
邪魔しないでくれる?」
あたしの目の前には包帯の取れたちなみさん。
今は勤務中。
これは業務外のこと。
とすれば・・・逃げるが勝ちってパターン?
小さく頭を下げて素通りしようとしたあたしは
思いっきり腕を掴まれた。
思わず顔を睨みつける。
「今日は邪魔しないでよね。」
そう言い放って、ちなみさんは
あたしの手を投げるように離すと
店から出て言った。
言えなかった。
あたしは彼女ですって。
邪魔するのはあなたの方よって。
あたしの雄輔に手を出さないでって。
だからあたしは、また閉店時間ごろに
雄輔さんが電話で呼び出されたことを知ると
「ほら、行くぞ。」
と、いつものように手を取ろうとする雄輔さんの手を
スッとかわして
「あたしは、行かない。」
と、帰り道を歩き始めた。
「どうしたんだよ。イヤだっつったのはお前だろ?」
そうよ、あたし。
でもね、困ってるなんて見え透いた嘘で
毎日のように呼びつけるあの人に
二度と会いたくはなかった。
「友達になんてなれるわけないじゃない!」
吐き捨てるようにそう言って
キュッと唇をかみしめた。
そうでもしないとこみ上げるものを抑えられなかった。
「んなことねーって。ちょっとあいつも空気読まねーけど
いいとこあんだぜ。」
もういい。
あたしの心はまだ、あっけなく折れる弱いものだった。
ポキンとこの瞬間、心が折れた。