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①
「いらっしゃいませ!」
来店したお客さんに向かってみんな元気な声をかける。
それに対しての返事はないのだけれど。
「いらっしゃいませ…」
あたしも一応声を出す。
そういう決まりになってるから。
そしていつも、気付けば手元だけを見て
与えられた仕事を黙々とこなす。
そんなあたしを見て
先輩店員の片桐さんは小さくため息をついた。
「ちょっと・・・もうちょっと元気よく挨拶してよね。」
荷物を運んで倉庫から出た時に
片桐さんに言われた。
「はい、分かりました。」
素直に返事はしたものの、
その声はとても暗くて、
片桐さんはまた、今度は大きくため息をついた。
「あのバイトの子、どうにかなんないの・・?」
呆れたように言う片桐さんの声を聞きながら
『どうにもしないから』
と、心の中でつぶやく。
「まだ、慣れてねーから仕方ねーじゃん。
そのうち慣れるんじゃねーの?」
もう一人の先輩店員、雄輔さんの声が聞こえた。
『悪いけどそうは思えないわ。』
あたしは心の中でまたつぶやくと
よいしょと荷物を抱え直して
歩き始めた。