顔芸勇者? いえ、喋れないだけです
ダラムヤマ山頂。
山頂に向かうと1人の大柄な男が倒れていた。
筋肉質な黒い鋼のような身体。左肩に付けられた狂犬のような肩当。ただ着るためだけに作られた質素で簡易な服。拳には炎のように赤い拳当て、そして頭には不気味な2本の角が生えていた。
アクジキ・バイアアルパ。通称、『かませ犬のアクジキ』。
「よぅ、ベータ。それにパテカニア様?
……へへ。みっともない所を見せちまったな」
かませ犬と言う名に相応しく、彼は血だらけの状態で僕達の前に立っていた。
「あ、アクジキ! 大丈夫なのか、お前(の金は)!」
「へへ、ベータ。ちょっと……駄目……かもな」
と、血を腕からだらだらと流しながらそう言うアクジキ。
「だ、駄目なのか……。お前(の金)は……」
愕然とする僕。
さ、最悪だ。アクジキにはかなりの金を貸していたのに……。い、いったい誰がこんな事を……。
……分かっている。勇者、レイン・ヘルメンである。
「あっ、あそこです!」
と、パテカニア様は崖の上を指差す。そこには血まみれの1人の男が立っていた。
頭に海賊帽を被った、肩にかかるくらいの白髪で青い瞳の男性。高価な白い制服、制服には金色の豪華そうな勲章を2つ付けている。左の腰には毒々しいマゼンダ色の剣、右の腰には同じように禍々しいマゼンダ色の拳銃を腰に付けている。そして足元は国王から貰ったと言う伝説級の装備、身体能力が10倍になる靴を履いており、その靴が光り輝かれていた。
血だらけではあるが、傷などは見られない。恐らく全てがアクジキの返り血なのだろう。
……最悪だ。せめて、『かませ犬』らしく傷くらいは与えて欲しかったのだが……。
「あ、あいつは……! ま、間違いない! 我を倒した勇者、レイン・ヘルメンじゃ!」
セドーマ様がそう叫ぶ。叫ぶと共に、レイン・ヘルメンはこちらに向かって、ニコリと笑いかける。そして、そんな彼の首の下に”真っ黒なモニター”が現れた。
『▸A:魔王一行か……。良くここまで来た。
B:フハハ、ダッセー(笑)』
「「はい?」」
僕とパテカニア様は揃って、疑問符を浮かべるように首を横に傾ける。なんだ、あいつは叫んでいないのに、あいつのモニターに文字が……。そして一瞬で文字と共にモニターが消えた。
『 A:まぁ、良い。全員揃ってぶち殺してやる!
▸B:ヨーヨー。お嬢さん。良い尻、してるねー!』
な、なんだ。こいつは。いったい、何だと言うのだ。
なんでこんな場面に、そんな田舎のおばあちゃんに会えた時のような顔をしているんだよ!
しかもそんな彼の下には変な物が出ていると言うのに!




