チンピラ? いえ、ただの馬鹿です
一の四天王の息子、アクジキ・バイアアルパの居る山、ダラムヤマ。
まぁ、このヤマを治めている主が、とりわけ馬鹿で有名なダラムヤマだから仕方ないのかもしれないが、
「おい、お前ら! ここを通りたければ俺らを倒していけ!」
「そうだぞ! お前らの持ち物を置けば、別だがな!」
「「アハハハ……!」」
ダラムヤマを登ってすぐに、なんともチンピラっぽいゴブリン2体が僕達を通せんぼしていた。それも嫌な笑みを浮かべながらである。
「……まさか常々、アクジキは馬鹿だと思ってはいたけれども、魔王の娘であるパテカニア様と四天王の息子である僕、ベータを知らないなんて……。ちゃんと教育をしておかないといけないのに……」
「そうだな……。魔王の娘と四天王の1人を知らない奴が居るだなんて……。教育をちゃんとやれと言うべきだよな」
と、僕とセドーマ様は話し合う。セドーマ様は姿が変わったけれども、僕とパテカニア様の姿は変わっていないのだから、知らないと言うのが可笑しい。
普通、四天王は自分の支配している地域の魔物達を支配している。そして支配している魔物達に常識を教える。例えば自分達の上役である四天王や魔王がどんな姿なのかを教え、世界で生きていく術にその他もろもろ。僕だって一応四天王の息子ではあるので、ベータから支配している地域を持っていて、そこに居る魔物達に色々と知識や上役の事を教えたと言うのに……。
「全く……。僕はちゃんと、裏をかいた金儲けのやり方を教えていると言うのに……」
「……それは教えなくて良い事だと思うです」
「そう? 意外と重要だと思うけれども?」
金。この世は金で動いている。
金で買えない物は無い。買えない物は、『必要のない物』である。
「とにかくこのチンピラをやっつけよう」
僕はそう言って、特製の銃を構える。パテカニア様は魔法の杖を持ち、セドーマ様は頭に特製の腕輪を付ける。セドーマ様の特製の腕輪は、魔力を高めて魔法を使いやすくするために作った特製の腕輪である。セドーマ様の元の身体の女魔法使いアイは魔法を使っていたから、今のセドーマ様は魔法を使いやすい身体になっているので魔法を使いやすいようにしたのである。この僕の銃は……まぁ、そんなに説明しなくても良いので割愛させてもらおう。
「フレアインパクト!」
「ダークインフェルノ!」
パテカニア様は魔法の杖から巨大な、まるで太陽のような球体を作り出し、セドーマ様は手から巨大などす黒い真っ黒な球体を作り出す。
まるで光と闇。
「「そいやぁ!」」
と、それを2人同時に投げる。打ち合わせも無しに、一寸の狂いも無く投げるその様は、やはり姿形が変わっても親子だなと言う事を実感する瞬間だった。
「「「「「「「「「ぐわぁ!」」」」」」」」」
と、合計9つの悲鳴が投げられた先から聞こえて来る。物陰にどうやら7体ほど隠れて、奇襲でもかける予定だったのだろうか? いや、単純に後から威圧感を出すために出る予定だけだったのだろう。そんな高等技術を、このゴブリン達が知っているとも思えないし。
「て、てめぇら! 良くも俺様の部下を!」
と、さらに後方から僕達の身体の数倍はあろうかと言う、巨大な魔物が現れる。
オーガ。ここに居るアクジキと同じ種族だが、とにかくオーガと言うのの特徴は乱暴と言う一言で事足りる。
相手を威圧させる赤く巨大な体躯。
説得に応じない知能指数の低さ。
そして、圧倒的な破壊力。
別にオーガと言うのにも個体差はあるけれども、だいたい全部この特徴に当てはまる。目の前に現れたこのオーガは、赤い目で見えるくらい分かりやすい筋肉質な身体と、巨大な体躯。そして武器に使うだろう棘の付いた黒い金棒を持って、僕達の前に現れた。
どうやら先程倒したゴブリン達のリーダー格のようである。まぁ、アクジキよりは弱そうだけれども普通に強そうではあるな。まぁ、敵ではないけれども。
「それはすまなかった。けれども、金をむざむざ置いて行くなんて、僕のプライドが許さないのでね」
「はぁ!? 金なんか俺らのボスは良く言うぜ? 金は他人から奪う物だって!」
……! なんだと……!
「貴様は何を言っている! 金とは、努力して汗水垂らして働き、皆に渡しながらさらに大金へと変え、そして裏の裏をかいて金を集めて行く物であり、断じて無償で他人から奪う物では無い!」
「ベータ……。最後のは何か違うと思うですよ……」
そんなお前には、痛みをプレゼントだ。
僕の持つ銃、これは僕の保護者であるガンマも使っていた特殊な銃、名を『生体銃』と言う。僕とガンマは魔王様に作られた人工生命体、ホムンクルスである。そしてホムンクルスの身体はエネルギーに溢れている。ガンマは電気、そして僕は氷のエネルギーに溢れており、そのエネルギーとして放つ銃、
「生体エネルギーを銃弾として放つこの銃で、貴様を氷漬けにして金を奪い取ってやるわ!」
「ガンマ、それ敵と一緒だから」
「うるせー! 誰がそんなに容易く、旅人からぶんどった金を渡すか―――――!」
オーガはそう言って黒い金棒をぶん回しながら、頭に血を上った状態でオーガは向かって来る。
「エターナルブリザード」
僕は銃から氷の息吹を放つ。巨大な吹雪が銃から発射され、発射された氷の息吹はオーガを凍りつかせてしまっていた。まぁ、まずまずである。こんなものだろう。
僕は氷漬けになったオーガから財布を抜き取る。……あまり入ってはいないけれども、まぁ、オーガならこんな物かな? まぁ、これくらいの金を倒すだけで手に入るのだから重畳か……。この世界はRPGじゃなくて現実であるからして、魔物を倒したとしても金は手に入らないのだから。
まぁ、こういう風に金を手に入る機会もあるから良いんだけれども。
「さっ、パテカニア様。それにセドーマ様。早く山を登りましょ、早くしないと日が暮れてしまいます」
「「……。やっぱり金が大事なんですね、ベータ」」
とパテカニア様とセドーマ様は揃って言っていた。揃って同じ事を言うのは、やっぱり親子だなんだと思う僕であった。
まぁ、言っている言葉は可笑しいとは思うけれども。
なんで、今。そんな事を言うんでしょ?
僕にはさっぱり分からなかった。




