金に生きる男
実は僕は情に厚くていつもは金銭ばかり言っているが、本当は誰よりも皆を守りたいと思っていると言う事は無い。
どこも歪まず、どこも曲がらず、どこも折れずに、ただ真っ直ぐに金銭だけしか僕にはない。
人付き合いは多くのお金を得るための手段でしかなく、勉学は多くの場所から金銭を掴むための術でしかない。融資も将来の金額を取るための方法である。
僕の全ての根底は金に繋がっている。
僕の全ては金しかない。僕は金を集め、収集し、取り絞る。それが僕、ベータ・デーメオンの全てである。
ユメ・ヘルタハは僕なんかと比べたらもっと複雑。
1つの道を進んでいたとしても複雑怪奇に色々と混ざっている。将来の役に立つためとなんとも微妙な理由で、色々と学習したり経験したりする。人間らしくて、とっても思考も複雑でなんとも普通の魔物らしい者である。
僕とユメ・ヘルタハの2人はどちらがより普通だと言われれば、多分ユメの方であろう。
あやふやで、何とも思考が揺らいだりしている普通の魔物。
「私は―――――セドーマ様とパテカニア様を助けたい!」
だからこそ、自分の母親が守っていたセドーマ様や親友のパテカニア様がピンチに陥っている状況で自分がどうにかして助けたいと思っているのだろう。そこに自己保身や恩を売ろうと言う魂胆は存在しない。ただ単に助けたいと思う心だ。多分、彼女は本当にただただ助けたいと思っているだけなんだろう。
「……残念ながら僕はそれに賛同できそうにない」
それに加えて僕はシビアである。ただ単に損得勘定で物事を考えている。確かに魔王様に恩を売って後々に金を請求しようと言う気持ちもある。けれどもそれ以上に、僕は自分が死んでしまう可能性を考えるのだ。
地獄の沙汰も金次第と言う言葉もあるが、それは間違いである。金は生きている内にしか効果はなく、死んでしまったらただの無駄に細工が施されている紙切れと薄く丸い鉄屑に過ぎない。そもそも地獄と言う良く分からない世界でこの時代の金銭が持ち歩けるのか甚だ疑問であるし、そんな金を渡して刑を軽くする閻魔様が居るとも限らない。僕だったらそんな提案をしてきたその罪人の刑罰をさらに重くするだろう。勿論、金を握った上で、だけれども。
死んでしまったら金など意味を持たない。故に僕は死にたくない。
あのリュウト・フレイムやフローネ・アクアとか名乗ったあの2人を倒したら、普通だったら魔王様とその娘を狙った者を倒したとしてセドーマ様よりお金が支払われるだろう。けれどもそれは勇者に倒される前の状況での話。今のセドーマ様はそんな財力を持っていないし、それにあの2人はパッと見ても倒せるかどうか分からない。少なくとも自分1人で倒せるとは思っていない。ユメが手伝ってくれればまだ方法もあるだろうが、それは確約していないからな。
確約していない契約を有効と認めるのは得策じゃないし。
「ともかくハイリスクノーリターンな利益が危険よりも少ない物を僕は信用しない事にしているんだよ。だからセドーマ様とパテカニア様は救えない」
「そ、それは私が居ない場合の話? 私が居たら状況は好転する?」
「そうだね。少なくとも倒せる可能性は上昇するとは思う。けれどもまだリターンが少ないね」
僕は金にしか動かない。金以外には興味がない。
危険と利益を比べてどっちが良いかを純粋に損得勘定で選ぶ。それが僕の価値観。彼女が手伝ってくれるとしても、それは単なる口約束でしかないし、彼女の性格からいって裏切る事はないだろうが、何が起こるか分からない。そんな状況でうかつな判断は出来そうにない。
「じゃ、じゃあ私から報酬があるとしたら?」
「報酬、ね」
少なくともユメの報酬には興味がある。アイ・ヘルタハさんは多くの勇者を罠にはめて、その勇者を殺して物を奪って来たと聞く。そんな親が奪って来た勇者達の財産は非常に興味がある。凄く価値のある物だったら、高く売りさばけますし。そしてそんな財産をユメがアイさんから継承したり、彼女が死んだことにより譲り受けてたりしていたとしたらそれは非常に興味がある。
「それはいくらの価値がある?」
「……人間社会の金銭で、20億人間円の価値のある物です」
「20億人間円!?」
この世界、人間社会と魔界社会の金額には価値として差がある。
何故かと言われれば、それはこの魔界がそれだけ人間界に劣っていると言う訳では無く、ただ単純に魔界よりも遥かに人間社会が進みすぎていると言うだけだ。理由は分からんが、本当に人間世界は遥かに進みすぎているのである。
具体的には20億人間円は、魔界で言うと100億人間円の価値になる。とは言ってもそれは時価であり、今だったらその2倍、いや5倍近い価値を持っていたりするかも知れない。それで一応100億人間円の価値を一度持ったのだとすれば、その価値は正直推定100億……。上手く行けばもっともっと高値で……。
そんな物があるのならば、報酬は危険を越えてる。十分に良い物だろう。
「分かった。そうならば僕もやるしかない。手伝ってくれるか、ユメ?」
「……! は、はい! やりましょう! 2人を助けましょう!」
そして僕達は闘う為に準備を始めたのだった。




