屋敷裏の作戦会議
丁度その頃、ユメ・ヘルタハの屋敷の裏では可笑しな3人組の魔物が顔を合わせていた。
1人は炎を纏った、熱血そうな顔の機械人形だ。大きな身体には一切の継ぎ目が無く、その背中には溶鉱炉のようなかまどが取り付けられており、金で出来た顔は炎を纏って燃えている。
その隣には妖艶の笑みを浮かべた鳥人が宙を浮かんでいる。その身体は全身が水っぽく、まるでスライムのようにねっとりとしている。そして羽には水車のような模様が描かれている。頭には金の本物の水車がくるくると回転している。
どこが可笑しいと言えば、彼らの姿は誠に普通の魔物としては特異すぎるのである。
ゴーレムは泥人形や機械人形と呼ばれる人造人形だ。他のゴーレムは継ぎ接ぎなどが多いのにも関わらず、このゴーレムは継ぎ接ぎが一切ないのが魔物界に置いては可笑しいのである。さらにゴーレムとは無表情が基本とされているがこのゴーレムは熱血染みた顔を浮かべているのも普通としては異例の処置である。
ハーピーは鳥人間とも呼ばれる魔物。可愛らしい顔と腕が鳥の翼へと変化している魔物。しかしその身体はこのハーピーのようにみずみずしい水の身体はしてはいないし、それにハーピーが浮かべるのはいたずら小僧のような幼い女子の笑みであり、断じて今のような妖艶な笑みを浮かべるハーピーは可笑しいのである。
そしてその2人と面を合わせて立っている者もまた他の魔物とは一線を画した存在であった。
「リュウト・フレイム殿、それにフローネ・アクア嬢。此度の策略のご協力は誠に感謝の意を伝えねばならぬと存じる。何卒この若輩者の話に乗ってくれるとは誠にありがとうございます」
そう言ったのは和服を着た美人のドラゴンだった。背中からは緑の邪竜の翼が生えており、その尻からは9本の緑の尻尾が生えている。竜のような鱗の肌にも関わらずその身体はとても妖艶であり、見る者を虜にしそうな艶やかである。そしてその腰や背中には何本もの刀を差している。そしてその腕は明らかに人間のそれであり、指先には金色のマニキュアが塗られている。
ドラゴンは強さと気高さの象徴的な魔物であり、断じてこのような艶っぽいドラゴンはあり得ないのである。ドラゴンは強さを基準に考えているので敢えて色仕掛けで落とさずとも強さで押し切れるので綺麗な姿のドラゴンは言いて妙である。それがこのドラゴンの可笑しな所であった。
「して今回の案はこの屋敷に只今滞在しているベータ・デーメオン、他3名の処罰でございまする。なおここに住まうとされるサキュバス、ユメ・ヘルタハも邪魔して来ることが想定されます。故に注意が必要となりまする。しかし殺害する事は我らの主が望みでございまする」
そう言うと、ゴーレムとハーピーの2人は目を細めて何を言っているんだと言うような顔でドラゴンを見つめる。
「かかか! お前は誤解をしているな、ドラゴン。俺は熱血ゴーレムのリュウトだぜ! この程度の事は何の事にもなりはしない。俺は愛のために全てをやりきって見せるぜ!」
「そうよね、リュウト。私はあなたのためだったら世界を敵に回したって構わしないわ。あなたは愛のために炎を纏い、私は水を被る。水も滴る良い女の私の愛を受けられるなんて光栄でしょう?」
「しかしこの館には色っぽいサキュバスが居るらしいぜ? そんな奴が居ればお前への愛が薄れてしまう」
「あら、それは大変ね。なら私はそいつを始末しないといけないわ。今すぐ2人で殺しに行きましょうよ、リュウト。2人で同じ相手を殺せばさらに私達の縁はいっそう強くなるに違いないわ」
「じゃあさっさと殺そうぜ! 我が妻、フローネ」
「えぇ、行きましょう。我が夫、リュウト」
そう言って2人は手と翼を取り合い、館へと潜入する。
その姿を見て人の腕を持つ女ドラゴンはニコリと笑う。
「くれぐれも頼むのでござそうろう。貴方方の今後がこの未知の先にある事を祈っていまする」
女ドラゴンは翼を羽ばたかせて、空へと飛び去った。




