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火の神

 二人の最善ではない旅は、半年ほどかけて『目的地』に到着した。


 人里から遠く離れた山の中にある、モンスターも寄り付かない洞穴。


 外から見れば何の変哲もない穴にしか見えないが、奥へ入っていくとほの明るい光景が迎えてくれる。


 龍涎蝋(りゅうぜんろう)


 鍾乳洞のような地形ではあるのだが、通常の鍾乳石と違って蝋燭のように小さい火が灯っている。

 なによりも水気というものがなく、厳かな祭のように、人為と自然が合わさったかのような雰囲気を帯びている。


 ヒロシとチエは、その奥へ踏み入れる一歩前で立ち止まっていた。


 しばらく無言であったが、それは予定通りのことではない。

 本当はこのまま奥へ進むはずだったのだ。


「火の神様がいらっしゃるって話だったから、溶岩地帯かと思ったんだが……こりゃあ、そのなんだ、綺麗だな」

「で、ですよね! 私もそう思いました! もっとこう、絵本の地獄みたいなところかと思ったんですけど、すっごく綺麗ですよね!」

「ああ、奇麗なところだ」

「私もそう思ったんですけど! これからとっても強い神様と戦うことになるのに、そんなことを言うのは……ほら、恥ずかしいって言うか、不謹慎って言うか……」

「俺とお前しかいないんだし、そんなことを気にするなよ」

「そうですよね! で、でも……でも、ここからが本番ですから、気合を入れていきましょう!」

「おう。いよいよ神様と会うわけだな」

「はい、まずは一歩……!」


 二人は神域へ一歩踏み入れた。

 その瞬間から、二人の周囲にぎゃりんぎゃりんという音が生じる。

 一度鳴っただけではなく継続して鳴り続けている。


 この龍涎蝋(りゅうぜんろう)という土地に存在するローカルルール。

 洞窟の中では常に火属性、光属性の魔法ダメージが発生し続け、なおかつ精神的な状態異常の攻撃も受け続ける。

 一種のダメージ床だと思えば理解しやすいだろう。


 わかっていたことであったため、ヒロシもチエも耐火装備で全身を固めている。

 ローカルルールによる軽微なダメージは完全に無効化されていた。


「一安心、だな。一歩入って引き返すってことは無さそうだ」

「そうですね。でも……これは入る資格を得たというだけです」


 対策が成功していることを確認しつつ、二人は奥へと進んでいった。


 神秘的な洞窟ゆえに、神域であることに疑いはない。

 鍾乳石のような石で形成されているのだが、土足で他人の家に上がり込んでいるかのような罪悪感すら受ける。


 そして最奥にたどり着くと、途方もなく広大な空間に出た。


 天井も床も壁も、何もかも小さい火の灯る鍾乳石。

 神殿で言うところの本殿に相当する広い場所は、当初こそ何も存在していなかった。


 火口もないところから、噴火するように火柱が吹き上がる。

 炎の神性という他ない、形ある炎が二人の前に現れた。


『待っていたぞ、スキルツリーの王よ』

「!?」

「ん?」


 強大な炎の塊は熱を発しながら意思を伝えてくる。

 しかし発した言葉の意味をヒロシは理解できず、チエは理解しているからこそ困惑していた。


「私が来ることを知っていたのですか」

『無論だ。スキルツリーの法を破ったものが現れ、神体を奉納してきた時からわかっていた。本来我らは他の王と会うことは無いが、こうなってはやむを得ん。しかし……』


 火の神は音を介さずとも意思を伝えてくるのだが、同時に眼がないままに視線を感じさせてくる。

 火の神が、じっとヒロシを見つめているのだ。


二人(・・)で来るとはな』

「なんだ、文句でもあるのか?」

『文句というよりもこちらの都合だな。だがそれも、お前たちに王の資格があればの話だ』


「王の資格?」

「お前たち?」


 ヒロシは「王の資格」という言葉に、チエは「お前たち」という言葉に疑問を抱く。


 だが火の神は疑問に対して回答を示さない。


『我こそはアメノミハシラより別れし一柱、火の神オオカグツチ。我から利益(りやく)を得たくば、宝を捧げるか力を示せ』


 過食者たちは盗み出した勇者の装備を、四柱の古代神に奉納した。

 盗んだ品を神へ捧げるというのも変な話だが、神は奉納品を受け取らなければならないというルールがあるらしい。

 もちろんよほどダメな品ならその限りではないが、勇者の装備とあれば受け取らないわけにはいかない。


 そして奉納された品は神の財産である。

 たとえ元の持ち主だとわかっていても、無償で返却することはできない。


 事実上の物々交換は可能だが、勇者の装備と同等の宝物などそうそうあるわけもない。


 であれば、神と戦って勝ちとるしかない。神にはそういうルールがある。

 そのルールを知っているからこそ、過食者たちは火の神に勇者の兜を捧げたのだ。


「……私が求めるものは貴方の持つ勇者の兜。力をもって、手に入れさせていただく!」

『断る理由などあるはずもない。さあ、かかってくるがいい!』


 勇者と古代神の戦いが始まった。

 ヒロシは縦に長く大きい盾、タワーシールド(対火仕様)を構えて、戦いを見届けようとした。


「スキルツリー、開放!」


 しかしやはりと言うべきか、まったく目で追えない。

 今までも彼女は幾度となくヒロシの前で戦ってきた。いずれも目で追えない速さの戦いだった。

 だがそれも手抜きであり、全力ではなかった。


 今回の彼女は、ただ動くだけで衝撃波を発生させるほどの『超人』ぶりを発揮した。

 踏み出した地面にクレーターが刻まれ、その振動だけで踏ん張っていたはずのヒロシが揺れる。


 そして彼女が何をしたのかと視線を泳がせると、そこには上半身が吹き飛んでいるオオカグツチと残心の構えを取っているチエがいた。

 拍子抜けすることだが、古代神オオカグツチは倒されているのである。


「おいチエ、もうやったのか? っていうか、殺して大丈夫なのか? このあと勇者の兜を探しに……」

「まだです!」


 防御の構えを解こうとしたヒロシを、チエは絶叫して警告する。

 まだ戦いは終わっていない、始まってすらいない。


「まさか……」


 神の上半身は吹き飛んでいた。頭や胴体がないので上半身と言っても文字通り上半分というだけだった。

 奇妙なことに、火であるはずの下半身は、燃え盛りながらも動いていない。

 中身、芯に相当する部位があって、そこから火が出ているわけではなく、燃え盛っている炎そのものが形を成している。

 半分になっているからこそ異常さが際立つ。


 それが、爆発した。


「おおおおおお!」

「く……!」


 演出などではない。

 攻撃力のある爆発が空間内を満たした。


 仮に無防備な一般人がこの場にいれば即死しただろう。


 対火装備でガチガチに固めた広をして、ひっくり返りそうになる火力が発揮されていた。


『ただの盗品ならば今の一撃で倒されてやってもよかったが、神体を求めているのなら『この姿』で相手をするよりほかにあるまい』


「第二形態って奴かよ……初めてのボスだってのに、凝った演出してくれるじゃねえか。素直に驚いて恥ずかしいぜ。俺って結構純朴だったんだな」

「ヒロシさん、気を張ってください。死にますよ」


 オオカグツチは復活していた。

 真の姿をあらわにした、と言っていいかもしれない。

 より一層に荘厳な姿へと変り、周囲へ膨大な熱を放射していた。


 あまりにも圧倒的な存在感を持つがゆえに、ヒロシは緊張が裏返って軽口を叩く。

 チエはそれを理解しているからこそ気を持つように声を出していた。だがそれも絞り出すような声だった。



かげろう(陽炎)



 火の神は気を取り直す暇など与えない。

 二人の足元から光と炎が吹き上がる。

 高濃度であるがゆえに、実体や質量を持った熱波であった。

 対火防御を固めているはずの二人は、あっさりとそれにのまれる。


「ぐ……熱い……!」


 対闇装備を固めて、サキュバスと戦ったときのことを思い出す。

 あの時はサキュバスの闇属性魔法をほぼ無効化できていた。

 だが今は対火装備を力づくで越えられてしまった。


 鎧の内側でヒロシの体が焦がされる。

 それでも急速に再生していくので、まだマシだっただろう。

 芯まで炭化せずに済んでいるのだから、対火装備は意味を持っていた。


「く……」

『ほう。我が炎に焼かれて正気を保っているとはな。単なる浅知恵(・・・)にしては大したものだ。だが王の方はどうかな?』

「!」


 今までソロとして戦ってきたヒロシは、オオカグツチから指摘を受けるまでチエのことを忘れていた。

 体を焼かれてなお背筋が凍るほど慌てて、チエが立っていた場所を見る。


「あ、ああ……」

「チエ!」

『薬で精神耐性を上げているとしても、この姿の我に焼かれればこうなって当然。むしろお前は良く持ちこたえている。とはいえお前ひとりでできることなどあるまい』


 チエは勇者の剣を取り落とし、膝をついて涙を流していた。

 明らかに普通ではない彼女にヒロシは駆け寄る。


『そう簡単に助けさせると思うか? ひでりえんだん(日照焔弾)!』


 まばゆい光の波が鍾乳洞を満たし、あらゆる闇を祓った。

 その中で大量の火の玉が発射され続けている。


 破壊力こそ先ほどよりも低いが、空間を満たし続ける連続攻撃。

 チエは何もできずに攻撃を食らい続けていた。


「あ、ああああああ!」

「チエ!」


 光に耐え、火炎弾を打ち払い、ヒロシはチエの元にたどり着く。


 自分の体と盾で彼女を隠す影を作り、彼女の状態を確かめた。


「あああああああああ……」

「チエ」


 恐怖、混乱、忘却。

 高威力の精神的状態異常を複合で発症している。その上肉体的にも多大なダメージを受けていた。

 傍で見ると、余りにも痛ましい。

 泣いていることも、ある意味普通なのだ。

 以前に彼女は体に傷を負ったが、その時もこれぐらい痛かったはずなのだ。

 ただ我慢していただけで、痛くないはずがないのだ。


「……俺は、やっぱり駄目な奴だ。誰かに言われるまでお前の傷に気付かない。俺はヒーラー失格だ」


 鎧の中に格納していた薬を取り出す。

 今は戦闘中ということで、塗り薬ではなく飲み薬。

 一瓶飲めば心身ともに回復するはずだった。


「遅くなって悪い、さあ飲むんだ。これで楽になる」


 光と炎を遮りながら、ヒロシはチエに薬を飲ませようとする。

 しかし精神的な状態異常に陥っている彼女は、それを拒否していた。


「誰? 誰なの? こわいよ……」


 現在のヒロシは片手で盾を支えているため、片方の手しか空いていない。

 この状態では、嫌がる彼女に薬を飲ませられない。


 何とかして彼女に薬を飲んでもらう必要があった。


「俺はスモモ・ヒロシだ! 俺はお前の……」


 俺はお前の仲間だ、という言葉を言おうとして言えなかった。

 ヒロシは思い出していた。

 彼女が仲間という言葉、関係性をポジティブにとらえていないということを。


 彼女を安心させるには、他の言葉でなければならない。


「俺は、お前の、相棒(・・)だ」

「あいぼう?」

「そうだ。お前が選んでお前が決めた、お前の相棒だ。一緒に傷ついて、一緒に旅をする相棒だ。だから心配しなくていい。この薬を飲むんだ」


 熱と炎に焼かれながら、ヒロシは努めて穏やかに語りにっこりと笑った。

 兜によって顔はほとんど見えないが、それでも伝わると信じていた。


『いつまでもたもたしている? ひばしり(緋奔)!』


 カグツチは温い全体攻撃を収めて、大きく息を吸い込んだ。

 放たれるのは火炎放射。

 圧倒的な魔法攻撃は、耐性装備ごと消失させる威力を持っていた。


「スキルツリー、開放!」


 収束して放たれた熱閃光が斬り割かれる。

 正気を取り戻したチエが立ち上がり、勇者の剣をもって打ち破っていたのだ。


「すみません、遅くなりました」

「なに、俺も待たせたからお互い様だ。それよりどうする、撤退するか」

「なぜです」

「最初はお前の状態異常を俺が治すって算段だったろ。今みたいにすげえ状態になるのを繰り返すことになるぞ」

「最初から覚悟の上です。それに、もう怖くないですから。どれだけ正気を失っても、貴方が助けてくれるって信じてます」


 チエはにっこりと笑った。

 強がりの笑みだったが、希望のある笑みだった。


「だって、相棒なんでしょ?」

「ちっ、とんでもない役目を背負ったもんだ。回復担当ってのも楽じゃねえぜ」


 ヒロシもまた強がりの笑みを浮かべる。

 今度は希望をもって、オオカグツチを見上げていた。


『ようやく気をとりなおしたか。それではより一層の強火を見舞うとしよう』

「来ますよ!」

「おうよ!」


 ようやく、戦いと言えるものが始まった。



 ソロヒーラーと呼ばれたヒロシは、ようやく回復役(ヒーラー)の辛さを思い知った。

 必死で戦う仲間をかばうこともできず、肩を並べて攻撃することもできない。

 仲間の影に隠れ、倒れた仲間に処置を施す。


 楽でも何でもない。とても辛い役目だった。


 それ以上に、戦い続けるチエが痛ましかった。


 傷を受けても状態異常を負っても、回復をされればすぐに戦う。

 ゲームならばよく見る光景が、こんなにも痛々しいとは思わなかった。


 いっそ、降伏してでも戦いを止めたかった。

 自分の中にあった意地がいかに薄いものだったのか思い知らされる。


 一緒にいるのが俺でよかったのか?


 そんな考えが脳のどこかにあり続ける。


 それでも、彼女が戦うから。

 自分が治してくれると信じているから。

 その信じる心に応えたいから、ヒロシは回復をし続けた。


 そして……。


ひうち(日打)


 迫る炎塊の拳。


 さながら隕石か、あるいは恒星の衝突か。

 余りのスケールに、日の拳が近づいてくるというよりも、自分達が日の拳に向かって落下してくような錯覚さえ覚える。

 だがそれでも勇者は立ち向かう。


 背中に相棒がいて、自分の背を見て笑っているから。

 それが分かるから。


「スキルツリーよ! 私に力をください! でぃやああああああああ!」


 星をも斬り割くか。

 勇者の剣が輝き、火の神を真っ向から迎え撃つ。


 心身が焦がされる、燃やされる。

 様々な感情がないまぜになって押し寄せてくる。


 熱病のように不覚へ陥る。

 考えがまとまらない。

 何をしているのかもわからない。


 それでも彼女は勇者の剣を振るう。


 それが『勇者』なのだと知ることもなく。



「あ……?」



 突如として、勇者の剣から力が抜けた。

 空振りしたかのように、チエは前のめりになって倒れそうになる。


「チエ!」


 ヒロシは盾もメイスも捨てて、チエを後ろから抱きかかえる。

 転びそうになった彼女を支える。


「間に合ったか?」

「はい……あ、でも……」


 世界を満たしていた輝きは失われていた。

 鍾乳洞の中は厳かな天然の蝋燭の光だけに戻っている。


 そして、人魂のような炎が空間の中央に浮かんでいた。


「おいおい、第三形態とか言うなよ? 流石に勘弁しろよ」

『そんなことはない。お前たちは十分に王の資格を示した。不本意な面もあるがこういうこともあるのだろう、お前たちを認めてやる』


 ヒロシに後ろから抱き支えられているチエの手元に、彼女の頭にぴったりと収まる大きさの兜が出現していた。

 その意匠は勇者の剣と同じであり、彼女のための防具であるとすぐにわかる。


『お前の心を守る兜だ。今度は盗まれないように気を使え』

「は、はい! ありがとうございます!」


「盗品の返却に嫌味をつけるなよ。神様ってのは上から目線で困るぜ」

『ふぅむ。お薬係をしていただけの分際がほざくものだ。お前の方が何様のつもりだ』

「痛いところをつくな、おい」

『だがお前も力は示した。我は神として、その神体と同等の利益(りやく)を与えねばならぬ』

「ん?」


 人魂ほどの大きさになっていたオオカグツチは、地面に転がっていたヒロシのメイスに向かって飛んでいった。

 オオカグツチとの戦いで焼けて劣化していたメイスは、生まれ変わったかのように輝き炎を纏っている。


「おい、それは俺のメイスだぞ!? 何やってるんだ!」

『ありがたく思え。これより我はお前の武器に宿り、力となってやる。お前が旅を続けるのなら、その相棒にも劣らぬ強さに至るだろう』

「は、はあ!?」

『では用があれば呼べ』


 ここでようやく消火した。

 オオカグツチはメイスの中に消えて、そのまま出なくなった。


 終わった。リザルトも含めて終了した。

 抱き支えている広と支えられているチエは、同時に力が抜けて鍾乳洞の中で座り込む。


 肺の中の息が全部出ていた。

 強がりが退いて素のままになっていた。


「ようやく一柱めか。これをあと三回やらないといけないんだろ? 前途多難すぎるだろ。今からでも戻って、四天王と一緒に戦えよ。一つは取り戻せたんだし格好はつくだろ?」

「そうしたほうがいいかもしれません。オオカグツチ様も何か気になることを言っていましたし……貴方との旅をここまでにしたほうがいいかも」

「おいおい、ここは『最後まで頑張ります』って言って欲しいところだぞ」

「そうですか? ふふ……ふふふ」


 チエはヒロシの膝の上に座って、全体重をかけて寄りかかった。

 普通の意味とはだいぶ違うが、背中を預けて甘えている。


「嘘ですよ。ヒロシさんは私の相棒なんでしょ? 最後まで付き合ってくださいよ~~」

「ああ、そうだな」


 彼女がリラックスしている。

 それがとてもうれしくて、ヒロシは思わず彼女を抱く腕をより寄せた。

 互いに完全武装したままだが、それでも緩み切り、安らかな顔になっていた。


(俺も丸くなったもんだな)


 ヒロシは自分に抱かれているチエから、意識が離れないことに気付いていた。


(神から力を授かったとか、勇者と並ぶ力が手に入るかもとかあるのに……それを聞いて、俺はまず『お前の力になれるかもしれない』って思ったんだぜ? 自分でもびっくりだよ)


 新しい可能性が自分を次の絶頂に導くかもしれない。

 自分らしい期待を抱いているが、それよりも腕に抱いているものが大事に思えた。


「あの、ヒロシさん。このまましばらく抱きしめてくださいね。そのあとはまた傷の手当てをお願いします」

「あ、そうだ! また忘れた! 俺と違ってお前の傷は放っておいても治らないじゃねえか! すぐ治さないと!」

「でもまだこのままにしてください。相棒からのお願いです」

「我儘な奴だな~~……」

「私は嘘つきで我儘ですよ。ずっと前からそういっているじゃないですか」


 自分本位を自覚しているヒロシは、この時に知った。

 自分のために頑張ることに負けないぐらい、誰かのために頑張ることが誇らしいのだと。


 チエも知った。

 痴態醜態をさらして甘えることが、どれだけ安心できるのかを。


 きっとこれが自分の求めていた愛なのだと。


「くくく、ふふふ」

「あははははっ」



 美しい鍾乳洞の中で、二人は互いの心を癒し合っていた。

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― 新着の感想 ―
状態異常で相手を止めてから広範囲攻撃を連打、確殺コンボで怖いですね
これそのものじゃ無くとも、此れに近しい様を見せ付けられとったんやとしたら、どれだけ傲慢な態度を取ってたとしても、そら、許すわ。
打ち解け始めてる二人の描写が良い。まさしく冒険って感じがする。 アメノミハシラやスキルツリーの王とか気になる単語あるんですけど!? 恐怖混乱忘却に陥っても助けるために、勇者の相棒はここから始まったのか…
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