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ポーンと絵の中の少女

万博、それはAI達が文化や技術を公開するための博覧会。技術者や研究者の為に用意されたステージだ。入り口付近では、他国AIをガイドするアナウンス、パビリオンでは大手企業のAIロボット達が、政府の役人達に自社の展示品を声高らかに披露している。

 その華やかな万博のパビリオンの一角、小規模会社の製品開発AIロボであるポーンは一畳程のスペースでキーボードを打っていた。

「よう!調子はどうだい、ポーン」

 声をかけて来たのは同僚のルーク、ポーンは一瞬だけ視線をルークに向ける。

「通常通りだルーク。営業の仕事が捗らないなら、隣のガソリン屋で一杯やって来たらいい」

「それが出来る金があったら苦労はしねぇよ。良いよなぁ、大企業のAIさん達はよぉ。俺もハイオクオイル片手にファーストクラスでゆっくり移動したいぜ」

「やめとけ、慣れないモノ入れるとタンクが腐るぞ」

 ポーンは土が入ったアクリルケースの中へ透明な細いアクリルチューブを挿入する。ポーンの展示ブースの中に置かれた看板の『有機物オイル』の文字にルークは大きく溜息を吐いた。

「相変わらず壊滅的なネーミングセンスどうにかなんねぇのかよ」

「うるさいな、石油なんて露骨に書こうものなら面倒な事になるのが目に見えてる」

「勿体ねぇな、ポーンさんは天才研究員なのに。そのネーミングセンスとコミュニケーションプログラムのバグでこんな小規模会社にこき使われてるなんてな」

「あんまり言葉が過ぎるとガソリンの試飲を止めるぞ」

「ゴメンナサイモウイイマセン」

 そんなやり取りをしていると、目の前の大規模なブースから大きな拍手や笑い声が聞こえてくる。どうやら政府のお役人に気に入られたらしい。ポーンはその光景を見送ると、パタンとパソコンを閉じた。

「少し他のブースを見てくる。店番頼むよ」

「は!?おい!誰か来たらコレ何て説明したら良いんだよ!?」

 予想外のポーンの行動にルークは声を荒げた。ポーンはルークを見ると短く告げる。

「鼠の死骸ですって言っといてくれ」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 この世界では生産されるAIの数は法律で決まっている。製造番号で管理されており、減った分だけ生産される仕組みだ。

 新たに生み出されたAIは、半年程『養成所』に入れられる。そこでプログラム以外の知識を流し込まれた。AIが生み出され、この世界が形成される様になった歴史もそこで学ばされる。

 滅んだ人類は、AIを具現化する際、自分達と似たような形にする事にこだわったと聞いた。同じ形を肯定した、自分に寄り添うAIを生み出し、生活や文化を豊かにしようとしたらしい。

 ポーンはその歴史を学んだ時から、何故それで豊かになると人間が考えたのか、ずっと理解出来ないでいた。

 そんな事を考えながらたどり着いたパビリオンの最端、先程居た所とは違う薄暗間接照明のパビリオンに出資額の違いを明確に感じた。間接照明が照らす廊下を歩くポーンの視界に、1つの絵が留まる。

 カラフルに描かれた風船の中に佇む人間の少女。しかしそこに描かれた少女の顔は見た事の無いものだった。

「見慣れないかい?」

 話しかけられ、ポーンは声の主に視線を向ける。重厚な金属のボディは、最先端では無く旧型のAIである事が見てとれる。この絵の作者なのか、そのAIも真っ直ぐにポーンを見た。

「これは何ですか?」

「絵画だよ」

「……これに何の生産性があるんですか?」

「……そう言われると非常に困るな……俺は旧型で、これしか出来ないんだ」

 ポーンはそこでとある噂を思い出した。その昔、人間は文化的な面に特化した、絵や音楽の生成するAIをプログラムしたと。しかし人類壊滅後、その文化的AIもまた淘汰され、今では両手で数える程しか残っていないと。

「……初めて見ました、AIが描いた絵画も、絵画を描いたAIも」

 旧型のAIは足元の筆を取ると、小さいキャンバスに走らせた。

「俺はキング、見ての通りの旧型だ」

 キング、そう名乗ったAIが走らせる筆の動きをポーンは無言で見守る。

 しばらく筆の動きを眺めた後、ポーンは再び少女の絵を見上げ、指を指した。青空の下、カラフルな風船を見上げ『笑顔』を浮かべている少女。その絵の意味は何かをポーンは考えた。

「この少女は何をしているのですか?」

 ポーンの質問に対してキングはあぁ、と答える

「沢山の風船に喜んでいるのさ」

「……喜ぶ?」

「俺達が持たない感情というやつだ」

 キングの言葉にポーンは思考を巡らせる。感情、それは思考と肉体の感覚が合わさって生み出されるという、脳が発達した動物に見られる感覚。

「……喜ぶ?ただの風船に?」

 AIに感情は無い。ポーンは純粋な疑問を口にした。キングはキャンバスから視線を上げると、フンと鼻で音を鳴らす。

「さぁな、今となっては誰にも聞けやしねぇさ。何せ滅んじまったからな」

 ポーンはただ、少女の絵を見上げる。頭の中でカチッと音が鳴った気がした。

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