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Rura  作者: シイハ
32/33

第32話

空は茜に染まり,遠くのほうで烏が鳴いている。


あれから何時間経っただろうか…フィリスはそんなことこれっぽっちも考えてはいなかった。


と言うのも,ハルトが全く顔を出してくれず,お腹も空いたしやる気はないしということで,今の今までずっと夢の世界に墜ちていたのである。


「む~…ルフィシャの…ケチ……」


緩く口元を緩ませて幸せそうに机に突っ伏すフィリス。只今フィリスは夢と言う名の世界を旅行中のようだ。

開けっ放しの窓から入ってきた風でプリントはあちらこちらに飛ばされ,床に絨毯のように散らばっていた。


この光景をもしもハルトが見てしまったら…これ以上考えるのは止そう。


しかしこのフィリスの至福の時も,そろそろ終わりを迎えようとしていた。


コンコンっと扉の戸が叩かれる。それでもフィリスは起きようとはしない。


再びのノック音。これで流石にフィリスも気が付いたのか,むっくりと顔を上げた。

眠気眼を擦りながら,渋々起き上がる。


三度目のノック音で,フィリスは「はいはい今開けますよ」とドアの前に立ち,ドアノブに手を掛けようと右手を上げる。が,中からは開けられないことを思い出し,手を下ろす。


「からかってるんですかー,ハルトせんせ。そんな暇があったら昼飯持ってきて下さいよ~」


フィリスがドアにぷいっと背を向けた。



「…ハルトせんせー?」


後ろを振り向いた瞬間だ。

フィリスは一瞬で我に返り,慌てて後ろへ跳んだ。

後ろの壁に背をあて,ごくりと喉を鳴らす。


「あ…危なかっ…た」


ドアの板を突き破って覗いていたのは,細身の剣先。

あのまま立っていたら…あの刃は恐らくフィリスの懐をも貫いていたはずだ。


「チッ…」


舌打ちと共に剣が戻される。そしてサッと鋭い音が鳴ったかと思うと,ドアが真っ二つに割れた。

斜めに切れ込まれたドアの片方が,床に叩きつけられる。

ドスンという音と共に,フィリスの心臓も大きく鼓動を打った。


「お城って…広いのね。迷っちゃった。」


聞きなれぬ声,恐らく初めて会った相手だろう。真っ黒なマント付きのフードに顔が隠れていて顔が伺えないが,声の高さと透明度から考えて恐らく女性。

そして先ほどの剣捌きからしてもかなりのやり手だ。あんな細身の剣身で分厚い扉を突き破るのはそれなりの技術が必要だからだ。


「貴方は王子様なの?」


少女が問う。フィリスはそれには答える気は無かった。

精神を集中させ,右手から剣を呼び出そうとほんの少し右手を返す。途端にスイッチが入ったように少女がフィリス一直線に駆け出した。フィリスは上から繰り出された青色の斬撃をひょいっと上体を屈して交わす。


「しらねーな!」


フィリスの右手に大型の剣が現れたのを見て,それまで戦闘体勢をとっていた少女が剣を降ろした。


「まさか…本当にこんな子供があの古代兵器の継承者だったなんて…信じられない。でもこれで仕事が出来る。」


少女は何を思ったのか,身軽にフィリスの頭上を飛び越えて窓に向かった。そして空中で体勢を立て,窓ガラスに蹴りをお見舞いする。


パリン!とガラスの破片が飛び散り,少女は窓から飛び降りたようだ。


「あっ,逃げる気か!待てっ!!」


フィリスも負けじと窓から飛び降りると,城の屋根の上に降り立った。


「こっち。」


右を向くと,少女が1つ下の屋根でこちらを向いていた。そして挑発するかのように右へ左へ飛んでみせる。


「上等!」


フィリスも剣の重さはウェハース程ではないのかというくらい身軽な動きで少女の後を追う。


屋根へ,高く積み上げられた城壁へ。少女は監視から死角になる場所を選んで誘っている。


5分ほど後をつけた時だろうか,ようやく少女が止まった所は木々がうっそうと生い茂る森の中だった。

木々の葉で日光が遮られ,まるでそこだけ夜のような薄暗さを纏っている。


「この辺りでいいかしら?」


ここに来てようやく足を止めた少女は,フィリスに向き直った。フィリスの肩が極僅かに上下している。


「まず,自己紹介から。はじめまして,フィリヴァス王子。いや…馬鹿王子でいいのかしら?」


少女がクスクスと小さく笑う音が聞こえる。フィリスの周りに険悪な雰囲気が生まれた。初対面でいきなり“馬鹿”などと言われればこうもなるだろう。


「何で俺の事を知ってるんだよ。」


フィリスの質問に少女は失笑したように再びクスクスと声をあげた。


「そりゃぁね,浄化のルラが出た途端に黒髪が金髪に変わるのだもの。しかもその瑠璃の瞳,王族でしょう?大体王家の血筋を引いている時点でさっきの質問はおかしいと思うわ。」

「…」


図星の返答に,何とも返すことが出来ないフィリス。


「…やっぱり馬鹿王…ごめんなさい。真実をズバズバ言っちゃう性格なの,私。悪く思わないでね?」

フィリスの堪忍袋の尾がピシっと削られる。今にも切れて爆発しそうな雰囲気だ。


「…そうだ。肝心な事を言い忘れてた。」


少女がすっと剣を構えた。そして見下すようにこう言い放つ。


「最後に残す言葉はある?」


この言葉でついにフィリスがブチ切れた。剣を持ち上げ,一気に畳み掛けようと間合いを詰める。


「…怒りっぽいのね。でも慎重さも必要よ?感情に任せるばかりじゃ自分を見失ってしまう。」


ギリギリの距離で振り下ろされた白い光が残像の曲線を描いて少女の頭を狙った。しかしこれもまたひらりと身を翻して交わされる。

標的を外したフィリスの剣身が,深々と地面に突き刺さった。


「ハズレ。」


少女の声が頭上で響く。見上げると少女の鋭い剣の切っ先がフィリスの遥か上で舞っていた。いつの間にあんなに高く跳んだのだろうか。フィリスが両手で剣を引っこ抜き,斬撃を迎え撃つべく左手を剣身に当てて剣をかざす。


「…残念。私はこっちです。」


後ろから声を感じ,振り向く。そこに見えたのは青く光る光だった。


「うわ!」


フィリスが間一髪で交わす。が,相手のスピードについていけず,僅かに青い光が右肩を掠る。


「―っ!」


声無き悲痛なフィリスの叫びがあがった。しかし体勢を溶かぬよう,しっかりと踏ん張る。


「私もハズレ。お互い譲らないね。」


少女の声が響く。右肩を抑えていた右手に何かぬるりとした何かが触れた。

見ると右の手のひらが鮮やかな赤で染まっている。右肩に視線を向けると,案の定そこには破れた服の下に出来た傷があり,そこから少しずつ流れ出た血液がフィリスの服を染め始めていた。


「あれ?当たってたの?よけられたかと思った。」


少女の何の感情にも染まらない冷徹な声がフィリスをあざ笑う。フィリスは自分の唇を噛み締めた。

 先にやられたのは自分 もしもあの時もう少し反応が遅かったら,傷がどうこうの話では済まなかったはずだ。

フィリスは剣を握る右手にぐっと力を込めた。そして自分に,少女に宣言するかのように声を張り上げる。


「本気で行く。俺は将来,この世界を担う王になる!」


殺気を漂わせるフィリスを,少女は完全否定するかのように感情をみじんも感じさせない声音で言い放った。


「ふーん,そぅ。でもそれは出来ない。さっき命令の変更があった。捕獲ではなく―」


少女が再び自分の中心線に沿って,剣を構えた。


「抹殺せよ…と。」


2人が息を合わせたように同時に走り出す。その瞬間,白と青の光がぶつかった。








黒いコートに身を包み,人気の多いところをなるだけ避けながら,キルトは足早にある所へ向かっていた。

路地を通り,抜け道を抜け…錆びきってもう回らなくなった風見鶏のある廃墟へ。


茶色く錆びれた風見鶏がやっと森の木の上から覗いたとき,背後から忍び寄ってきた影に思い切り抱きつかれたキルト。


「うわぁ!」


キルトが思わず相手を振りほどこうと身構える。しかし次に聞こえたのは敵かもしれないという不安を土台ごと崩す呑気な声だった。


「嬉しいなぁ~来てくれたんだぁ,キルト君。僕ずっと会いたかったんだよ~♪こうやってキルト君にハグするのって久しぶりだなぁ~」


鼻をくすぐる甘い花のような香りに覚えがある。確か…


「キンビ…さん?」


記憶の断片を繋いでその名前を口にする。あまり確信が持てなかったので,語尾が若干上がった。


「…ナニソレ,何で疑問系?酷いなぁ,キルトくん。僕ず~~っとキルト君の側に居たじゃん。そうだよ,僕はキンビだよぅ~。ま,そういうところがキルト君のいいトコロなんだけど☆」

「すみません,俺男に言い寄られて喜ぶ趣味は無いです。てか離れてください気持ち悪い。」


そこでやっと承諾してくれたのか,キンビはキルトから手を放した。


「こっち向いてよ,キルト君。」


後ろから抱きつかれただけだったので,キンビの顔が伺えない。

ここは一応確認の為と自分に言い聞かせ,キンビのほうに向き直る。


「うわぁキルト君。男前になったねぇ。僕ますます惚れちゃうじゃん。」


茶髪のクルクルヘアに丸く愛らしいこげ茶色の瞳。夜の闇をそのまま纏ったかのような真っ黒なマントを羽織り,キンビは恥ずかしそうに両頬に手を当てて「キャハッ」とか言っている。


確かこの人は…変態だったという文字しか頭の中に浮かんでこない。

前に会ったのが大体3.4年前だったので,そんなに記憶が鮮明に残っていないのだ。


でも何故かいつも抱きつかれたり,寝込みを襲われそうになったり…恐ろしい思い出が蘇る。


「ごめんんさい,キンビさ…俺に近寄らないでくれますか?」


キルトが危険を回避しようと1歩後ずさる。しかしキンビは何故だか理解できないのか,少し小首を傾げた。


「何で?」


と本心のままを口にしる。そしてふいににニィっと不気味に笑うと,うずうずと体を震わせた。キルトの背にに本能で感じたままの嫌な汗が伝う。


「そんなこと言われたら…」


キンビが一直線にキルトに突っ込む。


「もっと近づきたくなっちゃうじゃぁんっ!」


キルトが声を上げる間も無く,真っ黒な闇が視界を覆った。


  うわああああぁぁぁ!!


それから少し遅れて,キルトの悲鳴が響いたのは言うまでも無い。

今気付いたのですが…一日が長い!!


ということで,いきなり夕方です(笑)


遅くなって申し訳ありません。そして今回は少し多めに書かせて頂きましたwww


精学も近々更新しようと思っています。テストも終わったし,これからはもう少し頻繁に更新できたらいいなwww


と,思っているシイハでした♪

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