第31話
………!!
体がゆさゆさと激しく揺すられる。
自分の二の腕を強く圧迫しているのは温かい手だろうか,指の感触が伝わってくる…
自分は今何処にいるのだろうか,さっきまで見ていた走馬灯のような出来事が巡る世界では無い
何かもっと…温かくて懐かしい――
そこでようやくハルトはまぶたを開けた。
涙で曇った視界でまだ状況が飲み込めない。
しかし先程から顔にぴちぴちと当たる冷たい何かの感覚だけはあった。
霞がかかった景色が徐々に形としての輪郭を持ち,涙で濡れた景色は一粒の涙となってこぼれ落ちた。
鮮明になった視界にまず飛び込んできたのは涙やら鼻水やらで顔をぐっしょぐしょに歪めた女性の顔だった。
その女性はただただ嗚咽を上げながら泣きじゃくっている。
ハルトはその女性に見覚えがあった。
流れるような金髪に緑の瞳,透き通った雪の如き肌。
「…クルーラ?」
その一言が効いたのか,たちまちその女性はわんっとハルトの上に覆いかぶさってきた。
「ひぃ~ん,ハルトさぁんっ~死んだかと思っちゃったじゃないれすかぁあぁ~」
えぐえぐとハルトの懐に顔を埋めて泣くクルーラを,ハルトは余り理解できなかった。
突き放すのは余りにも薄情なのでとりあえずよしよしと頭を撫でてやる。
一体何が起こったのか,ハルトには全く理解できなかった。
クルーラがどける事で目に映ったものは,先ほどハルトが居た場所では無いようだ。
真っ白な壁,真っ白な天井,つんと鼻を刺す消毒液の匂い。
恐らくここは医務室だろう,ちろっと目をやると自分の上に薄くて白い布団が掛けられていた。
「一体…何が?」
そうだ,私は見知らぬ少女にやられて―!
そこからの記憶は完全に途絶えてしまっている。
先程見た懐かしい光景 あれは恐らく夢――
「…失礼します,ハルトさん」
美しく大人びた声と共に,カラリと医務室のドアが開いた。
「ご気分はどうですか?息苦しいとかその他症状はありませんか?」
薄い金髪ショートヘアに深緑の黒みがかった碧の憂いを帯びた瞳。
清潔な真っ白の白衣の下は薄い色味で纏められていて,清潔感を感じさせる。
「世話を掛けてすまんな,レルビィ。」
「これが私の仕事ですから,ゆっくり休んでくださいな。」
女性はにっこりと天使のように微笑むと,ハルトの近くに置いてあった小さなテーブルにコトンとピンク色の錠剤とコップ一杯の水を置いた。
「まだ完全に魔法が崩壊しきっていませんから,それ飲んで安静にしておいて下さい。無茶はしてはいけないですよ,ハルトさん。」
「すまないな,何から何まで。」
ハルトは自分の上でいつの間にか大人しくなったクルーラにちょっぴり苦笑しながらもレルビィの言葉を素直に受け入れた。
『…何が起こったのかは後でクルーラに聞くとするか。』
ハルトはしずしずとドアから出て行ったレルビィに心中で感謝をすると,寝たままの状態でコップの水に手を伸ばした。
久しぶりの更新だね てか少なくない?
いつも冷徹なコメをくれる私の友達。
上手いから仕方ないけど(泣)