第30話
あの後,彼の必死の説得によってようやく離れたその少女のお陰でコルトはしばらく茹で上がっていた。
しかしその熱気もようやく収まり,兄の居ない空っぽの家にコルトとその少女はいた。
さっきまで兄が座っていた場所にちょこんと可愛らしく座った少女は,好奇心に目を輝かせてコルトの家を物珍しそうに夢中で眺めている。
そんな少女を見ながらコルトはシンクの上に立ち,木の戸棚から紅茶のティーバッグを取り出すとそれを口にくわえて床に降り立つ。
とりあえず紅茶のティーバッグを剥き出しの状態でテーブルの上に投げ,今度は椅子を持ってきて食器棚から白いマグカップとティーポットを取り出す。
右手にマグカップを2つほど持って左手にはティーポットを握り,今度は投げずにテーブルの上に置く。
「…紅茶…甘くする?」
「あ,ミルク入れてもらえますかぁ?砂糖と…」
「分かった」
コルトはティーバッグをポットの中に押し込むと,それをシンクに置いてあったポットで熱湯を注いだ。
熱湯を入れ終わったポットを机の上に置き,ふたを閉めてしばし待つ。
のも退屈なので,さっきのお返しに質問攻めで泡をふかせてやろうとコルトはにんまりと笑った。
さて,何から聞こうか…
「貴方の名前は何ですかぁ?」
コルトが今まさに質問をしてやろうと口を開けた直後,その言葉を遮る様に少女の言葉が飛んできた。
「…コルトです…」
「じゃぁコーちゃんですね,ちなみにチルの名前はチルです。」
「へー…」
コルトは余り興味がわかないのか,適当にチルの話を受け流す。
しかしそんなコルトの意地悪な気持ちを全く分かっていないかのようにチルは相変わらず向日葵のような笑顔をこちらに向けてくる。
コルトの良心ががらがらと崩れた。
『俺って…小さい人間なのかな…』
考えを改められ,ちょっと(かなり?)ヘコむコルトをまたもやチルは天使の笑顔で微笑む。
ここまで無垢で純粋な笑顔を向けられるとたまったもんじゃない。
『ごめんなさい,今まで・・・』
心が折れた。
折れたよもう,俺は捻くれ者のあっぱらぱーですよ~だ…
「紅茶,出来たですよ?」
「あ,あぁ…ごめん…」
コルトはティーポットから茶色く染まった紅茶をマグカップに注ぐと,ミルクを出すべく冷蔵庫に向かった。
次は結構放置されていた城編を書こう…