第29話
「…野良猫…じゃぁ無さそうだな…ってか悲鳴……」
コルトは家の外で起きた出来事を覗きに行こうと慌てて泡を水で洗い落とす。
そしてまだ洗い掛けの食器を放置してドアへと向かった。
恐る恐るそのドアノブに手を掛ける。
多少の恐怖心はあったものの,好奇心がそれを揉み消してくれたおかげでさほど怖くは無かった。
すぅっと息を吸い込み,一気にドアを押し開ける。
さぁ,どんなに面白い出来事が起こっているのか――
「は?」
コルトのすぐ目の前で木箱がうごうごと動いている。
確かこの木箱はドアの右隣に積んでおいたはず…などと思いをめぐらせながら,コルトが突っ立っていると木箱から可愛らしい声がした。
「誰かいるんですよねぇ~,助けてくださいぃ~」
弱弱しいながらもはっきりとした声で,コルトはようやく何故木箱がこんな所にあるのか…なぜ木箱が喋るのかという謎が解けた。
「ちょっと待ってろ。」
コルトはドアを開け放ったままで家の中に入ると,壁に立てかけてあった剣からさっとその巨大な刀身を引き抜いた。
刹那に蛍光灯にスイッチが入ったかのようにその赤き刀身から力を感じさせる赤黒い光が溢れ出す。
その大剣をコルトは両手で軽々と持ち上げ,小走りに木箱の元へと駆けた。
そしてすっと息を吸い,剣を頭上に振り上げると,そのまま一気に振り下ろした。
びゅっと空を斬る音が響き,一瞬で木箱は粉砕し,小さな木片のクズと化す。
コルトの魔力を剣に流し,成形することでコルトの魔力が刃となり,木箱を斬ったのである。
幼い子供のこの剣裁きに辺りに居た住民達から拍手が沸いた。
そしてその木片の中からすっくと立ち上がる1人の少女。
大きなキャスケットに大きくくりくりっとした碧の瞳。
コルトはその少女がありがとうの言葉と共に自分の体に抱きついてくるとっぴ抜けた行動に,自分が熱湯に放り込まれたタコのように茹で上がるのが分かった。
助けていきなりハグは無いだろ!!
言葉にしたいが余りの心拍数の増加で声がかすれる。
「ひ…ふぉ…」
もう自分でも何を言っているかが分からない。
その言葉を発した直後,少女が背中に回していた腕が更にキツく締まる。
もはやここまでされたら反抗もくそったれも何も無い。
この時コルトは初めて,自分は8歳でも男なのだと実感した。
ヘタですね~我ながら(笑)