第27話
「クソ兄貴っ!何であそこで引き下がっちまぅんだよっっ!」
「…家が壊れるぞぉ,コルトやめぃ」
クランセイス城下町に立つ一軒の丸屋根の家からは,美味を誘う甘いパンケーキの誘惑の香りと共にそれをぶち消す怒声が飛んでいた。
さっきからガッシャンガッシャン皿が割れるようなガラスの悲鳴が聞こえているのは中で誰かが暴れているという証拠だ。
この家に住んでいるのはコルトとキルト=暴れているのは勿論コルト(常識で分かる)
「あのクソ王子!ルラ扱えるからっていい気になりやがってぇっ!大体あの女剣士も兄ちゃんがあのクソ貴族から剣奪えば一ひねりだろうがよぉっ!」
コルトがわんわん喚き散らしながらもうヤケクソでパンケーキを口いっぱいにほお張る。
何だかんだ言ってもやはりお腹は空くものである。
そんなコルトを見てキルトはくすっと笑った。
茶色く年季の入った木の机に右ひじをつき,コルトがパンケーキをほお張る姿を温かい目で見守っている。
「…ふぁんらよ…」
口からはみ出したちょいグロテスクなケーキの破片がぽろっと皿に落ちた。
「いやぁね,俺は今まで血の匂い耐えない殺し屋に居たのかと思うとさ…コルトがパンケーキむしょむしょほお張ってるのが新鮮でねぇ。何か今まで俺が守ってきたと思ってたのが…本当は傷付けただけなのかと思ってしまってさ。コルトにも迷惑かけたなって思って」
「兄ちゃんっっ!!!」
コルトがばんっと机を叩き,立ち上がる。
大きな山吹色の目は,フィリスと剣を交えていた時以上に鋭い光を放っていた。
弟ながら,そのただならぬ気迫に押されるかのようにキルトの心臓が大きく波打つ。
「兄ちゃんが…にちゃんがぁ…殺し屋に入ったのは俺の為だろっ!今更後悔すんじゃねぇよっ!!」
コルトはずっと1人だった。
コルトには記憶の穴であったほしかったその記憶は,驚くほど鮮明にその脳裏に刻み込まれていた。
そう,キルトが居ない空白の2年間は,驚くほどの速さでコルトを変えていったのだ。
あ,何か最近いちじるしく場面が変わってる気がするぞ?
いちじるしく…漢字で書くと著しく…
何かあのぐちゅぐちゅのいちじくに似てません?え,そう思うの私だけ??
…失礼しました…