色王街にて
色王街へ向けて旅立ってから一週間が経とうとしていた。
ともすれば、独特の色香と煙たさを感じる街並みが見えてきた。
奥には聳え立つ荘厳なお城が立っている。
街に入るための大きな門の下で警備隊の職員であろう兵隊に止められた。
「止まれ。」
「ちょ、ちょっと、まだ何もしてないです。」
「そ、そうだよ。」
メルルとアルルが応える。
しかし、なぜどもる?
「安心しろ、ここを通過する旅人には全員ちょっとした質問をする決まりなのだ。と言うよりもその反応は不審がられるぞ。」
「なんだ、心配して損したです。」
「そうだよ。」
だから、その反応が不審だと言うのに。
「それで?旅人諸君、君らはこの街に何ようかね。」
本当に不思議そうな声を出す。
僕らの格好がそんなに不思議なのだろうか?
「この街に男女で観光とは。」
なるほど。
確かにこの街は色王街。
またの名を花街、風俗街である。
そんな街に男女で入るのは不思議なことであった。
ちなみにこの街にはどちらの性別向けの風俗があるので男性のみ、女性のみの観光客はさらさら平気でいる。
「僕らは魔法街ウィッチ・クラフトから来たんです。色王様にお会いするために。」
「魔法街から?」
「何も聞いていませんか?」
「…ああ、そういえば魔法街からの学生の集団が来たら報告するように言われていたな。」
「本当ですか?」
「ああ、本当だとも。」
「それで僕らはどうすればいいのですか?」
「なに、この街を観光していればいいさ。」
「え、そんなことをしたら僕らがどこにいるのかわからなくなりませんか?」
「だから、これを持っていてもらう。」
そう言ってお守りのような物を渡される。
「これは?」
「言って仕舞えば、発信機のようなものだ。それを持っていればどこにいるかはすぐに分かる。」
「なるほど、じゃあ、ちょっとこの街を楽しんで来ますね。」
「ああ、色王様への連絡はこちらに任せてくれ。」
そう言って僕らは門を潜り抜ける。
色王街の中はキセルとお香の煙で甘ったるい雰囲気が広がっていた。
僕が一歩歩くたびに違う女性が声をかけてきた。
刀弥、アルルも同じようだった。
驚いたのはルナ、メルルもいろんな男性に声をかけられていた。
流石は色王街と言うところだろうか?
「すみません。」
「あら、なあに?お姉さんと遊ぶ気になった?」
「いえ、そうではなくてこの街って商店街のような場所はないのですか?ウィンドウショッピングでもしてみたいんですけど。」
「ああ、それならこの大通りを真っ直ぐ行くと大きな十字路があるのだけどね。その交差側がお店通りって呼ばれているわ。いろんなものが売っているから楽しいわよ。」
「ありがとうございます。」
「いいのよ。何なら後でうちの店に寄って行ってみない?とってもサービスするわよ。」
「それはちょっと遠慮しておきますね。」
「あら、そんなに嫌がらなくてもいいじゃない。」
「いえ、感じちゃうんで。」
そう感じているのだ。
「あら?感じやすいの?かわいいわね。」
「いえ、そうではなくて。」
「?」
「感じるんですよ。氷の刃で貫くような視線を。」
「あらあら。」
そう、後ろからとんでもない程冷たい視線を感じるのである。
「モテるのね。」
「そう言うわけではないと思いますよ。」
「まぁ、いつでも遊びにきてね。」
「あはは、またいつか。」
僕はお姉さんと別れてみんなの元へ行く。
「はぁ、やっぱりこの街はすごいね。」
ルナが口を開く。
ため息も溢れている。
「ほんとです。」
「ほんとだよ。」
「まさか、こんな場所だとはなぁ。」
メルル、アルル、刀弥も同様のようだ。
「みんな、奥にウィンドウショッピングができる通りがあるんだって。」
「それ、さっきのお姉さんに聞いたんだ。」
ルナの声がやけに冷えている。
「う、うん。」
「まぁまぁ、行こうぜ。」
刀弥が空気を入れ替えてくれる。
僕らは揃って街道を歩く。
この街の住人は相手が誰であろうと気軽に声をかけてくる。
街道に出て呼び込みをする男女や建物の二階のベランダから声をかけてくる人、彼らは相手が振り向いてくれなくても関係ないようだ。
僕は会釈をして軽く流せるようになり始めたし、刀弥に至っては笑顔で手を振りかえして挨拶している。
十分も歩くことにはお姉さんから教わった十字路に出た。
左右に首を振れば色鮮やかなお店が立ち並んでいる。
左右どちらから行っても二、三時間歩けば反対側から出ることができる。
「みんなはどっちから回りたい?」
『こっち。』
メルルとルナは左から、アルルと刀弥は右からと指を差している。
ちなみに左は雑貨、右は武器や魔法書が並んでいるのが見える。
『祈里はどっち?』
みんながずいっと顔を寄せてくる。
「僕は左からかなぁ。」
やったーっと女性陣がはしゃいでいる。
代わりに男性陣はズーンと沈み込んでいる。
「ほら男子、早く行くよ。」
よろよろと男性陣が起き上がってこちらに近づいてくる。
そんな男性陣をほっといて、女性陣は足取り軽くお店へと向かっている。
通りの端っこにある雑貨屋から見ていくことになった。
お店の中ではそれぞれ別行動をとることになった。
女性陣はアクセサリーや小物のあるエリアにいる。
男性陣はどこを回ればいいのかわからずキョロキョロしている。
僕はたくさんの小瓶が並んでいるコーナーにやってきていた。
小瓶には棒が刺さっており、多分香水とかなんだろう。
目に留まった小瓶の棒を抜いて匂いを嗅いでみる。
「うわっ。」
妙に甘ったるい香りに顔を顰めてしまう。
「なになに?どうかしたの?」
ルナが話しかけてくる。
その声に誘われるようにみんなが寄ってくる。
「って、またそんなものに興味を持っちゃったの?」
「そんなものって?」
「い、いや。だってそれ女性が男性を誘うためのものでしょう。」
「そうなんだ。」
正直、ピンとこない。
僕がぼーっとしていると、
「別にそんなに悪いものじゃないんじゃがなぁ。」
そんな声が後ろから響いた。
「え、あっすみません。」
ルナが謝る。
多分、店員さんに怒られたと思ったんだろう。
だけど、多分違う。
なんていうか、後ろから漂う雰囲気が全く違う。
うまく言葉に表現できないが魔女の方々と同じ匂いがする。
慎重に振り返る。
後ろに居たのは女性であった。
いや、女性なのは声で大体把握していた。
驚いたのはその美貌である。
僕らの反応に女性は。
「ん?おや、怖がらせてしまったかなぁ。」
そう声をかけて来る。
「いえ、そう言うわけでは。」
ルナが生返事を返す。
「それで、あなたは?」
「わっちかい?わっちはただの通りすがりの。」
次に来る言葉に僕は驚きを隠せなかった。
「お主の先輩じゃよ。なぁ、魔王様?」
「⁉︎」
「それをどこで。」
「おいおい、まさか。」
全員が戦闘体制をとる。
「おやおや、そんなに警戒しなくても良いのになぁ。ただただわっちは色王の関係者というだけじゃ。」
全員が姿勢を戻す。
「そうそう、仲良くしようじゃないか。」
「最初からそう言ってくださいよ。」
「すまんなぁ。それでどうじゃ?色王の側近が来るまで一緒に街を回らないか?わしもあんまり街を回ることができなくてなぁ。」
正直、胡散臭いが実力は本物だろう。
「え、えーっと」
僕が返答に困っていると。
「大丈夫です、行きましょう。」
「おいおい、ちょっと。」
「良いじゃない、案内がいた方が良いし。それに色王の関係者ってことは後でどうせ会うことになるんだろうから。」
僕らが二人で会話をしていると、
「話し合いは済んじゃかのう。」
「はい!」
僕らは関係者さんの案内を受けて、街を回っていた。
「そういえば、まだお名前をお聞きしていなかったんですが。」
僕はここまでで思っていた疑問をぶつけてみた。
「そうじゃのう。しかし、お主らに名乗る名はまだ持っておらぬのじゃ。」
「は?」
失礼な声が出てしまった。
「辛辣じゃのう。まぁ、そのうち名乗る機会もあるじゃろて。」
「はぁ、そうですか。」
これ以上聞いても返事はなさそうだ。
なんて話をしている間に色々なお店を見て回ることができた。
そのうち、上方から急速に接近する存在に気がついた。
「あの、誰か近づいてきていませんか?」
「え、そう?」
他のみんなは気づいていないようだ。
「ほう、この気配に気づくか。やるのぅ。」
代わりにこっちは気づいているらしい。
というよりもこの反応は相手が誰か知っているのか?
「そんな怖い顔をしやんでもいいよ。敵やあらへん。」
すると、すでに僕らの目の前にその人は降り立っていた。
「うわ!」
「誰です?」
「誰だよ?」
その男が口を開いた。
「初めまして、初世祈里様。そして、こんなところにいたのですか?色王様。お探ししておりましたよ。」
はい?
「え、色王?」
「はい。こちらにいらっしゃるは色王にして色欲の悪魔、アンジュベート・アスモデウス様であります。」
「はぁ⁉︎」
刀弥が驚く。
僕も驚いたがなんとなく察していた。
なぜなら、彼女の纏うオーラが異質だったからだ。
普通の人間は魔女たちと同じオーラを放ったりはしない。
それだけで異常なスペックの存在であることがわかる。
それ以上の説明は城の方でするということらしいので、お付きの人についていくことになった。




