刀弥との修行
「ようやく、終わった。これで、僕の勝ちでいいんですよね?」
「ああ、君の勝ちだ。おめでとう。」
二人して、床に寝っ転がって胸を上下させる。
先にナーシャが起き上がって、僕に手を差し伸べてくれる。
「ほら、手を取りなさい。」
「はい、ありがとうございます。」
それから、ナーシャが魔法を使ってお茶を飲むためのセットを整えてくれた。
引いてもらった椅子に座り、お茶をいただく。
運動の後のお茶はとても美味しかった。
「で、なんでこんなことになったんですか?」
「ん?ああ、それは君が特別だからだよ。」
「それはもう聞きました。そんなに何が特別なんですか?」
「そもそも、この世界には迷い人以外に外から人が入ってくることはほとんどない。例外といえば、君のように他人の力を借りて入ってくることぐらいかな。だから、そもそもとして君は特別扱いをされて当然の立場にいる。」
「それが、僕の特別。」
「それだけではない。君の力も特別なんだ。」
「力?これは黄昏の血が入っているからでは?」
「そうじゃない。そもそもなぜ君が外の世界で追われていたのかわかるかい?」
それはそう、
「魔法が使えるから。」
「それもある。しかし、本当は『特別な』血を持っているからだ。」
「特別な血?それが関係あるのですか?」
「ある。そもそも黄昏の血というが普通の人間にはその血は強すぎるんだ。だから、それに適応できるお前は特別なんだよ。」
「な、なるほど。」
そういう話があったのか。
それでもあれだけボコボコにされたことは許せない。
だが、それは後の話か。
「話はそれだけですか?なら、そろそろ星をもらって退出したいのですが。」
「なぜ?もう少しゆっくりしていけばいいじゃない。」
「なぜって、あなたにボコボコにされたからですよ。保健室に行きたいのですよ。」
「そんなもの、こっちにおいで。」
不安はあるがナーシャの話に乗ることにした。
ナーシャの下に寄るといきなり手を握られる。
「ちょっといきなりなんですか?」
「どうしたの?たかだか手を握ったぐらいで動揺しちゃって。」
「そういうことじゃないですよ。」
「はいはい。そういうことにしておくね。」
そう言って、ナーシャはあっという間に僕の怪我を治していく。
その技術は流石の一言に尽きる。
「さぁ、これでもう少しお話ができるわね。」
「そーですね。」
こうなったらヤケクソである。
「それに話すべきことがもう少しだけあったのよ。あなたはこれから先茶会に呼ばれて星をもらうことがあると思うけど、気をつけてね。」
「え?何をですか?」
「魔女って言うのはね、昔から好奇心旺盛な生き物なの。だから、君みたいな特別な子への興味は一生尽きないと思うわ。」
そう聞いた瞬間、背筋がゾクゾクッと悪寒が走った。
「最後にこれを授けようか。」
そう言って、ナーシャは僕の額に触れる。
そこから魔力が流れ込んでくるのがわかる。
「今のは?」
「さっき私が使っていた『瞬間転移』の魔法の術式を君の体に刻み込んだんだよ。」
「もらってもいいんですか?」
「いいから、渡しているんだよ。私に勝ったちょっとしたご褒美さ。」
「ありがとうございます。」
僕はそう口にしながら帰りの扉を開ける。
「じゃあね、またいつか会おう。祈里君。」
扉を開けて廊下に出るとルナが外で待っていた。
「大丈夫?祈里君。すごい服がボロボロなんだけど。」
「それね、本当にひどかったよ。」
「そうなんだ、何があったかは聞かないでおこうかな。」
ルナはちょっと引いているような気がする。
ルナに支えられて服を借りに結局保健室に行くことになった。
保健室に着くと、保険医であるティア・グレイロード先生が座ってコーヒーを啜っていた。
服を借りに着たことを伝えるとすごく驚いた顔で何があったのか聞いてきた。
素直にナーシャにされたことを伝えると瞬間沸騰機のように激怒し始めた。
「あんのバカ魔女が。同族として恥ずかしいわ。」
とんでもないカミングアウトであった。
同族とは一体?
「同族ってどういうことですか?」
「どうって、単純な話、ボクも魔女の一人なんだよ。初世祈里君。」
「えー⁉︎保健室の先生が魔女の一人⁉︎」
「そうだよ。だから、ボクも君に興味は尽きないんだよ。」
そんな会話をして僕は服を借りることができた。
ある日、黄昏の家に刀弥が遊びに来てくれた。
正確には遊びに来ただけではなく剣術の指南に来てくれたのであった。
黄昏の家の庭先で二人して木刀を振り合っていた。
僕は刀弥曰く筋が良いらしく、なかなか楽しい時間だった。
刀弥は僕の攻撃を全て受け流していく。
筋が良いというが全然攻撃が当たらない。
一週間ほど前のナーシャとの戦いの時のようだった。
受けられて、受けられて、斬られて、受けられて、斬られて、受けられて、受けられて、受けられて、斬られる。
そんな感じでボッコボコにされた。
それから、基本的な戦い方といくつかの水影波紋流の技を教えてもらった。
十の連続技と四の単体技、奥義とも呼べる精神統一の先にある状態、天衣神威の十五個である。
形はだいたい覚えたが実際に使うにはもう少し練習が必要かなと思う。
何度も何度も刀を振り下ろし、刀を手に馴染ませていく。
形ではなく体の一部になるように慣らしていく。
「とりあえず、一旦休憩しようか。」
「うん、ありがとう。いろいろ教えてくれて。」
家の中に戻り、黄昏が淹れてくれたお茶を飲みながら刀弥と話をする。
「いやー、本当に筋がいいよ。こんなに短い時間で身につけるなんて。」
「その割にはボコボコにされたんだけどね。」
「う、それについては悪かったよ。ちょっと楽しくなっちゃって。」
「楽しくって、全く。こっちは痛かったんだけどなぁ。」
「二人ともお菓子はいらないかな?」
「いただきます。」
「僕も食べようかな?」
「存分に食べるといい。美味しいよ。」
二人で、黄昏の用意してくれたお茶菓子を食べている。
大量に用意してくれたのだが一瞬でなくなってしまった。
栄養補給のためにばくばく口に放り込んでいく。
「二人とも良い食べっぷりだね。」
「いやぁ、運動をしてお腹が空いちゃって。」
「僕も同じく。」
「ははは、いいね。」
「こんなによくしてもらってすみません。」
「良いじゃん良いじゃん。お世話になっておこうよ。」
「君にとっては母親みたいなものなんだろうけどさ。それでも僕にとっては学園の理事長なんだからちょっとね。」
「そんなこと考えなくてもいいよ。君にとっても親代わりだと思っているんだからね。」
「黄昏もそう言っているんだから甘えとこうよ。」
刀弥はずっとソワソワしながらお茶を飲んでいる。
刀を振っている時はあんなに生き生きしていたのに。
お茶も飲み終わって、指南の続きが始まった。
今度は受けの練習だった。
正面から受けることもあれば、受け流して相手との間合いを図る練習もあった。
練習だって言っているのに刀弥はとんでもない勢いで打ち込んでくる。
「ほらほら、もっと足腰に力入れないと後ろまで吹き飛ばされちゃうよ。しっかりしっかり。」
「うるさいよ。こっちだって一生懸命なんだよ。」
「頑張っているって言葉は言い訳にはならないよ。」
「そんなことは言ってないだろ。」
そんなことを言い合って長いこと刀の打ち合いを続ける。
夜になるまでこの指南は続いた。
刀弥は晩御飯も一緒に食べていき、家に帰って行った。




