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猫を被る  作者: unknown K
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第4話 私の決断

「貴方が……又吉……」


私は掠れた声を絞り出す。又吉は茶色で一回り体の大きい猫だった。ふてぶてしい顔と額の傷が、乱暴そうな雰囲気を醸し出していた。


「お、俺の名を知ってるのか。ま、知ってたところで地面に這いつくばってるお前には何にもできないだろうけどな」


又吉はそう嘲り、ニヤッと気色の悪い笑みを浮かべる。


「ねぇ、何で又吉がここにいるの?約束と違うでしょ……」


そう口を開いたのは穂花だ。


「え?約束だぁ?」


「私に電撃の力と転移草をくれた時に言ったじゃない、“俺はこの件に一切関与しない。約束する。その代わりに3万円をよこせ”って」


それを聞いて、又吉はガハハと笑う。


「よく言うだろ、約束は破るためにあるって。大体何で高貴な種族である俺が、お前みたいな力のない小娘との約束を律儀に守らなきゃならねぇんだ?」


「なら、どうしてここに……」


「それはお前らを殺す為さ」


“殺す”この言葉を聞いて、私と穂花は恐怖に震える。


「殺すって……でも無理よ。絶対に犯行がバレるから。今の時代は令和よ!昔の山奥じゃないんだもの。警察だっているわ!」


「残念だったな。俺はこう見えて頭が良いんだぜ。完全犯罪だって可能さ」


「そんな事はできないはずよ!」


「なら教えてやろうか。どうやってお前らを殺すか」


そうして又吉は淡々と私達をいかにして殺すかの説明を始める。


「ある日お前ら三人が行方不明になる。そして、大人どもは行方不明になったお前らを探す。遠かれ近かれ、お前ら三人の死体がここで発見される。そして一人の死体だけが見つからない。そして、そいつはいじめられっ子だ。しかも最近彼氏がいなくなったと言う。大人が調査を続けると、殺された奴らはいじめっ子だったとわかる。なら、大人達はこう考えるだろうな。“いじめられっ子が復讐の為に殺人をした”と」


「でも、私は殺すつもりじゃなかった!」


穂花が又吉の言葉を否定しようと必死で叫ぶ。


「うるせぇぞ!次に口を開くと首を折るからな!」


だが、ドスの効いた声で脅されて、穂花はごくりと唾を飲み込んで黙った。


「いいか、そして周りの大人はこう考えもするだろうな。“いじめられっ子は復讐が終わった後、自責の念に耐えられずに自殺を選んだ”と」


完璧だ。そう私は思う。又吉は最初から考えていたのだ。どうすればバレずに殺すことができるのかを。


「この後、俺はここで三人を殺す。鉤爪で心臓を刺して殺せば、ナイフで刺した様に見せられるな。血の付いたナイフでも置いておこうか。そして、お前の死体は山の中に捨てる。そうすればお前の死体は見つかることがない」


「ま、待って……まだ死にたくない。聞いてないよそんなこと。私……騙されたの?」


「そうだ。お前は俺に騙されたんだ」


「何で私達を殺そうとするの!どうして!」


穂花の叫びも虚しく、又吉はニヤッと邪悪に微笑む。


「理由なんてないさ。強いて言うなら、“楽しいから”だな」


穂花は顔を真っ青にして後退りする。膝はブルブルと震え、身体から力が抜けていた。


「シャァーッ!!」


通常の猫サイズであった又吉は鳴き声と共に一気に巨大化し、獰猛な顔を見せる。鉤爪はナイフのように伸び、尻尾は3つに分かれた。


「さぁ、まずはお前を殺す!」


又吉は巨大な鉤爪を振り上げ、穂花に襲いかかる。


(動かなきゃ、動いて穂花を守らなきゃ!)


私は身体を何とか動かそうと強く念じる。だが、麻痺した身体は全く言う事を聞かない。私が自分の無力さに歯噛みした、その時だった、


「猫パーンチ!!」


シリアスな空気に合わない、ふざけた声が空から聞こえた。


「ガハッ!!」


又吉は頬にパンチを受け、その衝撃で大きく吹っ飛ぶ。絶体絶命のピンチから救ったヒーローは……


「クロ!!」


「待たせたね、恵美。もう大丈夫!何故って?ボクが来た!!」


「クソ、邪魔しやがって……オラァッ!!」


又吉は巨体でクロに襲いかかる。何倍も、何十倍もの体格差。だが、


「遅いなぁ。君は本気の姿なのに、この姿のボクにすら勝てないのかい」


クロはそれを物ともせずに攻撃を回避する。いや、それどころか又吉を完全にいなし、その短躯からとは思えないほど強烈な一撃を与えている。まさに、“柔よく剛を制す”だ。


「舐めやがって……クロ吉!!」


ゼイゼイと荒い息をつく又吉。クロは余裕そうな表情で本気の又吉を圧倒する。両者には、どう足掻いても超えられない壁がある。そう私は思った。自分が金縛りにあっている事も忘れて、私は二人の戦いにただ見入っていた。


「悪いけど、もう恵美達に手出しはさせないよ」


「黙れ!お前こそ俺の獲物に手を出すな!ここはお前の出る幕じゃないだろ!」


「ここは恵美に力を貸した、ボクの出る幕なんだよ。さぁいけ、“猫パンチ”!かかれぇ〜」


「うにゃーッ!!」


クロの号令と共に空から数十匹の猫達が飛びかかり、又吉を袋叩きにする。


「糞!小癪な!まだ200歳にも満たぬ子猫の分際で!」


沢山の猫達に引っ掻かられ、殴られ、口から血を吹き出しながら、腹から絞り出した必死な声で又吉は叫ぶ。


「多分、この言葉が君の最期の台詞だと思うよ」


だが、あくまでクロは飄々とした態度を崩さない。クロはアスファルトを強く蹴り、高く跳躍する。


「必殺!急降下引っ掻き!!」


クロは一気に又吉めがけて急降下し、ヒュンと空気を切る音と共に小さな両手をクロスさせてとどめとなる爪撃を又吉の顔に刻んだ。


「う、あぁっ……」


その攻撃が致命傷となり、ぐらりと巨体が揺れた後、又吉は白目を剥いて倒れた。あまりにあっけなく、一方的な戦い。


(す、凄い……)


私はただクロの身のこなしに圧倒されていた。終始クロが圧倒していたのだ。まだクロは本気を出していないのにも関わらず、だ。


でも、もしクロが助けに来てくれなかったら私達はここで死んでいただろう。助けてくれた事に、今はただ感謝だ。


「た、助けてくれて……ありがとう、クロ……」


「恵美はまだ麻痺が解けてないから、無理に喋っちゃダメだよ」


そう言うなり、クロは私のそばに座ってブツブツと謎の言葉を呟く。クロの呪文で私の体が薄い青色に光り、麻痺した身体が再び動かせるようになった。


「ねぇ、クロはどうやって私が何処にいるかを知ったの?」


私はよろよろと起き上がり、服を叩きながら疑問を口にする


「“猫パンチ”が集めた情報で何とか特定したんだ。間一髪だったけど、間に合って良かったよ」


「そっか……」


「で、君が又吉から力を貰った子か」


「……はい」


クロが穂花の方を向いて話しかけ、穂花は俯きがちに小さくコクリと頷く。


「君は恵美達に危害を加えた。しかも、自らの意志で」


「……」


「本来なら、君はここで罰せられるべきだ。ボクも恵美を傷つけた君を赦していない」


「……」


「でも、これは君たちの問題だ。ボクの出る幕じゃないしね。恵美が君を赦すかどうかにかかっている。恵美、君は彼女を赦すかい?一歩間違ったら殺されていたかもしれないのに、だ」


クロが全ての判断を私に委ねる。なら、答えはもう決まっている。


「私は、穂花を赦すよ」


私ははっきりと穂花に伝える。お面はつけずに、自分の意志で。自分の言葉で。


「でも、私はそんな偉そうな事は言えない。私こそ穂花に赦してもらわなきゃいけないよ。だから、最初に謝る。ごめん。穂花、今まで穂花のことを無視してごめん。穂花の悪口を一緒になって言ってごめん。私、わかった気になってた。自分も加害者だってわかってなかった。可哀想だって言うくせに、手を差し伸べられなかった。だから、本当にごめん」


もう言い訳は言わない。お面のせいだとも言わない。お面をつける選択をしたのも、洋子達に合わせていたのも全て私の選択だ。私の選択で、私は穂花を傷つけた。だから、謝らなきゃいけない。


「恵美……本当にごめん。ごめんなさい。私が一番謝らなきゃいけない。私は恵美達を殺しかけた。私がバカだったから、安易に復讐しようとしたから、私のせいで、恵美達は死にかけた。私のせいで……私、殺人犯だよ……」


穂花は目尻に涙を浮かべて何度も、何度も謝罪する。


「穂花……」


「ごめん……本当にごめん」


あたりがしばしの沈黙に包まれる。その沈黙を破るように、クロが口を開いた。


「じゃぁこれで話はついたかな。恵美は君を赦した。だから君は赦される。さて、あそこで気絶している二人の治療も終わった事だし、ボクはもう帰るね。ちなみに、この話が外に広まるとマズいからこの事は黙っててくれるかい?」


「わかった。でも、きっと洋子達は言いふらすよ……」


「大丈夫。あの二人を治療する時にこの記憶を消しといたから。二人は何があったか覚えてないよ、じゃあね」


そう言うなり、クロは一瞬の風と共にふっと消えた。その場には私と穂花の二人がぽつんと残される。


私達は狐につままれたように、しばらく呆然と突っ立っていた。


「ねぇ、恵美」


「何?」


その沈黙を穂花が破った。


「さっきはわがまま言ってごめんね。本当にバカみたいだったよね。恵美が変わったのが嫌だって。そんなの、仕方ないよね……だって私と関わったら恵美は嫌われちゃうんだもん」


「……」


「別に恵美は好きで私に冷たくしてるわけでもないのに逆恨みしちゃって……もう

周りに復讐とか言わないよ。ほんと、馬鹿だったよね……」


「穂花……」


ハッと穂花は自嘲気味に笑う。その笑みは、皆にいじめられる事を憤るのではなく、甘んじて受け入れようと諦めているようにも見えた。その笑みを見た時、私の心の中で一つの決心がついた。


このお面はクロに返そう、と。

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