ため息
大きな柊の古木は、そのトゲトゲした葉をゆるい夜風になびかせていた。
その幹の元で薄暗い提灯の灯りが、ゆらゆらとほのかな視界を作っている。
「”枝分け”です」
ミコトは、少し寒いのか着物の両裾に交互にしまうように腕を組んだ。
ヒイラギはミコトの言葉に目を見開き凝視した。
「柊の意識を一本の枝に集中しその枝を切る。そして誰も知らない場所に”挿し木”すれば精だけを移動すれば精霊だけを移動できると聞きます。精霊のついた枝は生命力も強く心配せずとも必ず根がつくと言われています・・・・・・・・でもねー・・・・・・」
ミコトは嫌そうに体を捻った。
「な・・・なんだ? 」
ヒイラギはドキドキしてミコトにまた掴みかかりそうになったのを堪えた。
ミコトは捻りながらチラッとヒイラギを見た。
「あなたは人に感化され木にしてはあまりに人に近く感情があり過ぎる。・・・・誰もいないところに行けば一人ぼっちになる。・・・”孤独”は寂しくてつらいですよ?」
ヒイラギの拳はまたギュッと握られた。
一瞬の沈黙が漂う・・・しかしヒイラギは迷わなかった。
「かまわない。 やってくれ」
「え?! 私が?」
「他に誰がいる!!」
ズイっとミコトに詰め寄るヒイラギ。
そのとき、ガサッと背後の草むらで音がした。
ミコトは後ろを振り返るが暗くてよく見えない。
そんなことはお構いなしにヒイラギは地面に両手をついた。
「頼む!! 酒でも米でも私の蔵にある物は何でもやる。」
ミコトは首をガクットうな垂れ、大きなため息をついた。
(参ったなぁ・・・ただ米を分けてもらいに来ただけなのに・・・)
ミコトは頭をかいた。
一面に広がる田畑は真っ暗で見えない、満点の星空がただただ美しく・・・・
旅人のミコトは旨い酒と大好きなおむすびまで馳走になったこの上、断る理由は見つからなかった。