2.マンションに戻ってみた
ここはどうみてもマンション5階にある小山優里と呼ばれた私の部屋である。
不審者にしては自分の名前も知ってるし、話だけなら聞いてみてもいいかも。
青い瞳に銀の長い髪の毛。細い腕は白くてはかなげだ。
思わず見惚れてしまうようなまばゆい少女だ。
幻想的な雰囲気をかもしだして、まるで異国の肖像画を見ているようだ。
「突然お邪魔してすみません。わたくしは聖女見習いのエリスと申します。優里さんが私の頼みを承諾してくれましたのでここに参りました」
「ん?私が承諾した?すみませんが何のことでしたっけ?」
「『聖女様の逃避行』というゲームに記憶はありませんか?」
そのとき優里は思い出した。
学生時代に商店街をブラブラしているときに『聖女様の逃避行』というゲームを買ったことに。
ゲームの内容を思い出す。
主人公、聖女養成学院の生徒であり見習いの生徒「エリス」は無理やり学院に入学させられた。
平民だからとほかの貴族生徒からあれこれ仕事を押し付けられたり、いじめられたりするのでそこから逃げようとするけど、どの選択肢を選んでも失敗してしまう。
ウツまっしぐらの内容でクソゲー認定して放り投げてそのままだったのだ。
ただ最初の画面で『助けていただけますか?』と聞かれたときに『OK』を押したことの記憶はあった。
「すぐに来たかったのですがいろいろ準備がありまして遅くなってしまいました」
「いやその?普通のゲームですよね?」
「こちらの世界に合わせてゲームという形にさせてもらいました」
「その神様みたいなことができるわけが・・・えっと?できるんですか?」
エリスさんはにっこり微笑んで、聖女の神殿で神に祈っていたらかなえられたとのこと。
どう考えてもうまくいかずに捕まってしまう予感がしたので、優里に身代わりを頼んできたのだ。
うむむ、ゲームならその通りなんだけどさ。
自分以外の異世界の人ならきっとうまく切り抜けられるはず。
かなり憔悴してるようにみえるエリスさん。切実さが伝わってくる。
「私の聖なる力のせいで隠し通すことができずどうしても見つかってしまいます。
優里さんなら隣の国まで移動しても普通の人として通れるので、ぜひお力をお貸しください。
順調にいけば一週間くらいでいけるはずです」
「エリスさん助けてあげたいのはやまやまなのですが、私にも生活がありまして。一週間連続というのはちょっと困るかも」
「そのことに関してはご安心ください。依頼進行中はこの部屋の時間がほぼ停止状態になります。
正確にはわたくしの『魔法の袋』の中に異次元世界のこの部屋を置いてあるのでゆっくりしか時間が進まないんですね」
なんだかすごい話がでてきたわね。
『魔法の袋』とは、袋の容量を超えた大量の品物を入れることができ、また自由に取り出せる魔導具だそう。
よくわからないが私がエリスさんのかわりに移動してる間はこちらの現実世界はゆっくりになっているらしい。
異世界の一週間が現実の数時間くらいの感覚だとか。
「ちょっとしたお礼もできるはずですので、ぜひお願いしたいです」
「時間がゆっくりならいいのかな。一週間だけですものね」
「まあ、うれしい」
エリスさんはすごくうれしそうに飛びついてきた!
気持ちはわかるけど、私汗臭いのよね。
ちょっとシャワー浴びてきます。
ん?ってことは、さっきの場所は異世界だったってこと?
やたらリアルだった。
エリスさんはこういうお友達がそばにいたらよかったのにと言いつつ、異世界の服装や必要なものを渡してきた。
忘れないうちにと銀の鎖についた小さな真珠のネックレスも渡された。
汚れた着替えはエリスさんが浄化魔法で綺麗にしてくれた。
しわも取れてる。すごく便利だ。こういうお友達が欲しいなとこっそり思う。
とりあえず馬車を乗り継ぎながら隣国へいけばいいとのことなのでいってきます!
別人なので捕まるはずがないから気楽よね。
ゲーム世界の体験ができるなんてちょっぴり楽しみだな。
◇
聖女養成学院とは聖女を多数輩出するセルベス国では重要な教育機関である。
聖女になる条件
1・怪我を回復できる『ヒール』
2・穢れや状態異常を払う『リカバリー』か『浄化』
3・穢なき乙女であること
3は貴族の嗜好を反映してるとはいえ、これら条件がそろうと『癒し手』と呼ばれ、貴族と同じ地位を与えられることとなる。
この条件のうち1か2を満たすものは本人の意向を無視して強制的に学院に連れていかれる。
そしてそのまま聖女となって働かされることになる。
高位貴族は多額の寄付金で逃れることができるが、下位貴族や平民本人の意思は当然無視される。
なのでそのストレスのはけ口として、エリスのように力はあってもおとなしい子が狙われてしまうのも当然であった。
掃除・洗濯・料理・草むしり、聖女になるために神殿で祈りをささげる。
それらは聖女になるための修行で、善行を行えば少しずつ神から力を与えられるとされている。
貴族たちの花嫁修業になるとも言われていたが、聖女になれば貧乏貴族がお金をかけずに娘たちを良縁に嫁がせる手段でもあった。
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