捨て猫とクリぼっち。
遅ればせながら すっげーギリギリだけど
Merry Christmas.
滅べリア充。 何が聖なる夜だ。
もげろ。
( ゜д゜)、ペッ
景色から色が消え、街並みが寂しくなるころ。
世間はクリスマスというイベントを思い出す。
大体、クリスマスなんてただのキリストの降誕祭だろ。なんで祝うんだよ。キリストだって自分の誕生日を理由にカップルがいちゃついてんの見て中指立ててるよ。
キリスト様はそんなことしないか……
というより、キリストは日本の神様じゃないやん。西洋の文化じゃろがい。
何? 「日本は八百万の神がいるんだから一人位西洋の神がいてもいい」?
だったらせめて八百万の神全員祝ってやれよ!! そしたら毎日がお祝いだろ!?
何が言いたいかというと毎日俺にプレゼントをくれ。
結局は変わらない日々の中に『クリスマス』という刺激が欲しいだけだろ。
ああそうですとも。結局はリア充への妬みですよそれの何が悪い。人前でイチャイチャして自分幸せですよってアピールしないと幸せを感じられないそんなよく電車内にいるそこまで顔面偏差値の高くない他人に見られることで興奮する露出狂系カップルの方が哀れだろ。
と、毒を吐きつつも目の前のカップルに殺意を送る。
流石に気づかないか……
こうして電車揺られること数分。乗り換えだ。
「……ったく、滅べ」
カップルに聞こえないように吐き捨てだが、目が点になって俺の顔見てたし多分気づかれたよね。
それでもイチャコラしてたからもうどうでもいいんだろうね。夢見るリア充たちは社会の歯車、底辺系サラリーマンなんて眼中にないんですもんね。
……退社早々に鬱になりそうだが気を強く持たなくては。
そんなことを思い駅のホームに出ると違和感に気づく。
電車が止まったとのアナウンス。はしゃぐ恋人たち。それよりも特筆すべきは――
白だ。街並みが白いのだ。もちろんクリスマスの装飾で赤や緑に彩られてはいる。しかし、大部分が白に染まり、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
そう、雪だ。
正直言ってサラリーマンにとって雪は忌むべきものだと思う。電車は止まるし、カップルはイチャつくし電車も止まる。
「……最悪だ。しょうがない、歩いて帰るか。」
幸か不幸か、家までは二駅しか離れていない。激務の後では辛いが電車が動くのを待つよりは早いだろう。
俺はコンビニで大きめのビニール傘と暖かい缶コーヒーを買い、最短距離で家に向かう。
靴の中に入った雪が解け、徐々に俺の体温を奪っていく。
俺はこの感触が嫌いではなかった。自分が四季に染まっていくような気がして心地がいいからだ。
だが、霜焼け。お前はだめだ。純粋に辛い。
同じマフラーを首に巻いたカップルが通りがかる。
爆ぜろ。
― ― ― ― ― ―
駅から歩き始めて十数分。俺は人通りの少ない裏通りに来ていた。普段なら電車で過ぎ去るであろう風景をゆっくり歩くのもたまには悪くないな。
世界に自分だけになったのかと錯覚するほど静かなだ。
「――――」
しかし、そんなわけもなく。よく見ると足元には『みかん』と書かれた段ボール。
え? これ絶対ペット入ってる奴だよな。
予想は的中し段ボールの中には捨て猫がいた。
寒さで衰弱しきった子猫が入っていた。
「ったく、どうしたもんか……」
飼うことは別にいい。だが、自分のこともまともにできない自分が動物とまともに暮らせるのだろうか。
「それに俺はお一人様主義なんだ。給料から上司の飲み代しょっ引かれてる上に猫のエサなんて買えるわけないんだよ。」
どうにか自分を正当化し目の前の子猫を置いていく理由を探す。
「――――」
そうこうしてる間も時間は過ぎる。どんどんと気温は下がり吐く息はより一層白くなり、目の前の猫も震えている。
「……しゃーないか。」
雪に埋もれた段ボールを掘り起こす。
傘を閉じ段ボールの上にカバンと傘を乗せ速足で自宅へと向かう。
視界の端を忙しなく流れていく風景。 肺いっぱいを満たす凍てついた空気。
なぜだかはわからないが、いつもより少し、この世界が心地よく感じた。
― ― ― ― ―
家に着くころには頭に雪が積もり頭蓋が冷やされていた。
早く中に入って暖かいココアを飲んで風呂に入って寝よう。
リビングに捨て猫入りの段ボールを置き、暖房をつけ、お湯を沸かす。ついでに風呂のスイッチも入れておこう。
それよりも猫の安否確認だ。
「死んではなさそうだな。」
衰弱しきってこそいるが心臓も動いているし呼吸も安定している。
とりあえず暖かい風呂に入れるか。
人肌程度にぬるくしたシャワーを優しくかけ体の汚れを丁寧に洗い流す。
普通の猫ならシャワーを嫌がるものだと思うのだが……抵抗する元気もないか。
洗い終え、水気をふき取りドライヤーをかける。
「とりあえず名前つけとくか?」
『みかん』って書かれてるし、みかんでいいか。
ネーミングセンスなんてなかったんや。
「いいか? みかん。俺は助けたくて助けたんじゃない。目の前にいる衰弱しきった猫を放置してたらそれこそ、妊婦や老人、怪我人を見捨てる一部のクソリア充と同等になるのが嫌だったのと、死なれて夢に出てこられたら仕事の効率が落ちるから仕方なく助けたんだ。いいな?」
何も理解していないつぶらな瞳。小さくあくびをした後に「ミー」と鳴き返事をする。
飼うとなったらいろいろと準備が必要だ。
「絶対トイレは必要だよな。」
調べたところ新聞紙で簡易的に猫用トイレが作れるらしい。ネットで猫用のトイレを注文しておこう。あとは飯か。注文しても届くのは明日だしな。
「飯はささみでいいのか? 今日だけだがこれで死ぬようならネットの記事を恨もう。」
現代はネットが発達したことで便利になったがその分、嘘があるので怖いもんだ。
ネットの情報をもとに簡易トイレと餌を設置しココアを作る。
「やっと一息つける。」
ゆっくりと熱いココアを啜りながらみかんに目をやる。
美味そうにささみにがっつくみかんを見て食欲だけはあるのか。……と呆れつつも、物を食べられるだけの元気を取り戻せたことに少しだけ安堵する。
「今日はもう遅いしゆっくり休むか。」
カップの底に少しだけ残ったココアを飲み干す。
風呂を手短に済ませ明日の仕事に向け布団に入る。憂鬱だ。
― ― ― ― ―
朝起きると濃厚な獣臭と刺さるような毛皮。 みかんが顔の上に鎮座していた。寝室のドアをあけっぱにして寝た俺が悪いのだが……それを加味したとしても図々しくないか、この猫。
顔の上のみかんを退けスーツに着替える。布団買い替える羽目になるかもな。
朝食をとりみかんをリビングに運ぶ。こいつを一人にして仕事に行くと家の中が凄まじいことになりそうだが仕事に行かないとその家すらなくなるからプラマイゼロってことにしておこう。
「大人しくしててくれよ。 ささみ買ってくるから。」
わかりやすく目が輝くみかん。こいつ言語理解してるだろ。
「それじゃ、行ってきます。」
色が失われたはずの風景が少し輝いて見えた。
多分一生独り身。