M10.初めてのダンジョン(但し難易度に手加減は無い)
何度も書き直したせいでかなり遅れました。
大変申し訳ない。
アリーナデビューして同じ企業相手に4連勝したら、その相手の企業に所属する天才少女調律士にやたらと感謝されました。なんでぇ?
それが皮肉とかそういう類いならまだ理解できた。しかし、秋穂女史から漂ってきていたのは本物の好意。彼女の利益に繋がったということだけは把握したんだけど。
まぁ、嫌われるよりは好かれるほうがずっといい。俺のおかげで何かしらのプロジェクトが再び注目されたと言っていたのは少し気になるが、悪人っぽい雰囲気は無かったから大丈夫だろう。
どちらかと言えば、俺の迂闊な発言のほうがよっぽど問題だ。
幸いにして転生系ラノベによくあるスゲースゲーと持て囃されるような展開にはならなかった。面白いこと考えつくね? くらいのフワッとした手応えで済んで正直かなりホッとしている。
俺にしてみればエーテル・フレームなんてスゲェッ!? どころではないウルトラでミラクルなテクノロズィ~なんだけど、そういうことなんだろうな。
この程度、はあくまでそれに馴染みのある人間だからこその感覚なのだ。外部の人間から見ればどんな些細なことでも珍しいし面白いのだ。
さて。俺が余計なひと言を口にしたせいで、我らが如月ラボの皆さんも実にイキイキと図面どころか模型も作って試作の四脚フレームを形にしてしまった。
が、ハイスピードで作業が進んだのはそこまで。実際に使えるモノを開発するには先立つものが必要なのだ。
◇◇◇
「……これが、ガラン洞か。異空間、魔獣の巣窟。さすがに緊張するな」
《ふ~ん? アンタ、魔獣の相手をするのは初めてなワケ?》
「いや、魔獣との戦闘そのものは初めてじゃないよ。まぁ、ヤークト・フントを使ってたときは一葉ちゃんとの共闘だったし、向こうがオフェンス、俺はサポートだったけど」
フレームの開発素材。それは意外にも金属などだけではなく、魔獣の骨や爪、ウロコなども使われていた。こういうとこはホントにファンタジーやってんな?
イメージ的には人間のオーラな力で動く聖なる戦士のアレに近いのだろうか? そういやアレもある意味では異世界転移モノか。ゲームばかりで原作は詳しくないけど。
案外、フレームから意思を感じるのもそのあたりが関係しているのかもしれない。色んなモノが混じりあって、魔術的な要素でひとつになって、まったく新しい“個”としての心が宿った……とか。
まぁそんなワケで。こうして俺は魔獣素材を求めてダンジョン的存在“ガラン洞”にやってきたのだ!
ちなみにフレームは前回に引き続き“肆式・楓”である。展開したあとに背中へ“参式・霞”からの妬ましや~な視線がビシビシ叩きつけられたが、命令だからね。ちかたないね!
「戦闘そのものはともかく、ガラン洞でのマナーについてはルーキーそのものなんでね。恥をかかないよう、ご指導のほどよろしくたのむぜ? 相棒」
《フッフ~ン! 任せなさい! ま、新しく発見した座標ならともかく、ここのガラン洞のデータは如月ラボにバッチリ収集されてたからね。必要になるだろう情報はアタシのライブラリにインストールされてるから安心しなさい》
『ついでに、アリーナでのマッチングと違って、今回は私たちもいるからね。素材の回収は遠隔操作班で勝手に済ませるから、最上くんは戦闘に集中してくれてオッケーよ!』
同乗者(仮)とオペレーターと僚機アリでのミッションとは、初めてにしては至れり尽くせりではなかろうか?
それはそれで緊張するんだけどね。ゲームなんかだと主人公は自由に戦っているかのような雰囲気が出まくりだけど、俺はあくまで“如月ラボの奏従士”としてこの場にいる。
充分な成果を出すのはもちろん、ヘタに楓を破損させればそれ相応の時間と予算が修理に吸われる。
赤字になったからリセットしてもう一度、なんてことはできない。ちょっとした稼ぎも一発勝負の真剣勝負なのだ。
……楓からは“そんなに気負わなくても大丈夫だよぉ~”って感じの励ましが飛んできているんだけどね。
うん、まぁ……だからこそ余計に緊張するんだよね。物言わぬ機械なら、もっと愛着わくまで時間かかっただろうに。
なにが問題かって? 大破しても俺は緊急転送で如月ラボに飛ばされるだけ。もちろん相棒のOSも。しかし破壊されたフレームはそのままだ。ほら問題でしょ。
そこに“心”が存在するならね。やっぱり一緒に帰って成功の喜びを分かち合いたいじゃない?
◇◇◇
戦闘描写? いえ、知らない子ですね。苦戦する要素はいまのところ皆無だからね。
小型のゴブリンみたいなのは頭にスモーキーなマーキングしてやるだけで終わっちゃうし、中型くらいのミノタウロスっぽいのも楓の機動性の前ではタダの的でしかない。
冒険ファンタジーなら解体作業とかのチュートリアルが始まるところなんだが、ここは素敵な文明社会。肉々しい部分は焼却処分でパパパッとやって終わり! である。
あ、定番のコアっぽいのもちゃんと回収してたな。魔導水晶と呼ばれていた魔力の塊。アレがこの世界では主な燃料になるワケだ。
前世の日本では石油燃料などなどエネルギー問題もチラホラ聞いていたが、この世界ではガラン洞と魔獣のおかげでわりと余裕があるのかな?
とはいえ、ガラン洞がノーリスクで資源化できているかはわからない。こういうのって、中からモンスターが溢れてきてトラブルになるのが定番だもの。
出撃前はなんとなく雰囲気で流して聞いてたけど、帰ったらその辺りの仕組みもあとで調べておく必要があるな。奏従士としては基礎的な知識かも知れんし。
ただ……如月ラボの人たちはともかく、OS相手にどんな言い訳をしたものか。
転生者であることは秘密にしたいが、これから長い付き合いになるならどこかで妥協というか……なんだ、黙っててバレるよりは、自分から話したほうがギスギスしなくて済むんじゃないかなぁ~、と。
《ちょっと、余裕だからって油断するんじゃねぇわよ? 霊波パターンが微かに乱れてるわ》
「っと、悪い。一応言い訳しとくなら、油断というか心配事がちょっとあってな」
《だとしても、いまは戦いに集中しなさい。案の定、ほかの企業の奏従士が乱入してきたわよ?》
「わーお」
『反応確認。北条インダストリー製の重装近接型“烈風”ね。相性的には楓が有利だけれど、仮想空間とガラン洞では勝手が違うわ。充分に気をつけて』
逃げろとは言わないらしい。それだけ信頼されているのだと前向きに受け取っておこう。
しかし、ミーティングで言われてはいたが、本当に横槍を入れてくるんだな。一応、企業同士のトラブルについてもいろいろと規則や法律はあるらしいんだが。
やはり力こそが正義ってことなんだろう。あとは財力。せめてもの救いは反撃しても文句は言われないということか。
その辺りも確認してみたが、この手の小競り合いで被害を訴えるようなことをすると企業の評価が下がるらしい。それは大企業でも例外ではなく、被害を公表して敵対企業を貶めようとして逆に顧客が離れて……なんてこともあったとか。
つまり、ここで負けたら泣き寝入りするしかないってことだ。もっとも、回収した資源は片っぱしからラボに転送しているので利益はゼロにはならないけれど。
違うわ、ゼロどころかマイナスになるわ。楓が破壊されたら修理せなアカンがな。ゲームみたいに資金ポチリでパッと直るとかないからね?
◇◇◇
『オイオイぃ、誰かと思えば如月ラボの骨董品かよ。これじゃあスコアを稼いでも自慢にもなりゃしねぇぞ?』
『気持ちはわかるが油断はするなよ釜瀬。先日、ミツルギ重工がオーダーマッチで如月ラボに敗北したのは聞いているだろう』
『へッ! 大企業ってのにあぐらかいてたような連中と俺を一緒にするなよ。こんな貧相なフレームなんざ一撃食らわせりゃ余裕がだってのよッ!』
『うーん、回線開きっぱなしとか完ッ全にナメられてるわねぇ~。挑発してやろうってワザと垂れ流しの可能性もあるけど』
《いいんじゃない。勝手に油断してくれてるんだもの、アタシらは別に困らないでしょ》
『おうッ! そこのオマエぇッ! このオレサマに出会った不運を――』
烈風なる乱入者のフレームからなにやら言葉が飛んでくる。おそらくは俺に対する挑発的なことを言っているんだろう。
しかし、残念だがそれらの言葉は俺の耳に届いても認識するには至っていない。
なぜならいま俺はそれどころではない緊迫した状態に追い込まれているからだ。
マズい状況だ。
すごく――くしゃみしたい。
別にくしゃみくらいいいじゃないかと普通は思うかもしれない。普段なら俺だってなにも気にせずクチュンと済ませる。もちろん飛沫が飛ばないように気をつけるけど。
だがこの状況はよろしくない。このまま派手にぶちかましてしまうと、楓の内側に俺から吐き出された粘液が解き放たれてしまう。
本来ならば気にするほどのことではないのだが、いかんせん感応の加護の力で意志疎通ができてしまうため、非常に気まずいことになりそうで躊躇しているのだ。
――え? 大丈夫? あとでキレイにしてくれるなら平気だって?
むぅ……そういうことなら……。
いや、やっぱりダメだ。俺の気持ち的になんかイヤだ。タブレットとかはもちろん、パソコンのキーボードにつばが飛ぶのだって気になっちゃうタイプなのだ。
つまりマスクは必需品。指紋? さすがにそこまで潔癖だと生きるのが息苦しくなりそうでどうでもいいです。
堪えろ、俺ェッ!!
んぐッ!? ――はぇ?
《エネルギー兵器ッ!? どこからッ!?》
『そんなッ! フレームの反応はひとつしか――ッ!』
くしゃみを我慢したら敵フレームが蒸発しました。やったぜ。
んなワケあるかい。どこからともなく飛んできたビームで吹き飛んだんだよ。転送の光が見えたから中にいた奏従士は無事だろうけど、フレームは完全消滅。大赤字ざまぁ。
まぁ、くしゃみを堪えた反動で後ろに下がってなかったら俺も同じ運命を辿っていたんですけどね。やっぱ俺がもらった女神の加護って幸運なんじゃね?
しかしどこから――んん? なにやら好奇心的な気配をビシビシ感じるな。
敵意ではない。おもいっきり奇襲かましておいて敵意無しとかふざけてんのか? とも思ったが、死人が出ないならノーカウントとか考えてたならそうなるのかも。
もちろん、だからって許さねぇよ? 俺の器の狭さを侮ってもらっては困るのだよッ!
気配は……あの岩のとこか。
まだだ。まだ振り向くな。楓、準備は――いつでもオッケー? よっしゃ。
奇襲のお礼は、やっぱ奇襲だよね!
《早くここを離れるわよッ! こんな見通しのいいとこで立ってたら的にしかならないわッ!》
「いや、ここでいい」
《はぁッ!? アンタなに言ってんのッ!?》
「なにって、そりゃあ――」
相変わらず姿形は見えないが、加護のおかげで気配の輪郭がハッキリと感じることができる。
そして、それは楓にも伝わっているので狙いはバッチリ。ライフルのコンディションも問題なし。
「広いほうが戦いやすいから――なッ!!」
なにもない、ように見える空間に向けて1発。
それと同時に横へ全力でクイックブースト。
立っていた場所でエネルギー弾が爆ぜる。
向こうの武器のメインは光学兵器タイプか。
厄介だ。
霊気をそのまま打ち出すエネルギー兵器は、扱いが面倒だが貫通力が高いらしいからな。
ただでさえ装甲の薄い楓だが、これでEフィールドは当てにならないことになる。
そして俺の放った攻撃は――相手のEフィールドで弾かれた。
そして。
《ステルスッ!? アレは――》
『唐沢製作所の“霧影”のカスタム機……会長自らお出ましとは、恐れ入るわね……ッ!』
いまの一撃でステルス迷彩的なヤツが剥がれた。
いや、もしかしたら単に解除しただけかも。
位置がバレてる状態じゃ無意味だからな。
深紅にカラーリングされた細身の機体。
直線的なデザインはスマートで攻撃的。
背中に背負ってるのは追加ジェネレータかな?
それに直接コードで繋がったエネルギーライフル。
うーん、趣味に生きてる感。
しかし感じるプレッシャーは一葉ちゃんに近いレベル。
つまりはとんでもない強敵ってコトですねわかります。
OSなり速見さんなり確認したいが。
そんな余裕はなさそうだ。
レーザー。
細い。
連射。
火力を絞った?
いや、俺と楓にとっては充分脅威となりそうだ。
クイックブーストで避けられるけど、けっこう危ない。
「スマン、余裕ない。サポート頼む――ッ!」
《――もぅッ! わかったわよ! アンタは戦闘にだけ集中してなさいッ! そのかわりちゃんと勝ちなさいよッ!!》




