M09.テンプレからは逃げられない(アイディア提供編)
俺の華麗なる異世界バトルでびゅうを終えた翌日。
「おぉッ! キミがあの肆式・楓の奏従士か! 初めまして、私は七星燕秋穂という! キミが先日フルボッコにしたミツルギ重工に所属する調律士だッ! ちなみに首都エリアにある天輪学園の中等部3年生でもある」
まずはツインテール。ほんのり赤っぽいような茶髪が両サイドでひらひらと。
そしてメガネ。フレームが無く半分がうっすらとサングラスっぽい感じになってるオシャレさんなヤツだ。
最後に白衣。これについては特別コメントすることもないだろう。若い天才キャラの定番アクセサリーだもの。いや、白衣そのものは作業着であってコスプレ用品じゃないけど。
「ゴメンね最上くん。貴方のことは目立たないよう配慮するつもりだったんだけど、少し予定に変更というか……トラブルがあってね?」
「それは向こうで頭を押さえて転がっているスタッフたちが関係してるんですかね」
「守秘義務違反をゲンコツで済ませる程度には人情溢れる職場、それが如月ラボよ」
「私は普通にキミのことを尋ねただけなんだがね。平然と答えてくれたので、まさか秘匿するような指示が出ていたとは思わなかったよ。まぁ、私にも調律士としての義理と誇りを理解するくらいの度量はあるつもりだ。そうそう言いふらすようなマネはしないから安心感したまえ。――たとえ、ホームであるミツルギ重工相手でもな」
「奏従士の俺にはわからない理屈があるんだろうが、大丈夫なのかい? それは」
「かまわんよ。キミがミツルギ重工の主力をわかりやすく、圧倒的な差をもってへし折ってくれたおかげで、停滞していた開発が再始動したからな。私のチームは礼を言うためにここまで来たのだよ」
主力、か。なるほど、あのゴリアテと名付けられたフレームと、ミサイル関連の装備がミツルギ重工の看板商品だったのだろう。
しかし、お礼を言われる流れがよくわからない。彼女、秋穂ちゃんが……いや、後ろに並ぶ大人のスタッフたちからも好意的な波を感じるのは確かだからウソではないのだろう。
自分たちが開発した兵器が負けて喜ぶ理由って――いや、開発したのが自分たちでなければ別か? たとえば、複数の開発チームが存在して、ゴリアテはライバルチームの作品の場合。
「もしかして、七星燕博士は大艦巨砲主義には否定的なのかな?」
「別に否定はしないさ。しかし、人型の利点である多様性を犠牲にしてまで求めるのモノではないだろう? それなら最初から戦車の高性能化プランでも考えたほうが手っ取り早いし、財布にも優しい」
「たしかに。そこまで火力と装甲を求めるなら脚部をタンクタイプにして積載量を増やすほうがいい。あるいは、せめて四脚くらいにはしないとな」
「――ほう? フレームの脚部をタンクタイプに? それに四脚だと?」
「そう。ほら、タンクなら射撃安定性も高まるだろうから、反動の大きくなるような武装でも使いやすいだろう? 四脚なら……そうだな、普段は歩行しつつ、速度が欲しいときは足を畳んでホバー異動、大型火器を使うときは……あー、うん。アンカーでも地面に突き刺すとか」
「ほう、ほう! なかなか面白いアイディアじゃないかッ!」
「面白い、かなぁ。――あぁ、もしかして、ミツルギ重工では二脚タイプのフレームしか無いのかい?」
「恥ずかしながら、人が操るなら人型が最高率だろうと思い込んでいたよ。……そうだ、そうだな! 私も自分で口にしたじゃないかッ! 火力が欲しければ戦車でいいのだとッ! ――キミッ! 最上天山だったなッ! ありがとう、また感謝するべき事柄が増えてしまったなッ!」
「秋穂ちゃ――主任ッ! はやく開発室に戻りましょうッ!」
「すぐに戻って図面描いて式陣を構築しなければッ!」
「いや、このさい居残り組に連絡入れてだなッ!」
「……えーと」
「おぉ、スマンな最上天山。突然押し掛けて私たちだけ盛り上がって。だがまぁ大目に見てくれると助かる。なにせ、皆の頭の中には新しい開発プランが次々と花咲いているだろうからな。――もちろん私もなッ!! さぁ帰るぞ、いま帰るぞ、すぐ帰るぞッ!」
「「了解ッ!!」」
◇◇◇
「賑やかな……人たち、でしたね……?」
「いつもあんな風に騒がしいのよね。……でも、良い人たちよ。私たちに対してもそうだけど、秋穂ちゃんの率いる開発チームの人たちは、他の企業をこきおろすようなコトはしないから」
「あの子が率いるチームは、ですか。なんというか……やっぱり、大企業ともなると、身内同士でも競争が絶えないんですかね」
「あの子は最上くんが戦ったような、人型固定砲台については呆れているタイプ。けど、開発に関わらないような上の人たちは爆発がハデならそれだけで大喜びするような人たち。ま、鬱憤もたまってただろうし、昨日のバトルは大いに楽しんでもらえたかもしれないわねぇ~」
如月ラボは良くも悪くも全体の意志の統一が成されているから、フレーム開発してる企業とはそういうモノなんだろうと思い込んでいたらしい。
ゲーム会社だって同じメーカーからRPGなりリズムゲーなりアイドルをプロデュースする作品なりが販売されてるんだ。企業内に派閥が存在しても不思議ではない。
となると、ミツルギ重工はガチガチの大艦巨砲主義であり、Dr.七星燕嬢はどちらかといえば否定派になるのだろうか。棒立ち垂れ流し状態の味方が敗北して喜ぶとは、つまりそういうことだろう。
「それにしても、四脚ねぇ。……ね~え最上くん。四脚タイプのフレームっていうの、外観だけでもいいから描けるかしら?」
「? えぇ、別にそれくらいなら。ちょっと紙と鉛筆借りますね~」
イメージするのは前世で大好きだったアセンブル自由度最高のロボットアクションゲーム。
ミッションや一対一のバトル、あるいはチームメイトの得意とする戦法にあわせて色んな機体を組み上げたものだ。
つまり、頭の中に思い描くイメージにはまったく困らない。そしてイメージに困らないということは、感応の加護を使って鉛筆に描きたい映像を送り込めば――。
「……こんな感じ、ですかね。個人的な意見としては、如月ラボで運用するなら狙撃手としてサポートしてもらいたいかもしれません」
「なるほど……如月ラボの得意分野である機動力、ソレを活かして狙撃ポイントの選択肢を複数確保できるようにするわけだね。接敵しない前提なら装甲も盛る必要はないし、ウチの方針とそれほど喧嘩にならないだろう」
「さすがは所長、俺みたいな素人が説明するまでもなく――って、所長、いつのまに?」
「割りと前から。秋穂嬢とは知己ではあるけれど、それでも他所のスタッフと最上くんとで揉め事が起きたら、所長である私が出張らないワケにはいかないだろう? 結果的には余計な心配だったようだけどね」
「申し訳ありません所長。何人かのド阿呆どもが守秘義務違反をしてしまいまして。一応シメてはおきましたが」
「義務を蔑ろにするのはよくないが、まぁ、念願のテストパイロットだからね。少しくらいは浮かれてしまうのも理解できるし、他の企業に自慢したくなる気持ちもわかるよ。うん……で、四脚タイプのフレームか。これは面白いモノが作れそうだねぇ……?」
あ。
スタッフの皆さんの目つきが変わってしまった。もしかしなくても、これがいわゆる転生者の定番ミス“俺、なんかやっちゃいました?”というヤツだろうか?
いや、だって、脚部を強化とか真っ先に考えるところじゃないですか。下半身が頑丈ならたくさん武器積めるじゃん。時代が火力主義ならなおさらじゃん。
……いや、そうか。普通のロボット物と違うからか。コックピットに乗り込むんじゃなくて、直接パイロットが身にまとうんだもんな。そら人型から離れるって発想は難しいか。
「でも正直、俺は普通の二脚タイプが一番好きなんだよね」
『だとしても、間違いなくアンタがテストパイロットに選ばれるわよ。ミツルギ重工からわざわざ依頼がくるとは思えないけど、如月ラボにはアンタしか専門の奏従士はいないんだから』
「だよね。歩行とは全然勝手が違うだろうからなぁ。ちょっと前に進むだけでも苦労しそうだ」
『イメージならブースト移動と大して変わらないでしょ。心配しなくても、ちゃんとアタシがサポートしてあげるからガンバりなさい』
ちなみに、というか案の定?
如月ラボにも二脚タイプしかなかったヨー。完璧にやらかし案件でしたネ!




