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M07.相棒はAI系女子

ちょっと文章スタイルを変更。

 約束は、守るためにある。


 フレームの、というより俺の性能テストが終わり、軽く食事を済ませてから参式霞を丁寧に磨いている真っ最中。

 もちろん俺には整備に関する専門知識は皆無なので、装甲の表面を布で磨いてやるだけの簡単なメンテナンスだ。

 それでも霞はまんざらでもないようで、フレームからは心地よい感情の波が伝わってくる。

 本人が喜んでくれているならそれが一番だ。人ではないけど。


 ひとりコツコツ無心に磨く――と思わせて。パッと見はひとりに見えるかもしれないが、実は作業を手伝ってくれている優秀なアシスタントがいる。



『そこ。見えにくいかもしれないけど、隙間のところにもゴミが残ってるわよ。線にそって磨いておきなさい』



 自分の右腕の手首らへんから聞こえてくる少女の声。別に俺の頭がナニカサレタとかそういうのではない。


 この声の正体は、奏従士がフレームを操作するのをサポートするOSに組み込まれた人工知能とか疑似人格……みたいな感じになるのかな?

 ヤークト・フントを拝借したときにも魔方陣みたいな模様が腕にできたけど、アレと似たようなものを如月ラボの調律士の人に“正式な手順”で描いてもらったのだ。


 ちなみにコチラの魔方陣、フレームの収納もできる優れもの。あらかじめインストールしておけば自由に呼び出すこともできるのだ! ……インストールしておけばね。さすがにそこまで優遇はされてない。

 まぁ、その辺りはトラブルとかもたまに起きているらしいから仕方ない。テストパイロットがそのまま盗んでいったり、あるいは最初からほかの企業のスパイだったりとか。



「フレームの所有か。憧れる気もするけど、正直なところ、こうしてテストパイロットとして使ってもらえるだけでもありがたいよなぁ」


『アタシのライブラリに登録されたアンタの情報、性別以外ほとんど不明ばっかだもんねぇ~。フツーはそんなアヤシイの雇わないわよ』


「だよなぁ。如月ラボの人たちって結構アレか? 冒険心がスゴいのかな。面白そうならそれでいいや、みたいな」


『あぁ~、まぁ、なんというか……アタシの立ち上げのときに応答形式で初期設定したんだけど……その、優秀な調律士は多いと思うわよ?』



 褒めてるんだろうけど、質問に対するフォローじゃないんだよなぁ、それ。能力と人間性は別物って、それ一番言われてるから。

 でも、そういうところを含めて異世界なんだなって気もする。俺の知る日本よりもはるかに物騒なだけあって、あるいは“今”という瞬間に全力なだけなのかも。

 楽しいってのは、なによりも大事なことさ! みたいな。……一歩間違えばアウトローだな。



『そういえば、アンタ前にドイツ製のフレーム乗ってたらしいわね? そんときのOSはどうしたのよ。アタシが言うのもなんだけど、使いなれたOSじゃなくて大丈夫なワケ?』


「前のは……まぁ、ちょっとトラブルもあったからさ」


『ふ~ん? OSでトラブルねぇ。ま、海外製品じゃあメンテも気軽にできないもんねぇ~。やっぱ日本で使うなら国産よね、国産!』



 どこの国でも国産はそりゃメンテ楽でしょうよ。国産なんだから。


 ちなみにヤークト・フント関係を全部まとめて如月ラボにお願いしたときに、OSについても聞かれたりはした。

 思い入れがあるなら、続けて使えるようにしようかと提案されたんだけど……別にいらないと即答してしまったんだよね。

 だって本当にこだわりないし。たまたまそこにあったから使ったってだけで。


 しかし、即答したのは失敗だった。拒否したときに調律士の人から少し悲しそうな気配を感じたからな。

 他社製品とはいえ同じエーテル・フレーム関係の話だし、同業者の仕事について否定的な反応は面白くなかっただろう。

 念のため、あまり良い思い出がなくてと誤魔化しておいたけど……苦笑いされてしまった。

 なんかホント、すんません。



 ◇◇◇



 霞を磨き終わり、ちょいとコーヒーブレイク。


 そして――そしてぇッ! 次のお仕事はッ! なんとなんとの対人戦闘ですよッ! ヒュー、テンション上がっちゃうんだぜぇ~?


 シミュレーターを使っての対戦なので命の危険は無いから、こうして素直に楽しみにできるのだ。

 もちろん楽しみなだけでなく緊張もしてる。如月ラボの奏従士として、ほかの企業の奏従士と戦うのだから。

 あくまでデータ収集がメインと念を押されはしたものの、お世話になっている如月ラボの評判を落とすような無様を見せるワケにはいかないだろう。



「ホラホラ、あんまり難しい顔しないの。そんなに心配しなくても大丈夫よ。むしろ、勝利にこだわって動きが小ぢんまりとしちゃうほうが困るわよ。それに……こう言うの、ちょっとアレなんだけど、今回使ってもらうフレーム“肆式・楓”も旧式の機体だからねぇ~」



 引き続きオペレーターとしてサポートしてくれる速見さんが言うには、同世代のフレームが対戦に出てくることはまずないだろうとのこと。


 世代が違えば基礎性能も当然変わってくる。一葉ちゃんの愛機である紅結のようなカスタム機ならばまだしも、今回の楓はベーシックそのまま。

 なので、負けたところで企業の評判が落ちるようなことは起こらないだろう、というのがラボ側の意見。らしいんだけど……ホントかなぁ~?



「もちろん勝ってくれるなら嬉しいわよ。旧いと言われようが楓だって愛情そのほかモロモロ注いで作り上げた大事なフレームだもの。でもね? それはやっぱり私情だもの。せっかくテストパイロットいるんだし、まずはデータ最優先でしょ! ……でも、勝てそうなら倒してしまっても構わないわよ」



 やっぱ勝ちたいんすねー。



 ◇◇◇



 肆式・楓(よんしき かえで)


 緑色より翡翠色と言いたくなるような綺麗なカラーの万能型。ちなみに午前中に使わせてもらった霞は攻撃力重視。


 武器はノーマルライフルとアサルトライフルの二丁拳銃スタイル。拳銃じゃなくて突撃銃だけどね。そしてサブウェポンは両手ともマシンピストル。火力は控え目になるかな?

 背部は右側にレーダー、左側に無誘導ロケット。これも火力よりも爆風で相手のバランスを崩すのがメイン。

 肩部には短槍射出装置。取り付けた箱がパカッと開いたら中からニードルがシュシュッと発射されて近づいてきた相手にプスプスッと刺さる感じ。武器というより防衛システムだな。


 装備の確認を終えたら、フレームを展開したまま小部屋にスタンバイ。そのまま全身のアチコチにコードを繋がれて……なんてことはなく。

 ここでまさかの魔方陣ですよ。ロボゲー世界と思わせておいてからのファンタジー要素マシマシですよ。いや、そういう世界だってのは最初から知ってたけど。



「とりあえずランダムマッチで回線を開いて……と。さて、さっきも説明しておいたけどもう一度ね。今回は奏従士のランクに関係しない、かつ一般公開されないアリーナでのバトルよ。とりあえず最上くんに関係ありそうなのは……そうね、今回のルールでは私はナビゲートできないから、OSを最大限活用してね!」



 ◇◇◇



 《メインシステム、アリーナモードを起動。武装はしっかり実体化してるわね? 視界が開けてから5秒でバトル開始よ!》


「了解。ちゃんとリクエスト通り、なるべくハデに踊ってみせるさ」


 《よろしい。――状況開始ッ! エリア確認、シングルアリーナ。見ての通り障害物はゼロの真向勝負ステージだわ》


「たしかに見通しは良好だな。そしてあのゴツゴツした四角いのが相手か」


 《メインフレーム、ミツルギ重工製のゴリアテMkⅤ。見たままの重装備でノロマだけど、それだけに当たったら痛いじゃ済まないからね!》


「だな。――さぁて、いっちょヤりますかッ!」



 開幕、スライド移動。さすがにバカ正直に正面に突っ込むことはしない。それではいい的にされてしまうし、なによりそういう勝負を楓は望んでいない。

 クロスレンジは趣味じゃなく、そもそも格闘戦はどうにも苦手意識があるらしい。なので可能な限り射撃メインで戦ってほしいとのこと。汎用機として作られたのに?

 まぁリクエストには応えていくのだけれど。借り物のフレームやOSを下手に感応の加護でいじくり回すワケにはいかない以上、俺のアドバンテージはフレームとの意志疎通だけだし。


 と、いうことで。


 ライフルの射程は充分なので、アサルトライフルの距離に合わせるように前に出てみる――より早く、向こうが仕掛けてきたか。

 山なりのミサイル、それもかなりの弾幕。扇状にパァーッと広がって、そこから一斉に俺に向かってとんでくる。


 まぁ……この程度なら楽勝で避けられるな。


 なんのことはない。山なりに飛んでくるなら、その下をくぐり抜ければそれで終わり。

 魔力というファンタジー要素で放たれたミサイルだろうとも、直角に曲がれないなら問題ない。もしそういうタイプを使ってくるようなら? 撃ち落とす必要があるからけっこうピンチかも。



 《敵フレーム武装情報更新――威力はともかく燃費は悪そうね。息切れを狙うのも手だけど、サブタンクくらいは積んでるでしょうし、そもそも……まさかミサイル頼みってことはないでしょ》


「あー、いや、どうかなぁ……」



 前世のロボゲーでは“ミサイラー”とか呼ばれる一流パイロット(変態)たちがいたからなぁ。相手がその類いの奏従士ならミサイルオンリーのアセンブルとか普通にあり得る。



 《いや、さすがにそんなフザケたプリセットなんて普通しない――って、ハンドミサイルユニットッ!? ちょ、マジでほかの武器使わないつもりッ!?》


「チッ、スピードのあるミサイル出してきたか。ま、楓の速度と反応を超えるほどじゃないみたいだが、なッ!」



 クイックブースト一発で見てから回避余裕でした。



 《ミツルギ重工は最近ミサイルの分野で力を伸ばしてるらしいけど……まさかアリーナとはいえ、ミサイルだけって……》


「当たれば強いからな、ミサイルは。当たれば」



 つまり、当たらなければどうということはない。


 しかし、この感じ。楓の機動性が優秀なのは確定的に明らかなんだけど、それとは別に相手のミサイルの使い方が雑過ぎる。

 とにかくばら蒔いてるだけ、という印象だ。タイミングとか、背部と腕部のコンビネーションとか、そういうのは一切感じない。そんなんじゃ甘いよ?

 いくら重装備タイプのフレームとはいえ、このままだと普通に霊気切れで勝負終わる可能性も……ハッ!? もしかしてッ!!



 さてはこやつめ――ミサイル初心者だな?

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