食人鬼の青春
毎日投稿第12弾です。
よろしくお願いします
中学二年の秋。
高橋は人を食べてみたくなった。
とくにクラスメイトの愛美ちゃんを食べてみたかった。
あの健康的な白い肌、サラッとした黒髪、済んだ瞳。
いったいなにを食べたらあんな風に美しく育つのだろうか。
本当に人間なのか疑わしいほどだった。
そんな彼女がいったいどんな味がするのか気になった。
どうしたら食べることができるか考えてみた。
しかし考えつく方法はどれも恐ろしいものばかりで気が進まなかった。
彼女はきっと、食べられたくはないだろう。
高橋は彼女を食べたいが、彼女を悲しませたくはなかった。
どうしたらよいのだろう。
高橋は土下座することにした。
「ぼくに食べられてください!」
愛美ちゃんは困惑していた。
当然だ。
ほとんど話したこともないようなクラスメイトから放課後いきなり呼び出されて「食べさせてほしい」と頼まれたのだ。困惑しない方がおかしい。
「た、高橋くん? え…… 何? 食べるって……」
愛美ちゃんは困惑していた。
「ごめん、急にこんなこと言われてもビックリするよね」
「ビックリっていうか……意味がわかんない」
愛美ちゃんはほんとに困惑していた。
高橋は、なるべく懇切丁寧に説明した。
「食べるっていっても別にイヤラシイ意味とかじゃなくて、普通に口で噛んで胃の中に入れたいってことだよ」
愛美ちゃんはますます困惑したようだった。
「私を食材として食べてみたいってこと……ほんとに?」
ぼくの真剣な眼差しを見て、愛美ちゃんはどうやら事態を察したようだった。
「不快に感じたんだったら謝るよ。ほんとにごめん」
「不快っていうか……そんなこと初めて言われたから、どう反応したらいいか……。いやでも、なんで、私を食べたいと思ったの?」
「それは……愛美ちゃんがこの学校で一番美味しそうだったから」
高橋は言った後、自分がものすごい変態になった気分がした。
「こ、こんなこと誰にでも言うわけじゃないよ。それに別に誰でもいいってわけじゃない。愛美ちゃんだから食べたいんだ」
言えば言うほど変態的だった。高橋は悲しい気持ちになった。
「もちろん全身食べさせてほしいなんてことは言わない。ちょっとだけでいいんだ。どこか一部分だけ、食べさせてもらえないかな?」
愛美ちゃんはますます困惑した表情を見せる。
おそらくこの後、愛美ちゃんにビンタされて警察に通報されることであろう。
短い人生だった。
しかし、やはり最後にどうしても愛美ちゃんが食べたい。
どうせ逮捕されるのであればと、高橋は勇気を振り絞って頼んでみた。
「足の指とかはどう? 一本くらいなくても日常生活で困らないと思うんだけど」
「いやよ」
愛美ちゃんが言った。
「私になんの得もないもの。痛いだろうし、気持ち悪いし。そんなのっておかしいわ」
当然の答えだった。
しかし、当然の答えだったため高橋は答えを用意していた。
「5万円! 5万円でどう?」
最低の手段だった。
人間の足の薬指の相場がわからなかったが、このとき高橋が出すことができる最高額だった。
「鎮痛剤も、化膿止めも消毒液も包帯も全部用意してある。君は、目をつぶっているだけでいい。すぐに終わるはずだよ」
愛美ちゃんは高橋の準備の周到さに驚いているようだった。
「薬指だけ! 薬指だけでいいから! お願い!」
高橋は必死だった。
もう一度、深々と地面に頭をこすりつける。
渾身の土下座だった。
「……………うーん……」
愛美ちゃんが困った顔をする。
その表情も愛らしく、高橋はますます食欲をそそられた。
「いや、やっぱりダメ。やっぱりそんなのおかしいもの」
愛美ちゃんが言った。
「あなたが私を食べるなんておかしいわ。だって、私があなたを食べる方だもの」
そう言って愛美ちゃんは、人間ではあり得ないほど大きく口を開いて高橋を食べた。
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