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空に描いた虹の向こうに。  作者: 相沢 毬藻*
第一章:失ったものはどこへ消えたのか。
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昏い樹海にて

 ざわざわという不気味な音、枝を踏み折る音、何かの甲高い鳴き声、冷たく湿った風。

 日は高く登ってるはずなのに、日光は木々によって遮られており、暗い。

 そのせいか、足元には苔こそ生えているが、草花はほとんど生えていない。


「……ごめん、おぶってもらっちゃって……」


「気にすんな。これくらい平気だよ」


 僕は今、エリアスにおんぶして貰っている。

 自己紹介をしあい、彼の手を握って立ち上がろうとした僕はーー


 歩くことはおろか、上手く両足で立つことすら出来なかったのである。


 転生すれば立って歩けるようになるんじゃなかったのか。

 あれは、嘘だったのか。


 一瞬そう思ったのだが、僕はある変化に気がついた。


 立つことは出来なかったが、足を動かすことが出来たのだ。


 あちらの世界では、脚を動かすという感覚そのものがなかった。でも、こちらでは動かす感覚がある。

 ということは……リハビリをすれば、また歩けるようになる、という事だ。


 そんな僕を不思議そうに見つめていたエリアスだったが、少し苦笑いすると黙って僕をおぶって歩いてくれた。

 彼は道中、色々なことを教えてくれた。王国のことやおとぎ話、魔法や精霊、果ては魔獣や魔物についてなど、時に面白く、分かりやすく話してくれた。

 彼は一見適当そうだったり、自信過剰なナルシストっぽい雰囲気があるけれど、本当は優しくて面倒見が良く、努力を惜しまない人だということが分かった。

 

 そして、今に至る。


「そういえば、ここってどこなの?」


「ああ、樹海だ」


 エリアスによると、ここはウィンドミリナ王国、という国から西へ進んだところにある樹海だそうだ。

 なんでも過去にドラゴンが住んでいた山の麓にあるらしく、討伐された今でも、危険な獣が住み着いていて、大人でも一人で来るのは危険らしい。


 ……ディオ……あなたは何で僕をこんな危険なところに送ったんだ……気を失っている間に死んだらどうするんだよ……


 あの似非神様のことだ、適当に送ったのかもしれない。


 次会った時に問い詰めてやろう、そう心に誓った。


「それにしても、暗いね」


 周りの木々は確かに巨大だ。でも、明らかに光が届かないだけではなく、この空間自体が暗くなっている気がする。


「……ちょっと不味いのがいるかもしれない」


「えっ……?」


 小さく呟いた声は距離が近いこともあり、ハッキリと聞き取れてしまった。

 その表情は見えないが、何か危険なものが近くにいるような、そんな焦燥感のある声だった。


「大丈夫だ。もう少しで樹海の中にある安全な村だ……大丈夫」


 それは僕を安心させるために言っているというより、自分自身を勇気づけているような……


 今僕にできることはなんだ?

 どうすれば彼を安心させてあげられる?


「……そう言えば、なんでエリアスは樹海に来たの?それも一人で」


 結局、僕にできるのは話題の提供くらいだった。しかも、単純に僕の疑問。


 僕は、どうしようもなく無力だ。


「え? ああ……俺は探し物をしに来たんだよ」


「探し物……?」


「俺は……精霊を探しに来たんだ」


 帰ってきたのは信じ難い言葉。

 精霊なんて言うものが……この世界には存在するのか。


「なんで……」


 もっと詳しく聞きたい、そう思って話しかけた瞬間。


 ドン、と突き飛ばされる。

 ふわっと一瞬の浮遊感の後、地面と衝突する。


「ぐっ……」


 痛みでくぐもった声が漏れる。


 エリアス、何で僕を急に突き飛ばしたりなんか……


 痛みを堪えて、視線をあげる。


「ーーえっ?」


 舞い散る紅の花弁。

 暗いせいでよく見えづらいが、あれがエリアスの血液であることは何故かハッキリとわかった。


 胸部を深く切り裂かれたエリアスは、背後の気に叩きつけられ、倒れる。


 そこに立っていたのは、黒く大きな影……そう、クマのような獣だ。


「な……」


 圧倒的な存在感、そして威圧。

 体の震えは止まらず、ダラダラと冷たい汗が流れる。

 声を出すことすらままならず、逃げることも出来ない。


「かはっ……に……げ」


 か細いエリアスの声が聞こえる。


 しかし、僕はまだ歩くことさえままならないのだ。

 体が動いたとしても、逃げられない。


「グゴルルルル……」


 赤く光るクマの瞳が、次はお前だと告げている。


 僕は……どうしたら……


 頭をはたらかせて、解決策を考えるも、何も思い浮かばない。


 音もなく現れたそいつは、その巨体ではありえないほど小さな足音で近づいてくる。


 ……僕はそれを、ただ待つことしか出来ないのか。

 エリアスも助けて、クマを倒して、生き延びることは……出来ない。


 僕は……なんで無力なんだ。


 心の底から感じる無力感と共に、僕は目を閉じ、死の恐怖に怯えている。


 すぐ側までやってきた。

 クマの息遣いがハッキリと聞き取れる。

 空気の動きで、腕を振り上げたことがわかった。

 僕を、切り裂くために。

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