僕と同じ少年
鳥っぽいような豚っぽいような、そんな食感の肉はお世辞にも美味しいとは言えなかった。当然といえば当然だ。調味料などこんな所には無いのだから。
「お前、気がついたらここに居たって言ってたよな?」
食べ終わった彼は僕に話しかけて来る。
口に頬張ったままの僕はこくんとうなづく事で返事をする。
肉が硬い訳では無いのだが、どうもかみ切りにくく、彼のようにすぐに食べる事が出来ないのだ。
「目を覚ます前の記憶はどうだ?何かあるか?」
僕は首を振った。
勿論嘘だ。でも、そこを探られると転生者である事が露見する可能性がある。だったら無いことにした方が安全だ。
「……なるほど、お前は『神子』だな?」
「……」
ざわざわと木の葉が風に吹かれて擦れ合う音が響く。
「無言ってことは肯定と捉えていいんだな?」
どうして……
「どうしてわかったの……?」
思わず、尋ねてしまう。
彼に対して、僕が神子であることがわかるような発言をしていないはずだ。
何で分かったのか、単純な好奇心。
彼はその琥珀色をキラリと輝かせ、ニヤッと笑って話す。
「まず気になったのはお前のその服装だ。こんな森の奥深くにいるというのに、泥1つついていない。明らかに不自然だ」
僕の服を指さす。
白いワイシャツに黒いスキニー。
この世界に来る直前の服装を、僕の体に合わせて縮められているようで、違和感はない。森の中に居るのに全く汚れていないことを除けば。
「2つ目、お前はその年でこの森にたった1人でいた。かなり危険な獣もいるこの森に、大人が一人で行かせるわけがないし、そもそも行かせない」
「君だってそんなに歳は変わらないだろ?」
「俺は強いからいいんだよ」
何言ってんだお前、とでも言いたげなジト目でこちらを見る。
「えっと……そうですか」
見ているのが辛くなり目をそらす。
そういうお年頃なんだろう。
「……なんかムカつくけど、次行くぞ。3つ目に、お前を見つけた状況が『神子』の伝承とそっくりだったんだよ」
神子とは、文字通り神様の子供という意味だ。
伝承の内容はこうだ。
ある日夫婦は、道端に身綺麗なこどもがたおれているのを見つけた。その子供は記憶がなく、ただ神様の子供だと名乗った。その夫婦はその子供を自分達の子供として育てることにした。すると、突然たくさんの幸運が舞い込むようになり、その夫婦と子供は幸せな生活を送った。
「よって、俺はお前が神子だと考えて鎌をかけてみたんだか……どうやら当たってたみたいだな」
……ということは、まんまと乗せられてしまったわけか。
まぁ神子である事がバレても、転生者であることがバレなければいいのだが。
「お前顔に出やすいな、考えてること」
子供の体になった影響で、感情の制御が効いていないのかもしれない。
「それで、僕が神子であることがわかったわけだけど、どうするの?」
正直、僕にとってバレたことよりもこの先のことが大事だ。
僕はこの世界のことが全くわからない。出来れば、誰かと一緒に行動したい。
「そうだな……とりあえず、近くの村まで行ってゆっくり考えるか。ここじゃ長話は危険だからな」
彼は座っていた石から立ち上がると、こちらに手を差し伸べ
「俺の名前はエリアス、お前は?」
僕はその手を掴み、答える。
「僕は……アオイ」
そうして、僕の異世界での生活は、エリアスとの出会いから始まった。