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空に描いた虹の向こうに。  作者: 相沢 毬藻*
第一章:失ったものはどこへ消えたのか。
6/9

1歩先に見えるもの

2度目の大規模な改稿です。

ストーリー展開、設定に若干の変更が入るので、現在公開している部分を消して、投稿したいと思います。


 パチパチ……


 何かの弾けるような……そう、まるであの小屋の暖炉で薪が燃えるような、そんな音が聞こえてくる。


 目を開く。


 真っ先に視界に入ってきたのは、夜空に輝く満天の星空だ。一つ一つがキラリと瞬く。まるで呼吸をしているかのように。


「おっ、起きたか」


 声変わりの途中のような、少し枯れた声が聞こえる。

 声の主を探して、無意識に視線を移動させた。


 流れるような長い髪。

 焚き火の明かりに照らされた顔は、大体12,3歳かそこらだろう。


「──っ」


 声が、出ない。

 長い間眠った後のような、そんな気だるさと、乾き切った喉が僕の声を潰してしまっているみたいだ。


「ほい。水だ」


 そう言って、皮の袋を差し出してくる。

 ……なんだろう、これ。

 丸く膨らんでいて、袋の先っぽに蓋のような物がついている。

 ひょっとして、水筒……?


 かけられていた毛布をどけて起き上がる。

 恐る恐る受け取り、蓋と思わしいものを外してみると、飲み口が現れる。袋の底を持ちあげると、予想以上に冷たい液体が、乾き切った喉を潤していく。


「……あ、ありがとうございます」


「おう」


 ……あれ?

 僕の声って……こんなに高かったっけ?

 無意識に喉元に手を伸ばす。

 ーー喉仏が、出ていない。


 慌てて自分の体を見下ろす。

 そこにあったのは、鉛筆のように細い腕に小さな足。

 僕の体は……間違いなく子供のものになっていた。


 周りを見渡してみると、焚き火の明かりの影と夜の闇に沈んだ森にいることが分かる。


 夢……にしてはあまりにリアルだ。先程飲んだ水の味、毛布から出た時の少し冷たい空気感、焚き火から伝わってくる温かさ。

 これらの感覚が夢だとは思えない。

 つまり……僕は、間違いなく「転生」している、ということだ。


「で、君はこんな所でなにしてんの?」


 僕にそう尋ねる男の子。

 

「……わかりません……気がついたらここにいて……」


 嘘は言っていない。転生したことを伏せたのは、面倒事を減らすためだ。

 少なくとも向こうでは、転生なんて言うのはただの幻想、物語上の話だった。

 この世界のことが全くわかっていない以上、迂闊に転生した、なんてこと言えない。


「……身なりはかなり清潔だ。森の中を歩いてきたようには思えない……」


 ぶつぶつと呟きながら、前髪を触って俯く男の子。


 ん?

 僕は何で彼の言っていることが分かるんだ?それに、僕は何でこの言語で不自由なく会話出来るんだ?


 全く違和感がなかったせいで、気づくのに遅れてしまったが、僕と彼の会話で用いられた言語は日本語じゃない。

 それなのに僕は、聞いたことを理解し、返答することが出来た。


 ディオのおかげ……だろうか。

 だとしたら、お礼を言っておかないとな。

 言葉に不自由しないというのはかなり楽だ。


 森はとても静かで、薪の弾ける音と男の子の呟く声以外何も聞こえない。


 何だかとても眠くなってきた……

 彼は今は話しかけない方が良さそうだし、眠ってしまおう……

 そして僕は、無限に広がる漆黒の海へと、意識を手放した。


 〇


 鳥のさえずり、吹き抜ける風、擦れあって音を鳴らす木の葉。

 ゆっくりと目を開けると、森の中にポッカリと空いた蒼い空が見えた。

 遠く青く澄んだ空。

 あの世界では、空が青いなんて言うのは幻想だと思っていた。

 心が洗われるような空、というのはこんな空のことを言うんだろう。


「おはよう」


 昨日と比べてかなり小さくなった焚き火のそばに、長いアッシュブラウンの髪……あちらの世界での僕と同じ色の髪を後ろでまとめた男の子が座っていた。


「……まさか、眠っていないの?」


「当たり前だろ。俺だけならともかく、お前がいるんだ。寝ずの番をしないと食われちまうよ」


 そうか……ここは森の中。野生の肉食獣がいるんだ。火を絶やすこと、それは獣たちに食ってくれというようなものなんだ。

 何かの物語で読んだ気がするが、実際にそんなことをしているんだ、この世界では。


「……ごめん、普通は交代でするものだったよね」


「良いって、気にすんな。1日2日くらい寝なくたって平気だよ」


 そう言って彼は焼いていた何かの肉の刺さった串を渡してくる。


「聞きたいことはお互いに色々あるだろうが……今は腹ごしらえをしようぜ」


 ニヤッと笑って言う。

 けれど、その琥珀色の双眸は、こちらの心の奥深くまで見透かしてくるような、肌寒い視線を放っていた。

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