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夢千夜  作者: コトヤトコ
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第二夜

こんな夢を見た。

夢の中で私は、熱気だった。私は彼が好きで、愛しくて、そばにいると嬉しくて。だから、彼の首筋に顔をうずめて頬ずりをしてみたり、彼の服の隙間から手を入れて、おへその窪みを撫でてみたりしていた。

けれども彼は、私を愛してはくれなかった。いつも気怠そうに髪をかきあげ、舌打ちをして、ばさばさっと不愉快そうにティシャツを膨らませる。

それでも私が諦めずに彼に身体をもたせかけると、彼はいよいよ怖い顔になって、小さな箱の上に付いている突起に触れた。

途端に壁の上の方に取り付けられていた四角い大きな箱から、彼女が飛び出してくる。

冷気という名の彼女は、私を忌々しげに突き飛ばすと、左手で彼の頭を優しくなで、右手で彼の背を抱き締める。それどころか長い髪をふわふわと揺らして、彼の腰や足首なども、ぐんぐんとからめていく。

やめて、と、私は彼女に言う。彼が苦しそうだわ、と。

けれども彼女は肩をすくめて、そして私に見せつけるように彼の耳元にふうっと息を吹きかける。

やめて、と、もう一度言おうと口を開いた私はしかし、次の瞬間に口を閉じてしまう。

「あぁ」と彼が呟く。「極楽だな」と。

勝ち誇った顔で笑う彼女を、私はただ突き飛ばされた格好のまま、見つめることしかできない。

早く外に冬将軍が来ないかしら、と私は思う。そうなったらあの箱から今度は私が飛び出て、彼を優しく包むのに、と。

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