清水の大乱
息抜き用。多分続かないです。
「私、あなたの事結構好きだったよ」
土曜の午後に清水彼方は自室のベットの中での昼寝から目を覚ました。今月の頭に起こったあの出来事の夢だったようで寝覚めは最悪だった。彼方は重たい頭を持ち上げると二度頭を掻いた。起きたばかりのせいかまだ視界がぼやけているようだった。昨日まで行われていた中間試験がようやく終わったせいなのかつい気が緩んで寝てしまっていた。携帯電話の液晶を見ると午後三時を回っていた。このままではあっという間に一日が終わってしまう事を危惧した彼方は一階にある洗面所で顔を洗おうとのそりとベッドから立ち上がり二階の自室の部屋を出た。階段を寝起きの体でゆっくり下りていると家の玄関からインターホンの音が聞こえてきた。玄関のインターホンにはカメラ機能が付いており誰が来たのかは家の中から確認出来るのだが彼方は特に気にせず玄関のドアを開けた。
「んあ、はい・・・」
彼方の目の前には右目に黒い眼帯をした短い黒髪の中学生ぐらいの見た目の少女が立っていた。学校の制服を着ているようだが彼方の記憶には覚えのないものだった。分かる事はその制服がやたらその少女に似合っている事ぐらいだった。その少女は特に緊張するわけでもなく真っすぐ彼方の眼を見据えている。
「失礼だが、ここは清水宅で相違ないだろうか」
なんだこいつ・・・と彼方は思ったが特に態度に出す事無くとっとと要件を済ませて目の前の人物を追い返す事に専念した。
「あ~はいウチですけど・・・えーと、何ですか?」
「では、そなたが清水彼方か?」
少女は先ほどより食い入るように彼方に質問してきた。うっとうしい・・・口には出さない。我慢する彼方。
「・・・俺ですけど」
すると少女は嬉しそうな顔で片手でガッツポーズをとり両手で彼方の手を掴んできた。
「私はD1。清水彼方、そなたは至高の人造人間を決める戦い『審査』に私の操者として選ばれた。そなたの力が必要だ、ぜひ私に協力・・」
「・・・ええ!?またぁっ!!?またそういう感じの奴!?勘弁してくれよぉ!」
「・・・え?」
D1と名乗る少女がセリフを言いきる前に彼方は露骨に嫌な顔をしながら言葉を挟んできた。D1は今の返答は予想外だったようで目を丸くして彼方を見つめている。
「最近あんたみたいな奴がウチに来たよ!」
「ええっ、いやそんなはずは。私達が訪問先を間違えるはず・・・」
「ああ、そうだろうな!おたくはアンドロイドらしいけど前に来たのは魔王だよ!」
「ま、魔王!?・・・・・・・・・・・・ちょっとなに言っているのか分からないだが・・」
「いや、もうそこは分からなくていいよ。そいつはなんか第八界魔王統一戦とかいうわけわかんねぇ戦いに参加する魔王で俺がマスターに選ばれたから協力しろって言ってきやがって、もうほとんど無理やり巻き込まれた感じで参加させられたんだよ!・・・そして今度は・・・、何でまたウチに来るんだ!!不公平だろ!!人なら他にもいっぱいいるだろ!!この辺住宅街だよ!あんた知らないだろうけど向かいに住んでる堀川さんは家族皆めっちゃ筋肉隆々なんだぞ!そういうのはもうあっちでいいだろう!!あの家に行けよ!不公平だろ!あの家に行けよ!!」
彼方はまくしたてるように言いたい言葉を吐き出した。少し肩で息をした後、何事もなかったかの様にD1に背を向け洗面所のある方へ歩き出した。
「待て、どこへいく!?」
「トイレだよ」
「頼む、今は話を聞いてほしい。でない・・・と」
「・・・ん?なんだこの音・・・」
会話の途中にいきなり大きなジェット音の様な音が家の上空から聞こえてきた。彼方は玄関から顔を出して空を見上げると迷彩柄のタンクトップを着た筋肉隆々の見るからにアメリカンな大男が背中にサラリーマンの格好をした中年の男を背負いながらゆっくり彼方の家の前に降りてきていた。男の背中にはジェット機の羽が装着されており両翼にターボエンジンのような動力が二つずつ付いている。D1は男の姿を見て苦虫を噛み潰したような顔になった。
「・・・K9」
「ん?反応があるから来てみればD1かよ!それにおおおっとおぅ!?パートナーも一緒かよォ!!ハハァッ!!こいつは運が良い!おい喜べ!!このK9様が戦ってやるからよぉ、お前らとっととここで負けちまえよぉ!!」
K9は左手を前に突き出すとみるみる腕の形が機械の変形音と共に変わっていき巨大なガトリングガンに姿を変えた。
「・・・くっ!!」
D1は背中にいる彼方を守ろうとK9の前に躍り出てガトリングガンの射線上に立ちふさがった。K9は見下すようにD1を見ている。対立するように立つ二体のアンドロイド達。しかし彼方はその現状を冷めた目で見ていた。
「はああああああ、・・・アホらし」
彼方は溜息混じりにそう漏らすと再び家の奥に入って行った。K9は自分達の登場に対する彼方の態度が気に入らず大声で呼び止める。
「なに!?おいコラてめぇ!!待ちやがれ!!何処に行きやがる!!」
「トイレだよ」
「はぁ!?てめぇ、ふざけてんのかぁ!!?これが怖くねえのか!!」
K9の左腕のガトリングガンはとても精巧に作られており本物にしか見えない出来栄えである。しかし彼方はとくに驚くことも怯える様子もなく淡々と受け答える。
「怖くねえよ」
「なに!?」
「何故だか分かるか?すでにもうそういうやり取りをやってるからだよ!もうすっかり慣れちまってるんだよ!」
「何わけわかんねえ事言ってやがる!!」
「分かんなくていいよ。俺も可笑しなこと言ってると思うからな」
「ハッ!!!ハハハハハァッ!!気が変わった!D1!!まずはお前の操者から蜂の巣にしてやるぜ!!」
「っ!?させんぞ!!」
D1はガトリングガンの照準を合わせさせまいと激しくK9左腕にしがみついた。
「ハハァッ!D1よお、随分と必死に組み付いてくれてる所悪いんだがなぁ、俺のガトリングガンは左手だけじゃないんだぜぇ!!」
そう言うとK9今度は右手を前に突き出す。すると左腕のガトリングガンと全く同じ形状の銃に形が変わった。K9は薄ら笑いを浮かべながら右腕のガトリングガンを彼方に向けて照準を合わせる。
「っ!?しまった!逃げろ彼方!!」
「くたばれクソガキ!!」
「無駄だ」
彼方は自身の右手を目の前の宙に置くように出した。それとほぼ同時にK9はガトリングガンを無情に発射する。遠慮のない暴力的な発射音が辺りに響く。これは死んだとK9とそのパートナーは確信した。しかしその銃弾達は彼方の体に届く前にどんどん減速していき最後には地面に落ちていった。あまりの事に彼方以外全員驚愕しており目を見開いている。
「・・・・・・はあああああああああ!!!?なんだよそれぇ!!?」
「だから言ったろ」
「く、くそっ!!これは何かの間違いだ!!おい!!もっと俺に力をよこせ!!」
K9が後ろに立っているパートナーに話しかけると急に目つきが悪くなり何かを唱え始めた。
「中森殺す中森殺す中森殺す中森殺す中森殺す中森殺す・・・」
するとK9の身体に変化が起こり始めた。元々2メートルはあるであろう身体が4メートル近く大きくなった。筋肉の付き方も先ほどよりも比べものにならないくらい大きくなっていった。そして極めつけは両腕の装備がガトリングガンにロケットランチャーが追加されている。
「ハハハハハァ!!いいぞぉ!!お前の『恨み』が俺に力を与えるぅ!!!」
「これ以上好き勝手させんぞK9!!」
D1はK9の左腕にしがみついた状態で右手からロケットパンチを繰り出した。速さと重さを兼ねそろえたパンチはK9の顔面に直撃し上体をぐらつかせた。
「ぐうぅ!!・・・ふん、腐っても俺たちと同じアンドロイドだな・・・。だがなぁ、この程度でやられる俺じゃねぇんだよ!今度こそこの力でお前の操者をぐちゃぐちゃに・・・っていない!?」
K9達が気づいた時には既に彼方の姿は見えなくなっていた。
「くそっあの野郎何処に・・・」
すると家の奥の方からトイレの洗浄音と洗面所の水道が流れる音が聞こえてきた。その後再び彼方が玄関先にゆっくり姿を現した。手には中が透けて見えるプラスチック製の小さなおもちゃの水鉄砲を持っている。
「てめぇ、本当にトイレに行きやがったな!!」
「うるさい、俺の家だ。何しようが俺の勝手だろ。お前らこそ人の家の前で好き勝手しやがって・・・、俺はもう怒ったんだからね」
「ハッ!!ハハハハハハハハァ!!どうやら状況が飲み込めていないようだな!!そんなおもちゃで何をするのか知らねえがこの俺のパワーアップを前にお前はなす術なくやられるんだよ!!」
K9は笑いながら彼方に右手の銃口を向ける。それに対抗するかのように彼方はおもちゃの水鉄砲の銃口をK9に向けた。
「分かってねぇのはお前だ。お前は知らないんだ、魔王の水鉄砲の恐ろしさを」
「はぁ!?一体何言って・・」
会話の途中で彼方は水鉄砲の引き金を引いた。その瞬間とてもそのおもちゃに入りきらないはずの量の水が一つの大きな弾丸となり銃口から飛び出し現実にはありえない速度でK9の顔面に直撃し顔を吹き飛ばした。首から上が無くなったK9は少しふらついた後バランスを崩し仰向けに大きく音を立てて倒れた。
「あ、あわわわわわぁ・・・」
K9のパートナーは驚きと恐怖でその場に力が抜けたように座り込み漏らしてしまっている。彼方はその惨状を見て小さく溜息をしながら二回頭を掻いた後、ポケットに入れていた携帯電話を取り出し連絡を取り出した。
「・・・ああ、もしもし親父?なんかまた変な奴らに絡まれて・・・。うん、前とは別件みたいだ。アンドロイドがどうの言ってるし。・・・うん・・・うん、はい。じゃあお願いしますー」
電話を切ると彼方は何事もなかったかのように家の中に入り玄関のドアを閉めた。
「はあぁ、もうなんだったんだ一体・・」
「あれは私と同じ審査対象のアンドロイドだ」
彼方はびっくりして後ろを振り返るとD1がすぐ後ろに立っていた。
「いつの間に入って来ていたんだお前・・・」
「それより先程のそなたの働きはすごかったぞ!この私が見惚れるくらいにな!これならこの戦いは向かうところ敵なしだな!」
D1は腕を組んで満足そうな笑みを見せた。
「いやそんな、それ程でもぉ・・・じゃない。そうじゃない、俺はやらない」
彼方は少し嬉しそうな顔をしたが直ぐに我に返るとD1に背を向けて歩き出す。しかしD1は後ろから抱きついて逃げないようにその場に引き止める。
「そんな事言わずに話し合おうじゃないか!なにせ私達はバディになのだから!きっと分かり合えるはずぅ・・!」
「何がバディだ!そんなものになった覚えはありません!その手を離せぇ!!」