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Guardian’s Sky ―女神の空―  作者: Sky Aviation
第12章 ―数ヶ月後 A few months later―
92/93

12-6

≫PM13:28 沖縄県 那覇基地≪




 ――この日も何事もなく午後になった。那覇基地周辺はやはり快晴。4月であるにも関わらず、今日の最高気温は24度。海岸沿いにある那覇基地も、海風のおかげで多少はマシではあるが、代わりに湿気を伴った南国らしい“蒸し暑さ”というのを今年も体感することになった。

 だが、今の蒼波にとって、それはさして重要なことではない。湿気付きの熱気など、程よい温度に設定したクーラーをつけておけば済む話である。外の気温はどうでもいい。今の蒼波の関心は……。



「――編隊長だぁ……」



 今日の、スクランブルの任務である。


 ――この日、蒼波は本来スクランブルの担当には入っていなかった。元々は、午前中のセカンドピリオドと、午後からのサードピリオドに飛行訓練が組み込まれる予定で、格上の教官らとの2on2に挑むという話だった。ほとんど教官らからのお手合わせの依頼のようなもので、去年の戦争で多大な貢献を果たした第309飛行隊内のエース集団たる『4人の神鳥エイセス・カルテット』のうちの一人、“風神”こと蒼波に対する挑戦状を叩きつけたものと周りからは見做されている。彼女の活躍が、戦後、基地内で大きく話題になったことで、向上心が高い者たちが次々と訓練での手合わせを願い出てきており、挑戦状を持ったパイロットたちで行列ができているような状況だった。

 「やっぱり人気者だな、お前」とは、この状況を楽しんでいる近藤の一言であるが、蒼波本人はそれどころではない。基地上層部も、パイロットの技術向上の観点から見れば決して悪いことではないとして、事実上の黙認の姿勢に転じたこともあり、自分の訓練に費やす合間に、これを呑まねばならなくなったのだ。

 「私はアグレッサーじゃない」とボヤきながらも、次々とやってくる挑戦者を空の上でバンバンなぎ倒していくその様は、まさしく無双系ラノベに出てくるヤレヤレ系主人公のそれと遜色ない。中には、美人なパイロットに落とされたことに妙な快感を得てしまった変態も生まれ始める始末で、いよいよこの部隊も末期であることを実感し始めていたところだった。ちなみに、今のところ10戦全勝である。


 ――そんな中、今日は“防衛戦タイトルマッチ第11回戦”ということで、今のところ最大の刺客である強者教官二人との戦闘訓練が予定され、相方には切谷がつく予定だった。

 しかし、今から2日前のこと。飛行管理員から受け取ったらしいバインダーを持った近藤が、蒼波に向けてこういった。


「わり、明後日に急遽スクランブルのシフト入ったからよろしく頼む。お前編隊長な」


 ……は? 蒼波は思わず第一声でそう返してしまった。

 聞けば、本来担当で入っていたパイロットが二人とも別件で任務から外れなければならなくなり、代わりとして自分らに白羽の矢が立ったのだという。グアムで行われている日米豪合同演習コープ・ノース・グアムに第309飛行隊から人と機材が相当数飛んでいる関係上、手空きの人が中々いないのだそうだ。

 そのため、急遽訓練を取りやめてもらい、切谷と一緒にスクランブル待機のシフトに組み込まれた。渡されたバインダーに挟まれているスクランブルのスケジュール表には、確かにリーダーのところに『FRY』、ウイングマンに『SLT』と書かれており、アサインされた機体の番号も併記されている。


 しかし、蒼波はそれを見た瞬間、不安しかなかった。なんせ、



「……スクランブルの編隊長、やったことない……」



 スクランブル機の編隊長は、今回が初めてなのである――。




「――しかもなんでよりにもよってアンタなのさぁ」

「おいおい、むしろ最高の相方じゃないか。ええ?」

「もっとマシな冗談つきなさいよ。殴るわよ」

「冗談にマジになるなよ……」


 そう呆れた声を出しながら、手元にある数枚のトランプのうち、ハートのクイーンを4人の前に出す。次の番となる大洲加は、これより強い手札がなかったのか「……パス」と、肩を落として宣言した。大洲加の手札が思った以上に弱かったのに驚いた近藤は、思わずびっくりしたような声を上げた。


「えッ、うっそ、お前これより強いのねえの?」

「もうさっきのキングでつかっちゃったッスよ」

「無駄遣いしすぎなんだよ、お前は。さっきのエース2枚だしはやっぱり愚作だったんだって」

「隊長がまさかあそこでジョーカーと2のコンボを出すとは想定外だったんスよぉ……」

「切り札は最後まで取っとくもんだな。ガッハッハッハッハッ」

「ちょっと私の話聞いてるッ? 完全にスルーしてるわよねこれ? 私今すっごい不安しかないんですけど?」


 大富豪に夢中な男三人に対して抗議の声を上げる蒼波。5分待機組にさせられた蒼波と切谷だが、30分待機組は、偶然にも近藤と大洲加だった。ちょうどいいとしてトランプに興じていたのだが、蒼波はもうトランプどころではない。エレメントの編隊長など、訓練では何度もやったことがあるにせよ、実戦では一度もやったことがなかった。スクランブルの時ですら、近藤や切谷あたりが隊長であることが多かったのだ。


「まあまあ。お前も昇進して二尉になったんだから、そういう時もあるってもんだ」


 そう宥めるように近藤が言いながら、自分の手札から一枚出す。8で切ったらしく、4人の前にあるトランプの束が一旦横にどかされる。

 蒼波は今年のはじめ頃。羽浦に少し遅れる形で、飛行隊長から、お年玉代わりと言わんばかりに唐突に昇進を言い渡された。一つ上がって二等空尉になり、切谷と同階級になる。先任は切谷ではあるが、それ以降は切谷とも訓練で一緒になることが多くなり、空陸共にやる内容も同レベルになった。今回のスクランブルも、本来は先任である切谷がやってもいいところなのだが、同じ階級ならばと、飛行隊長らはあえて逆にしたのである。

 切谷は、そんな蒼波がむしろ羨ましく思ったらしく、小さな数字のトランプを出しながら羨望の声を上げる。


「いいなぁ、昇進して。俺まだ二尉からこれっぽっちも上がる気配ないんだよな」

「おかげでアンタをウイングマンにする羽目になったわよ。空の上で絶対煩くなるじゃない」

「まあまあまあまあ、たまには陽気な戦士に守られる女騎士ってのもいいじゃんか。かっけえし」

「あたしゃどこぞの金髪腹ペコ王かってのよ」

「何だったらTACネーム変えるか? そっちのほうに」

「別にいいですよ。何だかんだで馴染みましたから」


 そう投げ捨てるようにいいながら、手元から一枚のトランプを取り出して投げ捨てるように出す。ハートの2。ジョーカーはすでに出てしまったので、誰も出すことができない。


「これ、私上がり確定ね」

「え、マジッスか?」

「まずエース2枚。これ対抗ないわよね? んで、8で切って、はいクイーン2枚」

「ゲェッ」

「うっそや! また一抜けかよ!」

「お前どんどん金持ちになるな……」


 またしても大富豪になれなかった男三人組。「じゃあ先あがりま~す」と余裕たっぷりに休憩宣言しながら、テレビをつけてソファでふんぞり返って暇な時間を過ごす。男三人組はさらにムキになったらしく、せめて大貧民だけは避けねばならないと、更なる神経戦を展開し始めていた。

 テレビは、ちょうど昼のワイドショーを報じている。いつもどおり、この後の天気やら、世間での流行を紹介するやら、それに対して年老いた老人や芸人たちが一言二言適当にコメントするやら……。特に注目するような内容じゃないなぁと思っていると、


「(……あ、LINEの返信見てない)」


 朝方に投げておいたLINEのメッセージの返信を確認するのを忘れていたのを思い出し、近場に置いておいたスマホを取り出してアプリを立ち上げる。アイコンの上には1の数字がついており、送信元はやはり羽浦だ。



『飛びたくねーという本音を感じたのでとりま戦闘機飛んでくる呪いをかけておいた。安心して飛ぶがいいや』



 …………チィ、バレたか。確かに極端に不安に思っているわけではないとはいえ、こうも楽に見透かされるとは。

 しかし、もっと気の利いた言葉はなかったのか。もっといい感じの返信があってもいいでしょうと、蒼波は何ともいえない落胆のため息をつかざるを得なかった。


「(おのれ、さてはまともに心配してないなぁ……?)」


 これは帰ったら電話で説教である。仮にも自分の彼女たる私に気休めの一言すらくれんとは。とりあえず来週の休みは向こうに殴りこんでファミレス奢って貰おう。三ツ星のやつで。蒼波は即座に羽浦への刑罰を考え付くと、ネットで程よさそうな店を探し始めた。こういうときの女性の行動は早い。

 隣では、近藤が二番で抜けたらしく、切谷と大洲加の一騎打ちの様相を呈していた。二連続大貧民だけは回避したい切谷は、一枚カードを出すだけでも数分ほど熟考し始める始末で、遊びに本気になった男たちの一面がうかがえるようである。


『――はい、姫川さんありがとうございました。森野新監督を迎えた日売キャッツの今シーズンに注目ですね。それでは、報道フロアから最新の情報を――』


 スマホをポチポチしながら暇な時間を過ごしていると、テレビは最新のニュースを伝えるコーナーに変わったようである。昨今の芸能スキャンダルや、最近起きた誘拐事件の進展、内閣が出した新法案の動向など、話題として視聴者がウケそうなニュースをピックアップしてお茶の間に流していく中、一つのニュースが流れた途端、蒼波の視線がテレビのほうに動いた。


『――先ほど、昨年の『極東沿岸事変』と同等の紛争の発生を抑止するための枠組みである、『軍事組織管理条約』の署名式が、韓国の釜山で始まりました。アジア各国、およびヨーロッパ諸国とアメリカ等が参加するこの条約は、批准手続きが順調に進めば今年の末頃から効力が発生する予定で、政府は7月までに批准書を寄託――』


 テロップは、『釜山条約 署名式始まる』とデカデカとした文字を表示させている。中国軍の軍事組織管理能力の不備から発生した今回の紛争の二の舞を防ぐべく、各国の軍事組織の管理システムや現状について、定期的に国連に対して事細かに報告する条約を締結する動きが活発になっていた。特に、中国のような透明度の低い国の軍隊に関しては、その国からの報告のみならず、周辺国からの情報共有についても細かい規定がつけられることになり、国連に対する報告内容に不備がある場合は、事前通告の後、調査機関の査察を受けることも義務付けられるという、拘束力が強い内容に仕上がっている。


 スマホを動かす指を止め、人形のように固まった彼女の視線は、テレビに完全に固定された。

 最新情報を伝えた後のスタジオは、ちょうどこの釜山条約の話題を取り上げたらしく、生中継の署名式の映像を流している。大きなホテルの一室で、各国の代表者が自国の国旗をバックに目の前の文書にサインしていく中、日本の政府代表団の姿も映し出されていた。テレビはしきりに、軍隊の管理に関する画期的な内容が含まれていることを宣伝している。


「……神妙な顔だな?」


 気がつけば、すぐ隣に、ソファの後ろから近藤が顔を覗かせていた。いつの間にか真剣な顔を浮かべていた蒼波の様子を悟った近藤なりの気遣いというやつである。今スタジオで取り上げられている内容を見やり、蒼波の心境も大体察した近藤は、蒼波の右肩に手を乗せながら、緊張を解すように軽く揉み始める。


「すぐに表に出るのは彼氏さん譲りか?」

「親子みたいな言い草ですね」

「小さい頃からの付き合いならそんなもんだろう。……んで、やっぱり、いつまでも気になるもんか?」

「まあ……」


 蒼波はそれ以上の言葉を出さなかった。意識はテレビに集中している。

 仮にも、実戦を経験して無事に生還した戦闘機のパイロットである蒼波にとって、あの戦争がその後どうなったのかは、今後しばらくの重大な関心事となるだろう。戦後処理、残党たちの動き、揺れ動いた国際情勢……。その中でも、この釜山条約の話も、今彼女の中ではホットな話題だ。軍隊管理の国際的な改革の動きが叫ばれている中、「軍が暴走する」という可能性が半ば現実のものとなった極東革命軍の一連の事件。それをどう解決させるのか、それで効果が得られるのか、といった疑問を自分なりに考えようとしているところでもあったのだ。


 ……ただ、何より重要なのはそこではない。


「……足は進めてるけど、小さいんだなぁって」

「――? なんのことだ?」

「いえ、去年の戦争の時、雄ちゃんが言ってたこと思い出しまして」

「彼か? なんか言ってたのか?」

「隊長はベイルアウトした後なのでたぶん知らないと思います。……あの人が、遼ちゃんに無線で言ったんです――」



“日本人が、今まで連綿と作ってきた全てを、誰かのくだらない正義なんかのために破壊させない”


“それこそが、俺たちが自らの手で署名した、自衛隊員の“服務の宣誓”の意味だ!”



 ――それは、羽浦の神野に対する、一時的な決別を意味する言葉であると同時に、自らの自衛官としての存在意義を示した言葉でもあった。日本人に限らず、人類が数千年の時をかけて作り上げたものは何か。それを壊すということはどういうことなのか。蒼波は、このテレビの向こうで起きていることを見ながら、その意味について考えにふけってしまっていた。その内心は、署名する政府代表者らの姿を見る目線に現れている。


「人々が連綿と作っていくものって、こういうものなんでしょうね。月に降り立った時のアームストロング船長の言葉を思い出しますよ」

「『これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である』。……ってか?」

「それです。一つ一つは小さい一歩なんでしょうけど、千里の道も一歩からって言いますし、将来にとっては大きな発展になるかもしれない動きの最初の一歩は、とても小さいんだなって」

「将来に向けての布石が大きかったためしはないしな」

「ええ。でも、そう考えると……、自分らの守ってるものって、とても小さいものなのかもしれないって、思ってしまって……」


 自衛官として守るものは、ともすればとても大きなものであると錯覚しがちであるが、その実、とても小さく、考えようによってはとるにたらないような存在であるのかもしれない。テレビの向こうでやっていることが、将来的には実を結ぶとしても、今見ている分にはとても小さな動きに見えてしまう。

 もしかしたら、神野はそれをずっと見ているうちに、じれったくなってしまったのかもしれない。そう考える蒼波の顔は、どこか不安げだ。彼が不満に思っていたのは、こういうことなのだろうかと。

 しかし、近藤はここでもポジティブだった。いつものような豪快な笑顔を浮かべたと思うと、元気付けるように蒼波に言った。


「それこそが重要なんじゃないか。将来、大きく大成する何かは、最初はとても小さくちっぽけな存在、動きに過ぎなかった。何百年といき続ける大樹が、最初は小さな芽でしかなかったようなものだ。俺たちが守るのは、その芽なんだ。面白く思わないか?」

「というと?」

「我が子を見守るようなもんさ。小さな木の芽を必死こいて守っていたら、俺たちが年老いた頃には、大きな大樹に立派に育っていた。皆の憩いの存在になったその大樹は、俺が守ったんだぞってな。それに……」

「それに?」


 その続きを口にしようとする近藤の顔は、どこか、小さい子供を温かく見守る親のようだった。


「……羽浦二尉が言っていたのは、こういう小さな努力が積み重なった先の、未来なんだろう。塵も積もれば山となるって言葉通りだ。小さな努力を集めて作った大きな成果を、一時の暴力によって破壊されることを避けないといけない。それを守るのが、自分らの存在意義だってな」

「小さな努力の集大成……」

「そういうことだ。かつて、お前が彼氏にされたのと同じことだ。まだ小さかったお前を守った彼は、お前にはどう見えた?」

「どうって……」


 かつて、羽浦が蒼波を助けた時のこと。近藤も、帝国ホテルでの交流を通じて知ったことであるが、蒼波が今抱いている不安に対する答えは、まさしく蒼波自身がすでに持っているものだとも思っていた。蒼波の記憶で、ある意味一番鮮明に覚えている彼の姿。当時の彼は、まだ10歳にも満たない少年に過ぎなかったが……。


「……大きく、見えました」

「守られる者にとっては、守る者たちは常に大きく見えるものだ。それでも、彼はそんな“小さな”お前を助けた。彼にとって、守る相手が小さいかどうかなど関係ないんだ。本人にとって、それが本当に守りたい存在ならば、たとえアリ程度の大きさしかなくても躊躇しないだろう」

「なるほど……」

「小さいかどうかは気にするな。むしろ、その小さい存在がどんどん成長していくのを見守る存在になるんだ。そして、俺たちが年老いて死ぬ間際、そいつがどれだけ成長したかを見てやろう。……見下ろす存在だったそれは、もしかしたら、大きく見上げる存在になってるかもしれない。それが、この職業の醍醐味よ」


 そう自分の哲学を語る近藤は、すでに自分が守る存在の親のような心持ちでいた。その視線の先にあるテレビ画面では、署名が終わり、代表団が全員そろって記念撮影をしているところだった。

 勿論、これで万事解決というわけでは決してないであろう。しかし、それでも蒼波は静かに考えていた。今、少しでもあの戦争の再発を防ぐべく、世界の人たちが動いている。たとえ表面的なものであったとしても、この動きこそが、今まで人類が培ってきたものなのだろう。近藤が言っていたことは、即ちそういうことであり、羽浦が、自らにも問いかけるように言っていたあの言葉は、小さな一歩を守ることこそが自分らの存在意義だという意味なのだ。

 それは、脆く儚いものであろう。去年の冬、狭山湖で羽浦とかわしたあの会話にも通ずる。もしかしたら、彼もあの時、今の近藤のような親心の如き心持ちを抱いていたのだろうか。ただ、今の自分にはまだ、それを実感しきれそうにない。


「なに、そのうちわかるさ。子供持てばな」

「それ、暗に“ヤレ”って言ってます?」

「いいホテルなら紹介するぞ?」

「ご生憎様、そういうのはまだ予定してませんので」

「作るなら早めにな。産休なら即行で取らせてやるよ」

「有難いご配慮で」


 気の早い提案に、そっけなく返す蒼波だったが、ふと考えた。自分も、将来はアイツとの子供を持つことになるんだろうか。こんな自分が母親で大丈夫なのだろうか。今のうちに、もう少し母親っぽい知識でも収集したほうがいいのだろうか……。

 しかし、その思考は突然飛んできた叫声でかき消される。切谷の腹の底から出したような歓喜の声。妙に長引いていた大貧民決定戦が、ついに決着したらしい。


「長かった……ッ! 俺の二連続大貧民の汚名だけは回避できたのだ……ッ!!」

「ひいぃ……またジュース全員分ッスかぁ……?」

「あとでオレンジ買ってきて。500ミリのやつ」

「ぇぇぇえええ……」

「言うてお前、一度も大富豪どころか富豪にすらなってないし、累積だと大洲加よりジュース奢らされてるからあんまり喜べる状況じゃなくねえか?」

「ここから大逆転が始まるんですよ。逆襲の一歩は小さいもんですからね」

「あ、そう……」


 と、途端に興味がなくなったようにそっけなく返す近藤。これもまた、将来への布石という意味での小さな一歩なのかな……と、少し呆れながら、明暗の分かれた大富豪大会の結末を眺めていた。


「(まあ、大きさなんて気にするもんでもないか……)」


 そう思い直し、改めてテレビのほうを向いた。テレビはすでに、次の話題に移っている。戦後復興を目指す伊良部島と下地島の復興状況についてのレポートだ。これもまた、小さい島の話である。しかし、それでもいいのだろう。自分は、空から彼らを守るだけ。アリのように小さくとも、太陽のようにデカくとも。それこそが、自分らに与えられた使命であり、誇りなのだ。小さな存在を守ることができる能力を持てた、その“幸せ”を感じずにはいられない。



「(……守るって、思ったより深いもんね……)」



 蒼波は、ふと、外の青い空に目をやりながら、


 そこから自分たちが守る存在について、しみじみとした思いを馳せていた……





 ――待機室に電話の呼び出し音が鳴り響いたのはその時だった。



「――ッ!」


 その瞬間、先ほどまで自らの感情をぶちまけていた切谷や大洲加、それを呆れたように見ていた近藤と蒼波、それぞれが飛行管理員の座っているカウンターに顔を向ける。先ほどまで一人眠そうにしていた彼は、その呼び出し音が鳴った瞬間スイッチが入ったロボットのように瞬間的に受話器を取り上げる。

 ホットラインではない。通常回線で飛んできた情報をすばやくメモすると、受話器を置きつつ、生真面目な顔を4人に向けて言った。




「――国籍不明機アンノウン情報きました。こちらに来るそうです」




 先ほどまでの賑やかな空気は一転、張り詰めたような緊張感が漂い始めた……

次回、最終話

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