11-8
――しっかりと狙いすました機関砲パピーを目掛けて、大量の20mm機関砲弾が放たれていく。
その先にあった黒い機体は、ノズル付近から黒煙を吐きながら海面スレスレを飛んでいたところを、さらに上から機関砲を満遍なく喰らったことで、完全にトドメを刺された格好となった。そして、そのうちの数発は、コックピットのキャノピーを粉砕し、“その内部”をも破壊しつくしていた。
――中の人がどうなったかは言うまでもない。人体に20mmを受けて、原形をとどめていれば奇跡である。目も当てられない惨状を想像した蒼波は、機体を引き起こしながら、すぐ隣を通り過ぎる瞬間になっても、その機体を直視することはできなかった。
死人に口なし。彼から無線が飛んでくることはない。しかし、何だかんだ言って一生の別れである彼に一言もないというのは気が引けたのか、チラッとだけ目線を燃え盛るJ-20に向けて、
「……じゃあね、遼ちゃん」
そう一言、少し優しげな声で告げて横を通り過ぎる。後ろでは墜落に伴う水しぶきが上がり、さらに、機体の燃料に引火したのか、追加で少し大きな爆発が起きた。しかし、熱核兵器には起爆しなかったらしい。高度を上げながら機体を翻すと、右手の海面上には、水しぶきが崩れて円形の白波が立っているのが確認できた。小さな残骸が浮いてはいるが、大きなものはそのまま海の底に沈み始めたようだった。
――撃墜確認。J-20を、神野の乗った機体を、落とした。その事実を実感するように、ゆっくりと、程よく抑えた声でE-767に伝えた。
「……フェアリー。スプラッシュ1」
その一言。これだけで、次の瞬間には無線の奥からは歓声が聞こえてきた。自らが抱えていた感情を腹の底から吐き出すような、そんな全力全開の歓声は、無線主ではないにもかかわらずはっきりと、幾つも重なって届いてくる。肝心の、無線相手である羽浦は、歓声ではなく、安堵したような、深い、深いため息を口から吐き出していた。
『……終わった……』
その声からは、優しげな笑顔がにじみ出るようだった。自らの幼馴染が、最後の最後で、しっかりと役目を果たしてくれた。その喜びはひとしおである。
上空にいる味方機からもささやかではあるが歓声が飛んできた。彼らの切り札であるJ-20を2機全て撃墜したことは、全ての味方の士気を上げるには十分だった。弾薬もなくなり、機体もボロボロになった敵を完全に撃破しきるのに、さして時間はかからないであろう。後ろからは、空母や嘉手納、那覇から飛び立った後続部隊が合流しようとしている。何かあったら彼らに任せさえすれば、もう多国籍軍への脅威はなくなったも同然だ。
――しかし、蒼波にとっては、それで終わりではなかった。
『――クソッ、ミサイルを発射! 敵がアマテラスにミサイルを撃った!』
スパークの声だ。どうにか撃墜するべく追撃をかけてはいたが、中距離AAMもない彼らが、燃費度外視のハイスピードで高高度で逃げている相手を追うことなんて無茶な話だった。それまでの格闘戦で異常なまでに体力を消耗していた彼らは、マラソンを走りきったランナーのような状態だった。
しかし、あと一歩というところまで迫ってはいた。だが、それでも一歩遅く、すぐ目の前でミサイルが発射されてしまう。撃った後はもう自らは用済みだと思ったのか、そのまま緩い降下をしながら申し訳程度の回避機動を取り始め、スパークらは悔しさをにじませながらもそのJ-11Dを撃墜した。
……それでも、ミサイルは既に衛星とのデータリンクモードに入っており、あとは自動でE-767へと向かっていく。その数は2。一旦急上昇したと思ったら、今度は水平飛行に入った。E-767のレーダーの死角から、一気に急降下して撃墜する算段であった。
羽浦からは何も無線が飛んでこない。自らの最後を悟ってか、必要以上の言葉を投げかけようとしないのか、それとも、何も言うことを考えていなかったのか。はたまた、ここに来てなお自分に気を使っているのか。いずれにせよ、蒼波にとって、これほど沈痛なことはなかった。
ここまで助けられて、ここまで支えられて、最後は何もせず黙って見捨てるしかできないのか――そんな、蒼波の悲壮感漂う内心は、
「――まだ……」
――周りが考えていた以上に、すぐに消え去った。
「まだ、終わってない……ッ!」
代わりに、彼女の心の内を支配したのは――
――一方、E-767のオペレーションルーム内は、何ともいえない神妙な空気に包まれていた。
J-20を撃墜し、敵戦闘機も壊滅に追いやり、多国籍軍の脅威がほぼ完全に排除された中で、ついに自分らに対するミサイル攻撃が実行に移された。使ってきたのがPL-21だというなら、シーカーは最新のAESA型。様々なプラットフォームとの高度な双方向データリンクシステムにより、確実な目標探知能力とECCM能力を有する。護衛のF-15Jがうまい具合にチャフをばら撒いたところで避けられる代物ではない。ましてや、こんな鈍重なE-767の機動力なんて高が知れていた。
――ここまでだ。自分らのやるべき使命は果たすことができた。羽浦は椅子に凭れて天を仰ぎ、たった今武勲を挙げた親しき幼馴染を思い浮かべていた。結局、最後に顔を出せたのは、数ヶ月前の食事の時になってしまった。あとは電話とLINE、そして、今の無線のみ。最後にその顔を拝みたかったが、もうそれは、叶いそうにない。
「……すまん、咲……」
一足早く、天国に行くことになりそうだ。上で待っている。そう心のうちで伝えた。今の彼に、それを言葉にする勇気はなかった。今の彼女が、異常に動揺してしまわないようにという羽浦なりの配慮だった。
「遺書、書いといてよかったぜ……」
そう語る近くに座っていた管制員。その手元には一台のスマホがあり、かすかにだが、メール画面が開かれているのが見て取れた。開戦初日、スマホのメールの下書き機能に遺書をこしらえていた彼だった。ここぞとばかりにメールを送信し、地上に残してきた愛すべき人たちに向けて、最後のメッセージを伝える。
「わり、先に行ってるわ……」
その彼の言葉の重さを理解できない人間はいない。ここにいる者全てが、地上に、守るべきものを置いてきた。遺書を書いた人もいれば、そうでない人もいる。今生の別れを前に、静かに俯く者もいた。覚悟はしていても、無念を感じないわけではないのだ。
……羽浦も、その一人だった。家族もそうだし、友人たちもそうだ。そして、誰でもない、今目の前にいる彼女の前で、自らが死ぬ姿を見せなければならないのだ。羽浦は、すぐ近くにあった自らの鞄からスマホを取り出し、蒼波のLINEの通知欄を開いた。電話マークが縦に並ぶ中上にスクロールすると、まさしく女神か何かのような笑顔でカツカレーを頬張る蒼波の姿があった。対艦攻撃作戦日に送られてきた画像。結局、この写真が、彼女の姿を拝む最後の機会となってしまった。
もう、彼女を見られない。その事実は、羽浦を感極まらせるには十分だった。
「……ごめんな……」
気がつけば、画面の前で俯き、スマホを両手で強く握り締めて、隠すように顔を被せながら、何度も同じ事を呟いた。
覚悟はあると偉そうな口を利いていながら、いざ死ぬときとなれば、この世に、好きな人に対する名残惜しさをどうしても感じざるを得なかった。だが、もう何を言っても意味はない。あと数分としないうちに、ここにはミサイルが飛んでくる。その瞬間に死ぬか、単身落下中にGで気絶した後、海面に激突して、体がバラバラになるかの未来が待っている。もう、先は目に見えていた。
羽浦は、肩を震わせて、大好きな幼馴染に向けて、懺悔の言葉を繰り返していた。
「……会いにいけなくて……ッ、本当に、ごめんな……ッ」
頬を伝う涙を拭くこともなく、羽浦は、蒼波に向けて何度も謝り続けていた――
「――おいおい、なんだ、この動きッ?」
――一人の管制員の声が、室内に響くまでは。
「……え?」
そこにいた全ての管制員らが顔を発声源に向けた。彼は、自らの担当の管制卓にあるレーダー画面を目を見開いて見つめ、口元も小さく開けて唖然としていた。重本が事情を聞こうとする前に、彼は羽浦のほうを見て半ば叫ぶように聞いた。
「お、おい! お前の恋人さんどうしたんだッ?」
「恋人ってなんすか……」
「間違っちゃいねえだろ! いや、そんなことより、彼女どうしたんだッ? “こっちに向かって急上昇”してるぞ!?」
「……、はい?」
――急上昇? こっちに向かって? 一体どういうことだと羽浦も涙を急いで袖で拭いて画面を見ると、確かに、蒼波のブリップの横にある高度の数値がみるみる上昇している。その先にいる空戦域も強引に突っ込もうという腹だ。躊躇が一切感じられない。
「(な、なんだ……?)」
困惑する羽浦を初めとする管制員一同。単に残党狩りに参加しようという動きではない。唐突過ぎて意図を読みきれなかった羽浦の無線に、蒼波から槍のように鋭い声質の音声が届いた。
『雄ちゃん、今すぐ南に向かって急降下してッ』
「え? いや、待って、急降下って――」
『いいから急降下して!! 早く!!』
ヘッドセットを思わず取ってしまったぐらいの大音声に、羽浦は小さく悲鳴を上げながらのけぞった。どうやら、ただならぬことを言ってのけたらしいことを悟った周囲の面々であったが、半ば脅されるように、羽浦は機内通話の受話器を取って、コックピットに繋いだ。本来、その権限は重本と新代にしかない。
「お、おい――」
「すいません、今だけ見逃してください! ……あ、すいません。機上管制室です――」
重本がとりあえず止めようとしたが、羽浦は構わず通話を続けた。蒼波の言ったとおりのことを伝え、とにかく可能な限り急降下するよう要請する。すぐに、機長から機内アナウンスが入った。
『急降下します! ベルト締めながら何かにつかまってください!』
「全員卓につかまれ! 離すなよ!」
重本が叫ぶとともに、手身近の卓や手すりなどにつかまった直後。機体は一気に急降下を開始し、ジェットコースターの下り坂を高速で下りるときのような、内臓が浮いた感覚を乗員全員に与える。鋭く左に機体を傾け、空戦域から少しでも離れるような形で、海面へと向かってぐんぐん加速していく。室内は軽い悲鳴が湧きあがり、固定していなかったファイルや本などが時折宙を舞っている。
遊園地のアトラクションと勘違いするような乗り心地を感じながら、羽浦は蒼波に問いただす。
「こっちに突っ込んできてるぞ。何する気だ?」
『その前に聞かせて。PL-21の全長と直径は?』
「え? 全長と直径……?」
羽浦は、落ちないよう左手で押さえていたファイルを開いて、急いでPL-21のページを探す。ミサイル本体の推定諸元には“全長:5~5.5m 直径:25~30cm”とある。ミサイルとしては比較的大型の部類であるが、そもそも超音速を発揮するために新型の二段階推進型ロケットモーターを搭載したことも考えると、これでもどうにかして十分小さくしたほうなのだ。
羽浦は端的にそのデータを伝える。これを使って何をする気なのかさっぱりな羽浦だったが、次に聞こえてきた、
『……ハープーンとどっこいの大きさならいける……』
この一言で、大体が読めてしまった。そういえば、蒼波はまだ、残り1発、AAM-4Bを残している。
――対巡航ミサイル迎撃能力のある、“AAM-4B”を。
「……まさか」
「――落とす気か? AAM-4Bで?」
震えるような羽浦の声に返ってきたのは、小さな微笑みの声だった。何かを面白がるような、それでいて何時になく真剣な表情を浮かべている彼女の顔が目に浮かぶようだった。
つまり、彼女は巡航ミサイル対応とはいえミサイルの撃墜能力があるミサイルであるAAM-4Bを使って、最後の賭けに出ようというのだ。うまくいけば、少なくともこれで1発は迎撃できる。最近ではステルス対応化された関係で巡航ミサイルも反射波が小さくなる傾向にあり、今のAAM-4Bはそれにある程度対応していた。この時までAAM-4Bを残していたのも、これのためだったのだ。通常の巡航ミサイルよりは若干小さいPL-21ではあるが、捕捉そのものは不可能ではない。そういう判断だった。
だが、それにしたって相手は超音速の対空ミサイルである。AAM-4Bの想定していた巡航ミサイルの速度ではないし、そもそも1発しかない。1発爆発させてもう1発も巻き込むなどという神業は起こせるわけがないし、当たるかどうかはまだしも、あまりに小さくて捕捉し切れない可能性のほうが高いのだ。言ってしまえば、非現実的発想としか言いようがない。
しかし、蒼波は譲らなかった。「このまま死ぬよりはマシ」だと言いのけて、さらに言った。
『雄ちゃん、覚えてる? 撃墜禁止令出されてた時、アンタの声しか頼れるものがないって言ったの。アンタの声が一番安心できるって言ったの』
「あぁ……」
『空の上じゃ孤独な私が、一番安心して飛べてるのは雄ちゃんたちのおかげよ。そして、今もそう。いつも助けられてばっかりで、雄ちゃんの声に支えられてばっかりで……。でも』
「?」
『……たまには、助けるほうになってもいいわよね?』
その言葉が聞こえた直後、コックピットからアナウンスが入った。随分と切迫した声だ。
『2時方向下方から戦闘機が1機急速で接近! ……あぁ、いえ、上がりました! 我々のすぐ近くを急上昇! なんだあの急角度、正気じゃないぞ!』
「オペレーションよりコックピット、そいつ単機?」
『単機です! そのまま後ろに飛びぬけていきました!』
通話用の受話器を耳に当てながら、何かを悟ったような唖然とした表情を浮かべる重本。アイツ、本気なのか? レーダー画面では、蒼波機が自分らのすぐ近くを横切り、なおも真後ろについて急上昇を続けている。その先には、もうすぐ急降下を開始する、PL-21の姿があった。もう射程には入っている。だが、まだ撃たない。ギリギリまで引き付け、必中距離での一撃必殺に打って出る腹だ。
『オスカー、今の見たか? まるでロケットか何かだぞ、あの機動は』
『えぇ……』
『すげぇ、イーグルのあんな急上昇初めてみた!』
『あんなの戦闘機じゃねえ、天高く上る槍だ……』
そんなパイロットたちの驚嘆の声を聞きながら、
「おいおい、そんなんありかよ……?」
「だが、もうこれに賭けるしかないのか……」
管制員たちは、希望的観測に過ぎないと知りながらも、一縷の望みが生まれたことで、一斉に蒼波に向けて祈り始めた。これでダメなら潔く諦めるしかないが、それまでは、せめて希望を抱いてもいいだろう。そういう思いだった。
「咲……」
心配する羽浦をよそに、蒼波は、頼もしさしか感じない強気の声を送ってきた。
『借りを作りすぎたしね。雄ちゃんはアイツと一緒に行くつもりみたいだけど、悪いけど、そういうわけにはいかないわ』
「お前……なんでそこまで……」
『……私はね、手放したくないのよ』
「え?」
『雄ちゃんに出会って以降、いつも助けられてばっかで、引っ張られてばっかで、それを少しでも変えようとパイロットになったのに、ここでもやっぱり守られてばっかりで……』
徐々に、その強気な声が弱々しくなっていく。小さく声が震え始め、続いて飛んでくる言葉は、スラスラと流暢に発言されたものではなくなっていた。
『……でも、なんか安心するのよ。その声聞いてると。守られてるって思うと同時に、雄ちゃんなら任せられるって感じで。空から、私をちゃんと見て、導いてくれるの、雄ちゃんしかいないって』
「……」
『私は……、その声を、まだ聞いていたいのよ。その声で、私を導いてほしいし、また名前を呼んでほしいし……ッ、何より……ッ』
『……雄ちゃんに、また会いたいもの……ッ!』
顔面を思いっきりひっぱたかれたような、そんな衝撃を脳内で感じながら、その無線を黙って聞いていた。何も答えることができない。その涙声になりながらも必死に伝えてきた、自らの思いを受け止めようとして、意識を集中させすぎて。
PL-21は急降下を始めた。角度から見ても、蒼波の真正面から突っ込んでいき、すぐ近くを通って、後ろにいるE-767に突っ込んでいこうという体勢だ。直後に、護衛機がチャフを撒いてみるが、やはり効果はなく、そのまま降下を続けていた。今から急反転して、蒼波に倣ってAAM-4Bを撃つのも間に合いそうになかった。
蒼波機との接触までもう時間がない。重本も、目にうっすらと涙を浮べながら、最後の希望を託した。
「……妖精が、奇跡を起こすのを待ってみようじゃないか。生きて帰れたら、彼女に全員で好きなのをおごるぞ!」
「アイツ、そういえば六本木のレストラン希望してましたよ。言っときますけど、アイツめっちゃ大食いですからね!」
「三ツ星でもなんでも連れてってやる! 帝国ホテルでもいい! 全員で金出すぞ! 上は俺が殴ってでも説得してやる!」
「309の連中と祝勝パーティーだ! 帰ったらホテル予約しときますよ!」
「1級のを頼むぞ! 生きて帰ったら主役は間違いなく彼女だ!」
室内が一気に活気を取り戻していった。目に輝きが戻り、その顔には、生への執着が伺える。生きる希望を失うときではない。まだ道は残っている。道案内が役目の彼らが、何時しか、蒼波に道をこじり開けられているという、奇妙な状況へと変貌していった。
蒼波はミサイルとE-767との間に入る。そろそろすれ違うまで10秒を切る。PL-21は既にシーカーのロックをE-767にかけているので、蒼波の機体は眼中にないはず。ましてや、そこから自分に向かってミサイルが飛んでくるとも思っていない。不意打ちの絶好のチャンスだ。
「(……頼む……ッ)」
羽浦も、何時しか蒼波に向けて必死に祈っていた。生への未練を残すまいと、自らの命を蒼波に預けたのだ。預けられた側が、今度は預ける側になる。何とも不思議な気分だった。
蒼波がもうすぐミサイルを発射する。誰もが固唾を呑んで見守る中、蒼波が再び無線を開いた。
『……雄ちゃん』
「なんだ?」
『アンタ、さっきアイツに向かって、一緒に黄泉の国に行こうなんて偉そうなこと言ってたわよね?』
「ああ」
『悪いけど、行き先変えてもらうわよ』
「……本気か?」
『雄ちゃんがこれから行くのは、ここよりはるか彼方の天国でも、地獄でも、黄泉比良坂でもないわ。その真逆――』
『――自分が守ってきた人たちが待ってる、“地上の世界”よ!』
次の瞬間、蒼波機のブリップから、一つの小型のブリップが分離した。AAM-4Bが発射された。ロケットモーターに点火し猛加速を始め、PL-21に向かって一直線に突っ込み始めた。
「(まさか、ロックできたのか!?)」
これだけでも奇跡のようなものだ。巡航ミサイルと同程度の“対空ミサイル”であるPL-21のロックに成功した。射程に入ってもギリギリまで粘ったご褒美という他ない。そして、ロックさえすれば、AAM-4Bの命中精度を持ってすれば十分撃墜は可能だった。
――2発のPL-21のうち、先頭のほうにいる1発にブリップが重なると、1秒としないうちに、反応が対消滅するように消えた。
「落とした!」
新代が歓喜交じりの声を挙げるが、まだ終わっていない。もう1発。こっちに対してはミサイルも何もない。機銃弾を撃ってもたぶん無理だ。何時だったか、誰かがそれをやっていたように記憶しているが、あれも偶然の類であって、二度も起きるほど都合よくはない。
「咲……ッ!」
ここでそのまますれ違ったらそれまで。反転して追撃する時間はない。残り1発。蒼波機は、まもなくその1発のPL-21と重なる――。
――1発撃墜して、歓喜の声を挙げている時間はない。目の前から飛んできた、もう1発のPL-21。JHMCSにはその方向に『×印』のマークが表示され、急激に接近していることを教えている。考えている暇はない。正面面積が圧倒的に小さいこの状況では、機銃がもとより通じないであろうことは分かりきっている。
……なら、もうこれしかない。少なくとも、撃墜される心配がないなら……、
「(――よし、今!)」
蒼波は、タイミングよく操縦桿を左に倒す。直後、その右主翼の先には、PL-21の“胴体部”がすっ飛んできた。蒼波のほうは、まるで最初から存在しないかのように無視していく。この状況を保てば、タイミングよく操縦桿を引けば、右主翼とミサイル胴体部がうまい具合に接触するだろう。
蒼波の狙いはただ一つ。ミサイル、機銃でダメなら――
「(――ここッ!)」
――その“翼”でもって、“真っ二つ”にしてしまえばいい。
「――ぅおらぁぁぁあああああッッ!!!!」
蒼波は、不安をかき消すような叫び声を挙げながら、操縦桿を一気に手前に引いた……




