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Guardian’s Sky ―女神の空―  作者: Sky Aviation
第11章 ―8日目:午後 Day-8:Afternoon―
77/93

11-1

「War does not determine who is right – only who is left.

(戦争は誰が正しいかを決めるのではない。誰が生き残るかを決めるのだ)」


 ――バートランド・ラッセル(イギリス / 哲学者)


≫東シナ海上空 高度3万8000ft≪




 ――東シナ海の空は、決戦とも言うべき環境が整いつつあった。

 80機超えという、現代の空戦の世界では、非常識とも、非現実的とも言える数を一気に持ち出すという決死の物量作戦に出た極東革命軍。自衛隊と在日米軍を中心とする迎撃部隊群は、かき集められる全ての航空部隊を集めて迎え撃つ体制を整えていく。20機、30機、40機……。だが、まだ足りない。敵は戦闘機だけではなく、攻撃機や、爆撃機をもこしらえてきた。そればかりか、攻撃能力はないはずの“輸送機”まで持ってきたのである。誰もがその意味を理解し得なかったが、しかし、重本は直感した。


「これが最後だって意志の表れか……」


 つまり、どうせこれが最後なのだから、出せるものは全部出そうという腹なのだという。攻撃能力自体はないが、放置しておいてもいい存在というわけではない。その覚悟さえあれば、輸送機を多国籍軍の艦艇のどれかに突撃さえ、自分らは直前に脱出するという無茶苦茶な戦法も可能である。となれば攻撃しないわけにはいかないが、弾を無駄に消費してしまう。端的に言えば、輸送機は“盾”の役割を果たすことになるのだ。

 羽浦をして「オールスターキャストかよ」と言わしめた、この役者の揃い様。今までの戦闘の集大成とばかりに、敵は膨大な数の航空機を全て繰り出してきた。こんな空戦など前代未聞。真正面から立ち向かわせるしかないが、軽い傷では済まないだろう。それぐらいは、誰だって予測できていた。


 故に、全員が今まで以上に覚悟して事に望んでいた。次々と上がってくる部隊を適切に配置しながら、BVR戦闘が可能な距離まで待つ。幸いにして、攻撃手段たるミサイルの性能は十分こちらが上であるし、敵はAWACSやAEWを持たないため、大した連携も取れないはず。数が多いことは、メリットばかりではないのだ。純粋な数的戦力自体は劣るが、状況認識、攻撃手段の手数、バックアップ体制、何をとってもこちらが上。互角の戦いぐらいはできるはずだ。敵の攻撃手段を奪い、多国籍軍が通峡しきったならば、こちらが勝ったも同然――。


 ――そのはずだったのだ。あの無線が来るまでは。



「……そんな、バカな……ッ」



 無線を受けた重本は、絶望しきった顔をしながら、言葉を失っていた。いや、彼だけではない。その無線内容を聞いていた全員が、此の世の終わりを見たかのような表情を浮かべて、顔面を蒼白とさせていた。


 その無線は、空自向けの国際緊急周波数ガードチャンネルで飛んできた。また何時ぞやの離反かとも思ったが、相手は特殊作戦群の“ソード”なる人物を名乗った。敵の本拠地である下地島空港で見つけたデータを、規則ではないことを承知で直接こちらに伝えてきたようであったが、その内容は、この場で思い切り泣き叫びたいぐらいに“ひどいもの”だった。


「……確かなんですか? 熱核兵器がJ-20に搭載されていて、しかも、それが特攻してくるって……」

『間違いありませんッ。彼らの表向きの話は全てただの名目。あらゆる行動は、この特攻に全て集約されていたんです。機密レベルを見るに、これを知っているのは、恐らく軍の内部でもごく少数。本拠地にいる最高司令官の周辺程度で、最前線にいる人間はほとんど知らないはずです』

「本来の目的を隠して、適当な理由をつけて引き込んだと……?」

『ええ。それこそ、復讐とかクーデターとか、簡単に釣れそうな理由をつけて引き入れた人もいたかもしれません。我々が見たのはただの内部文書のみではありますが、今他の文書も漁って見ている限り、着々と準備していた様が見て取れます。少なくとも、ないとは言い切れませんッ』

「なんてこった……ッ」


 ショックのあまり、重本は情けなさを感じさせる声を出しながら、顔を右手で覆ってしまう。だが、相手はかまわずさらに続けた。


『これはたった今見つけたんですが、他の文書には、熱核兵器の入手ルートも書いてありました。やはり北朝鮮ルートです。反体制派が保有していた、半ば放置状態にあった次の核実験用の弾頭を、極東革命軍が適当に理由をつけて譲り受けたとあります』

「幾つあるんですか? 2機のJ-20どちらにも乗っているのですかッ?」

『そこはわかりません。個数などに関しては何も言っておらず、大雑把にJ-20に適合させたとしか書かれていません。敵航空機がそっちに上がっているかはわかりませんが、何か不審な点はありませんか?』

「不審って……」


 何かあったかと思い出すように、すぐ隣にあるレーダー画面を見たが、重本の目に映った一つのブリップ群。ハッとした重本は、無線スイッチを入れたまま、呟くように言った。


「……輸送機……」


 空中戦はできないはずの輸送機。わざわざここに連れてくる理由もわからず、単なる盾か、特攻用の捨て駒として使うのだろうと思っていた。だが、もしその中に、例の熱核兵器があったら……。


「J-20だけでなく、輸送機にまであったら大事ですよッ!」

「むしろそっちのほうが都合がいいとも言える。どっちにしろ、攻撃に使うとなれば突っ込ませるしかないッ」

「ですが、それなら輸送機に関して言及があってもいいはずです。わざわざJ-20に限定させた意図がわかりません」

「だが、可能性として捨てきれない。何れにせよ、落とさねばならないことには変わりはないんだ」


 新代とそう議論を交わす重本。あの不自然な輸送機の目的が、熱核兵器の輸送、及び起爆プラットフォームであった場合、一気に最重要目標として評価しなおさざるを得ない。鈍重な輸送機を付け狙う上では、護衛機が余りにも多すぎるが、そんなことは言ってられない。腹の中に、大量の人命を奪う“悪魔”が眠っているかもしれないのだ。


「もし、艦隊の中心で起爆されたら……」

「米軍空母は1隻につき乗員が5000~6000人で、それが今3隻いる。クズネツォフ級が大体2000人前後で、300人前後の護衛艦が十数隻周囲を囲ってるから……」


 百瀬の疑問に答え、羽浦が脳内で素早く計算する。特段暗算が得意というわけではないが、この時の彼の頭は冴えていた。すぐに脳内で加算と乗算し終え、そこから、現実的な死傷者数となりそうな範囲を選別する。艦隊外縁にいる艦艇はそこまで傷が深くないと仮定して、少しだけ楽観的な数値を弾き出すが、それでも、彼の脳内が導き出した答えは……。


「……最悪、余裕で“数万”という数の人間が死ぬ……」


 到底、受け入れがたいものだった。正確には、艦隊全体が壊滅的な被害を受けたとして、その乗員全てが死傷した場合の人数は“約2万5000人”前後。これをもう少し楽観的な数値にした形であるが、それでも、1万を下回ることはないだろうという結論だった。

 だが、これは350キロトン級が1発のみ、艦隊の中心部で起爆した場合の数値である。もし、1機のJ-20が中心部で、もう1機が艦隊外縁のどこかか、別の艦隊、それこそ、多国籍軍の比較的そばを同航している、護衛中の海自艦隊に向かったら……。


「(……最悪だ……)」


 否。最悪などという言葉は生ぬるい。ただ一言。“地獄”と表現するより他はない。言うまでもなく、ソードが予測していたことは彼らも一瞬で理解できた。政治的ダメージもでかい。防大で国際関係学を専攻した羽浦に言わせれば、一発でも起爆し、放射能が拡散された瞬間、彼らの勝利が確定し、そしてその恩恵は、誰でもない中国が受けることになる。


「(あいつ等、中国共産党の敵なんかじゃない……味方なわけでもないが、自分らのやり方でもって、中南海に本当の“外交”の仕方を教えようって腹だ……)」


 今までの中国との敵対的な動きはブラフでしかなかったのだ。確かに敵対はしていたのだろうが、かといって、中南海と通じているわけでもない。通じているのに、わざわざ人民大会堂なんて空爆したりはしない。多くの共産党員を犠牲にする必要性は皆無だ。

 

 彼らの目的が成就された時、アジアは大変革を迎えざをを得ない。アメリカは、その国が始まって以来初の核攻撃を受けることになり、そのトラウマはベトナム戦争の比ではない。自分の国の外に、必要以上に出たがらなくなるだろう。少なくとも、今後十数年間は、かつてのモンロー主義が再燃する。軍事的空白を埋める存在は必ず現れるだろう。その筆頭候補は、間違いなく“中国”だ。日本を初めとするアジアの国々は、外交戦略の大転換を強いられる。


「(まさか、彼の言っていた“外圧”って……)」


 羽浦は、昨日神野が言っていた言葉を思い出した。


“僕たちが変えるんです。“外圧”で以って”


“そろそろ必要でしょう。日本にとって、大きな外圧が。次なる進歩を、日本はしていくのです。この戦争という外圧をきっかけに”



“僕たちの目的が達成された時、何が起こるのか。そして、日本は、否応なく、変わらざるを得なくなる”



 ――日本は、変わらざるを得なくなる。熱核兵器が使われれば、確かに、この言葉は真実となる。

 それだけではない。そもそも、熱核兵器を使ったという時点で、これは世界的に見ても、今後100年にわたって語り継がれるほどの大事件になる。核実験云々の話では決して済まされない。新代が、顔面蒼白となっていった。


「熱核兵器を使ったら、最悪アメリカがやり返してくるッ。そうなったら全面核戦争にも突入しかねない!」

「ま、待ってください! 相互確証破壊(MAD)は国同士の話でしたよね? しかも民間人も巻き添えになった時が基本です、今回はそれに該当しないんじゃ――」

「基本はそうだ。だが、多国籍軍の艦隊編成を思い出せ。アメリカの補給艦があったはずだ。あの艦を運用しているのは、“民間人”だ。民間人が巻き込まれて、これで核報復をしないとすれば、幾ら狙われたのは艦隊だからといっても、核抑止の理論に綻びが生じる。……これを、アメリカが、ロシアが、許容すると思うか?」

「ですが報復するといってもどこにやるんです? まさか、北朝鮮の拠点に撃つんですか?」

「可能性があるとすればな。敵が、まだ熱核兵器を持っていることを吹聴すれば、国民世論の動きによっては十分ありえる。だが、もしそんなことをすれば、北朝鮮の主流派が黙っていないッ」

「ッ……」


 新代の理屈は的を得ていた。まず、多国籍軍に参加している補給艦の中には、当然アメリカの補給艦もいた。この補給艦は、他の米軍艦艇とは違って百数十人の民間人が主として運行に就いており、軍人は十数人程度しかない。たったの百数十人だが、その民間人が、卑劣な熱核兵器の攻撃にさらされてしまったと知ったアメリカ国民は、どのような感情を抱くだろうか。ここで気をつけるべきは、彼らは、日本人のように、核兵器の攻撃を受けたことがない国民であるという事実である。

 民間人がたとえ一人でも、十数人でも犠牲になろうものなら、アメリカ国民が大激怒すること請け合いだ。当然、報復の声が上がり始めるのは言うまでもなく、こればっかりは、今の政権も無視することができない。艦隊や航空機は無理でも、弾道ミサイルなら、海や陸から簡単に撃てるのだ。

 何より、たとえやられたのが国土ではなく、艦隊であっても、膨大な数の同国人が熱核兵器の犠牲となって、何も仕返さないという選択ができるとは思えない。それを認めれば、アメリカ艦隊に対する核攻撃は、十分“通用する”ということを世界中に示すことになってしまう。北米大陸だけでなく、世界規模の核抑止を担い、世界中に大規模な艦隊や拠点を展開する“アメリカ合衆国という国”が、それを甘んじて受け入れると考えるのは楽観的であろう。

 また、ロシアだって黙ってはいない。ある意味、核兵器の運用に関してはアメリカより積極的な姿勢を持っている。アメリカ同様核兵器の被害を受けたことがない彼らにとって、核兵器は武力行使ツールの一つに過ぎない。アメリカがやらないなら、代わりにロシアがやることだって考えられる。


 ――それで済めばまだいい。ロシアがやったなら、まだ救いがあるかもしれない。だが、現実的に考えて、やり返すとすれば、艦隊の中心にいるアメリカだ。アメリカが、仮にも北朝鮮の領土を核攻撃したとなれば、理由が理由とはいえ、根っからの反米国家である北朝鮮“主流派”が黙っているとは思えない。むしろ、自分らは悪くないのに、巻き添え事故よろしく核兵器を自国に撃たれてしまっては、何もせず黙っているほうが難しくなる。彼らの手元にだって、核兵器はあるのだ。

 アメリカ本土に届くICBMを使うかもしれない。それに乗っける核弾頭がないなら、近隣にいる同盟国にロフテッド軌道などで以って攻撃するのでもいい。弾道ミサイルでダメなら、適当な艦艇や航空機を差し向けて、近海やどこかの都市部、もしくは米軍基地に特攻させるでもいい。やり方は幾らでもある。

 狙うなら当然、お隣の日本や、韓国、台湾あたりだが、最悪、迎撃能力が薄いのをいいことに、あえてフィリピンやオーストラリアを狙うかもしれない……。かの国々に独自の核兵器はない。代わりに、同盟主たるアメリカが対応せざるを得なくなり、これで攻撃し返さなかったら、それこそやはり、核抑止、核の傘(拡大抑止)理論が崩壊し、アメリカと同盟国との間の亀裂が拡大する。


 だが、それを撃ったら最後。その先に待っているのは、世界初の全面核戦争。そして、それに付随して起きる、経済、軍事、国際秩序の大崩壊――。


「(アメリカが打ち返したら北朝鮮も打ち返す。打ち返した相手が同盟国だったら、アメリカがさらにやり返して、それにロシアまで介入したら……)」


 羽浦は震えが止まらなかった。勿論、これは最悪の想定であるため、こうなる前に抑制が効くことがあるかもしれないし、むしろそうなってほしいのが正直な願いである。しかし、そうならなかった場合というのは、どうしても想定しないといけなくなる。


 そうでなくても、日本にとっては熱核兵器によって発生した放射性物質被害や海水汚染被害による経済被害で大打撃を被っている時に、さらに自国の周辺で核戦争が展開された日には、間違いなく日本という国は立ち行かなくなる。アメリカが核戦争をおっぱじめたことで、日米同盟撤廃論も噴出するはずだ。そうなれば、日本は、外交的大転換を迫られ、独自路線を突き進むか、周辺国との関係を改善するか、それでもアメリカと運命を共にするか、はたまた、なすがままにするのか……そういった、“変化”を求められるのは必然だった。


 ――神野が求めた、外圧による変化とは、進化とは、これのことなのか。こんな、“狂気”による変革が望みだというのか。羽浦は怒りを通り越して、寒気すらしてきた。


「(こんなことで強引に変わってしまった国が、まともに生きていけるっていうのか……?)」


 そんなんで変わっても何も解決しない。そんな近視眼的な変化で、この世界を生きていけるとは思えない。熱核兵器を使って、今より秩序が消え去った世界で生きていくなど、たとえアメリカでも難しい。


 レーダー画面では、そのような野望を成就させんとする敵の大航空部隊が南下する様子が映し出されていた。南方では徐々に迎撃部隊の再構築が進んでいくが、双方の航空機の数……どうも、今が21世紀とは思えなかった。中世の時代にあったような密集隊形ファランクスを、三次元的に組んでゆっくり進軍してくる重装歩兵を思わせる。当然、そのどこかに、J-20が潜んでいるに違いないが、どのブリップを見ても、横にJ-20とは書いていない。


「(どこかにいるはずだ……どこだ……)」


 熱核兵器を腹に抱えているという事実が、羽浦をさらに焦らせていた。そうしている間にも、日本と米軍、そして、少数ながらロシア軍も参加した迎撃部隊の再構築が完了した。ロシア軍部隊ロシア・チームの管制は、急遽グアムに出張っていた最新鋭A-100型AWACSが担当しており、奇しくも3機種のAWACSが日本の空に揃うことになった。


「北方、ロシアチームの展開完了。嘉手納の部隊がその南方につく」

「BVR射程まであと1分。ゴースト、CTF防護線まであと20分」

「南西SOCからです。米露と時間を合わせて攻撃を開始せよと」

「時刻合わせろ。迎撃まであと52秒」

米軍部隊アメリカチーム、編成完了しました。前面に出ます」


 迎撃側も徐々に動き始めた。米軍、ロシア軍共にBVR戦闘のために少しずつ北に出向き始める。近年は米露、日露で訓練なんてしていないので連携も何もあったものではないだろうが、それでもやることだけはわかりきっていた。全部落とす。この空にいる、レーダー上では赤いブリップで表示されているものを、全て海に叩き落すだけ。重本の命令一下、自衛隊機も一斉に北上を始めた。


「BUZZARD 0-1, turn heading 3-5-0, maintain ALT 280. BVR1分前。マスターアームオン」

『3-5-0, 280. BVR1分前。0-1よりバザード0全機、マスターアームオン』

「グリズリー、スパーク。タイミングは米露と合わせる。最優先は輸送機とJ-20だ。最低迎撃ラインまでは20分から15分の距離」

『うわぁ、時間すくなッ』

『あの中からかくれんぼしてるJ-20を探すってか? E-2Dは何してるんだ?』

「数が多すぎて分別がしにくいんだ。たぶんどっかの誰かにくっついて飛んでる。解析までもう少し待て」

『クソッ、核があるってのに……』


 グリズリーが悔しそうに悪態をついた。特戦群の隊員が海空共用の周波数で話したこともあって、内容は航空部隊にも伝わっていた。迎撃に失敗すれば、すぐ後ろにいる艦隊が壊滅し、沖縄も、日本も大打撃を被るという背水の陣の如き状態となった彼らの焦りは想像に難しくない。羽浦は焦る彼らを落ち着かせ、統制の取れた迎撃をさせるべく指示をひっきりなしに出していった。


「隠れ蓑としてはでかい輸送機か爆撃機が有効だろう。爆撃機は米露で対応する。向こうの輸送機は8機だけだ。確実に仕留めろ。その後はE-2DがすぐにJ-20を見つける」

『任せろ。結局鈍重な野郎だ。すぐに落とす』


 覚悟を決めたようなグリズリーの声に安心すると、彼の機体のブリップのすぐ隣のブリップに目線を移した。『BUZZUARD 0-2/F-15J FAIRY』と文字で記載されたブリップは、綺麗な編隊飛行の一角を成して、北へ進路を取っている。もう、わざわざ言葉をかけることもない。羽浦の願いは一つだけだ。


「(……死ぬなよ……)」


 その思いを彼女に届けると同時に、室内に一人の管制員の声が響いた。


「――時間ですッ」


 間髪いれず、重本が声を張った。


「BVRエンゲージッ。交戦開始!」


 ついにきた――その瞬間、羽浦は素早く深呼吸をして、無線スイッチにかけていた指を押し込んだ。



「――This is AMATERASU. All flights, Engage!」



 その言葉と共に、全てのブリップが、北へ向けて一気に加速していき――



「――ッ!?」



 ――その直後であった。突然、ブリップの表示に異変が起こる。出たり消えたりしたと思ったら、次の瞬間には、ほとんどのブリップが消え去った。その後も、出たり消えたりを繰り返し、先ほどまで80機以上あった敵機も、味方機も、ほとんど見えなくなってしまった。


「み、見えない!?」

「なんだ、何が起こった!?」


 まさか、こんな時に機材の故障? いや、離陸前に整備は入念にしたし、今までにも不具合はなかった。機上整備員が常に機器類とモニターをチェックしてる。


 ……ということは……



「三佐、やられました! “電波妨害(ECM)”です!」



 してやられた。そんな表情を浮かべる新代の声が、室内に響いた……

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