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Guardian’s Sky ―女神の空―  作者: Sky Aviation
第10章 ―8日目:午前 Day-8:Forenoon―
70/93

10-1

「戦争の目的は、敵をある程度コントロールすることにある」


 ――J.C.ワイリー(アメリカ / 元海軍少将・戦略思想家)


 ― ― ― ― ―


【安全保障理事会決議2716(UNSCR 2716)】(訳文)


 安全保障理事会は、


 北朝鮮諸情勢に関する、安保理諸決議、とりわけ第2538号(20YX年)、2549号(20YX年)、2602号(20YZ年)並びに安保理議長の関連声明を想起し、


 中国及び北朝鮮より離反した戦力で構成される極東革命軍(EFRAF)により実施された、日本、韓国、中華民国に対する大規模な武力攻撃及び国際社会への脅迫行動による、東アジアを中心とする諸国家の独立、領土保全、当該地域の安全保障及び人道上の危険に対し、最も重大な懸念を表明し、


 国際連合憲章及び適用可能な国際法に従って、被害国の主権、独立、領土保全及び安全保障上の脅威を排除し、EFRAFが支配する地域において、現在もなお継続している国際人道上の重大な違反行為を強く非難することを確認し、さらに、北朝鮮国内における武力を用いた混乱の悪化に基づく難民の流出に対して強い懸念を示し、


 日本、韓国及び中華民国の行ったEFRAFに対する全ての軍事的自衛行動に対する正当性を承認し、さらに、EFRAFが継続中の武力攻撃は国際の平和及び安全に対する明白な脅威として引き続き存在し続けると認定し、


 中国及び北朝鮮における離反行為に対して、国際社会の安全保障における脅威となりうる組織の国家としての管理体制及び組織行動の把握能力について深い懸念を示し、


 EFRAFは 国際の平和及び安全を希求する諸国に対する重大な脅威であることを強調し、EFRAFによって引き起こされた武力攻撃を含めた国際の平和及び安全に対する脅威に対して、あらゆる必要な措置を用いて断固として闘うことを決意し、

              ・

              ・

              ・

           ( 中 略 )

              ・

              ・

              ・

 国際連合憲章第7章に従って、個別的又は集団的自衛の固有の権利を認識し、


1. EFRAFが、国際連合加盟国に対する重大な武力攻撃を行い、人道上最も懸念される支配地域における現地住民の違法な収容行動及び大量破壊兵器を用いた不当な示威行動について、最も強い表現で非難する。


2. 軍事攻撃の主体となるEFRAFに対する、自衛としての武力攻撃を行う各国家及び各国家に協力する加盟国に対し、被害地域における平和と安全を回復するためのあらゆる必要な処置を用いることを許可する。


3. EFRAFの武力攻撃に対する自衛行為は、EFRAFの戦略及び戦術形態の内容に基づき、東アジア地域に限定し、また、被害地域及び周辺地域以外での戦闘行為は極力避けること、もし他の地域での関連の戦闘行為があった場合は、直ちに安全保障理事会に報告することを確認する。


4. EFRAFの戦力として使用された様々な兵器の所在について、関係各国家は安全保障理事会の要請に基づく国際連合調査団を受け入れ、その管理実態と運用履歴の確認及び転用に至る過程を含む戦力化の経緯についての調査に全面的に協力することを強く要請する。

              ・

              ・

              ・

           ( 中 略 )

              ・

              ・

              ・

11. 全ての加盟国は、この決議の採択から90日以内、またはその他委員会の要請があった場合、この決議の規定に基づきEFRAFに対して行った、武力攻撃を含むこの決議の規定を効果的に履行するためにとった具体的な措置は、安全保障理事会に報告することを決定すると共に、専門家パネル及び他の国際連合関連パネルと協力し、当該報告を適宜準備し提出するための努力を継続するよう要請する。


12. この問題に引き続き積極的に関与することを決定する。


           ――20XX年7月21日(EDT) 採択 

               賛成 アメリカ合衆国 イギリス フランス ロシア

                  日本 フィリピン カナダ スペイン 

                  南アフリカ共和国 カメルーン ナイジェリア

                  ジャマイカ ベネズエラ ハンガリー

               棄権 中華人民共和国

               反対 なし



 ― ― ― ― ― 



 ――その日の朝はいつもより早かった。空はまだ薄暗く、日の出をしようとする太陽が、東の空で薄明のぼんやりとした光を放っている。

 しかし、浜松基地の会議室内はもう少し暗い。光源は、目の前にあるプロジェクターが投影したブリーフィング映像のみ。スクリーンに反射した光が照らしている室内にいる人々の表情は皆、一様に真剣みを帯びていた。朝早い時間帯であるはずなのに、あくびどころか、目をこする人すら誰一人としていない。

 気象情報の確認が終わり、スクリーンの前に重本が立った。彼もまた、普段とは違う鋭い目つきをしながら、室内を一瞥して言った。


「……いよいよこの日がやってきた。たった1週間だったが、正直、ようやく1週間が経ったという気分だ」


 そう口火を切った重本は、手に持ったポインターの光をスクリーンに指しながら、説明を始めた。スクリーンには、任務に必要な諸データや、テレビで出されていた映像のスクリーンショットなどが適宜表示されている。


「22日に採択された国連安保理決議2716に基づき、米空母打撃群と、ロシアの機動部隊が中心となった多国籍軍が、北朝鮮本拠地『天摩山基地』を空爆の後、空から強襲して制圧する。一連の作戦名は、『正義の鉄槌作戦オペレーション・ジャスティス・ハンマー』と名付けられた」


 アメリカンらしい名前だなぁ……と、誰もがひそかに思いながら、ようやく開かされたその作戦に耳を傾ける。

 米露連合艦隊を中心にした多国籍軍海上艦隊は、その空母艦載機で以って北朝鮮拠点『天摩山基地』を空爆し、米海兵隊による空からの強襲制圧のための下地を作ることになっていた。既にその前座として、昨日の深夜帯にB-2爆撃機の隠密爆撃によって、レーダー施設と一部滑走路の破壊に成功しており、敵が米露艦隊の接近に対処することは困難な状況にしておいた。

 空爆を実施するためには、まず、黄海の北朝鮮西部沿岸に出張る必要があったが、太平洋からそこに向かうまでの通り道として、宮古海峡が使われることになった。大艦隊を一気に通すことができるほどに広く、最短距離で行く際の途中に位置しており、尚且つ、近隣基地からの航空支援が届きやすい、というのが選択の理由だった。

 だが、宮古海峡のすぐ西側の伊良部島と下地島は、極東革命軍が依然支配していた。海上艦隊への攻撃能力があるとは思えないが、しかし、まだ数は少ないながら残存する敵艦艇が近隣で遊弋しており、万一の際の不安要素は事前に排除しておきたいこと、可能であれば近隣島嶼部からの地対艦支援も得られるようにしたい等の思惑から、宮古海峡の通峡に先んじて、両島を奪還することが決定された。


 当然、その担当は、日本である。


 米軍の海空両面での支援が多分に得られるため、自衛隊としても島の奪還に専念しきれる。上陸は朝の満潮に合わせた0730時~0800時。その前段階で、対地攻撃により対空兵器、及び可能であれば装甲車両を破壊し、上陸に際して脅威を最大限排除する。さらに、対空兵器破壊と同時並行で、特殊作戦群による人質解放作戦も実施されることになっていた。

 上陸作戦開始後は、完全なるスピード勝負である。先んじて第1水陸機動連隊を基幹とする700名程度の先遣部隊が、空と海から伊良部島と下地島双方に上陸した後、16MCVを要する即応機動連隊を中心に構成された『第42戦闘団』が主力としておおすみ型から進発。一部は空からC-2、MV-22オスプレイ、CH-47JAチヌークをも使って、沖縄本島や、奄美大島の東方に浮かばせていたいずも型護衛艦2隻からの航空輸送により上陸させる。

 制圧が完了次第、今度は地対空、地対艦ミサイルも揚陸させ、対空・対艦両面での攻撃能力を持たせることで、伊良部島・下地島の“要塞化”を完成させる――これを、上陸開始から、最大でも“6時間以内”に完了させる、というのが、今回の奪還作戦の骨子であった。


 ……言うまでも無いが、これでは流石に輸送艦が足りない。そもそも、現在稼動できるおおすみ型は2隻だけで、残り1隻はドックで定期点検の真っ最中であり、今更出すことなどできない状態だった。しかし、空では運べない装甲車両はおおすみ型に乗せて、あとは航空輸送を使うといっても限界があるし、かといって、いっそのことミサイル部隊はもう少し後で揚陸させる、といっても今度は、安全な通峡を求める多国籍軍側が難色を示す。

 あと1隻、どこかで用意しなければ……、と、ここまで考えて、市ヶ谷は奇策に出た。強襲揚陸艦も輸送艦もないなら、別のものを使ってそれらを代替するしかない。伊良部島・下地島のすぐ隣に、彼らは目をつけた。


 ――『宮古島』である。


 考えてみれば、“島”というのは見方を変えれば、決してそこから動かず、海底とも物理的につながっている“船”でもある。市ヶ谷はここに、伊良部島・下地島に揚陸させる戦力を大量に置き、いざ作戦が開始された際には、ここから隣まで、LCACを使った短距離ピストン輸送を実施する。すぐ近くなので輸送効率も大した問題ではない。航空優勢が確保されたなら、航路を設定した後、ヘリを宮古空港からピストンさせることも可能である。

 即ち、宮古島を一種の“不動かつ巨大な強襲揚陸艦”に見立てたのである。どうせ住民は全員避難させたので、幾らでも使おうと思えば使える。このときのために、防衛出動を国会で採決した直後に、国家防衛を目的として、自衛隊が一部空港施設等を臨時で使用することを認める特別立法も成立させていた。本来は開戦3日後の奪還作戦時に、戦力輸送に柔軟性を持たせるために通しておいた“サブプラン”だったが、今回、それを大いに活用しようという腹である。

 積載地点として、島西部のトゥリバー海浜公園ビーチが選ばれた。ここは、2014年の離島統合防災訓練において、実際にLCACを用いて車両を揚陸させるなどの実績があり、勝手が分かっていた。輸送艦にいる水陸機動団を送った後は、間髪入れずここから第42戦闘団を派遣する。既に、必要な戦力は宮古島に送り込まれていた。



 ――以上の作戦の概要を伝えると、重本は最後に、ポインターを仕舞いながら言った。


「……日本という国が戦後を迎えて以来、初の本格的な有事作戦にして、初の島嶼部奪還作戦になる。何もかもが初めてで、万事順調とは行かないだろうが、最大限の努力はしよう。……最後に、今回の作戦名を皆にも伝えておく。名付けて――」



「――『千引ちびきの岩作戦』だ」



 千引の岩――日本神話に登場する巨岩であり、1000人もの人々が引っ張ってようやく動くほどに巨大で重い。黄泉の国において、イザナギが、イザナミからの「ちょっと見ないでくださいね」というお約束のフリに耐えられず、明かりをつけて彼女を見てしまったことでブチギレられ、黄泉比良坂に逃げてきた時に置いたのがこれである。「1000人もいないと動かせないのにお前は動かせるんかい」とかいう野暮なツッコミはしてはならない。彼は神様である。神様に不可能はない。

 日本の墓石の起源とも言われているこの千引の岩。どうやら防衛省の作戦立案者は、どうしてもこの戦場を黄泉比良坂に喩えたいらしく、自衛隊による伊良部島・下地島の奪還と事実上の要塞化を、イザナミを退けるために置いた巨岩と重ねたようだ。それはまさしく、極東革命軍に対して、「もうここより先には絶対いかせない」という、巨岩の如き決意の表れともいえるだろう。


「先陣を切る戦闘機隊は既に新田ニュウタを発進して、対空網破壊ドアキッカー任務に就いている。我々は上陸作戦開始直後の時間帯から、前任機を引き継いで任務に入る。担当の空域と作戦内容をしっかり確認しておいてくれ。質問は?」


 数秒の静寂。手を上げる者はおらず、小さく息をついた重本が、締めるように言った。


「……今日で全てが解決するわけではないだろう。だが、今日を乗り越えれば、必ずや終わりが見えるはずだ。全員で、生きて帰ろう」


 起立。その一言と共に、整然と立ち上がる面々。そして、重本は小さく笑みを浮かべながら、「最後に」と、一言付け加えた。


「……空にいる連中に教えてやろう。女神の空の下は、常に安全空域だと」


 女神の空の下は、常に安全空域。女神の目が黒いうちは、敵には好き勝手させることは無いことを、敵味方全員に教えてやろうという、重本なりの鼓舞だった。

 勿論、その“安全空域”を作るのは、自分たちの役目だ。背筋を一直線に伸ばした彼らは、切れ目よく一礼した後、自らの荷物を持って、自分らの乗る機へと向かう。いつものようにざわつくこともほとんど無い。彼らは既に、今この時から戦いが始まっていることを感していた。


「羽浦」

「はい?」


 自分もその群れに混ざろうとした時、重本に呼び止められた。その表情は真剣そのものだが、しかし、どこか安心できるような小さな微笑みもある。


「今日のS7R、お前に任せるからな」


 S7R。件の激戦空域であり、羽浦も何度か担当した場所だった。しかし、昨日の今日である。流石にそこは外されると思っていただけに、思わず「え?」と小さく声をこぼしてしまう。


「ですが、俺は昨日――」

「わかっている。だが、結果論とはいえ、現状あの空域での経験はお前が上だ。今日は失敗が許されない。技能も経験もあるお前に任せたい。それに――」

「それに?」


 一瞬目をそらした重本は小さく言葉を濁したが、すぐに羽浦に向き直り、


「――“彼”は、間違いなくあそこにやってくる。宮古海峡のすぐ北。通峡する多国籍軍を攻撃をするには最短距離がセオリーだ。そこは確実に通る。だから、お前に任せる」

「いいんですか、俺で?」

「彼を知っているのは君ぐらいだ。それに……、うちのエース部隊も、そこに置かれる」

「エース……」


 すぐに一つの部隊が思い浮かばれた。第309飛行隊。バザード隊の、あの4機だ。間違いなく今日も飛ぶことになる。そして、絶対に守らねばならない場所に、凄腕の面子を揃えてくるはずだ。その凄腕の中には、“彼女”も含まれている。


「彼女の扱い方はもう慣れたろう。彼女も、それを望んでるらしいしな?」

「……本当にいいんですか、俺で」

「疑い深い奴だな。信頼置かれてるんだから自信くらい持てばいいものを」

「いや、その……」


 それでも、また昨日みたいなことをやってしまうんじゃないかと、少し心配だった。言うなれば、開戦二日目にあった、蒼波のあの暴走をした時と同じである。つい感情的になった自分は、冷静さを維持することができなくなった。彼がまた同じように挑発した時の自分が、どうなることか……。今の羽浦は、二日目の時の、蒼波の心境が痛いほど理解できた。空を飛びたくないといったのも、よくわかるというものだ。こんな自分で大丈夫なのか、そこまで自信が無い。

 しかし、重本は違った。しょうがない子だ、と、小さな息子を見るような呆れた表情を浮かべながら、羽浦の肩に手をまわしながら言った。


「言っとくが、俺はあんな風にキレたことを咎めるつもりは無い。たぶん、お前と同じ立場なら俺だってキレてたし、皆同情してる。それが、管制官としては望ましくないとしてもだ」

「はぁ……」

「だが、あそこでキレることができるのは、お前がまだ人間の心を捨てていない証拠だ。俺は、人間の心を捨てた奴が、同じ人間に必要に応じて指示を出して適切に導くことができるとは思えない。人工知能とは違うんだ。生死の狭間にいるパイロットは、最後は機械ではなく、“人間”を信頼する」

「人間を……」

「お前は、ちゃんと人間だ。人間としてのお前の管制下にあることを、彼女“たち”も望んでいる。俺は、ベストメンバーで今日を臨みたい。頼むぞ」


 そういって背中をポンとたたくと、重本はそのまま乗機の下へと歩いていった。躊躇無くそう言い残した、頼れる上官の背中は、羽浦に一つのメッセージを残してくれた。「俺は、お前を頼っているんだ」と。


「……ふぅ」


 一先ずは、自分はまだちゃんと仕事を与えられることに感謝しよう。そして、任されたからには、必ずやそれを全うしよう。羽浦の決意は固い。重本の後を追うように乗機に向かう、少し早足で、そして、堂々とした足取りは、彼の抱くその思いを如実に表していた。


 外に出ると、太陽はようやく東の方角の地平線から顔を出していた。東の空が明るくなり、星空輝く夜の空が、綺麗なスカイブルーの空へと顔を変える。雲もさほど多くなく、東シナ海方面も、今日は終日天気は良いとの予報が出ていた。心地よく涼しい風が羽浦の顔をなでると、その先から、百瀬が顔をのぞかせてくる。羽浦の隣を歩きながら、早朝とは思えないような朗らかな笑顔を向けていた。


「聞きましたよ。今日の担当、いつものあの場所だそうで」

「ええ。昨日言ったとおりでしたね」

「でしょう? 誰がなんと言おうと、羽浦さんのホームグラウンドはあそこですから」


 そこまでではないと思うが……。ただ、あの空域を担当した回数は他の管制官よりは確かに多いため、あの場所での空戦の立ち回りなどは頭に叩き込まれている。重本がベストメンバーで臨みたいといったことを考えれば、少なくとも彼の中では、あの空域には羽浦がベストだったのだろう。そして、ベストメンバーで臨みたいのは、何も管制側だけではない。


「蒼波さんも来るはずです。お願いしますよ」

「わかってます。そして、彼も間違いなく……」

「そうですね……」


 敵も、いよいよ後が無いことは分かっているはず。そろそろ何か、別の仕掛けを用意してくるかもしれない。神野がそのカギであったなら非常に厄介だ。タラップを上りきり、乗機に足を入れる直前、西の空に顔を向けた。東の空とは違って、こちらはまだ若干暗い。その先では、自らの幼馴染が、今日の出撃に備えているはずだ。


「……アイツ、大丈夫だろうな……」


 相手が相手である。昨日、彼女は神野に向けて引き金を引くことはできず、屈辱を味わった。今日は引けるだろうか。そんな心配が羽浦の中であったが、百瀬が隣から励ます。


「彼女なら大丈夫ですよ。こういう時の女の覚悟は男の比じゃないですから」

「そういうもんですかね?」

「そういうもんです」


 そう自信満々に言って、百瀬はさっさと搭乗機に足を入れてしまう。直前、タラップとの淵に足を引っ掛けて転びそうになるというお約束のドジっぷりを披露し、羽浦の苦笑を買ってしまった。

 だが、そこまで自信があるのなら、彼女を信じるしかないのか……。いや、違うか。自分が彼女を信じてやらなくてどうするのだ。そう思い直し、羽浦も搭乗機に足を踏み入れた。



 ――機内でのチェックを進めていた時、ふと、羽浦はスマホを機内モードに切り替え忘れていたことを思い出し、スマホを取り出す。


「……ん?」


 LINEに通知があった。時間は今日の朝。ブリーフィングをしていた時間帯だ。蒼波から一件だけ。重本が、少し遠いところで例の記録のメモをしているのを見ると、隠れてその中身を見る。そこには一言だけ、メッセージが書かれていた。



『上から見ててね。絶対に生きて帰るから。負け犬なんざクソくらえだよ!』



 ……乗る前、蒼波のことを気にかけていた羽浦だったが、もしかしたら杞憂だったかもしれない。何も返信しないのも正直申し訳ないと、まだ重本がこっちに来そうにないことを確認して、一言返信した。

 それは、今日の蒼波の管制担当が羽浦であること、そして、蒼波の覚悟に全力で応えることを約束するものだった。多くは語らない。今の彼女にはこれで十分だろう。意味は十分伝わったはずだ。羽浦はスマホを機内モードにした後、すぐに鞄に仕舞い、自分の担当の卓のチェック作業に戻った。



 ――チェックがすべて終わり、出撃許可が出される。E-767のCF6-80C2エンジンが回転をはじめ、力強い唸りを上げて機体が目を覚ます。

 どっしりと足を地に着けていた女神は、その巨体をゆっくりと動かし、滑走路へと向かい始めた。東からの光は灰色の機体に反射し、眩い反射光を当たりに照らしている。その光に気づいた、やはり基地の周りにいた面々が、カメラを向けて何度もシャッターを切っていた。


 だが、彼らの喧騒がE-767に届くことは無い。滑走路に入ったE-767は、エンジンを全開まで回し、一直線に伸びた滑走路を疾走し始める。少しして、機首がふわっと上がり、轟音を周囲に撒き散らしながら、ギアを格納してさらに空高く飛んでいった。



 目標はここよりさらに南西の空。



 E-767は、導かれるように機首を南西へと向ける……

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