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Guardian’s Sky ―女神の空―  作者: Sky Aviation
第9章 ―7日目 Day-7―
61/93

9-1

「教養のある銃弾の前に、無学な勇気は役に立たない」


 ――ジョージ・S・パットン(アメリカ / 陸軍将軍)

≫7月26日 AM07:22 浜松基地≪



 ――将官たちによる尋問の時間が終わった後は、ほとんど魂が抜けた人形か何かのように落胆しきってしまい、任務終了後の簡単な事務作業を終えた後は何もすることはなかった。いつものように談笑するなりはせず。周りも、事情を察してか誰も触れようとしなかった。


 そんな状態で迎えた朝。ある程度は精神的にも回復した羽浦だったが、それでも朝食が中々喉を通らない。時間も限られているので無理にでも流し込むのだが、いつもなら一口でガッツリと食べているはずのから揚げ一つすら、この日は皮からちまちまと食べるのがやっとな程の遅さだった。

 周りは相変わらずJ-20、そして、そこから聞こえてきた日本人パイロットの件で持ちきりである。その時任務に出ていなかった管制班員たちが事情を聞きつけるや否や、やはりこちらも動揺を隠せない様子でその話を持ち出していた。その喧騒を耳にしながらも、羽浦はほぼほぼ無心で朝食をゆっくりと口に入れていた。


「……はぁ……」


 飯時で気分が落ちることなど滅多に無い羽浦も、この時ばかりはため息ばかりを箸に摘まれたご飯に吐きかけてしまう。その隣から、気づかないうちに遠慮がちに近づく女性が一人いた。


「大丈夫ですか、羽浦さん?」


 百瀬である。身なりを整えつつ他より少し遅れてやってきた際、他の集団より少し離れた席で一人で食事を摂っていた羽浦を見つけたのである。普段は重本を含め何人かの集団に混じって食事をすることが多い彼だったが、「やっぱりあれのせいかな……」と、百瀬なりに察していた。


「顔やつれてますよ?」

「そんなにわかりやすいですか?」

「3日ぐらい寝てない漫画家みたいな状態になってます」

「うわ深刻だそれ」


 自衛官ゆえに睡眠はガッチリとっていたつもりだったのに……。やはり先ほどの件は相当応えたらしい。空と地上で二重のコンボなのだ。無理もないか。


「二人の友人さんの件ですよね? そうなるのもしょうがないとは思いますが……」

「二人? あれ、神野さんのことはまだしも、咲のことは……」

「あぁ、やっぱり気づきませんでした?」

「え?」

「あの会議室のドアの外、私たちいたんですよ」

「へッ?」


 あの会議室であたふたしているわ絶望しているわしていた間、百瀬たちは会議室の扉のすぐそこで聞き耳を立てていたらしい。機上での任務以来、羽浦の様子が気になっていた百瀬含む数人の管制員たちが、バレないように会議室内での内容を聞いていたために、大体の内容は知っていたのである。当然、羽浦の幼馴染である蒼波にも疑いの目が向いてしまったことも存じており、皆して「やべェ……」と頭を抱えていたようだった。

 あまり好まれた行為ではないだろうが、好奇心には勝てなかったようである。


「蒼波さんは大丈夫ですって。そんなことする人じゃないっていうのは羽浦さんの話聞いてたら嫌でもわかりますから」

「それは、そうなんですが……」

「上の人たちもひどいですよね。可能性の話を出したら幾らでもこじつけられますし、動機の話なんてこれっぽっちも出てないんですよ?」

「まあ、でてないっすね……俺もすけど……」

「どうせ、自分たちの部隊からそれらしい人が出たら出世に響くからってことで羽浦さんを即行で弾いたんでしょうけど、他の部隊の人なら幾らでも疑っていいかって話にはならな――」


 同じ女性であるからか。いつもの百瀬とは違い、蒼波や羽浦に対する感情移入が過ぎていつの間にか愚痴が次々と漏れていたが、そんな不機嫌顔の百瀬には目もくれず、相変わらず死んだような目をしながら、少しばかり脱力した様子で言った。


「違うんですよ」

「……え?」

「違うんです……あいつが疑われたのがショックではなくて……、いや、あいつが疑われたのも確かにショックですけど、そっちより……」


 それ以上先は言わなかった。代わりに出てきた大きなため息に、百瀬は再び心配げな顔を羽浦に向ける。朝食を口に運びながら、隣にいる羽浦の箸の遅さに肩を落とした。


「……本当に大丈夫ですか?」

「え? あぁ、まあ……」

「本当にですか?」

「え……?」


 今日の百瀬さんは随分と押してくるなと、羽浦は味噌汁をすすりながら百瀬のほうを見た。その百瀬は、羽浦の目の奥を探ろうかと言わんばかりにじぃ~っと見つめている。しかも、心配そうな表情ではありつつも、どこか疑念を抱いているような目だ。

 普段の百瀬とは違うと悟った羽浦は、少したじろぎながら聞いた。


「……どうかしました? 今日は妙に押してきますけど」

「いえ……、前々からずっと思ってたんですけど」

「はい?」



「羽浦さん、やっぱり蒼波さんのこと諦めてないでしょ?」



「――ッ、な、何すかいきなりッ」


 箸で持っていたご飯を落としそうになりながらも、一応は冷静さを装った羽浦だったが、しかし、それすらも「図星のしぐさ」であることを百瀬は見抜いていた。こういう時の彼はわかりやすいというのは、経験則から既に導き出されている。顔を物理的に詰め寄らせながらさらに続けた。


「羽浦さん、少し前から蒼波さんに関することになると顔が少し寂しげになるというか、思慮深い感じになるんですよ。ただの幼馴染にする顔かなぁとずっと思ってたんですけど……」

「そういわれても、事実としてアイツとは互いに幼馴染で――」

「いつも彼女のLINE見てても?」

「まあ、見てても……」

「その度に肩を落としてても?」

「……お、おとしてても――」



「神野二尉ではなく、蒼波さんの時のほうが“よっぽど必死に”幹部を説得していても?」


 

「ッ……」


 次々とついてくる疑問を聞くうちに、羽浦も自信を持って否定するのが苦しくなってきた。彼女が、“既に感づいている”ということに、羽浦も否応なく理解しなければならなくなったのだ。考えてみれば、彼女はこの若さにして既に子持ちの人妻なのだ。こうした分野に関しては、彼女のほうが先輩なのである。


「ただの幼馴染にしては妙に彼女のこと気にかけすぎているというか……誤解を受けそうな言葉ですが、こう、“執着”がすごいというか……」

「……」

「本当に、ただの幼馴染なんですか? 私は別に関係ないかもしれませんが、その……正直、見てられなくて……」


 何かあるのなら話してほしい。そう訴える目が羽浦を真正面から突き刺す。それをごまかすように、いや、その視線を頭から消すように、一気に朝食を平らげると、


「……俺は、大丈夫ですから」


 そう一言言い残し、空になった食器を戻しに席を立った。その場から急いで離れるように早足で、早めに食べ終わった他の隊員たちの列に混ざりに行く。その背中を目で追いながら、今度は百瀬が、寂しげな表情を浮かべていた……。




 ――プリブリーフィング後。管制員たちの顔は緊張そのものだった。

 今日の深夜頃、現地に展開していた特戦群より、正式に報告が入った。


 伊良部島、下地島に、熱核兵器はない。


 それを受けた官邸は、裁断を下した。明日の日中から夕方にかけて、米露空母を中心とする多国籍軍の極東革命軍北朝鮮拠点攻撃が行われる形で最終調整が完了したため、それに合わせて、明朝から米軍支援の下で三自衛隊総力を挙げた奪還作戦が実施される。最短ルートを利用するため、多国籍軍は宮古海峡を通過することで既に通知されており、この奪還作戦における結果が、今後の趨勢を左右するといっても過言ではない。多少の延長はあったが、内容が改めて隊員たちに伝えられると、いよいよこの時が来たかと皆が気を引き締める。

 ……が、その傍らで、やはり羽浦は気落ちしていたままだった。

 自分の荷物をまとめてトイレに行ってきた後、ふと、携帯を機内モードにするために取り出すと、着信の履歴があった。日付は昨日の夕方が2件、そして、つい先ほど鳴らしたらしい1件。何れも、蒼波からだった。


「……」


 まだ時間が少しだけあることを確認すると、人気のない通路に入って電話を鳴らす。3回とコールしないうちに蒼波は出てきた。


『あ、雄ちゃん? やっと出てきた』


 待ってましたといわんばかりの声量に、今が朝早い時間であることを思わず忘れてしまう。眠気も相まってだるそうな声を上げる羽浦とは対照的だった。


「悪いな、昨日出れなかった」

『ううん。私こそごめんね、急に呼んじゃったりして。今大丈夫?』

「ちょっとだけならな」

『ならちょっと聞きたいんだけどさ……。遼ちゃんの件、そっちどう思う?』


 どう思う?って言われても……。羽浦は返答に戸惑ったが、どうも、那覇基地の方でもこの件で大いに荒れたらしく、市ヶ谷から来た調査官が基地首脳幹部と会議室で結構揉めていたそうである。「情報がないとまともに調べることなどできない」ということで、神野のことを知っている飛行班員たちに聞き取り調査がされ、蒼波も、せっかくの休憩時間を半分くらい潰される形で受けたそうだ。

 だが、神野の恋人ではあるとはいえ、知っていることなどあまりない。少なくとも、極東革命軍に行く動機になるような情報など持ち合わせていない。幸いにして、調査官らは親切な対応をしてくれたようだが、恋人であるらしい蒼波ですら情報を持っていないことに大いに頭を抱えたようである。それ故に、何かそれらしい情報があれば教えてほしいと言われていたようだ。この電話も、友人の伝が使えるなら、というわけなのだろう。


「……てかちょっと待って。お前が恋人だってこともう知られてんの?」

『まあ、自分から言っちゃったし』

「あ、マジで」


 言っちゃうんだ、そういう重要なこと……。とすると、羽浦としては昨日の会議室での会話を思い出してしまう。恋人であるからというだけで、可能性を免罪符に動機も考えず疑われた。ここでもあったことは、向こうでも起こりえる。かの派遣連絡官は、那覇基地にも念のためその可能性を伝えておくといっていたが、これが既に伝わっていたら……。


「あのさ」

『ん?』


 少し言葉に詰まりながらも、唾を飲み込みながら聞いてみた。


「……お前も、共犯とか疑われたりした?」

『共犯?』


 少しだけ声を張った蒼波。唐突に聞かれた予想外の質問に驚いた様子だったが、それでも淡々と返してきた。


『まあ……疑われなかったわけではないわよ?』

「ッ!」


 羽浦の心臓が一瞬跳ねる。しかし、蒼波は何ともないようにさらに続けた。


『でも、色々話しているうちに「貴方がやる動機何もないですね」って言われて……だからそれ以上は何もないわよ?』

「そ、そうなのか?」

『だって、恋人だった私を疑ったら、いつも僚機に従えてたパイロットとか、309で特に親しかった教官とか、その他諸々調べる相手多くなりすぎるもの。ある程度は絞らないとやってられないでしょ』

「そ、そうか……そうだよな……」


 ハハハ……。と、乾いた笑いが羽浦から自然とこぼれる。そうだ。動機も何もない奴まで疑ったら、調査対象が余りに多くなりすぎる。確かに恋人という関係は特別なものだが、そうした関係にあるだけで疑いの目を向けるのは早計なのだ。かの調査官たちは、それをよくわかっていたらしい。


「(そうだよな……あいつが、そんなことするわけないよな……)」


 そうだ、するわけない。そんなことを……。羽浦は安心しきった顔をしながら、少々不気味ともいえる笑顔を浮かべて小さく笑い続けていた。それはまるで、自らを“貶す”ようで。


『……ち、ちょっとどうしたの? すんごい怖い笑い声聞こえるんだけど……』


 困惑しきった蒼波の声を聞いても、羽浦のその表情が崩れることはない。むしろ、自嘲気味に話し始めた。


「いや……実は俺も、上官と一緒に事情聴取受けてさ」

『え、うそ!? なんで?』

「遼さんのこと知ってるってのは上にも伝わったらしくてな。それでどんな奴だったかとか、それらしい様子はあったかとか、基地首脳幹部に報告したんだけどさ……」

『う、うん……それで?』

「お前が、遼さんと仲がいいっていうのは人事報告で知られてたらしくて……」

『あらぁ、マジで……ァハハ、そんなに目立ってたか~』


 蒼波は少々照れるように小さく笑っていた。彼女としても予想外だったらしいが、それだけなら特に何とも思っていないらしい。だが、問題なのはそこじゃない。それを伝えねばならないのかと、鬱屈になる羽浦は小さくため息をついた。気味悪い表情の変わりに、今度はすこぶる暗い表情を浮かべながら、いっそう気の沈んだ声で言った。


「……その過程で、お前が恋人だってのも言ったんだよ」

『あ、言っちゃったのッ?』

「言い訳じゃないけどさ、将官から「ただの関係じゃないのはわかってる」みたいな風に迫られちまってさ。あれに抗えってのは無理な話なんだわ」

『あら~……私どんどん有名になるわねこれ』


 ここに来ても、彼女は照れながらもまだ笑い話にするつもりだったようだ。その後、肝心なことを言わねばならないと思うと胸が苦しくなる。暢気な彼女の声から被せるように、


「――そんで、お前が疑われた。共犯者じゃないかって」


 一瞬間があったものの、『あちゃ~』と苦笑したような声が響き、


『なに、そっちでも疑われちゃったの?』

「疑われた。恋人なら共犯するに絶好の立ち居地にいるって」

『オーマイガー……。いやわかるんだけどさぁ、もうちょっと頭使おうよってね? やる理由ゼロだし、私ほどの愛国者はいないよ、たぶん』

「どの口がいってやがるんだ」

『統幕長の愛娘舐めちゃならんよぉ、雄ちゃん。私ほどになるともうどっかの神社で「テンノーヘイカバンザーイ!」って叫んでくるから』

「やめろその話は間違いなく荒れる」


 実際にはやってないくせに……。それでも、疑われたこと自体はさして気にしている様子はない。幸いなことだ。そうした部分の割りきりがいいのは蒼波の長所である。ゆえに、


「……すまん」

『え?』


 羽浦は、無性に謝りたくなった。


「――お前が疑われた時、即答できなかった」

『何が?』



「……お前が、やってるわけないって――」



 羽浦の声が、少しだけ絞るようなものになっていた……。





「――え?」


 蒼波は、心底困惑したようにそう返した。「(いきなり何を言い出すの?)」と、蒼波の頭の中は「?」で一杯になったが、しかし、何か深刻なことを言っているらしいことは悟ることができた。自らの幼馴染が、ここまで暗い声を向けることなどほとんどない。蒼波も少し焦っていた。


「ち、ちょっと待って? 即答できなかったってそれのこと?」

『今言ったろ。お前が疑われた時、「可能性は否定できない」って言われて、何も返せなかった』

「そ、それだけ? 即答できなかったってそれだけなの?」

『一瞬でもお前を疑っちまったんだぞッ』


 少しだけ声を張った羽浦の声に、蒼波は肩を一瞬震わせた。つまり、上官から自分を疑われた時、すぐに否定することができなかったことを心底悔いているということなのだ。まさか、それでわざわざ謝ったのか? 蒼波はそれはそれで困惑していた。


『遼さんがいない今、お前を一番信じてやれるのは親以外は俺ぐらいだってのに、否定できねえで固まっちまった。……信じてやらねえといけない立場なのに……ッ』

「ま、待って。それは流石にどうしようもないことでしょ? 可能性っていわれたらそりゃ親だって否定できな――」

『それでも悔しいんだよッ、お前は絶対にやらねえってわかってるのに!』


 電話越しに、羽浦が声を荒げた。そして、その奥からかすかに聞こえてくる、“すすり声”。


 羽浦は、本当に悔しかったのだ。可能性を出されたら確かに明確に否定しきることなど不可能だろう。だが、それでも、それを突っぱねることができる根拠を持っている程度には、蒼波とは長く付き合ってきたつもりだった。そして、神野が敵側に寝返った今、両親親戚以外で、蒼波のそばで最大限支えることができる人物は、自分自身であることを羽浦も自覚していた。


 ――しかし、その「支えてやらねばならない」という責任感は、かの上官らの尋問によって簡単になぶり倒されてしまったのだ。しかも、その上官の出してきた理屈は、ほぼほぼ濡れ衣に近いものだったのに、簡単に言いくるめられてしまった。守れなかった、という悔しさは、“申し訳なさ”という感情に形を変えていたのだ。


「(……そ、そこまで考えなくても……)」


 幼馴染がここまで気にかけてくれていることには感謝しかなかった。持つべきものは幼馴染である。ただ、これは責任を感じすぎだ。ヤンデレにでもなるわけじゃあるまいし、もう少し気楽に構えていていいはず。そう思った蒼波は、優しく諭すように言った。


「だ、大丈夫よ。ね? 後々調べたらやってないってわかるから、その時に「それみたことか」って言ってやれば――」

『それまでは疑われっぱなしだよ……』

「す、少なくとも、こっちの調査官は今のところ親切にやってくれてるし……」

『今はな……』


 ほんの少しだけ涙声になっている羽浦。よほど悔しかったのだろうというのはもう嫌というほど理解できたが、これはどうしたものか。彼もこの後飛ぶのに……。

 このまま機に乗せるわけには行かない。今まで彼に助けられたりしたのだ。何か気の聞いたことを言ってやらねば……。


「(ていっても、何言えば……)」


 そんな機転の利いたことをするのは、むしろ彼のほうだ。自分は愚直なまでに素直にやる性分であるし、空に上がってもそうして生きてきた。そのままのことを言っていいのか? 素直な言葉を放り投げて、彼は立ち直ってくれるのか? ここまで自分のことを考えて、小さく涙を流してまで悔しがっている彼に、どんな言葉を与えればいい?

 フライトまでの時間もない。細かく考えることは、蒼波の得意とするところではないのなら、


「……よし」


 これしかない。羽浦が、『そろそろ行くから』と、電話を切ろうとしたときだった。


「待って」

『?』


 はっきりとした声で、羽浦を呼び止める。その顔は真剣そのもの。人通りのない通路でやる表情でもない。その表情を電話越しに伝えんとするように、ハキハキとした口調で、蒼波は続けた。


「……雄ちゃん、悔しいのよね? 私を守れなくて」

『まあ……』

「守りたい、という言葉に嘘はないわね?」

『当たり前だろ。どこにいたってそうしてやる』

「なら――」


 蒼波は、少しだけ口元をニヤリとさせて、



「――空の上で行動で示して。地上で守れなくても、空の上ならアンタのホームグラウンドよ。“やれるんならね”?」



 本心からの叱咤激励。細かく考えることをやめた蒼波が出した、最大限の“エール”。守れるもんなら守ってみろ。このやりたい放題の空の上で。あえて、最後に嘲笑混じりに挑発的な態度をとるのが、蒼波なりの“応援”だった。今から彼にも、自分の命を預けるのだ。多少「イラッ」とさせても、その気にさせるのが幼馴染たる自分の役目だと、それぐらいは蒼波も自覚していた。


『……ハァ、お前、この状況で俺をバカにするとかいい度胸してるな?』


 呆れた口調でそう返す羽浦に、蒼波はさらに畳み掛けた。


「今から命預けるんだからしょうがないでしょ。それとも何? まさか空の上でも守れませんでした、なんて話ないわよね? 私もれなく黄泉の国行って来るわよ?」

『なら黄泉津大神ヨモツオオカミによろしく言っとこうか? 「うちのアホが世話になります」って』

「死ぬ前提はおかしくない? 私まだやりたいことあるんだけど」

『なんか死んでも悲しくなさそうでな』

「待ってなさい、後でJDAM落としにいってやるんだから……」


 「ぐぬぬ」と悔しがる蒼波の声に返ってくる、羽浦の呆れ笑い。そういうのを待っていた。

 軽くつっついてやれば、簡単に乗せられる。自分は何ともない、いつも通りだということを教えてやれば、さっさと立ち直ってしまう。昔からこうだ。

 だからこそ、蒼波は心底安心できた。これで、自分の目を任せられる。


「――守ってよ? 割り当てられるかは知らないけど、今日も私飛ぶから」

『あぁ、わかってる。……悔しさは空の上でぶつけてやるよ』

「それが雄ちゃんらしい。……じゃ、行ってくるね。今日もCAPでいつものメンバーだから」

『おう、上でな』


 そういって、羽浦との通話を切った。最後はいつもの声に戻っていた。少しは元気付けられただろうか。彼ほど気の利いたことはいえなかったかもしれない。しかし、調子を取り戻させることぐらいはできたはずだ。幼馴染として、これぐらいはできてもいいだろう。

 ……そして、通話が終わったスマホの画面をみながら、



「……変わってないなぁ、お互い……」



 “一つの後悔”を胸に抱きながら、


 ホッとしたように肩を落としていた……

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