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『殲撃-20』――近未来の空戦の中核を担うことになるであろう最新鋭ステルス戦闘機を自国で作り上げるべく、成都飛機工業集団公司が『718工程』の名の下で開発した、第5世代双発ステルス戦闘機である。
旧ソ連の『MiG-1.44』戦闘機を思わせるドでかい図体を持つこの大型戦闘機は、中国が始めて開発した国産のステルス機にして、アジアで初めてステルス機を自作して実戦配備にまで漕ぎ着けた、まさに中国の威信をかけたといってもいい“現代の中国の科学技術の結晶”でもある。中国共産党の推し進める急速な軍の現代化の象徴。そして、日本が、少々値が張ることを承知の上でF-35を導入することになった一番の原因でもあるだろう。ステルスに対抗できるのは、基本的にはステルスしかないのだ。
2011年の初飛行後は、各種試験を経て2017年に実戦配備を開始。国威発揚もかねて様々なイベントに出ずっぱりとなり、演習でも多大なる威力を発揮していた。
2017年に中国で行われた対抗型軍事演習『紅剣−2017』では、J-20は戦闘攻撃機『J-16』とタッグを組んで、第4~4.5世代戦闘機やAWACS、地上兵力が合体した大部隊への攻撃を敢行した。その際、J-20は自らのステルス性を十全に発揮し、誘導担当となってJ-16に対し的確に敵への遠距離攻撃を指示し、1機の損失に抑えた上で敵に壊滅的な被害を与えることに成功した。
敵役は、現代の空戦におけるベーシックな兵力編成とシステムで構成されていたにもかかわらず、このような惨憺たる結果となってしまったことに、中国空軍は相当なショックを受けた。ステルスとは、まさしくこういうものなのであるということを、まざまざと見せ付けられたのである。
中国のJ-20にかける期待は当然大きいものだ。今では中国空軍のPVにはほぼほぼ当たり前のように出てきては、その巨体が力強く、そして逞しく飛び回る様子を披露している。将来の中国における誇りであり、世界に対し、中国の急速な成長と発展を確信させる。そして何より、空の上での中国のイニシアティブを握る上での、まさに“キーウェポン”としての地位を確固たる物としていくだろう――。
――そんな、中国空軍内では出世街道まっしぐらな主人公である戦闘機は、今、
「――J-20が飛んでる!? 2機も!?」
なぜか、豪然と東シナ海の空の上を飛んでいる。“極東革命軍の手によって”。
――こんな事態をすぐに信じる人などいない。敵はただの反乱軍であって、兵器も半ば強引に分捕ってきたり、適当に偽装して北朝鮮にフェリーしてきたものばかり。それゆえ、持ってこられるのは軍内でも普及しきった主力機から1世代前の機体が中心だった。AEWや輸送機が最新なのは一種の例外みたいなもので、少なくとも、ただでさえ中国軍においても最新鋭中の最新鋭で、セキュリティも万全であろう“あの機体”が、まさかこいつらの手の中にあるなどとは考えてもいなかった。
……しかし、アイツが嘘をつくはずもないし、見間違えるはずもない。あそこまで特徴的な機体を、別の機体と勘違いすることはまずない。MiG-1.44は、今はモスクワ近郊の空港に放置されているためこんなところは飛ばないし、第一あれは1機しか製造されていない。ここで映ったのは2機だ。
極東革命軍が、J-20戦闘機を手に入れたばかりか、それを飛ばして攻撃を仕掛けている――そう結論付けざるを得ない羽浦たちの衝撃は大きかった。まさか、最新鋭のステルス戦闘機まで分捕ってきているとは想定外だった。それを示唆するような報告は、どこからも上がってきてはいなかったのだ。
「ステルスいたか? レーダーでは確認できないッ?」
「出たり消えたりです。まともに見えません!」
「撃墜現場にレスキュー回しといて。そんなに長くならないはずだからいつでも入れるように近傍で待機させるよう伝達頼む」
重本たちの指示の声が室内を行ったりきたりいている中、直接現場を管制している羽浦は、出たり消えたりするアイコンを目で必死に追いながら、焦りを増幅させていっていた。どこにいるかがまともに把握できず、ほとんど神出鬼没の状態。現場にいるパイロットたちから、どこでどんな状態で飛んでいるかを聞きながら、どういった形で敵が動いているかを脳内でシミュレートせざるを得なくなっていた。
ステルス機対応の訓練で度々やったことであるが、まさか実戦で、ましてやあんな組織相手の戦争で実践することになるとは思っても見なかった。羽浦は未だに、現実感を抱けないでいる。
「デモイセルに確認取りました。向こうもまともに見えてないそうです。今太平洋空軍経由でペンタゴンに確認を取っていると」
「レイヴンは見えただろ、なんで最後までわからなかったんだ?」
「デモイセルも情報もらってなかったそうです。たぶんESSモードでミサイル対応に出力集中させ過ぎたんじゃないかって向こうは言ってます」
「タイミング悪すぎるだろ、狙ってたか?」
「たぶん狙いましたよ。どうやったかは知りませんけど」
新代が神妙な面持ちで言うのを、重本は「参ったな」と呟き返しながら乱暴に頭をかいた。
E-2Dの使用するAN/APY-9は他のレーダーとは違い、波長の長いレーダー波を使用している。そのため、従来のレーダーでは波長が合わず探知できなかったステルス機を、質の違うレーダー波を使用することで探知可能となるという塩梅だ。ステルス機とて万能ではない。あらゆる電波を適度な方向に跳ね返すということは困難であり、逆を返せば、見つけやすい波長のレーダー波を使えば探知できるという意味でもある。実際、現代でまともに使えるかはまだしも、技術的問題から波長の長い周波数を使っていた第二次大戦当時のレーダーなら探知できるとも言われている。
そこに目をつけたアメリカの製造メーカーは、幾つかの欠点を克服し、AESAレーダーとして採用。AN/APY-9には、通常通りの全周警戒を行う『先進早期警戒監視』モード、全周警戒を行いつつ特定のセクターに対して電子的にビームを指向する『拡張セクタースキャン』モード、レーダーを固定させて特定のセクターに集中的にビームを向ける『拡張追跡セクター』モードの3つの動作モードが用意されており、必要に応じて切り替えが可能である。
詳しいことはE-3も最後までわからずじまいだったようだが、状況としてはESSモードを用いて対艦ミサイルを集中的に追跡しつつ、周辺も監視していたであろうということだった。だが、ステルス機を探知するのに有効とされるのはESTモードの時とされており、しかも探知距離にも限界はある。ましてや、撃墜されるときのE-2Dにしてみれば、J-20は4時方向のはるか上空という電波が向きにくい位置にいたのだ。それより前の段階で探知できなかった時点で、ほとんど勝負あったようなものだった。
「(見えなきゃどうしようもねえだろ……)」
パイロットが見えない情報を提供してこそのAWACSであるにも関わらず、その役目がまともに果たせないようでは存在する意味がない。今こうしている間にもJ-20はどこかを飛び回っている。レーダーに一瞬、もしくは長くて数秒映ったと思ったら、また消えてしまう様は、透明人間が繰り出す一種の“煽り”のようにも思えた。これでも、最初よりは表示される回数は増えたほうなのだ。
しかし、乗せられてはいけない。今は、この戦闘機を退けなければ。ただでさえもうすぐ燃料がビンゴになるという状況なのだ。
「これも攻撃しますか? 敵対行動は明らかです」
「可能ならしたほうが良いが、どこまでやれる? 雲の中を出たり入ったりだろ?」
「牽制ぐらいにはなります。他と同じく遠距離飛行をしてきたなら、長時間の戦闘はしたくないはずです」
「なら7分だけだ。後は嘉手納のイーグルが短距離ミサイルの射程に入る。それまで耐えさせろ」
「了解」
いったん気持ちを落ち着かせ、レーダー画面に向き直る。ステルス機ゆえ、中距離AAMのレーダーホーミングのシーカーはほぼ使えない。もとより、母機となる戦闘機自身もうまく捕捉できないのだ。赤外線誘導を使っている短距離AAMの射程に入るまで待たなければならない。
だが、数はこっちが上だ。この混乱した状態からの乱れ撃ちで撃墜を狙うのは厳しいだろうが、嘉手納からの援軍が来るまで生き延びる、もしくは、“逃げ回る”ことに徹すればいい。
「グリズリー、今嘉手納から援軍が向かってる。7分で到着予定。それまで持ちこたえろ」
『とっくにやってるぜ! IRミサイルと機銃しか使えそうなのないけどな!』
近藤の強引に放り投げるような声がスピーカーから発せられる。事実、4機は入り乱れて飛んでいる。時折、J-20と思しき反応も出てくる。どこに出てくるかわからないが、彼らは肉眼では見えているのは間違いなかった。彼らの動きから推測するしかなかった。だが、レーダーは二次元的動きしか示してくれず、高度と速度は数字で表されるのみ。立体的な動きを脳内でトレースしながら、J-20がどこにいるかを推測して指示を出すしかなかった。
ただでさえ、空戦になったら彼ら任せなのに、今度は状況を見ることすら許されないのだ。やるせなさといったらない。羽浦は祈るような気持ちでいた。
「(死ぬなよ……J-20は機動性抜群だぞ……)」
格闘戦におけるJ-20は、表現は悪いかもしれないが、いわば“動けるデブ”といったイメージである。ステルス性に悪影響を与えることを承知で備えたカナード翼やベントラルフィンは、他国機と比べても大型の部類であるJ-20の運動性向上に大きな貢献を果たしていた。将来的なステルス機同士の戦闘において、中距離で決着がつかず、近距離での殴り合いに発展した場合を想定しての設計といわれており、今まさしく、その俊敏なる機動力を十二分に発揮しているところであろう。
もちろん、殴り合いはF-15の得意とするところである。しかし、現代の空戦は純粋なる格闘戦能力で勝敗は決まらない。20世紀の戦闘機の性能を図る上でのものさしが“スピードと機動性”であったならば、21世紀は“エレクトロニクスとインテリジェンス”である。インテリジェンスは間違いなくこちらが上である筈だが、ステルス性能のおかげでその恩恵も余りなくなっていた。エレクトロニクスに関しても、幾ら近代化改修されたとはいえ、世代からして違う。最新鋭第5世代機のほうが、圧倒的に上だった。
――贔屓目で見たとしても、数は上なのに、十分“不利”だった。
『スリット! そっちの後ろいるぞ! 5時方向!』
『クソッ、すばしっこくついてきやがる!』
『ッあぁ、また雲の中に入った! こっちの動き読んでるってレベルッスよこれ!?』
『ぅわッ、あぶねェ! すぐ近くでミサイル破裂! まだ飛べる!』
『アマテラス! 援軍あと何分!?』
「あと3分だけだ。向こうも急いでる」
『3分“も”の間違いでしょそれェ!』
蒼波のツッコミになんとも返すことはできなかった。まあ、ごもっともっちゃあごもっとも……。
「戻ってきてるバザード5とラクーン1のうち武装残ってる奴こっちにこれないか?」
「今向こうに伝えてますが、今から言っても4~5分かかるそうです。向こうもレーダーには映っていないと言ってて」
「嘉手納のほうとそんなにかわらねえか……」
BVRから戻ってきている部隊を使えないかと踏んだ重本だったが、到着時間からしてさして変わらないらしい。BVRさえできれば、せめて牽制にはなるのだが、レーダーに映らなければどうしようもない……。
とはいえ、援軍が直ぐにこれないならばどうしようもない。ここからは時間との勝負でもある耐久戦。時折映るブリップを目で必死に追いながら、その位置情報をできる限り伝えるという作業が続いていく。ミサイルは時折撃たれているらしいが、回避には成功しているらしい。
「(舐め腐りやがって……1機ぐらい簡単に撃墜できるくせに……)」
たまに画面に映るJ-20のブリップを見ながらしかめっ面をかました。そもそも、ステルス機のくせにのうのうと敵の真ん前に躍り出ること自体、ステルス機の戦い方としてはナンセンスだ。ステルスというせっかくのメリットを十全に生かそうとしないやり方。幾ら格闘戦にも強いとはいえ、レーダーにはほとんど映らないのだから、遠距離からミサイルを撃って逃げるを繰り返していればよかったのだ。わざわざ近接戦に持ち込む戦術的な意味はない。
――自分らは落ちないという“煽り混じり”の自負か。それとも、中距離ミサイルを持っていなかったのか。何れにせよ、AWACSすら持ってきて万全の防空体制で挑んでいる羽浦たちにとっては、このようなやり方は“挑発”にすら見えてしまっていた。実際、何回かミサイルを絶好の場所から撃ってきたはずなのに、“容易に”回避できている。
『こいつら本当にやる気あるんスか!? 今の俺絶対落とされてましたよ!』
『シーカー冷却不完全にしてるか中間誘導途中で切るかしてんだろ! 舐められてんのか俺ら!?』
その推測は、羽浦だけではなく、現場で戦っているパイロットたちすらも感じ取っていた。自分らは撃墜されないよう雲を利用して巧みに避けていながら、本気で落としにこない。単純に扱いきれていない、などというわけではないだろう。断続的に映るブリップを追っていても、下手な機動には見えない。
頭は冷静であろうとしても、感情は徐々に熱くなってしまう。近藤が必死に冷静になるよう呼びかけながら、必死に攻撃をかけようとしていた。しかし、それを嘲笑うかのように、ひらりひらりとかわしていく。
だが、その地獄からももう少しでおさらばできる。来援する米軍機の位置を確認。そこまで遠くない。もうすぐだ。距離と速度から考えて……。
「あと2分だ。もう少し」
そう無線で投げたときだった。
『――ミサイル! ミサイル! 一気に複数きた!』
近藤の声だ。はじかれるように羽浦の目はレーダーに映ったミサイルに向けられる。計6発。先ほどまでちょこまかと撃っていたのとは違う。絶好の場所から、確実に殺しにかかるタイミングだ。
「(誘導は……されてる。シーカーは生きてる!)」
意図的に性能を落としていない。これは当たる。瞬時に悟った羽浦は叫んだ。
「スリット、フェアリー。ミサイル接近。3発ずつ、そいつは当たるぞ! すぐに逃げろ!」
『3発ゥ!?』
『マジかよ、さっきまでの煽りはなんだったんだ!』
もう落とす気はないのではとイラついていた彼らにとっては、完全に不意を突かれた形になった。しかも、ほぼ真後ろから一気に3発。これは確実に当たる。切谷も蒼波も、できる限りミサイルに直角になるように動くが、1発はかわしたものの、2発目は二人ともかわし切れずすぐ近くで爆発。まだ遠くだったのでうまく飛んでいたが、
『ヒィぃッ!!』
残りの3発目は、蒼波のほうが2発目の後を追うようにして至近で爆発した。切谷はまだしも、蒼波は2発連続で喰らったため、動きが極端に鈍る。蒼波が一瞬あげた悲鳴に、羽浦の肩は強張った。
「フェアリー、スリット。大丈夫か?」
『俺はまだ大丈夫だ! でもフェアリーはまずい! 主翼から黒煙上がってる!』
『右垂直尾翼も半分折れやがった。もう飛ぶしか出来ねえぞ!』
クソッ、やっぱりダメージがデカかったか! 直撃ではないとはいえ、2発も破裂による破片を喰らったんだ。むしろ飛べてるのは幸運だろう。そして、無線に次に飛んできたのは、慣れ親しんだ彼女の声だったが、
『……ま、まだいる……』
――震えていた。バックミラーを見て、ミサイルを放ってもなお真後ろに陣取るJ-20を見てしまったのだろう。敵のミサイルの残弾を急いで確認する。今までそれぞれ6発も撃ってきている。胴体下部ウェポンベイは通常4発が限界だったはずだから、側面ウェポンベイの数とあわせて6発。もう奴らはミサイルは持っていないはずで、J-20は固定機関砲を搭載していない。もう攻撃をする必要はないはずだ。
だが、J-20が逃げているという報告は来ていない。レーダーで断続的に映るブリップの情報から見ても、少なくともその空域を去ろうという動きは見せているようには見えなかった。一体何を残して……。
「(――待てよ?)」
そういえば、IRミサイルは全部で幾つ飛んでいった? 近藤に確認を取ったが、部隊内の無線を聞いている限り、4発飛んできたはずだといっていた。J-20が基本的に搭載しているIRミサイルのPL-10は、側面ウェポンベイにしか搭載しない。1機につき2発ならもう発射しきったはずだから、残りがあるとしたら胴体下部ウェポンベイにある中距離AAMのみ……。
その時「ハッ」とした羽浦は、左手元にあったファイルを素早くパラパラと捲った。中国空軍の戦闘機に関するデータを取りまとめた資料の中からJ-20の項目を見つけ出し、ウェポンベイに関する注意書きを見た。曰く、実はサイズから考えて、細いPL-12であれば、翼を小型化させて上下にずらせば6発入るかもしれないという話があった。F-22も、似たような形でAIM-120を6発搭載可能にしていた。
この推測が出たのは今から10年以上も前。今までの改良のうちに、本当にそれが現実化したとすれば……。
「(――まだ2発残ってる!)」
刹那、今度は近藤が叫んだ。
『撃ってきやがった! まだ持ってるぞこいつら!』
『こっちもきたッス!』
大洲加も続いて叫んだ。レーダー画面は、新たに発射されたミサイルを表示している。計2発。やっぱりだ。6発搭載で済ませていない。使っているPL-12が細いことをいいことに、胴体下部ウェポンベイに6発も押し込んでやってきたのだ。そして今、それぞれ1発撃った。ということは……。
気がつけば、無線のマイクのスイッチを入れて声を荒げていた。
「フェアリー、エンジン生きてるか!?」
『生きてる!』
「そいつあと1発残してる! 撃たれたらすぐにハイGターンで逃げろ! そしたらもう攻撃はない!」
次の瞬間、蒼波の機体の速度が少しだけ上がった。距離を置いて、少しでも回避しやすいようにする気だ。それでも、後ろにいるJ-20は悠々と張り付いてくる。もう1機のJ-20からはさらに1発ミサイルが発射された。近藤はかわしきれなかったらしく、至近距離での弾等の炸裂を受ける。だが、まだ飛んでいた。
「グリズリー、無事だな?」
『生きてるよ畜生!』
「そいつはもう攻撃してこない。フェアリーのストーカーしてるJ-20を落とせ」
『見えた、落とさせるかよッ』
近藤が蒼波の元に急行。ミサイルを撃ちつくしたJ-20を切谷と大洲加が牽制するが、切谷もすでに被弾している。うまく動くことができずにいた。その隙を突いてか、J-20は巧みに牽制をかわして、近藤に圧力をかけていく。
『クソッ!』
攻撃はできずとも、極度に急接近されては避けない訳には行かなかった。いったん機体を翻して体制を立て直そうとするも、その度に的確に相方のJ-20の邪魔をさせないような立ち回りをする。3機のF-15Jを、たった1機で相手取っているばかりか、それのせいで近づくことすら用意ではない。しかも1機は、被弾のせいでうまく動けていないという悪条件だ。
羽浦の焦燥感は増すばかりだ。J-20は今にも撃とうという体勢でいる。徐々に近づき、確実に命中するように、回避の隙すら与えないような必中距離にまで近づいていっていた。残り1発しかないから、せめて蒼波だけでも確実に落とそうという腹積もりらしい。ここまでくれば、中間誘導もほとんど必要ないだろう。すぐに終末誘導に切り替わり、あとは確実に後ろから直撃するか真上で破裂する未来が待っている。
その蒼波も、エンジンの持っているあらん限りのパワーを捻り出そうとしているが、中々速度が上がらない。角度が悪いのか、レーダーには蒼波を狙っているJ-20はもはや映らなくなっていた。
「(……咲……)」
もう手は尽くした。あとは逃げ切れることを祈るしかない。援軍まであと1分もない。もう視界の隅では、援軍でやってきた4機のF-15Cがミサイルを撃つ体勢で待機している。あとは射程に入るのを待つだけ。でも、余りに長い。
画面を操作するために使うマウスを握る力が強くなる。マウスを握ったまま震えてすらいた。蒼波が逃げ切るか、それともさっさとミサイルを撃つかのどちらかしかないチキンレース。今撃たれたら、ただでさえダメージが大きい蒼波の機体では、必中距離からの回避はまず無理だろう。ここからしてやれることは、もう何もない。
「(頼む頼む頼む頼む……)」
そう、祈るだけだった。
「――ッ! ミサイル! ミサイル!!」
その祈りが、成就することもなく……




