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Guardian’s Sky ―女神の空―  作者: Sky Aviation
第8章 ―6日目 Day-6―
56/93

8-5


『――特に何も起こらんじゃねえか。暇なもんだ』


 そうぼやくのは近藤である。蒼波のすぐ隣にぴったりとくっついて編隊飛行をしていたが、ぐるぐる回っているだけであったためか、動きものっそりとしてきていた。

 北の方角では熾烈なBVR戦闘が先ほどまで行われていたが、それもほぼほぼ終了した。一部部隊は帰還を始めている。今、別の部隊が那覇を中心として沿岸の基地から飛び立っている頃であろう。

 米軍駆逐艦とE-2Dの連係プレーも、順当にこなしたようだ。遠めで見る左側の垂直尾翼には、機番号にテールコード……報告どおりのやつがペイントされていた。そして、大きな黄色い星に上から黒いカラスの意匠をあしらった、一目で『星のカラスたちスター・レイヴンズ』とわかる部隊マークもある。何もしていないように見えるが、その中では、駆逐艦から飛んできたミサイルをしっかりと運ぶという重要な役割を全うしたのである。


『アマテラスよりバザード7-1、対艦ミサイルの撃墜を確認。敵部隊も撤退を始めた。もう少しだけ頼む。担当の部隊がくるまであと10分ほど』

『了解。あとで謝礼もらっといてくれよ。銀座にあった三ツ星のすし屋で手ェ打つから』

『謝礼高すぎるわ。自腹で行って来い』


 階級的には上官といえど容赦はしない幼馴染に思わず苦笑を浮かべる。ここでの指揮官は彼ではあるし、指示の簡略化の意味も含めてタメ口でいることが多いのを知っているのでなんと言うことはないが、今更ながら、よくまあ問答無用で駄目出しできるもんだと感心してしまう。

 E-2Dはバンク角を緩め、緩やかな右旋回へと入った。米軍E-3から、帰還命令か、元の担当空域に戻るよう指示が出れば、すぐにその方角に機首を向けて去っていく。そこまで時間はかからないはずだ。今頃、E-767はE-3と連絡を取り合い、この後のE-2Dと護衛機の動きについて調整を行っているはずだ。


『スリットよりアマテラス。今RWRがやんだ。カラスさんのほうも敵のレーダー照射がやんだって言ってる。結局なんだったんだ?』


 切谷がそう羽浦に聞いた。先ほど、短時間ではあるがレーダー照射を受けていた。それも、BVRをしていた敵の航空部隊だ。しかし、当然ながら彼らに攻撃を仕掛けることができる距離ではない。羽浦も、理由の分からないレーダー照射の意図には首をかしげていた。


『こっちもよくわからん。レーダー照射を行ったらしい敵は判別できたが、そっちに攻撃するそぶりはなかった。たぶん行く手を阻まれたんだろう』

『まともに攻撃する気もねえのにレーダーだけ打って脅しってか? ずいぶんと雑なことをしてくれるじゃねえか』

『門前払いされたからな。あと10分したら交代だ、気は抜くなよ』

『了解了解』


 気を抜くな、といわれているのに少し投げやりな返事に聞こえるのは、たぶん気のせいではないだろう。敵方だって、AEWの存在は知っていたはずだし、だからこそレーダーを照射していたはずである。多少は強引に前線を突破してくるかと思いきや、その前線で出迎えた部隊が頑張った結果、格闘戦にすらならなかった。蒼波も同じ戦闘気乗りである。少しばかり拍子抜けしてしまうのもわからなくはなかった。

 尤も、現代においては格闘戦が起きるほうが珍しい方なのであって、格闘戦をバリバリやっている今回の戦争における空戦が結構なレアケースなのである。オンラインのカードゲーム制のソーシャルゲームなら、星5がつくレベルで貴重なのだ。


 BVRで済むほうが楽といえば楽なのだが、それすらないこちらは暇である。何もないに越したことはないに違いないが、暇であることも事実であるからして、無線越しに切谷の欠伸が聞こえてきた。一応は護衛中だというのに、呑気なものだと蒼波は軽くあきれていた。


「(何もなく終わりそうね……)」


 だが同時に、遠めに米軍のE-2Dを見ながらそう安堵する。連日空戦しっぱなしの日々であったが、昨日に続いて今日も何も激しく飛び回ることもなく終わりそうだ。一回空戦をし終えたら、あとは2~3時間は最低やってこない。これまでの経験則から、既にそうした法則は導き出されていた。連続して部隊を差し向けては来ない。その間に、自分たちは燃料がビンゴになり、一旦基地に戻ることになるはずだ。

 特に戦闘していないが、自分たちも長時間CAPについていたため、そろそろ燃料に限界がくる。この後は別の担当がくる手筈になっているので、今のうちに帰還経路の確認を――。



『――あのぉ、上でコントレイル引いてるの誰ッスか?』



 そう無線で声を投げたのは、E-2Dを護衛していた大洲加だ。ここ、高度約3万フィートより上のほう。太陽の光を抑えるように目を細めながら、蒼波は右手3時の方向の上を見やる。確かに、2本の白い線が北東の方角から一直線にこちらの方向にやってくるのが確認できた。

 あんなところにコントレイルを引く飛行機なんていただろうか。しかし、あの高度ならもうE-767が捉えていてもいいはずなのだが、何もいってこない。味方なら、敵だと勘違いすることを防ぐために事前に言ってくれてもいいはずだ。もしや、気づいていないのか?


「(まさか、雄ちゃんが見逃したなんてことはないだろうし……)」


 あのいらんところがクソ真面目な幼馴染に限ってそんなことはありえないと思いながらも、近藤にコントレイルの存在を伝えるか聞いた。


「どうします? 隊長から伝えますか?」

『あー、そうだな。俺から言っておく』


 そして、近藤がすぐさま羽浦を呼び出した。


『アマテラス、こちらバザーd――』



『コントレイル途切れた! こっちきますよ!』



 割り込むように大洲加が叫んだ。蒼波が再度コントレイルがあるはずの方向を見ると、本来は自分らの上の方向を通り過ぎるように伸びる白い線が、途中で途切れたようになっている。いや、正確には、その白い線の先端の動きが“ゆっくり”になっていた。だが、これは二次元的な表現である。あの高高度で急激に速度を落とすことなどありえない。三次元的に考えても、まず、上昇は必要ない高度である。



 ――となれば、“急降下”。



『バザード7! そっちに接近する機影あり! 3時上方、2機だ! すぐに来るぞ!』


 聞き慣れた幼馴染の声。だが同時に、背中を強引に押しにきてるような非常に切迫した声でもあった。明らかに、今まで見えてなかったといった口調だが、まさか、本当に見逃していたのか?


『そっちから見えてなかったのかッ?』

『レーダーに今映りやがった! 味方機じゃない。E-3もカラスに逃げるよう伝えた、攻撃がくるぞ!』

『ヤベッ、あいつらレーダーこっちに打ってきやがった!』

『冗談だろクソッ!』


 切谷の焦燥感溢れる声と近藤の悪態の両方を聞きながら、蒼波はその無線の声を拾う自らの耳の正常を疑っていた。


「(レーダーに映らないって、E-767もE-3も見えてなかったってこと? そんなバカな話ある!? しかも、この様子だとE-2Dも見えてなかったっぽいじゃない!)」


 だが、そうは言っても急降下してくる“敵機”は遠慮なし。とにかく敵の位置を確認し、その予測飛行経路から少しでも離れるように飛び始めた。護衛をしていた切谷と大洲加も、こんな奇襲攻撃をされては護衛などと言ってられない。E-2Dの回避の邪魔にならないよう左右に分散し、それに引っ張られるように、E-2Dは同じく降下しながら右に急旋回を始めた。


『チッ、マズイ、ロックされた!』

『こっちもだ!』


 だが、それでも急降下してくる敵機の方が一歩先を行っていた。切谷に大洲加、そして、E-2Dもレーダーロックされたらしく、フレアをばら撒いた。チャフじゃない。ということは、近距離用の赤外線AAMということだ。レーダー誘導の中距離AAMではない。そこまでの近距離に近づかれていたこと、そして、それに誰一人として気がつかなかったことに、蒼波は唖然とするしかなかった。


『敵機、ミサイル発射! 4本くるぞ!』


 4本? まさか護衛を潰す気? そう予測した蒼波の予測は外れた。いや、もしかしたらそう願っていただけかもしれない。

 ここまできて狙う目標なんて一つだけだ。2本は護衛に向けた牽制弾。実際、切谷と大洲加は何とか回避に成功したが、自分らに来たのは1発だけだった。残り2本。蒼波や近藤には向かっていない。


『Dammit! I can't shake them!(ダメだ! 振り切れない!)』


 それ以上の無線が、彼らから来ることはなかった。フレアによる欺瞞も叶わず、次の瞬間には、E-2Dに二本のミサイルが命中。燃料に引火したらしい機体は瞬時に爆発し、火達磨となって雲海に消えていった。

 ミサイルが撃たれてから10秒にも満たない、ほぼ一瞬ともいえる時間の中で一気に事態が急変していた。何がどういうことなのか、頭で理解する前に、状況がその数歩先を突っ走っていく。


「レイヴン被弾!」

『ターゲットマージ、上から来るぞ! すぐそこだ!』


 ここにきて、ようやくその犯人が見えてきた。その降下速度は、獲物を狙って急降下するハヤブサの如く。すぐそこを通過、というより、“一閃”、という表現が的確だ。黒、いや、灰色の比較的大型の機体というところまでは判別できた。しかし、自分と同じ高度を通ったと思うと、さらにそのまま、雲間へと消えていった。


『一瞬見えた! 今のはなんだ!?』

『レーダー解析が追いついてない。ずっとアンノウンって吐いてやがる。肉眼での特徴は?』

『ほぼ一瞬だからわからない! 灰色のでっかいやつなのはわかる!』

『あとカナードっぽいのあったぞ』

『それじゃ候補が多すぎてわからないな。もうちょい絞り込まないと――』


 そこまで言った時、また羽浦は声調を荒げた。


『――あぁ、また消えた。反応が安定しない。肉眼で確認できたやつは報告してくれ』


 肉眼? それで見られないからレーダー持ってるそっちに頼ってるっていうのに、それでも見られないの? 冗談でしょ? 蒼波は顔を引きつらせながら冷や汗をかき始めた。しかも、その敵は雲の中に入ってしまった。どこから出てくるのか皆目検討がつかない。自分も含め、誰もRWRが鳴っていないのでそれを逆探知して大体の方向を知ることもできない。

 近藤が、レーダーの使用許可をすぐに求めたのも無理もない話だった。もう自分たちの存在はバレている。今更居場所を隠す必要もない、今は積極的にレーダーなどを使って捜索するしかない。羽浦も許可を出した。


「(短距離捜索(SRS)モード、レンジは10マイルで……)」


 すぐに指先でレーダーモードを設定し、即座に起動する。AN/APG-63レーダーは、首をひっきりなしに上下左右に振りながら、蒼波の指示通りのモードで指定範囲内にいるあの大型機を探し始める。しかし、すぐに見つからないとは思っていたとはいえ、本来なら10秒とたたないうちに見つかるはずの敵機が見つからない。


『アマテラス! こっちには何も映らないぞ!』

『こっちでもたまにしか映らない。最後に映ったのはオスカーの今いる位置から若干北の方向、ほぼ真下』

『俺のすぐ下ッスか!? さっき下のほうもレーダーで探したのに!』


 たまにしか映らない……? その羽浦の一言が、蒼波の脳裏から消えずに留まっていた。確かに下にある雲海は厚いものであるが、それでもレーダーにはちゃんと映るはず。少なくとも、現在位置がまともにわからないほどまともに映らないということはほぼほぼありえない話だ。しかも、4機総出で、そして、E-767、さらには、E-3すらも全力で探しているはずなのに、まともな位置がわからない。でも、確かに高速で急降下していく“戦闘機”はいた。


「(……ちょっと待って、そんな戦闘機ってまさか……)」


 刹那、大洲加と近藤が唐突に叫んだ。


『おわァッ! こっちに鳴ったァ!』

『反応あった! オスカー、お前の真下だ。下から来るぞ!』


 だが、実際は大洲加だけじゃない。近藤や、切谷、そして、蒼波もRWRの警報が鳴り始めていた。ほぼ真下から。羽浦も警告を発するが、次の瞬間には、警報は次の段階へ進み、ミサイル接近警報へと変わった。


「(IRミサイルッ?)」

『ミサイルだ! ブレイク! ブレイク!』


 近藤の声に押されるように、蒼波は自分に向かってくるミサイルの位置を確認しながら、常に直角になるように機体位置を調整する。ミサイルは雲海から、まるで宇宙ロケットのように一直線に飛び出し、ほぼ真上にいる蒼波に向かって突進を仕掛けていた。さらに、そのミサイルが飛び出してきた位置から、1機の黒点が高速であとを追うように飛び出してくる。見つけた。あれが“実行犯”だ。


「フェアリーよりアマテラス! ターゲットヴィジュアルID! 私の真下!」

『こっちにもいたぞ! やけにデケェ奴だ!』

『スリット、お前が近い。機体形状を少しでも良いから確認しろ』

『無茶言うなぁ、ったく!』


 文句を言いながらも、切谷は急降下をしながら敵に急接近をかけ、敵に攻撃をする隙を与えない間に少しでも近づいて形状を確認。降下しながら左翼側を通り過ぎていく。蒼波も、ミサイルが最接近したタイミングを見計らって、フレアをばら撒きながら操縦桿を思いっきり手前に引いて上方向に急旋回をする。座席に押しつぶされ、下方向へのGにより頭に血液が届かず、視界が黒くにごり始める。ブラックアウトしないギリギリの旋回率で耐えながら、目線だけ、どうにかして下から突き上げるように上昇してくる敵機に向けた。


「(――ええッ!?)」


 果たして、蒼波が抱いていた疑念は真実へと昇華した。ミサイルを回避することに成功し、ロックが外れたことを確認しながらその目で見た敵の機体は、今まで見たものとは大きく違う。今まで見たJ-11やSu-30MKK等より大きく、しかしH-6よりは小さい上、そもそも形が根本的に違う。比較的のっぺりした形状を持つ灰色の機体には、左右後ろよりの位置に巨大な主翼が伸び、さらに前方には、小さいカナード翼が生えている。そして、武装は翼に吊り下げられていない。そんな“大型戦闘機”が、轟音を響かせながら天高く上っていき、さらに、また急降下をし始めた。


 ――これで合点がいった。レーダーでも見えないわけだ。そうならないような工夫を施された戦闘機だからだ。

 いや、しかし、そんなバカな話があるのか。相手はただの反乱軍同然の組織でしかないわけで、兵器類も実質的には中古を中心に主力を多少揃えた程度の寄せ集めでしかなかったはずだ。でも、間違いない。あの形状、何度となくテレビで見た。資料でも見た。見間違えるはずがない。間違えようがない。あんな形状をしている現役で戦闘機は、この世にひとつしかない。この空にいた4人全員が、同じ結論にたどり着いた。

 自らが出した結論に、疑いを持ったまま。しかし、真実であると強引に納得させながら、蒼波が代表して、羽浦に伝えた。





「――じ、『(J)-20戦闘機』がいる……ッ!!」


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