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Guardian’s Sky ―女神の空―  作者: Sky Aviation
第7章 ―5日目 Day-5―
50/93

7-4


 ――敵はたったの1隻だ。F-2の援軍を断ったのは、敵の追撃をそう“解釈”した、御堂の鶴の一声だった。


 護衛艦『しらぬい』は、F-2の援軍を待って何十分も逃げ延びてきた。もうすぐF-2が叩きのめしてくれる。徐々に形成される反撃の機運を感じた艦長は、それを使い、士気を鼓舞しにかかった。彼らの意思は一つに固まっていく。

 しかし、そこでやってきた、『蒼岩山』の無線。E-767との交信を横から聞いていれば、中にいた海兵隊員たちが“奪還”しにかかったというではないか。なんという勇者。なんという英雄。向こうにも、本物の男がいたらしいと、御堂は感激していた。だが、その『蒼岩山』も、そのまま海に浮べておくわけには行かなくなったという。反撃の手は決して強いわけではなく、すぐに撃沈してもらわねば、また再奪還されて利用される可能性がある。

 すぐ近くには、都合よく自分たちが呼んだF-2が4機いた。護衛のフリゲートもろともまとめて沈めるには少し足りないかもしれないが、抱えているのはASM-3だ。たとえ1~2発であろうとも、そこにあたりさえすればいい。今のあの艦はダメコンがまともに機能していないはず。隔壁もほとんど閉じていないはずなので、数ヵ所穴が開けば、そこから一気に海水が流入してすぐに転覆だ。あれほどの大型揚陸艦だ、長時間持つとは思えない。


 ……しかし、そうすればこっちに対する援軍は消える。やっと助かると思っていたこの時を、自分たちの手で壊すことになる。何十分と待ったその喜びのときを、自分たちから手放すことになる。誰もが選択を迷った。どうすればいい、このまま「『蒼岩山』のほうにいけ」って言っていいのか。そしたら、自分たちはどうすれば……。


 ――だが、御堂は違った。この無線を聴いた瞬間、既に決断したのだ。


「……副長。アマテラスに無線や。俺が出る」

「は、はい」


 促されるがままに、副長はE-767を呼び出した。すぐに向こうとつながり、重本を呼び出すよう御堂自身が伝える。


『はい』

「シゲ、例の揚陸艦は助けを求めてるってことでええんやな?」

『ええ、無線はそちらにも――』

「ほなら、こっちの回答は一つだけや」



「――F-2を全部そっちに向かわせぇ。こっちは大丈夫や」



 CICの空気が一瞬凍りついた。「マジで?」といった驚愕した目線を送る乗員もいた。その視線を感じる御堂であったが、しかし、それでも決断は変えない。意を決したような表情を浮べていた。


『……『蒼岩山』を優先しろと、それでいいんですかッ?』

「今優先するんは、この艦を守ることやない。着上陸を防ぐことや。優先順位を間違ったらアカンで。こっちは1隻、あっちは2隻や。妥協は許されへん。全部向かわせるんや」

『しかし、次のF-2の到着は30分以上かかりますが……』

「かまへん。その間こっちでどうにかする。それに、そこまでいけば他の護衛艦の助けももらえるやろ。時間があらへん、さっさと行かせるんやッ」


 最後は少し語気を強めて言った。重本も、時間との勝負になるといわれれば呑まざるを得ず、渋々了承して、電話を切った。通話を閉じると、静まり返ったCICの中で、自らの声をはっきりと伝える。


「……すまんな。せっかくの援軍やったのに、他のところに行かせたわ。堪忍してや」

「か、艦長……」


 どう声をかければいいか、隣にいた『香椎』砲雷長もわからなかったらしい。艦長の判断も間違っていないからだ。しかし一方、これまで耐えてきたその意味を失いかねない判断でもあり、その苦渋さが身にしみて理解できる。士気を保つのも艦長の役目である以上、そう易々と出来る判断ではないには違いなかった。

 ……だが、御堂は下を向くことはなかった。


「だが安心せえ。お前らの命がここで消えることはない。絶対に全員で生きて帰る」

「ですが、後ろのフリゲートは……」


 思わずそう聞いてしまう副長。後方から追撃をかけているフリゲートは、その手を緩めてくれそうになかった。こうなると、別の援軍がくるまでしつこく攻撃してくるだろう。一体何があのフリゲートをそうさせるのかはこれっぽっちもわからないが、何れにしろ、このままあと何十分も攻撃を耐えることが出来るという保障はない。何か手を打たなければ。それだけは確かだった。


「こうなったら、搭載している残り全てのSSM-1Bを使って攻撃しますか? やらないよりマシのはずです」


 香椎が進言した。SSM-1Bは、88式地対艦誘導弾(SSM-1)をベースにして開発され、護衛艦に標準搭載されている『90式艦対艦誘導弾』のことである。SSM-1の持っていた高度なECCM能力や柔軟性を持った目標選択プログラム等といった特徴をそのまま引き継いでいるものであり、『しらぬい』を含むあさひ型には計8発が搭載されている。

 SSM-1Bを使った攻撃自体は既に3回程やっていた。しかし、悉く迎撃されてしまった上、さらに撃とうとしたときには砲撃圏内にすら入ってしまったため、ミサイルを撃っている暇などなくなっていたのだ。


 少々無理やりになるが、SSM-1Bをまず横方向にうち、距離を稼いで180度回転しながら、後方のフリゲートに突っ込ませる。これなら、ターゲティングの時間も考えれば、攻撃できなくはない。


「それでもええんやが……、少し手を加えるか」

「え?」


 しかし、御堂はそれで満足しなかった。SSM-1Bは使うものの、さらに一手出そうという魂胆である。


「左右のSSMの残弾は?」

「両舷とも、2発ずつ」


 十分だ。御堂はすぐにその残り全てを使い、攻撃を開始させる。


「よし。一気に使うで。善は急げや。対水上戦闘、砲雷長、目標、後方の敵フリゲート。発射弾数、4発!」

「了解。発射弾数4発。座標、飛翔経路インプット。弾着計算急げ」


 手早く、そして、手馴れたように必要数値を入力する。全てのSSM-1Bに諸元を入力し終えると、直ちに発射させた。


「SSM-1B、発射用意よし」

「撃ち方はじめ!」


 SSM-1Bの発射ボタンが押された直後、小さくではあるが、震えるよう轟音がCICに響き始めた。一回ではない。時間差を置いて、計4回。これで、全てのSSM-1Bが、『しらぬい』から飛び立った。


「SSM-1B、発射成功。コースに入る」


 SSM-1Bは、左右それぞれに2発ずつ飛んでいった。少しの間直進した後、それぞれで180度ターンし、『益陽』の左右に一斉に突っ込んでいくという算段だ。どうせ肉眼でミサイルを発射したのはバレているので、シースキミングを維持したまま突撃させる。

 しかし、似たようなことは既に1回やっていた。その時は、左舷を主砲で迎え撃ち、右舷はCIWSで迎撃された。恐らく、今回も同じことをやり始める。同じ手は二度も通用しない。もとより、一度目すら通用しなかったのだ。


「2発ずつにはなりましたが、恐らくこれも迎撃するはずです。SSM-1Bはそこまで速度は速くありませんから」

「せやな。だから、ここで一つ手を加えちゃる」

「というと……」

「砲雷長、SSM-1B弾着まであとどんくらいや?」

「えー……、あと、45秒です」

「ほなら、もうそろそろええな」

「はい?」


 御堂は隣にいる香椎に顔を向け、にんまりと笑みを浮べた。「(あ、これろくなこと言わないやつだ……)」と彼が悟ったのもつかの間、したり顔で御堂は言った。


「……もう逃げ回るんは無しや。向こうが殴りあいしよう言うてはるんなら、こっちも乗ってやろうや」

「はい?」


 いよいよをもって嫌な予感がした。香椎だけではない。副長や、その周りにいる幹部、計器類を見つめている乗員たち……。この熱血男が次に出す指示の内容を、粗方読めてしまった。そして、それは現実のものとなる。互いの位置を確認した御堂は、艦橋にいる航海長を呼び出して指示を出した。



「――面舵一杯、右停止、左一杯急げ。“タイマン”勝負や!」



 それはそれは、何か吹っ切れたような満面の笑顔であったという……。




 ――一方のE-767。こちらも、ここからは時間との勝負となる。向こうにはこちらで急造で作った連絡用の無線周波数を伝え、南西SOCの許可の下、ここと直接交信できるようにした。交信担当は、新代である。


「いいか、あと3分で攻撃開始だ。1分とかからないのはさっきも言ったな? 『蒼岩山』がそのままの方向を維持したとして、艦首向かって10時の方向から突っ込んでくるはずだ。少なくとも左舷からは離れておけよ?」

『はいよー。3分だな、さっさとトンズラだ』

「護衛の艦がすぐ隣にいるんだが、そいつらは、お前らが奪還に動いたことを知っているのか?」

『いや、それはわからない。俺たちもさっき護衛の艦の存在に気付いたぐらいだ。それまではほとんど情報がなかったんだよ』

「完全なる情報統制か……」


 軽く苛立つように眉を潜める新代。やはり、自分たちの戦力として活用するべく、様々な制約をかけていたらしい。自らの同胞をも脅し、そして騙して目的に利用するとは。同じ中国人とは思えない。


「護衛のフリゲートが奪還の動きに気付いていたら厄介だ。羽浦、2と3で別々の目標を同時に狙うぞ。2はそのまま『蒼岩山』、3は護衛の『三明』に目標を設定。発射カウント開始」

「了解。データを送信します」


 今リカオン隊は4機編隊を組んで低空を飛行中だ。発射したら即座にその場から離脱。バザード隊も同様だ。

 そのままで行けば、あと約2分で攻撃可能となる。時間がないため、ASM-3は寄り道無しの一直線コースで設定。護衛フリゲートの『三明』がどこまでこれを迎撃するか気になるが、そこまででかい艦でもなければ、新しい艦というわけでもない。4発もあれば、1発は確実に当たる。特に2発は、艦首付近を狙って、主砲弾薬の誘爆を誘うように設定させた。


「(このまま突っ込めば、少なくとも敵は戦闘不能になるはず……)」


 気象条件も悪くない。低空なのでスピードは出にくいが、敵を葬るには十分だと羽浦は考えた。『蒼岩山』はまだしも、『三明』は旧式艦だ。システムも古い、最新鋭の対艦ミサイル4発の突撃から完全に逃れることは出来ないだろう。護衛できなくしさえすれば、こっちに勝機はある。


「『しらぬい』、反転始めました!」


 ――反転? 海上を警戒していた管制員からの報告に、誰もが耳を疑った。しかし、レーダー画面を海上のデータと同期させて確認してみると、確かに『しらぬい』は反転している。さらに、『しらぬい』は左右に2発ずつ対艦ミサイルを放ったらしく、今まさに180度ターンして、敵フリゲートに突撃をかけようとしていた。


「……やべぇ、タイマン張る気だ」


 羽浦は瞬時に悟った。もう砲撃距離には近づかれてはいるが、だからといって対艦ミサイルに気が向いている間に反転して、一気に砲撃戦に持ち込もうなど、考えても絶対にやろうとしない賭けだ。あの艦長、相当な肝っ玉を持ってやがる。


「今時の海戦でタイマン勝負かぁ、今21世紀だと思ってたんだけどなぁ」

「頼みますよ御堂二佐……余り無茶せんでください……」


 暢気にタイマンをレーダー越しに眺める管制員の横に、こめかみを押さえて呆れ返る重本がいた。自分より先に揚陸艦つぶしてくれというから、何か策があるのかとも思ってはいたが、重本自身、まさかその策がこれだとは思わなかった。てっきり、全力で逃げ続けるからまかせろ、という意味だと思っていたのだ。


 だが、効果はあったらしい。反転中の『しらぬい』は、攻撃する側である『益陽』からみればいい的だ。動きが読みやすいのだ。日本海海戦で『東郷ターン』が実行された際、先頭を走っていた『三笠』に敵の砲撃が集中したのと似たような理由である。先頭を走っていたということも相まって、バルチック艦隊の側からすると、目の前で反転している『三笠』は、狙いやすい的だったのである。

 しかし、『しらぬい』の動きに変化はなく、被害を受けたという報告もない。対艦ミサイルが両方から飛んできたことで、『益陽』はそっちの対応をしないといけなくなったようで、絶好のタイミングで『しらぬい』を攻撃できなくなったのだ。贅沢にも、対艦ミサイル4発を全て、“自分が安全に反転するための囮”に使ったのである。


「(4発もあれば、それだけ対応時間が延びる……、そういうわけか)」


 砲撃戦に全てを賭けたというわけである。このまま逃げていても、さらに何十分追加で逃げ切れる保証もない。艦はまだしも、それを操っている乗員が持たない。さっさとケリをつけようという判断なのだ。

 ――無駄には出来ない。ここまでして覚悟を決めてくれたのだ。これで、こっちの攻撃が失敗しました、なんて話になってはとんでもないことである。失敗は許されない。


「……よし、もう少しだ」


 1分を切った。艦内の状況は逐一報告されてくる。艦内のほとんどの味方は脱出したらしい。無線主である彼が、最後の殿を努めているようだった。


「滄波、まだか? もうこっちは発射まで1分を切った」

『あー、ちょっと待ってくれ。今もう少しでウェルドックなんだが、敵が煩くてしょうがないんじゃ。今どかしてる」

「攻撃タイミングは――」

『変更できないんだろ? わかってる、変更はいらん。時間になったら絶対に撃て』


 こちらも覚悟完了といった様子だ。時間は刻々と過ぎていく。カウントを続け、発射の最終確認には言った。4機のF-2は、それぞれでマスターアームをARMに設定し、ASM-3に飛翔コースのデータをインプットする。


「もう10秒切りますよ。いいんですね?」

「滄波、まだか? もう撃つぞ?」


 急かすようなその声ににじみ出てくる焦燥感。その表情からも、「もう脱出した」という声を求めているのがよくわかった。10秒カウント開始。羽浦も、発射コールをするために、無線スイッチを入れた。


「スタンバイ、残り10秒」

「まだか? まだか?」


 ――残り3秒。「脱出した」という一言を、必死に求めた。その時、無線で聞こえてきたのは、




『――“撃て”』




 ……発射しろという言葉だった。一瞬、苦い顔をした新代だったが、もう時間だ。重本に一瞬目線を送り、頷いて返答を貰うと、羽浦に指示を出した。


「――しょうがない、やれ」


 もう待てない。これ以上の接近は危険だ。羽浦は、一言だけ、無線で伝えた。




「――アマテラスよりリカオン、時間だ。槍を放て」

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