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Guardian’s Sky ―女神の空―  作者: Sky Aviation
第7章 ―5日目 Day-5―
49/93

7-3

 ――ガード。ここでいうガードチャンネルとは、『緊急周波数』を指す。文字通り、何らかの緊急事態の際に用いられ、全世界共通の国際緊急周波数もあれば、各組織が独自に設けている緊急周波数もある。

 最初に聞き取ったのは、今まさに攻撃を受けている最中の護衛艦『しらぬい』だった。応答を求める声があったが、向こうが英語で「対艦攻撃を行っている現場指揮官を出せ」と煩かったので、指示を仰ぐついでに、現場指揮を行っているE-767に無線を中継したのだ。さらに、そのE-767も、独自にその無線を受信した。

 重本は一瞬焦りを感じた。緊急周波数がきたということは、どこかで緊急事態が起きたに違いないわけであり、洋上という条件から、何かしらの船舶遭難でも起きたのかと考えたのだ。南西諸島より南を航行する船舶には、絶対に南西諸島を跨いで北上しないように各国政府当局や運用会社等を通じて厳命されているはずだし、近づけば日米の艦船から警告を受けるはずだ。それを潜り抜けて遭難等というのはありえないことですらあるが、万一ということもある。重本は、『しらぬい』から連絡を受けた管制員に早口で聞いた。


「誰からだ? 誰から来ている?」

「それが――」



「――揚陸艦らしいです。英語で「つぁんえんしゃーん」って言ってるって……」



「……揚陸艦からガードッ?」


 重本だけではない。そこで彼の言葉を聴いていた全員が脳裏に「!?」を大量に浮かべた。羽浦も同様だ。ただの艦船ではない。揚陸艦。しかも、発音を聴く限り中国語だ。東シナ海で揚陸艦を持っている国など、中国と台湾、韓国ぐらいしかない。

 『つぁんえんしゃーん』――発音を覚えた重本はすぐに指示を出した。


「木島、データベースで検索かけてくれ。日本周辺の揚陸艦、発音も全部乗ってるはずだ」

「はいッ」

「南西SOC向け送信。“未確認の揚陸艦からガードチャンネルへの通信あり。現在詳細確認中”」

「了解。横須賀にも伝えますか?」

「たぶん『しらぬい』から行ってるとは思うが……、念のためだ。やっておけ」

「はい」


 指示が矢継ぎ早に飛び交う。羽浦もレーダーを確認するが、自分の担当域の洋上には反応がなかったため、指示があるまでは何も手を出さないことにした。無線はどうもリカオン2やバザード3にも届いていたらしく、説明を求める無線が羽浦の下に来た。


『中国語かこれ? メインド、これわかるか?』

『わがらねぇです隊長、中国語なんて警告文ぐきゃいでしか』

『すまねぇ、まともな中国語はさっぱりなんだわ。下にいる津軽弁野郎と一緒に翻訳してくれ』

「悪いがグリズリー、こっちもここまで流暢な中国語と訛りがひでぇ津軽弁はわからねんだわ。ちょっと待ってくれ」

『隊長、のんか津軽弁が外国語みだいにおもわれでねが?』

『そらそうだろとしか』


 時としてフランス語に間違わられる事がある津軽弁はスルーして、中国語のほうはどうにかせねばならない。一体どこの誰がかけてるのか。周波数も確認されたが、海空自衛隊が、救難などの緊急時に用いている共用の周波数だった。今回の事態を受けて臨時で用意したものではなく、一般にも公開されているもののうほうだったが、重本は首をかしげた。


「外国の揚陸艦がなんでうちらに知らせてくるんだ? よほどこっちに近いのか?」

「まさか『八仙山』……は、ないですよね?」

「あれは昨日あたりから台湾方面に行ったはずだ。こっちに戻ってきたって情報はなかったが……」


 『八仙山』は、全ての部隊を揚陸し終えた後しばらくの間は宮古島北方にいたが、昨日になって台湾海峡の方面に消えていった。その後どうなったのかの情報はほとんど来ておらず、どこかで他の部隊を積み込んでいるとも、台湾軍が撃沈したとも言われ、情報が錯綜している。そう何隻も揚陸艦を持っているとも思えない。次に日本に近くて、極東革命軍に参加したと思われている揚陸艦といえば……。


「……『蒼岩山』?」


 重本がそうつぶやいたのとほぼ同時だった。データベースで検索をかけていた管制員が、スイッチを入れたときのような素早い動きで立ち上がり、重本を呼んだ。


「ありました! 『蒼岩山』です! 玉昭ユージャオ型ドック型揚陸艦『蒼岩山』、発音も似てます!」


 重本は管制員の下に向かい、その目の前にあるファイルに挿まれているページの画像と名前を見た。玉昭ユージャオ型ドック型のページには、全ての同型艦の艦名から就役時期等々、全てのデータが書かれている。そのうちの一つ、管制員の指差した項目の艦名の隣には、日本語と中国語の読みが書かれていた。


「『ツァンイェンシャン』……発音もほぼ一致する」

「これで確定ですね。『蒼岩山』は今石垣島の北120海里を東に航行中です。江衛II型フリゲートの『三明』が護衛についています」


 新代が隣でレーダー画面を見ながら報告する。『蒼岩山』。こちらも極東革命軍に参加している疑惑が高い揚陸艦で、もし日本に接近してくるならば、F-2か、フェリーを使って奄美大島に持ってきた、第5地対艦ミサイル連隊の12式地対艦誘導弾(SSM)を使う予定であった。『蒼岩山』は、護衛の『三明』共々羽浦の担当するレーダー画面の西側にあり、ギリギリ表示圏外であった。

 重本はすぐに無線をつないだ。周波数はそのまま。どうせこっちにも繋がったなら、直接ここから聞こうと踏んだのだ。重本はヘッドセットを装着し、流暢な英語を投げかける。


「This is Japanese air self-defence force, AWACS. Please respon――」

『才回应来了! This is Cangyanshan! Please attack this ship! I repeat! Please attack this ship! hu――』

「OK, wait! wait! Ah, at first――」


 顔ごと押しかけてくるんじゃないかって程の押し様に、思わず重本も体ごとたじろいだ。唾飛ばしながら叫んでいるのが容易に想像できるその無線主の声、明らかに通常のそれではない。内容も内容だ。この艦を沈めろといきなり叫ばれて、精神状態の異常を疑わない人間はいないだろう。


『えっと、ついにあちらさん自暴自棄になったの?』

『まるで昨日までのお前だな』

『そのネタ引っ張るといよいよ本当にミサイル誤射しますよ』

『ひえぇ……』

『噂には聞いていたが、もうどっちが隊長だかわからんなこれ』


 ついに他の部隊のパイロットからも呆れられたこの漫才。というか、噂になっているのか。これはいよいよ冗談ではすまないのではないかという程にしつこくなってきているということか。大丈夫であろうか。基地に帰って上の人たちから「お前ら遊びすぎだ」と怒られやしないだろうか。尤も、そうなったとしても羽浦の飯がうまくなるだけなので無問題である。

 だが、その一方重本のほうは別の意味で頭を抱えている。無線交信はできているのだが、どうもうまく会話ができていないらしい。発音や文法的な問題ではなく、会話のキャッチボール的な意味で。


「うわぁ、どうしたもんか。沈めてくれってしか言ってくれねえ。こっちは事情を説明しろって言ってんのに……」


 コミュニケーションからしてうまくいっていない様子であり、状況も状況なので早めに済ませたいという焦りもあってか、イラつき始めてすらいた。こうなった以上、今やっている対艦攻撃を終えてから話をつけようかとも考え始めていたが、その隣、一人だけ、耳を済ませて神妙な顔を浮べている人がいた。


「……待てよ、この声……」


 新代である。隣で無線を聞いていたが、その声を聞いて以降、ずっとこの顔で固まっていた。何かを悟った瞬間、新代は「無線代わります」と一言残して、返事を待たず無線を代わった。自分のほうの無線スイッチをつけて強引に割り込むと、日本語で問い掛けた。


「待ってくれ! お前、もしかして滄波チャンブーか?」


 叫んでいる相手の声から覆いかぶさるように、負けじと叫んで返した。すると、相手側は一瞬にして沈黙し、一転して、今度は日本語で、落ち着いた声で返してきた。


『……トウヤか?』

「あぁ、そうだ。俺だ。新代冬夜だ!」

『お前、今そこにいるのかッ? 本当に?』

「ああそうだ」

『念のために聞くが、本物なんだな? 今の俺はちょっと疑心暗鬼で――』

「杜滄波、階級は中尉。第2海軍陸戦兵旅団第201中隊所属。末端兵士からの叩き上げで根っからのオタク。好きなフレンズはアードウルフちゃんだったが、アニメ版1話で敵にやられたのが彼女だったのを知った瞬間「あの青いクソ溶岩野郎がァ!」とか言って、本気でぶっ殺しにかかるための銃火器を手に入れるべく武器庫に入ろうとしてつかまった前科あったよな」

『おいおいおい待て待て待て! そこまでは言わなくていい! 皆には内緒にしてんだから!』


 なにやらまたいらぬ情報が暴露されてしまったようだ。残念ながら、この無線は緊急周波数である。日本の空と海の軍事組織のほぼ全ての部隊がこれを聞くことができる周波数である。少なくとも、オタクの巣窟だ何だといわれている海自の同志たちにはこの声が届いてしまったであろう。また大きいお友達の皆さんが荒ぶることになるに違いない。というか、今一瞬羽浦の耳に『俺はアミメキリンちゃん派だけどあの娘も好きなんだよなぁ、良い酒飲めそうだ』という声が聞こえてきたので、今更な話であろうか。そして忘れない。その声を発したのが、リカオン2の隊長であったことを。

 あと、隣で重本が「日本語使えるなら最初からそうしろよ……」と嘆いていたのには同感する羽浦であった。


「あとお前、監督が制作から降ろされた時もやっぱり会社にカチ込みしようとして本当に日本に来たよな」

『ああそうだな。きたな。そしてそこでお前に出会っちまったな。でも今そんなことこの無線で投げる必要はないよな?』

「言っちまったもんはしょうがないやんな。んで、何があったんだ? 沈めろってどういうことだ? 事情を説明してくれ」


 今度は至って冷静に、真剣な表情で聞いた。同時に、重本にアイコンタクトを取り、無線の音声を室内に聞こえるように設定する。無線の先の彼も『あぁ、ったく……』と悪態つきながらも、一転して今度は、圧のかかったような声を返してきた。


『いいか、何回も言わないからよく聞いてくれ。今俺たちは『蒼岩山ツァンイェンシャン』の艦橋にいる。さっきまで、極東革命軍の奴らに支配されていた』

「有志ばかりじゃないのか?」

『いや、違う。ほとんどが関係ない奴らだ。一部の部隊が艦の幹部を殺して、俺たちを含む陸戦兵旅団の部隊を恐喝していた』

「嘘だろおい……」


 なんてこった。つまり、彼らはまさしく“督戦隊”の如き動きをしていたわけか。上陸に使う兵力は自分たちで集めたわけではなかったが、脅してやらせようって魂胆なわけだな。銃火器持たせたら反抗されそうなものなのに、よくまあそんな判断ができたものだと、誰しもが思った。

 続けるよう新代が促す。全員、彼の無線に耳を傾けていた。ここからが本題だ。


『だが、そんな状態もこれまでだ。俺たちはやつらの隙を見て反撃し、武器を奪って艦橋まで来た』

「奪い返したのか!」


 ひえぇ、随分と勇敢なことを……。羽浦が感心しきる中、さらに話は続く。


『数は俺たちが上なんだ。他にも戦ってる味方がいるが、あくまで訓練に備えてでしかなかったんで、弾がそこまで大量にない。一部は、俺たちが反抗したと気づいた瞬間捨てられた奴もある』

「つまり、反撃が長続きしないってことか?」

『そうだ。武器はあっても弾がなけりゃ意味がねえ。でも全員を倒しきる前に弾が尽きたらまた奴らに奪われる。そんな状態でこいつを海に浮べるわけにはいかねえんだ』

「だから、沈めろと」

『味方は頼れない。近くにコイツを沈めてくれる奴はいるか?』

「えっと……」


 新代は重本のほうを見た。重本が気を利かせて、無線の内容を南西SOCにもリレーしていたが、その電話口の先でも、やはり迷っているようだった。いきなりの撃沈要請。しかも、敵であるはずの極東革命軍の揚陸艦からだ。何らかの形で、また日本の島に上陸をしようとされても困る。勇敢なる“同胞”が一時的にでも奪い返した今、攻撃のチャンスには違いない。F-2も近くにいる。

 だが、そうすると『しらぬい』の攻撃に手が届かなくなる。揚陸艦とて自己防衛程度であるが防空能力はある。しかも、フリゲートとはいえ護衛の艦が1隻いる。迅速かつ確実に仕留めるなら、今いるF-2総勢4機は、全てこの2隻に突っ込ませねばならない。『しらぬい』は、次の攻撃まで耐えてもらうか、逃げ切ってもらうか、もしくは、どうにかして自力で撃沈してもらうしかない。しかし、中々難しい話であるのも事実であった。


「今の『蒼岩山』の場所から考えて、すぐに向かわせるといっても大体10分。低空発射(Lo-)低空巡航(Lo-)終末シースキミング(Lo)で行くとすると射程は約60kmだから7分前後で攻撃できる」

「ですが、護衛のフリゲートがいますので、今上がっている4機は全部突っ込ませることになります。『しらぬい』は耐えられますか?」


 別の部下の管制員が怪訝な顔をして問うた。無理もない。確かに最新鋭の艦艇であるとはいえ、背後から艦砲射撃を受けている状態では逃げるのが精一杯だ。余りに近すぎて、対艦ミサイルを撃ってもほぼ180度急旋回しながらすぐ後ろにいる敵艦に体当たりする必要があり、飛翔コースによってはスピードは大きく減衰され、容易に撃墜される。気休めになるかどうかも疑わしい。


「(……難しいな)」


 羽浦は直感していた。次のF-2を呼び寄せたり、近くにいる艦艇を直ちに急行させても、30分近くかかる。それまでずっと、後ろからの攻撃に耐えろというのは余りに酷な話だ。

 だが、そうなると今度は、『蒼岩山』を攻撃する戦力が中途半端になる。護衛のフリゲートもいるのだ。まとめて仕留める大チャンスである。


『リカオン2-3よりアマテラス、無線は聞かせてもらった。どうする? このまま行けばあと2分で攻撃地点だが』

『決断するなら早いほうが良いな。今なら敵戦闘機の襲撃もない。針路は早めに変更しないと、後々になると最短距離で行くにしても時間がかかる』


 リカオン2の隊長と近藤の進言は正しい。攻撃地点に到達した場合は、否応なくすぐに攻撃しなければいけなくなる。延長はできない。向こうにはもうこの場所で攻撃をすると言ってしまっているのだ。それに、ASM-3の飛翔工程は全て低空で設定しているため、ギリギリまで目標に接近しないといけない。低空だと、空気抵抗が大きくなり射程距離が縮まってしまう上、速度も出にくくなるのだ。修正は、早めにしてしまいたい。

 だが、地上も迷っているようだった。このまま行かせるべきか。『蒼岩山』とその護衛フリゲートをまとめて先に沈めるべきか。南西SOCは今、横須賀からの連絡待ちだという。時間もない。決めるなら急いだほうが良い。


「――シゲさん。『しらぬい』の艦長からです」


 『しらぬい』から直接電話がかかってきたのは、そうした中だった。重本は、御堂からであるとすぐに悟り、受話器を受け取った。


「はい。……えぇ、無線はそちらにも――」


 その直後、重本の顔が強張った。小さく「え……」という声を漏らしながら。



「――『蒼岩山』を優先しろと、それでいいんですかッ?」



 艦長自ら、「自分らは後回しにしろ」と宣言したのだ。そんなバカな。こんな状況でその道を選択する意味を、艦長ともあろう人間が知らないわけがない。誰もが耳を疑った。しかし、重本が2、3回ほど問い直しても、回答は同じだったらしい。重本は、それ以上確認を繰り返そうとうはしなかった。力なく肩を落とし、「わかりました」と、一言答えで電話を切った。


「……南西SOCからは?」

「今、南西SOC経由で横須賀からきました。“『蒼岩山』を優先せよ”と。必要とあらば護衛のフリゲートごと『蒼岩山』を撃沈し、これ以上の敵戦力の揚陸を阻止しろとの命令です。『しらぬい』には、援軍到着までできる限り逃げるよう直接連絡が行くそうです」

「築城より連絡。たった今次のF-2部隊がエアボーン。25分でIP-1に現着」

「すみません、御堂二佐……」


 瞑目し、自らの先輩の身を案じながら、時間もないと意を決した重本は、羽浦の下へ駆け寄った。


「羽浦、『蒼岩山』だ。リカオン2と3、護衛のバザードも向こうに行かせろ。今すぐだ」

「了解。今から急いで行けば、5~6分で攻撃開始できます」

「よし、新代、今F-2が行くと伝えろ。今から5~6分後。それまでに残っている味方は全員逃げろとな」

「了解しました」


 すぐに二人は動いた。羽浦は無線を開き、今すぐに針路を変更し、速度も若干上げさせる。バックアップのリカオン3も急いで先行していたリカオン2に合流させ、少し距離を離した状態で、2機ごとに並んで飛行させる。


「リカオンとバザード全機、今新しい進入コースを送る。といっても、目標までほぼ一直線。今の針路のまま、新しく設定したBP-2まで直行。到達する前に、こちらから各編隊にターゲットをデータリンクで送信する。相手は2隻。撃ち損じは無しだ」

『リカオン2、了解』

『3、コピー』

『バザードリーダーよりアマテラス。敵戦闘機は?』

「今それらしいのが来たという情報が来た。だが、そっちには行っていない。九州寄りだ。低空にも誰もいない。そのまま見守ってろ」


 やってきた敵戦闘機は、北朝鮮のものらしいMiG-29戦闘機4機だった。ついにJ-11までまともに出そうとしなくなったらしい。すぐに、E-767の別の管制員の指示の下、CAPにあがっていたF-15Jが迎撃に向かっている。あっちは大丈夫だ。もう先手必勝は可能になった。十分勝てる。

 一方新代も、羽浦の横で自らの異国の友人にF-2の接近を知らせた。残り5分弱。時間はない。


「いいか、F-2戦闘機は今、超音速のASM-3対艦ミサイルを積んでいる。数が少ない関係上、迎撃率を低めるためにシースキミングで突っ込ませるが、それでも、そっちのレーダーで捉えて1分としないうちに命中する。発射したらこっちで知らせるが、すぐにでも命中すると考えておけ」

『わかった。艦の対空砲火がドンパチ賑やかになったら、それを合図にしてもいいな?』

「ああ。CICは確保したのか?」

『それが、余りにも厳重に守られてるらしい。たぶん突破は無理だ。もう諦めて、ギリギリまで奴らをそこに釘付けにした後、すぐに逃げるよう指示を出した』

「よし、じゃあとはそっちに任せる。頼むぞ。すぐに来るからな」

『わかってる。帰ったらまたあのアニメ見ようぜ。最近見れなかったんだ』

「フラグなこと言ってねえでさっさと逃げろ。あ、ちなみに言っとくが、今向かってるF-2だってリカオンって部隊名だぞ」

『おほー、あの後輩ちゃんと同じ名前か。ありがてえ偶然だ。撃沈したら一回でいいからローパスしてくれるよう頼んでくれ。ちょっと見てみてえ。礼もしたいしな』

「全く、お前って奴は……」


 呆れたような口調だが、その顔は安心したように微笑んでいた。彼のいつもの調子がこれなのだろう。相当なアニメ好きらしい。そして、その声の自信満々っぷりから、簡単に死ぬ予定ではないことはよく理解できた。何だかんだで生き残ってそうだ。

 ……あ、『あの後輩っぽさがいいんだよなぁ』等と呟いているリカオン2の隊長は無視しておこう。どうも同類な気がしてならない。


 ……それでも、確実に時間は経っていく。自分たちだけで逃げる選択をした『しらぬい』が気がかりだが、今は自分の仕事に集中しよう。F-2の攻撃部隊とその護衛機は、今、中継地点のIP-5を通過した。敵戦闘機の邪魔も無さそうだ。ならば、あとは『蒼岩山』のほうでうまくやってくれることを祈るしかない。



「――IP-5通過。各機、そのまま直進。攻撃開始まで、あと“3分”」



 時間は、刻一刻と迫っている……

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