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Guardian’s Sky ―女神の空―  作者: Sky Aviation
第6章 ―4日目 Day-4―
44/93

6-6

 ――時間はない。畳みかける。


「グリズリー、そっちから誰か一人借りれるか? ラクーンの支援に一人借りたい」

『俺は構わんが、誰行かせばいい?』

「オスカーが一番近い。せめて敵の注意を引くだけでいい」

『だそうだ、オスカー。ご指名だ! 行ってこい!』

『イエッサー!』


 大洲加オスカーのブリップが動いた。一気に東に旋回。ラクーン2のスパークと2番機ナードの下に向けて急接近をかける。既に彼らは、2機ずつの敵機に追われていたが、そんな中で、微妙な違和感を感じ取ることができた。Su-30MKKの、動きが鈍い。


「(爆撃担当だからな、対地ミサイルを大量に持ってきたんだ)」


 ならば、そもそも空戦に自分から入るべきではなかっただろう。数的優勢を確保するための無理やりな参戦だ。羽浦は、大洲加に早口で無線を入れる。


「フランカーは無視しろ。そいつたぶん腹に荷物を抱えてる。J-11をつけ狙え」

『オッケー。ラクーンとの間に割って入りますか?』

「可能ならやれ。間に割って入って、少量でいいからフレアを奴らの目前でばら撒け」

『了解ッ』


 大洲加はすぐさま援軍に駆けつけると、追撃をかけている先頭の2機のJ-11の目の前を高速で通り過ぎながら、フレアをばらまいた。2時方向上方というレーダーのほぼ死角からの接近に気づかなかったJ-11は、いきなり間近で瞬く大量の光の点により不意を突かれた形になる。フレアを避けようと機体を左右に動かしていたその隙に、追われていたラクーン2の2機が急旋回をかけて、J-11の目の前から姿を消した。


『ヒーローは遅れてやってくるもんッスよ、アライさん!』

『良いだろう、今日は認めてやる! 俺はいい、ナードのバックアップを頼む!』

『了解!』


 どうにか間に合った。大洲加の支援を向かわせている間、羽浦は残ったバザード1の3機の誘導に入る。こっちも、やはりJ-11とSu-30MKKが2機ずつ。しかし、Su-30MKKは積極的に動いていない。お荷物が重すぎるのだ。どれだけ爆装してきたんだ。それでも、J-11の動きが乱れたときのバックアップ要因として上手く位置取りしている。

 一番動きやすいのは……。


「……咲か」


 頼むぞ、お前の腕を信じるからな。先ほどのお言葉の通り、蒼波が要求しているであろう声を、しっかりと届ける。自然と、無線スイッチを入れる指に力が入った。


「フェアリー、敵の追撃隊形を崩す。ハイGでターンして真後ろのJ-11を引き連れつつ、そのままの方向に突進しろ。初日に見せた神業回避のお披露目の時間だ」

『了解。また悪運使わないとね』


 蒼波の機体が翻される。機体一気に180度ターンしなら急減速。旋回半径を小さくしながら、追跡しようとしていたJ-11を引き離す。さらに、羽浦の指示通り急加速をかけながら直進。今度はSu-30MKKが1機目の前にやってくる。


「いいぞ、横っ腹を見せてやがる。当たらなくていい、機銃弾を機首先にぶっ放せ」


 蒼波はその通りに行動した。Su-30MKKは、蒼波機の接近に気づいて左旋回によりヘッドオンの状態に入ろうとしたが、その矢先、鼻先に機銃弾を差し込まれ、回避のために急上昇に転じた。さらに、そのまま追撃する体勢になり、J-11がその後ろから追いかける。上昇しながら、蒼波機は敵機に挟まれる状態になった。

 ――よし。今Su-30MKKはバックを見せているため支援が難しい状況になった。あとは、


「フェアリー、失速しつつ反転しろ。アイドルに絞れ」

『待って待って、ストールターンってイーグルじゃできないわよ? それに今エアブレーキが……』

「構わない。後ろから追っかけてくるストーカーを前に投げ出せばいい。すぐにやれ」


 後ろから追いかけてくるJ-11は、短距離AAMの射程に入っていた。蒼波はすぐさまエンジンをアイドルに絞り、機体を“落下”させた。機首は上に向いたまま、機体だけは下に落ちていったため、J-11からすれば、目の前のF-15Jは“そこで止まったと思ったらいきなり落ちていった”という錯覚に陥る。

 焦ったパイロットはすぐさま短距離AAMを発射させる。ブリップ上では、すぐ近くに蒼波の機体があるように見えるが、既に高度差が生まれていた。降下しながら蒼波はフレアをばらまき、蒼波は機体を巧みに操り、ラダーを右に蹴って機首を下に向けると、推力を全開まで押し込み、速度を回復させた。


「J-11、お前のいた場所を通り越した。あとはそのまま隊長たちの下に向かえ。敵の位置は把握してるか?」

『見えてる』

「お前のお得意の接近飛行だ。隊長とスリットの距離は離れていない。後ろのストーカーにイーグルのパワースピードを見せつけろ」

『ラジャー!』


 蒼波はさらに加速をかける。蒼波を追いかけていたJ-11とSu-30MKKが、再度追尾をかけようともたついている間に、蒼波は一気に近藤機に近づき、後ろにいるJ-11に狙いを付けた。


「……今度はやるなよ?」


 信じていないわけではないが、しかし、一昨日の件もある。同じ状況ではあるので念を押しておいた。

 ……とはいえ、


『……今は大丈夫よ。声聞こえてるから』


 その心配は、杞憂に終わりそうであった。こっちの声が聞こえているなら問題ない。聞こえなくなったら本当に危なくなる。その境界は、蒼波ならちゃんと理解しているはずだ。

 蒼波の機体は、近藤の4時方向から緩降下しながら接近。近藤にはそのまま緩い旋回で耐えるように伝え、切谷には、左右どちらからでもいいから旋回をかけて近藤の方に向かうよう指示を出す。蒼波は、近藤機と敵機との間に割って入ろうとしていた。


『――見えた。隊長、そのまま行って。あと5秒でブレイク』

『あいよ、やっちまえ!』


 そして、ぴったり5秒後だ。蒼波機のブリップが、敵機とほぼ重なる程に接近した。J-11からは、左側から黒い点が見えたと思ったら、すぐ目の前を通り過ぎて下方に飛んでいったように違いない。次の瞬間には、無事に互いが通り過ぎたが、近くを飛んでいたJ-11は、躱すために機体を左上方に翻した。その先には、今度はバックアップにいたSu-30MKKが。間一髪衝突は免れたものの、これによって、再び動きが鈍くなる。


「(よっしゃ、乱れた!)」


 さらに、蒼波はそれで終わらない。その先にいた、急上昇中の切谷にも、ヘッドオン同然の状態で向き合い、タイミングを合わせて切谷が急旋回。追跡してきていたJ-11の目の前には、ノーズを自分に向けて“突っ込んでくる”F-15Jがいた。


『おらぁ! どいてどいて!!』


 なりふり構わず、我が物顔で突進してきたF-15Jに怖気づいたか、J-11は上昇を止めて反転を開始。すぐ右後方にいたSu-30MKKが代わりに短距離AAMを放ったが、高速のヘッドオンであったがために蒼波機を捉えきれず、左側を通過してしまう。そして、お返しとばかりにSu-30MKKのすぐ上方を高速で通過した。


「フェアリー、ミサイルまだ死んでないぞ。急上昇。運動エネルギーを潰せ」

『よっしゃあ!!』


 ミサイルに追われているというのに、そのテンションはむしろ上昇傾向にあるようだった。急上昇を賭けた蒼波は、さらにミサイルを引き連れながら、太陽がある方向に向かい始める。現代の赤外線誘導型AAMは、太陽とエンジン排熱の識別が容易に可能だが、それでも、回避をする一番の最適解はそこしかない。

 一定時間上昇すると、蒼波機の上昇率が一気に下がった。『フレア!』という宣言を出し、ブリップ上にある蒼波機の機首がほぼ一瞬で真逆の方向に変わる。太陽光にフレアを混ぜて高音熱源を出しながら、機首をミサイルが来ている真下方向に向けることで、エンジン排熱を少しでも隠そうという寸法だ。エアブレーキが使えないのに、ここまでの機動を……。


『ミサイル回避! 太陽めがけて一直線よ、ハッハッハァ!!』


 ……なるほど、近藤が“神業”というのも頷ける。こんな飛び方、普通のやり方じゃない。やれと言ったのは自分だが、こんな形でやるとは。普通の戦闘機乗りは、こんな鳥みたいな飛び方はしない。ブリップの動きからでもわかる。他のF-15Jと、蒼波のF-15Jは、まるで動き方が違っていた。実に、自由自在といったほうがいいぐらいに、力強く、そして、“優雅に”飛んでいた。


「(翼を得た“半神フェアリー”……か)」


 西洋の神話では、基本的に超自然的で、人間と神の間のような存在を指す言葉でもあった“妖精フェアリー”。神というわけではないが、しかし、人と言うのも躊躇するような存在。まさしく、中間。今の蒼波には、まさしくこのTACネームはピッタリであるのかもしれない。

 ――しかし、長くは続かないだろう。羽浦は、無線から聞こえてくる、味方の若干の変化にも気づいた。“息が荒い”のだ。


「(ずっと回避してるんだ、体力も減るか)」


 本来なら数分で片付く空戦を、10分近く連続でやっているのだ。ヘルメットの中は汗だく。耐G服の中も蒸れてしまっている状態であろう。乾いているとはいえ、気温を一定に保つように設定されたE-767の機内とは大違いの環境だ。どこかで、“休憩”をさせないといけない。

 だが、どこにもそんな場所なんて存在しない。このままでは、基地に帰るまで体力が持たない。燃料はまだしも、体力だけは空の上では回復しようがないのだ。ゲームみたいに回復アイテムが浮かんでいるわけではない。しかし、どこで休憩させればいい?

 羽浦は、必死にレーダー画面の至る所を探した。一旦休息に仕えそうな場所を探した。できればすぐ近く。沖縄本島を含む島嶼部は、もちろん無理だ。地上からの対空支援を期待するのも意味がないだろう。弾を撃てないうえ、そもそも地上に被害が及ぶ。洋上に浮かんでいる友軍艦船も同様だ。


「(とすると、あとはどこだ……どこに使えそうなものがある……?)」


 低空はもちろん今からでは意味がないし、かといって高いところに逃げ場所などあるわけもなく……。ミサイルの脅威から逃れられそうな安息の場所など、空にはやはり存在しないのか。


「(せめて、ミサイルが撃てないような場所があれば……)」


 敵にとって、ミサイルを撃ちたくても撃てないような場所。そんな都合のいいもの、空の上にあるわけ……。



「……、あッ」



 ……その時である。諦めるという選択肢を捨てた羽浦に、天は助け舟を与えてくれた。一つだけ。羽浦の目に留まったものがあった。4つ。フィンガー・フォー隊形を組んで、今まさに沖縄に向かっているそれは、確かに、“撃つ”ことはできない。


 ――これしかない。時間はあと3分。最低限の急速には充分だ。


「アマテラスより全機へ。疲れたからこれから休憩入りたいって奴は、俺の言った通りの場所に一直線に突っ走れ。何も考えるな。ただ一直線に走れ」

『一直線ッ?』


 近藤の困惑した声が聞こえる。それすらも、バテたように息切れが激しい。各機ごとにその目標がある方位と高度を素早く伝えると、動揺する面々を抑え、ランニングを要求する部活動の監督のように「走れ!」と声を張った。

 すぐに動いたのは蒼波だった。「じゃあ一番乗りね!」と、躊躇なくその方位に向けて走り始めた。周りもそれについていくように機首を翻し、指示された方位と高度に向けて全力疾走を開始する。


「おいおい、どこに行かせる気だ?」


 市ヶ谷と交渉中の重本に代わり、一時的に指揮を執っていた新代が、後ろからレーダー画面をのぞき込みながら言った。

 羽浦は、口元をニヤリと歪ませる。不敵に、はたから見れば不気味にすら見える笑みの裏で、羽浦は、一つの“抜け穴”を見抜いていた。


「あったんですよ、安息の地が」

「安息の地って、なんの話だ?」

「見てれば分かります」


 意味が分からず首をかしげる新代をよそに、羽浦はレーダー画面を凝視した。もうすぐだ。もうすぐ、肉眼でもしっかり見えてくる。その先にあるのは――。



 ――一番先に“吠えた”のは、蒼波だった。


「コンタクト! 目標、4機編隊! 真正面!」


 敵の追撃をかいくぐり、やっとの思いでヘルメットバイザー越しに見たその光景は、自らの幼馴染が意図していたものと完全に一致していた。蒼波は悟った。そうか、ここを“休憩所”にしろというんだなと。続いて近藤も、それを確認した。



『――ターゲットビジュアルID! “H-6”爆撃機の編隊だ!』



 そこにあったのは、まさしく爆撃を行うべく沖縄に向けて進行していた、H-6爆撃機4機編隊。機体カラーは中国軍のそれだが、案の定、尾翼や胴体にあるはずの識別番号や国籍マークは消されている。

 AEWから敵機接近の情報は渡っているはずだが、それでも、編隊を崩す気配はない。撃てないからと舐めてかかっているのか、それとも、目標への攻撃針路を維持することを優先したのか。しかし、何れにせよ羽浦の策略にまんまと嵌ったことには違いないと、蒼波が容易に理解していた。


『アマテラスより全機へ、休憩したい奴は身近な奴に“飛び乗れ”! 遠慮はするな!』

『やっと休憩だ! 先頭の奴は俺が貰うぞ!』


 歓声を上げる近藤の声に続くように、蒼波をはじめとする6機のF-15Jは、手身近なH-6の“背中”に飛び乗り始めた。蒼波はすぐ近くにいた、編隊左翼の内側の機体の上部に到達すると、最大限接近して“並走”を始めたのだ。蒼波だけではない。他の3機のH-6の上には、続々と味方のF-15Jが張り付き始めた。2機ほど溢れるが、その機体に関しては、適当に選んだ2機の鼻先を飛ぶことで、“同じ効果”を得られるようにしたのだ。


『各編隊長、全機いるか確認できたか?』

『こちらバザード1-1、こっちは全員いる。アライさんどうだ?』

『大丈夫だ、ナードは今3番機の鼻先についた。俺のすぐ目の前にいる』


 よし! これで完成だ。

 蒼波は周囲を見渡す。そのH-6の背中と鼻先にいる計6機のF-15J。追撃してきたJ-11とSu-30MKKは、それを確認しているにも関わらず、周囲を飛ぶだけで、手を出しては来なかった。


『ラクーン2-2よりアマテラス。思った通りだ。奴ら、こっちに手を出してこない』

『計画通りだ、クソッタレ。護衛機交代の時間だ』


 勝ち誇ったような、自慢気な幼馴染の声に、蒼波も思わずマスクの内側で笑みをこぼした。これこそが、我が自慢の幼馴染の編み出した、“奇策”だったのだ。


「……今度は、私たちがお守りってわけね」


 羽浦のテンションがうつったか。蒼波は、いたずらっ子のような不敵な笑みを浮かべた。



 ――これこそが、羽浦が見つけた“抜け穴”にして、“安息の地”。


「そうか、これだと敵は撃てないんだ」

「ああ。今ここでイーグルを撃ったら、破片が下にいるH-6に当たる。鼻先にいる奴も、被弾時の急減速でコックピットにヒットしちまうわけだ。どっちも、後ろから討とうにもH-6の胴体や尾翼が邪魔だしな」

「おまけに、H-6もこれ動けないよな。後ろのどこにいるかはわかっても、むやみに動かしたら、鼻先はまだしも、上のF-15に当たる。手足を封じたぞこれ」


 新代たちの言葉を肯定するように、羽浦は小さく不気味に笑って返した。

 撃たれない状態であるとはいえ、沖縄への対地攻撃による自軍への被害は抑えなければならない。ただでさえ、戦力が限られる自分たちにとっては貴重であろうH-6も、無事持ち帰ることがほぼ絶対的な条件になる。ここで問答無用で撃ったら、自軍の対地攻撃能力の激減を意味する。失うことは許されない。これは、彼らが持つ、ほぼ唯一の“弱み”だ。

 敵の弱みは、味方の“強み”である。損失が許されないH-6は、自分達にとっては、絶好の“隠れ蓑”に変身する。すぐ上に、そして鼻先に張り付くことで、撃墜した際の破片をH-6に差し向ける。そうすれば、日本は手を出していないのに、自分達で落とした結果、味方も巻き込んでしまったという結果になるのだ。

 奴らが言っていたのは、あくまで「“危害を加えたら”~」という、能動的な行動に対する忠告であった。こうした、“事故”による被害に関して向こうは言及していない。


「敵の宣言の裏をかいたか。よくやったぞ、羽浦」

「どうも、フへへへ……」

「笑い方怖ええな……」


 新代が軽く引いた。先ほどまでのどん底状態とは一転。脳内のアドレナリンが際限なく噴き出した結果、異様なまでの“ハイ”な状態になっていた。

 元々、この発想自体は一昨日のスカイアメリカ225便の件から持ってきたものだった。あの時、225便の尾部に張り付いていたMiG-29。あれのせいで、すぐに撃墜をすることができなかった。敵が使っていたあのやり方を、まんまとパクッて、極限まで追い込まれた状態からの大逆転を狙う。羽浦にとって、これほど極上の“喜び”はなかった。心の中で何度も、「ざまあみやがれえ!!! ハッハッハッハアアアア!!」と、子供向けアニメや舞台の悪役のような笑い声を心行くまで叫びまくっていたのだ。


「さぁ撃ってみろよ、撃った瞬間大事にお守りしてきたお仲間と一緒に海まで御手手つないで天国行きだァ。ほれほれ撃ってみろ撃ってみろってんだ、フヒヒヒェヒェヒェ……」

「おいこいつ壊れたぞ」

「さっきまで追い込まれてましたからねぇ」

「正直、気持ちはわからなくはない」

「敵に無線が繋がってたら、たぶん大声で「ザマァァァァアアアアア」って叫んでたんだろうなぁ……」


 そんな周囲の声も、羽浦の耳には届いていない。相変わらず、悪魔に魂を売った魔女のような、不気味な笑みを浮かべている。軽くホラーである。

 ……そんな中、一つの報告が舞い込んできた。


「CM、射撃距離に入りました」



 ――巡航ミサイルの発射時間になったことを知らせる羽浦の声は、味方のパイロットたちにも届いた。


『巡航ミサイル発射の段階に入った。今にも撃つはずだ。撃墜準備に入れ。撃ったら撃墜できたか否かに関わらずすぐに離脱だ』

『バザード1-1、了解』

『ラクーン2-1ラジャー。さあ気分もすっきりだしな、ささっと落として帰るぞ』


 短いながらも休憩の時間を得ることに成功した彼らは、気持ちを切り替えて巡航ミサイルの発射を待った。護衛機共も、やはり手は出してこない。周囲を距離を離して並走しているだけだ。撃てやしない。先ほどまで、いやというほど追撃をされた身にとって、これほど気分が爽快出来る場面はないだろう。こうなる前に落とせなかった自分の腕の未熟さを呪うがいい。蒼波は、羽浦と同様、不気味な笑みを小さくこぼし続けていた。この二人、やはりどこか似ているらしい。


『護衛は任せな、やっさんども。さっさとミサイル撃っちゃってどうぞ~』

『もうマスターアーム入れたぞー。さっさと撃ってくれよどん尻共ォ』

『H-6とF-15Jのコラボとか夢みてえだ、ハハハ』


 だが、他の者たちもどっこいどっこいのようだ。このような、野球で言うところの、終盤まで打たれまくっていたのに最終回になって連打で逆転をかますような最高の流れに、流石のパイロットたちも思わず勝気になったのだろう。事実、手は出せないのだ。変化があるとすれば、先ほどから編隊ごとで若干の降下をし始めた程度だが、発射高度がたぶん高すぎたのだろう。一応、AWACSには伝えたが、さほど気にするほどのものでもない。無線の先にいる彼も、そこまで気にしているようではなかった。


「結構粘るわね、まだ撃たないのかしら」


 もう一度、周りにいるH-6の編隊を見てみた。やはり、それといって大きな変化はない。ミサイルを撃つ様子もない。緩く降下を行いながら、沖縄本島めがけて一直線だった。


 ……妙だ。話が本当なら、もうここで撃っててもいい。ここまで粘るのはなぜ? 敵機がここにいるからって、発射タイミングが大幅にずれるなんてことがあるのだろうか? どれだけ粘ったところで、すぐにAAM-4Bに落とされるのは、自分たちもわかっているはず……。


「(フランカーもなんか動かないし、そっちにタイミング合わせるのかしら)」


 そう思い、隣にいたH-6を見やった時だった。


「……ん?」


 ――主翼下。てっきり巡航ミサイルでも搭載しているのだと思っていた。しかし、右隣にいるH-6の左主翼下には、増槽と思しきもの以外何も搭載されていない。巡航ミサイルの姿がない。左にいるH-6も同様だった。蒼波自身から見える右主翼下には、増槽以外何も積まれていない。

 ……なにこれ? 主翼に何も武装しないで飛んでくるなんてことはまずないはずだ。ということは、胴体内の爆弾槽に武装していることになるが、そこに詰め込むものといえば――。


 次の瞬間、蒼波はハッと気づいた。まさか、本当の狙いは……。


 すぐに近藤に無線を投げた。本当はE-767に伝えるべきなのだろうが、彼のことだ。たぶん無線は聞いているはずだ。


『フェアリーよりグリズリー。両サイドのH-6の主翼の武装確認してください。ミサイルありますか?』

『ミサイル?』


 数秒後、Su-30MKKの武装を確認した近藤が返答をよこした。


『……あぁ、本当だ。ミサイルないぞ。巡航ミサイルを積んでない』

『スリットよりグリズリー、こっちもです。俺のケツにいる見えるH-6、両方の主翼に巡航ミサイルがありません』

『スパークよりナード、そっちはどうだ?』

『こっちにもありません。妖精の嬢ちゃんの言う通りです』

『どういうことだ、ミサイル攻撃じゃないのかッ?』


 異変はE-767にも届いた。羽浦の戸惑いを匂わせる声が届く。


『アマテラスよりグリズリー、確認する。H-6はミサイル持ってないのか?』

『ああ、持ってない。増槽しかないぞ。巡航ミサイルらしき物体は主翼にぶら下がっていないッ』

『そんな、じゃあミサイル攻撃じゃない……?』


 羽浦は数秒ほどの時間をおいて、『まさか……』と呟きながら、全てのパイロットに無線を投げた。


『全機へ、近くにいるフランカーGの主翼下に何かあるか確認してくれ。ミサイル以外に何かあるはずだ』


 それを聞いた蒼波は、はじかれるように首を左右に振り、近くにいるSu-30MKKを探す。すると、4時方向に、ちょうど機体下部をさらしている機体があった。視力には自信がある。自慢のその目を凝らし、主翼にある物体を識別した。主翼の外側には、たぶん対空ミサイルだろう。その内側と、胴体下部には、ミサイルとしての外形を持つ物体が、主翼下にほとんどない。その代わりに、黒い物体が見えた。前後は短く、幅は太め。さらに、主翼のハードポイントの一つには、細長い、ミサイルとは違う筒のようなものも装備されていた。

 蒼波の脳は、それに合致する特徴のものをすぐさま導き出した。それは――。



「――爆弾と、ロケット弾ポッド?」



 ……蒼波は、ヘルメットの中で嫌な汗を流し始めた。近藤を含む多くのパイロットが、同様の報告を羽浦に向けて投げた。


『グリズリーよりアマテラス。爆弾だ。爆弾とロケット弾のポッドみてえな細い物体がある!』

『こちらスパーク、こっちもだ。文字通りの爆装だ。フランカーはミサイルで武装していない。爆弾を満載している!』

『対地攻撃をするアセットが、わざわざ射程距離が極端に違う武器を同時に使うことはないはずだ。ということは……』


 羽浦の導き出した結論と、蒼波が脳内で浮かんだ結論は、恐らく一致したはずだ。蒼波は、次に飛んできた慣れ親しんだ声が、震えていることに気づいた。


『……マズい。奴ら、巡航ミサイルで攻撃するつもりは最初からなかったんだ』

『じゃあ、つまり?』

『あぁ、H-6の腹の中も同じものが入っているに違いない。アイツら――』




『最初っから、迎撃できない爆弾とロケット弾で“空爆”するつもりだ……ッ!』




 延長戦に入った途端、敵チームに再度逆転をされた時のように、


 愕然とした心境に、蒼波たちは陥った……

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