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Guardian’s Sky ―女神の空―  作者: Sky Aviation
第6章 ―4日目 Day-4―
39/93

6-1

「Never give in, never give in, never, never, never-in nothing,

   great or small, large or petty-never give in except to convictions

       of honor and good sense. Never, never, never, never give up.

(大事であれ、些事であれ、また偉大であれ卑小であれ、何事においても、決して、

    決して屈服するな。名誉と良識に基づく信念による他は、決して屈服するな。

      絶対に、絶対に、絶対に、絶対にあきらめるな)」


 ――ウィンストン・チャーチル(イギリス / 政治家(元首相)・作家)

≫7月23日 AM02:15 沖縄県宮古市 下地島≪



 ――熱い雲が空を支配しているためか、あたり一帯は完全に真っ暗闇だった。海もそこまで極端に荒れた者ではないにせよ、その海面に光の反射はほとんどない。せいぜい、宮古島方向からかろうじて入ってくる街灯の光が弱く写っているだけである。


 下地島も、相変わらずの闇夜である。そのうち西側を占めている下地島空港のターミナルには、伊良部島及び下地島を占拠している敵の本拠地となる『管理部』が設置されている。ここがいわば総司令部としての役割を持ち、伊良部島と下地島にいる極東革命軍の部隊を全て一括で指揮している。また、下地島は、いざとなったときは伊良部島との連絡橋を破壊することで、そこに引き寄せられた自衛隊の装甲車両部隊を撃退する戦術的意図もあった。そのため、下地島には現地住民などは置かず、極東革命軍の部隊しか置いていない。彼らは今、ハンドライトを周囲に照らしながら、敵の接近を警戒している――。



「――CP、シノビ0-1。オオカミは狩場に入った。敵影、及び光源確認できず。上陸に支障なし」

『シノビ0-1、CP。了解。上陸を許可する。上陸後、浸透準備完了次第連絡せよ』

「CP、シノビ0-1。了解。これより上陸する」


 下地島空港南岸の近くの海面上には、その暗闇にまぎれるように、頭部の上半分が4つ浮かび上がっている。一人が短く端的な無線を終えると、4つの頭は上半分のみを海面上に見せたまま、海岸へ向けてゆっくり進み始める。

 その頭部には、ダイバーが使うようなゴーグルとシュノーケルが装備されており、先ほどまでの海中からの浸透を支えていた。“4人”は、今、下地島空港の滑走路35のエンド側にある進入灯と、ほぼ海岸沿いに東西に延びる道路の交差する場所の付近にある海岸を目指している。一部からは『珊瑚(35サンゴ)エンド』と呼ばれる場所であり、その名の通り、キレイなサンゴ礁を楽しむことができるダイビングスポットの一つである。

 ここは、滑走路にほど近い場所でありながら、ターミナルからは遠い場所である上、道路を照らす明かりもない。宮古島から直接ボートで接近する際にはほど近い場所にあるため、上陸地点にはうってつけであった。戦闘強襲偵察用舟艇(CRRC)で近傍まで接近し、そこからは泳いで上陸する。CRRCは既に、GPSを用いた無人操縦により宮古島まで戻っていっている。


 浜辺への上陸に成功すると、直ちに近くの岩場の影に隠れて、水中機動に使っていた装備類を外した。そして、同時に持ってきていた通常の陸上装備に取り換え、水中装備は指定された岩場の裏に砂を大量にかけて隠す。海側に面しており陸地側からは陰になっているため、念入りに探さない限り見つからない場所となっている。


「――ふぅ、全員いるか?」


 髪についた水分を手で払い、ヘルメットを被りながら、一人の若年の男性が小声で聞いた。

 陸上自衛隊特殊作戦群第1深部偵察小隊第5班『チーム・シノビ』の隊長『ソード』である。


「は~、久し振りの海水浴だった。昼だったらよかったんだがな」

「休暇貰ったらにしな、『インター』。装備確認は怠るなよ。『ピクシー』、情報更新は?」

「なし。このまま越境ね」

「了解。CP、こちらシノビ0-1。上陸、浸透準備完了。事後の指示を」


 全員の準備完了を確認したソードは、指揮所(CP)に指示を仰ぐ。CPから、今回の任務について再度簡潔に説明された。

 今回の彼らの任務は、伊良部島及び下地島に揚陸されたと言われている熱核兵器の有無の確認である。既に他の部隊が複数浸透しており、彼らと連携し、指定されたエリアをくまなく探す。チーム・シノビの担当区域は、下地島空港エプロン及びターミナル周辺。まずは目の前の道路を横断し、空港南側のフェンス沿いに北上、エプロン南側に張り付く。北上開始地点は越境ライン(BT)-Aアルファと設定され、到達許容時間は、今から5分。今から5分以内に、BT-Aに到達しなければならない。


「許容時間5分、了解。これより浸透を開始する」


 ソードは無線通信を終えると、すぐさま移動を開始した。5分しかないので手早くやらねばならない。


「水爆ねぇ、ほんとに持ってきたのか?」

「持ってきたかわかんないから俺たちが調べるのさ。早く探さないと、交戦許可取り消された味方が危ない」

「既に戦闘機はそれで落とされたって話よ。上の連中も何考えてんだか」

「複雑なのさ、上の方も。自衛隊と世論どっちも見なきゃならん、まさしく板挟みだ」

「そういうの聞いてっと、出世したくなくなるなぁ、俺」

「ハハ……。大丈夫か、『チェリー』。遅れてるぞ」


 ソードは一番後ろの方を向いた。4人の最後尾にいる、少し小柄の若い女性。先ほどの水路侵入の際に体力を使い過ぎたか、若干息切れを起こしていた。ソードの声を聞いた瞬間、すぐにキリッとした笑顔で、


「大丈夫です、いけます」


 はっきりとそう答えた。

 彼女は、去年特戦群に入ったばかりの新人である。アメリカをはじめとする各国での特殊部隊の女性解禁の流れを受けて、特戦群でも密かに女性隊員の受け入れを始めていた。現状はまだ試験的性質が強く、群独自にレンジャー課程に相当する訓練を施して資格を与えた者たちが既に数人程度存在し、この4人で言えば、ピクシーもそれに該当する。

 本来は宮古島で待機する予備部隊に充てられており、余程のことがない限り出番はないだろうと思われていた。彼ら自体、まだ群の中では若い面子で揃えられた下っ端の班であり、出番があるとしてもベテラン部隊の補助程度だと思われていた。

 ……が、その“余程のこと”が起きてしまったことで、急遽出動である。

 ソード自身、訓練もまだ完了しきっていない新人を連れてくることに抵抗がないわけではなかった。しかも、この班どころか、群の中じゃ最年少な彼女である。だが、事態は一刻を争うものには相違ない。一先ず、自分のすぐそばに置いて、補佐として動かすことにしていた。


「心配すんな。なるようになる。過度な緊張はただのお荷物だ。すぐに捨てろ」

「は、はい。了解です」

「なぁに、何かあったら俺が盾になってやるよ、へへへ」

「何言ってんのよこいつ……」


 茶化すようなことをチェリーにいうインターに、ピクシーは呆れ顔を浮かべるしかなかった。

 道路を乗り越えると、ネズミ返し付きのフェンスが見える。普通ならば、網に穴をあけてそこから入るのだろうが、それでは穴が残ってしまって侵入を悟られる。さらに、敷地内はほぼ平地で隠れられそうな場所がない。もう少しフェンス沿いに北上して空になる。


「インター、先導頼むぞ」

「よっしゃ、任せろ」


 インターは左腕に括りつけられた小型のタブレットを操作し、マップを表示する。そのマップには既に、自分たちが辿るルートが示されていた。インターの先導に従い、ソード、ピクシー、チェリーと続く。

 フェンス沿いは木々が生い茂っていたが、強引にかき分けてなんとか5分以内に到達できた。ここから先はフェンスに沿ってひたすら北上する。CPより、この後はそのままターミナルとエプロンの方向に向かうよう改めて指示を受けると、次に設定されたエプロン南側付近(BT-B)まで、敵に見つからないようにしつつ、迅速に接近する。まだ滑走路が遠くにあるためか、自分たちの左右は木々が高密度に生い茂っており、敵にはこちらが見えないはずである。ここいら辺は訓練で何度となく繰り返していたこともあり、手慣れた動きで迅速に北上を続ける。

 途中、まもなく滑走路と誘導路が近くなると、フェンスの向こう側の木々が消え去り、見通しの良い平地が見えてきた。空港敷地内の外縁を一周している道路と、外部の一本道とをつなぐゲートが見える。当たり一辺真っ暗闇だが、敷地内側の道路にそって警戒の車両が来ないとも限らないので、空港敷地側の光に注意しつつ、外部との接続ゲート前を横切った。


「――ッ、ライト?」


 突如として、滑走路上に光が灯った。同時に、誘導路灯や、エプロン照明灯も数秒遅れて灯る。先ほどまで真っ暗だったので、てっきり飛行機はもう降りてこないのだと思っていた。しかし、フェンスから少し離れつつ、滑走路の両端側の空を小型の双眼鏡で見やると、黒い絵具で強引に塗りたくったような真っ暗の空に、3つほどの、星にも見えそうな白い光が見えた。それは、徐々に大きくなって降りてきているように見える。


「……輸送機か。インター、機種わかるか?」

「ライトの位置からみて間違いない、キャンディッドだ。例の向こうさんの“定期便”だな」


 インターが再び小型タブレットを操作し、データベースを参照し合致するデータを持ってきた。極東革命軍が使用している輸送機だ。もはやおなじみになってきた機体に、同じ機数、そして、ひっきりなしに往復しているためか、大体5~6時間ごとに毎回やってくるため、既に自衛隊内では“定期便”と仇名され始めている。彼らが持っているのがこの3機のみなのか、それ以外にもまだ持っているのかは不明だが、何機か落としたのにまだ3機編成を維持しているあたり、予備を含めてそこそこの数は持っているのだろう。

 1機、2機と次々と降りてくる輸送機。それをできるだけ近くで確認するべく、4人は北上を続けた。


「(どうせいつもの装備弾薬類を持ってきたんだろう)」


 ソードはそんな風に楽観していた。持ってくるものは大抵決まっている。持久戦になることはほぼ確実なこの状況下で、補給するものと言ったら“備蓄類”だ。

 ……しかし、3機目の輸送機が滑走路に降り立つと、少しだけ状況が違った。事前に、とある取付誘導路付近に待機していたらしい1台の軽トラが、減速し切った当該輸送機の前に躍り出て、高速脱出誘導路に誘導した。荷台では、一人の兵士が誘導棒のような赤く光る棒を左右に振っている。フォローミーカー役というわけだ。

 先に高速脱出誘導路から平行誘導路に入り、エプロンに向かっていた先行の2機とは違い、この輸送機はエプロンに入ると、先行2機とは離れた南側の区域に駐機された。同時に、エプロン照明灯以外のライトがすべて消える。使用時以外はつけないようにしているらしい。

 輸送機に後を追いかけてきた4人は、その目の前で、後部のカーゴランプが、その場で徐々に開き始めるのをその目で確かめる。


「ここで積み荷を降ろすのか」

「珍しいこともあるもんだ」


 何時もはエプロンの中央で積み荷を降ろすと聞いていた。実際、先行の2機はそこで横に並んで駐機している。

 降ろされる積み荷は、そこまで得意なモノとも思えない。小銃類の弾薬と、あと対戦車ロケットランチャーらしき携行兵器、それとは別の装備や弾薬を詰めたらしいコンテナケース……。全て降ろし終えた後、空になったらしい質素な貨物室内が明るく照らされていた。


「CP、シノビ0-1。こちらからは特に目立ったものは降ろされていない。他の機体はどうだ?」

『ソード、今他の部隊からの報告をまとめているが、他の2機からも特筆すべきものは降ろされていない。装備弾薬類と、あと少数の人員程度だ』

「了解。このまま監視する」


 他の2機も同じか。わざわざここに止まったのだから、何か余程重要なモノでも降ろすのかと思ったが、特段そういうわけでもないのか。実はそこまで深い意味もなかったのだろうか。単に、ターミナル近くではあったので、本拠地防御用の装備弾薬はすぐ近くで回収したかっただけだったりするのかもしれない。ソードは、そんな楽観的な思案を脳内で巡らせていた。


「(向こうも降ろし終えたか……?)」


 奥の方にいる2機の積み荷の状況を確認しようとした、その時である。


「ソード、あそこ、ドローンよッ」

「――ッ!」


 ピクシーが小声でソードに忠告し、前方の上方向を指さした。管制塔の手前側にある白い建屋の方向から、数えただけで8機はあるドローンが、ハエが飛んだ時のような耳障りな音を発しながら躍り出てきていた。すぐさま、後ろにあった繁みに身を隠し、伏せた状態で監視を続けた。ドローンを瞬時に識別したチェリーがソードに小声で言った。


「リーダー、軍用のじゃありません。民間でよく見る奴です」

「市販品ってわけか。さしずめ、監視アセットとして使うつもりだな」

「これがほんとの“民間徴用”ってね」


 笑えない冗談はよせと、インターはソードから咎められる。ドローンは、建屋から輸送機へと続く道を厳重に監視しているようで、さらにその周りにもその目を向けていた。ソードたちがいる繁みの周辺にもドローンが来たが、何とか見つからずに済み、ドローンは去っていく。ここは、やはり訓練で鍛えられた擬態能力であった。


「随分と警備が厳重ね。それほど重要なのを積み込むの?」

「でもさぁピクシー。今まで何か積み込んでここ飛んでくことあったか? 多少の人員移動とか空になったコンテナ運ぶ程度ならあったかもしれねえけどさ、ここまで厳重にやってたなんて話なかったぞ?」

「そう言われてもねぇ……」


 首をかしげて困り顔のピクシー。とはいえ、二人の言うことは尤もだ。事実として、ここまで厳重に警備された積み込み風景は今までなかった。少なくともそうした報告はないし、ソードがCPに問い合わせても、「報告にはなかった」の一点張り。やはり、この輸送機はどうもおかしいのだ。


「おい相棒、建屋の方を見ろ」


 インターがソードの肩を叩いて、建屋の方を指さした。そこから、数人の小銃を持った兵士と、それに囲まれるように出てくる、一人の男性が出てきた。若いアジア系の男性のようだ。だが、顔を隠すためか、それとも狙撃を警戒したのかはわからないが、すぐにバイクで使うようなヘルメットをかぶってしまったため、顔は一瞬しか見えなかった。しかも、双眼鏡越しであったためよく見えず、アジア系の肌色をしていたという以外は、詳細な顔の特徴なども判然としない。彼らはそのまま、急ぐように速足で機内に乗り込んだ。


「重要人物の輸送ってことか?」

「でしょうね。ドローン飛ばして厳重に監視している上、速足で機内に乗り込んだあたり、相当重要度は高いわよ」

「厳重保護された人物かぁ、どういうやつか気になるところだねぇ。下地島からわざわざ輸送するんだから、さっきまでここで現地幹部として動いてたんかな?」

「かもな。インター、このまま見てろ。……CP、シノビ0-1。男性が一名、輸送機に乗り込んだ。アジア系の若年男性と思われるが、それ以外の詳細は不明」


 CPはすぐさま、それらしい人物との照合を始めた。時間は多少かかる。その間、輸送機の監視を継続した。前方にいる2機も、全ての積み荷を降ろし終えたらしく、滑走路への移動を開始した。それに伴い、滑走路と誘導路の照明も灯る。最後に、重要人物らしい男性を乗せた輸送機も、カーゴランプを締めながら移動を開始。3機共に、すぐさま滑走路から暗闇の空へと消えていった。

 結局、あの人物が誰なのかはわからなかった。CPで照合してみても、該当しそうな人物は見当たらなかったらしい。尤も、若いアジア系の男性というだけでは、特定するのもほぼ不可能であろう。極東革命軍の構成人員は、元となった軍の国籍や人種からして、アジア系ばかりで占られているに違いないのだ。


 ソードたちは、そのままエプロンの監視をしつつ、ターミナルの方向に少しづつ移動を始めた。輸送機が消えたので、空港敷地内の照明はすべて消える。被発見率は減ったものの、物音ひとつ立てないようにしなければならない。エンジンの騒音がうるさかった先ほどとは打って変わって、辺りは静かな空間で包まれている。


「……おいおい、これ聞いてみろよ」


 インターが、小型の無線機に取り付けたイヤホンをソードによこした。任務中に何やってんだと苦言を漏らすが、言われるがままにソードがイヤホンを肩耳につけると、そこから聞こえた無線内容に、表情を軽くゆがませた。


「……F-15が落とされた?」

「空自のだ。帰りの輸送機を護衛に来たらしいJ-11にやられたと」

「冗談だろ、交戦はこっちからしないのわかってるはずだ」


 空の輸送機を積極的に撃墜することは、初期はあったことだ。何機かそれで落としたと聞いている。だが、熱核兵器の疑惑が出て以降、帰路に就く空の輸送機といえど手を出すことはできなくなり、同時に、輸送機の護衛も消えた。今ここに来た輸送機も、着陸してくるときは護衛機の姿がなかった。燃料補給はできないが、護衛機も一旦ここに降りてくるのが慣例だった。荷卸しに時間はかからないので、着陸せずとも空港上空で待っているという手もあるが、それに伴う轟音すら轟かない。


「護衛機がわざわざ帰路限定でやってきたってわけだ。気になるなこりゃ」

「しかも手出しができないのを知ってるのに、自分から落としていったわけですか……随分と手が込んでますね……」

「ますます気になるな~? 誰が乗ってんだ、あの輸送機には……」


 インターが面白がるようなニヤケ面をかましながら、輸送機がさった真っ黒の空へと視線を移した。ソードの困惑した目線も、その輸送機の去った空に向いている。手出ししてこない戦闘機を、“念には念を”とばかりに落としてまで、厳重に輸送した人物――。

 あの男性がいったい何者なのか、相当偉い幹部の人間なのか、ソードには考えもつかなかった。



「(……というより、なんでそれほどの人物がこの島にいたんだ……)」



 結局、この場で答えが出る前にCPより移動を急かされ、


 それまでの思考を強制的に切り替えざるを得なくなった……

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