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Guardian’s Sky ―女神の空―  作者: Sky Aviation
第4章 ―2日目 Day-2―
28/93

4-7

 ――ミグ!? 羽浦は思わず無線を開いたままそう一言零してしまった。


 MiG-29戦闘機。この近辺なら北朝鮮ぐらいしか持っていない機体だ。それが、225便の腹に張り付いている。いや、正確には、機体の腹部すぐ近くを飛んでいるというべきか。

 だが、近藤は嘘を言っているわけではないらしい。蒼波からも同様の報告が飛んできた。


『こちら1-2、こっちでも見えた。MiG-29が1機。機体の中央下部のすぐ近くを飛んでる。どんな編隊飛行かましてんのよあのバカ』

「どれくらい離れているかわかるか?」

『ざっと見た感じ5~6m前後じゃない? もう少し離れてるかもしれないけど』

「軽くアクロバット飛行してんじゃねえか……」


 冗談は勘弁してほしい。旅客機に接近して飛ぶ戦闘機など、どこの映画の話だ。フランスの映画『ナイトオブザスカイ』の序盤で似たようなシーンはあったが、あれでももうちょっと離れてたはずだ。

 ただの旅客機しかいないと思って、近藤と蒼波を225便のすぐ近くに配置させる予定だったが、戦闘機がいるとなると話は違ってくる。一旦225便の後方すぐ近くについた2機は、速度を減速させつつ徐々に距離を離していった。万一の際の戦闘を考慮しての処置だ。

 羽浦はさらに状況を聞いた。


「グリズリー、そこから何が見える? 全部話してくれ」

『あー……さっきすれ違った時に見た限りじゃ、まず増槽を3つほどつけてる。あと、確信はないが、カラーリングがロシアの奴じゃない。ラプターに似てる』

「ラプターに似た塗装って、北朝鮮のファルクラムCの塗装だったはずじゃ」


 羽浦がそう呟いたのを聞いた、予備/補助要員として控えていた別の管制員が、急いで適当な本棚からファイルを取りだし、急いでページを何回か捲った。


「……あった。2016年に開催された航空ショーで確認されたファルクラムが、ラプターの塗装に酷似してるって言われてた。これ」


 そう言って見せてきたファイルに挟まれた写真は、2016年に元山で『第1回朝鮮本山国際航空ショー』が開催された時に、現地に出向いた海外メディアが撮ったMiG-29の写真だった。その機体は、確かにF-22の塗装に酷似している。少なくとも、参考にはされたのだろうと思われるほどの一致具合であり、近藤の見た塗装の形態が正しければ、このMiG-29は、北朝鮮のものである可能性が高くなる。


「武装はあるか?」

『確認できただけでミサイルが2発。両主翼の下に1発ずつ。それ以外は確認できなかった』

「了解。そのまま距離を保って監視しろ」


 データはある程度揃った。225便の下にいるのは、恐らく北朝鮮空軍のMiG-29 9.13規格。増槽3つに、武装は恐らく自衛用の短距離AAMだろう。元より、敵との積極的な戦闘は想定しておらず、最初から225便の腹部に張り付くことのみを考えていた可能性が高い。


「増槽3つもつけるって、帰還を考えてるんですか?」


 百瀬がふとそう疑問を訴えたが、重本は退けた。


「いや、単機でやってきて何もなしに帰ることができると考える程、奴らもボケちゃいないだろう。局戦のファルクラムをわざわざ長距離飛行させて、ここまでやってこさせてるんだ。生きて帰ることなんて考えちゃいない」

「じゃあ、あの増槽は……」

「……恐らく」


「――“爆弾代わり”だ」


 爆弾代わり――。重本は、このMiG-29が、最初から何かしらの敵との戦闘を行うために派遣されたわけでも、ましてや225便の護衛として差し向けられたとも考えていなかった。この不自然な飛行を行う理由は、一つしかないと重本は結論付けていた。


「コイツは、225便を人質に取ってる」

「どういうことですか?」

「考えてみろ。報告が正しいなら、双方の距離はたったの5m前後。ほとんど225便に張り付いている状況だ。その状態で、ミサイルを撃つなり、機銃を撃つなりして撃墜してみろ。……ファルクラムが被弾に伴って爆発した時、破片はどこに飛ぶ?」

「どこって、周辺に……」


 そこで、一同はハッと気づいた。破片は四方八方に飛ぶ。当然、“上にも”飛ぶ。


「……破片が225便に刺さります」

「それも、大量にな。そうなったら、穴が開いた旅客機から、大量の気圧が漏れる。乗員乗客が危険に晒されるぞ」

「では、あの3つの増槽も?」

「ああ。恐らく、爆発の威力と確率を高めるためだ。帰るためのものじゃない。より大きな爆発を起こすための、“爆弾の代わり”ってわけだ」


 重本の考察は理にかなっていた。確かに、生還率が極端に低い場所に送るのに、わざわざ武装を最低限に留めながら、増槽を増やす意味はない。ましてや、MiG-29等という局地戦闘機を使う必要性など無きに等しい。

 つまり、増槽は増槽としての役割ではなく、被弾した際の“爆発の威力と確実性の増加”を目的としているにすぎず、MiG-29が選ばれたのも、最初から使い捨てなのはもちろん、積極的な空戦を想定していないため、そこまで性能が高くない、比較的古いやつが選ばれたに過ぎないということだ。こうした場面で、わざわざ空戦性能が高いJ-11等を出すのは贅沢だ。


「(というか、極東革命軍には北朝鮮も関わってるのか……?)」


 一応、離陸前のブリーフィングで、極東革命軍の戦闘機が北朝鮮領内から飛んできている可能性が高いことから、北朝鮮の関与は疑われていた。だが、このMiG-29を見て、それは改めて確信へと変わった。極東革命軍を構成しているのは、旧中国軍だけではない。旧北朝鮮軍も含まれているのだ。しかも、少なくともこの場面では、北朝鮮の戦闘機は使い捨て扱い。ただでさえ数少ない北朝鮮のMiG-29が、こうした形で用いられていること自体、中々異常な事態だった。


 そして、懸念はそれだけではない。


「……これ、撃てませんよ」

「狙ったな。だから言ったろ、225便を“人質に”取ってるって」


 重本の言葉に、羽浦は苦いものを食べた時のような渋い顔を浮かべた。

 被弾時の爆発が、225便に危害を加えることとなれば、おいそれと撃墜をするわけにはいかなくなる。だが、そうなれば、225便はそのまま嘉手納に到達してしまう。225便、いや、225便を乗っ取ったハイジャック犯にとって、このMiG-29は、自分自身の犠牲を利用した一種の“盾”のようなものなのだ。

 ……こうなれば、落とそうとしても落とすことはできない。MiG-29をどうにかして225便から引き離せば何のことはないが、無理に動かそうとして225便と接触してしまってもマズい。最悪、引きはがそうとすれば、自ら225便に突撃しに行って、225便を道連れにするかもしれない。腹に張り付かれた時点で、打つ手はほとんどないようなものなのだ。


「冗談じゃないぞ……」


 羽浦の発した一言は、本人が気づかずに開かれていた無線を通じて、近藤と蒼波にも届いていた。



『――同感だ畜生。冗談じゃねえぞこんなの』


 近藤が吐き捨てるように悪態をついた。

 羽浦たちが立てた予測は、近藤も自らの頭の中で立てていた。蒼波とも話は共有させ、とりあえず手は出さないよう監視を続けることにはしたものの、このままでは、約30分後に行われるであろう自爆攻撃を放置することになる。落とすか、せめて引きはがさねばならないのに、すぐ上にいる225便のせいで何もできない……。何とも言えない焦燥感とイラつきを、内心で徐々に貯めていった。


『まさか、これごと落とせなんて言わねえよな?』

「落とせって言われても落とせませんよ私は」

『あぁ、同感だ。まあ、やるってなったら俺がやるからいいけどよ……頼むぜぇ、マジで』


 その言葉は、本当に神に祈るようであった。

 蒼波は真正面の遠方にいる225便を見る。もう小さな点にしか見えず、かろうじてB787としての輪郭が肉眼で確認できる程度だが、腹に張り付いているであろうMiG-29を、蒼波は憎々し気に見つめていた。あれのせいで、225便の護衛どころか、監視すらまともにできないのだ。


「……」


 ――どかしたい。どうにかしてどかしたい。この際最接近飛行でもかましてやろうかなどとすら考えていた。勿論、近藤や羽浦あたりから全力で止められるに違いないが、しかし、武器類が使えないとなれば、もうそうするしかなくなる。どうやって追い返したものか。中国の戦闘機が度々やってきたと言われている妨害飛行でもしてやればいいのか。しかし、225便がすぐ上にいる状態でそれをやるのは、ただの危険プレーにしかならない。


「(お守りのつもりかしら……)」


 なのだとすれば、これほど忌々しいお守りはないであろう。そして、さらに忌々しいことに、それは実際に効果を発揮している。

 蒼波は正面左上の垂直状況表示装置(VSD)を見た。E-767から受け取ったデータリンクのデータを反映し、蒼波の正面数キロ先に、1機の大型機と1機のMiG-29が飛んでいることを示している。JHMCSでも、225便の方を見やると、若干重なるが、2つの飛行物体の存在を示す情報をバイザーへの投影を通じて教えていた。

 ……何のことはない。今ここからレーダー波を照射すれば、すぐにでもロックオンできる。そうすれば、あとは腹に抱えているAAM-4Bなりを2発ぐらい時間差で撃てば即座に落とせる。AAM-4Bの命中率はバカにできない。北朝鮮の戦闘機が、これを完全にかわし切れるとは思えない。


 ……なのに、できない。すぐ目の前で悠々と飛ばれていることに、蒼波は無性に腹が立った。苛立ちを少しでも外に放出するように、スラストを握る左手の人差し指を貧乏ゆすりのように「トントン」と何度も上下に動かす。


「はあぁ……」


 マスクの中で、いつもより大きく息を吐いた。腹に抱えたストレスを口から吐き出すように、妙に長い時間をかけて。嘉手納までもうあと20分を切る。今後の対処などを考えると、MiG-29の撃退は早い方がいいのに……。


『――バザード1-1よりアマテラス、もうちょい近寄らせてくれないか? ここからじゃ流石に見えにくい』


 耐えかねたのか、近藤は225便への接近の許可を求めた。MiG-29の目的が225便の“お守り”なら、自分達への攻撃は積極的にはしてこない。そう踏んだ上での進言だった。


『攻撃の可能性を下げるために、後方から少しずつ接近する。機体の状態だけでも見たいんだが……』


 だが、返事はすぐには来なかった。無線をスイッチをつけっぱなしにしてたのか、誰かと話す羽浦の声だけが響いていた。


『――え? じゃあバザードどうするんですか? 別の場所に? ……合流後? いや、あと5分弱ぐらいかかりますけど――』


 幼馴染のドジっぷりに小さく苦笑いを浮かべる蒼波だが、羽浦は今度こそ無線に答えた。


『……あー、アマテラスよりバザード1-1、ちょっと対応が変わった』

『変わった? 何がだ?』

『この後は米軍がやる』

『……は?』


 近藤が復唱を求めた。だが、言うことは変わらない。


『――この後の対応は在日米軍がやることになった。今、嘉手納からF-15がスクランブルに上がった』



 ――E-767には、E-3から嘉手納の動きについて連絡が入っていた。嘉手納では防空警報が発令されたと同時に、2機のF-15Cがスクランブル発進したとのこと。さらに、日本政府の許諾を得て、225便の対処について、在日米軍に一任するとも言ってきた。何れ、市ヶ谷から直接連絡が入るだろうとも。


「政府の連中、アメリカに投げたな?」


 電話のマイクを押さえながら、重本は小さく愚痴った。アメリカの航空機が、アメリカの基地に飛んできているとなっていても、実際に対処しているのは日本の空自なのだが、それ故に、対処そのものも、アメリカ側でやってしまおうという魂胆らしい。こんな事態の責任を負いたくない気持ちは察するが、これじゃただの責任転嫁ではないか。

 重本が、E-3と連絡をし終えると、市ヶ谷からの情報を受け取った。E-3からの連絡通り、今後の225便の対処は、在日米軍に一任する旨の通知だった。上からやれと言われれば仕方がない。とりあえず、その通りに動いた。


「――まあ、そういうことだ。今、そっちにF-15Cイーグルが向かってる」


 事情を粗方伝え、羽浦が合流後の離脱も指示した。だが、やはり近藤は納得していないらしい。


『おいおい、あとは向こうに丸投げか? 政府が言ったのか?』

「だと、向こうは言ってきている」

『冗談きついぜ。相変わらずの責任転嫁かよ』

「上がそう言ってるんだ、耐えてくれグリズリー。とにかく、スクランブルのイーグルが来たら離脱。その後の指示は追って伝える。ETAは10分程度」

『へいへい……バザード1-1、了解』


 納得はし切れていないが、一応の了承はしたらしい。先にあった接近要請も、グリズリーの方から取り下げの無線が入った。どうせ離脱するのなら、別に今更何かする必要もないだろうとの判断であろう。

 とはいえ、在日米軍に対処を委任したとして、今後をどうするかは気になるところ。E-3側と再び通話していた重本が、また受話器を切って、今日何度目かのため息をついた。


「……参ったな」

「何て返答来たんです?」


 一人の管制員がそう聞くと、目を細めて重本は言った。


「……事態を受けて、嘉手納はもうスタッフの避難を始めたらしい。地下なりなんなりに避難させて、防空砲兵大隊もスタンバイしたと」


 これは、米陸軍第1防空砲兵連隊第1大隊(第1-1防空砲兵大隊)のことである。元々は、テキサス州フォートブリスに所在していたPAC-2/3を混載する防空部隊であり、近年の北朝鮮情勢の急激な悪化に伴い、嘉手納に移駐してきていた。

 指揮統制は、ハワイ州フォート・シャフターの第94米陸軍防空ミサイル防衛コマンドが行うため、E-3が直接そこに情報を与えて要請したのだろう。航空機相手なら、PAC-2を用いることになる。


「向こうは落とす気ですか?」

「万一に備えてらしい。だが、向こう曰く、「墜落5分前の段階になった時点で、撃墜する」と」

「ひえぇ……」


 何て急な話だ。今向かっているF-15Cは現着まで5分程度かかるが、その時点で225便はあと10分で嘉手納基地に突っ込むという段階。実質的な判断時間は今からたったの15分。余りに早すぎる。

 重本の話では、嘉手納を中心にした円形の迎撃ラインを敷いて、そこに一歩でも入ったら、ということのようだった。それが、現在の速度のままで嘉手納に直行したら5分で到達するという距離だった。


「少しでも判断材料を与えないと。何か機内で動きがあったら事だ」

「バザードが接近飛行の許可求めてましたけど、許可します?」


 本当は向こうから取り下げたのだが、この際、こっちから再度命令する形で認めればいいと羽浦は考えた。重本も同意した。


「ああ。あと5分しかないが、確認できるだけ確認しよう」

「了解。アマテラスよりバザード1-1――」


 そして、その指示は近藤に伝えられ――



『――なんだ、別に取り下げんでもよかったじゃねえか』


 近藤と蒼波が、その通りに動く。


『よし。お前は機体の左側から徐々に接近しろ。俺は右をやる』

「了解。左ですね」


 ここで2人は編隊を解き、後方の左右両側から徐々に接近していった。蒼波は、225便の後部左45度の角度を維持し、少し上の方角から接近。エンジンを若干前に押し、機体を少しずつ下げる。上から接近したほうが、例のMiG-29からは225便の胴体が邪魔で見えにくいというのもあるし、仮に機内から誰かが見ていたとしても、下より上の方が目が行きにくいだろうと考えての対応だった。考えてみれば、上は太陽がすぐそこにあるので、わざわざ見ようともしない。それに、下の方が結構景色としては良い。人体構造上の問題もあるが、人間という生き物はどうしても、何もない上の方には余り目を向けないのである。


「(目立った損傷はないか……)」


 徐々に接近するにつれ、輪郭も顕わになる。B787特有の左右に滑らかに伸びた、まさしく“鳥の羽”の如き主翼は、キレイな本来の形を維持している様だった。胴体も、目立った外傷はない。予想はついてはいたが、お守りのMiG-29も、どうやら何かしらの攻撃はしなかったようである。

 あとは機内の状況を見られればいいのだが……流石に、この距離からは何も見えるわけもない。元より、太陽の光が強すぎて、機内の光が届かないだろうし、余り期待してもいなかった。

 近藤も、どうやらそれらしい外傷などは確認できなかったようだ。もう間もなく嘉手納からのスクランブル機が到着する。あと3分と告げられ、近藤から、再び距離を取り編隊に戻るよう指示を受けた。


「(……あまり離れたくはないけど……)」


 正直、あと十数分で落とされるかどうかの瀬戸際に立たされる機から、離れたくはなかった。中には大量の乗員乗客が乗っているはずである。中国から命からがら逃げてきたのに、こんな形で命を落としたくはないはずだ。どうにかして無事に降ろしたいが、米軍に対処が一任されたならどうしようもない。流石に命令違反を平気でやるような勇気はなかった。

 後ろ髪を引っ張られる思いとはまさにこのようなものか。エンジン出力を抑え、徐々に後退する形で離れようとした……


「……、ん?」


 ……最後に、225便の方を見た時だった。機体の最高部……一番後ろのドアの窓あたりからか? そこが、妙に光っていた。太陽の光が胴体に反射してできたものではない。あれは、“人工的な光”。


「え……、ライト?」


 まさか、機体の外にライトを向けているのか? 戦闘機がいる事に気づいて、ハイジャック犯がレーザーポインターを向けて妨害でもしてきているのか? いや、この光はレーザーポインターにしては少し違和感がある。結構太めの光だ。しかも、どうやら点滅しているらしい。


「グリズリー、妙な光が見えます」

『光? なんだ?』

「わかりません、ライトみたいです。点滅してます」

『待ってろ、すぐに合流する』


 すると、元々すぐ近くにいたからなのか、近藤は1分としないうちに蒼波のすぐそばに来た。蒼波に言われた場所を近藤も確認する。


『……見えた。確かに光ってる』

「太陽の反射じゃないですよ。あんな点滅の仕方しませんし」

『おかしい……、ていうか、この点滅は……』


 すると、近藤は少しの間無言となった。光をじっと見つめているらしい。「グリズリー?」と呼んでも、近藤は無反応だった。一先ず、蒼波は代わりに羽浦に報告した。


「アマテラス、こちら1-2。225便の機体の後部より不審な光の点滅を確認。現在グリズリーが確認中」

『光の点滅? なんだ、接近がバレたのか?』

「わからない。でも、点滅の仕方が妙なのよ。あれは、まるで――」


「――“モールス”、かしらね」


 『モールスぅ?』。羽浦が若干苦笑交じりにそう答えた瞬間、近藤が叫んだ。


『――いや、間違いない。モールスだ!』

「え!?」


 近藤の声は力強い。何かしらの確信を持たなければ出せない声だ。羽浦も、先ほどまで抱いていた疑念を一気に吹き飛ばされたようで、すぐに声のトーンを下げて確認を入れた。


『グリズリー、モールスで間違いないか?』

『ああ、間違いない。あの光はモールス信号だ。アマテラス、こっちの無線はちゃんと聞こえてるな?』

『聞こえている。内容は解読できたか?』

『短い文面だ。一回しか言わないからよーく聞け』


 一回しか言わないということは、緊急性を要するということの裏返しだ。何が送られてきた? 蒼波も、その次の言葉を待った。


『――“機には手を出すな。今から――』





『――この機を、取り戻す”。以上』

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