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Guardian’s Sky ―女神の空―  作者: Sky Aviation
第4章 ―2日目 Day-2―
26/93

4-5

≫AM10:57 東シナ海上空≪



 ――東シナ海上空は相変わらず緊迫していた。先島諸島からは絶えず飛行機が本土と行き来しており、それらの管制は、神戸コントロール(ACC)(低高度)と福岡航空交通管制部(ATMC)(高高度)が受け持っていた。前代未聞の事態にあっても、卓越した管制業務により、一応の安全は確保されている。それらは太平洋方面に一旦抜けて、海自や米海軍の防空圏内に入った後、両軍が作った、本土と先島諸島を繋ぐ“防空圏の道”を伝って飛んでいく。

 羽浦たちの乗ったE-767も、それらの監視を行っていた。南西諸島の防空警戒任務と同時並列的に行うことになるが、E-3をも上回る管制能力を持つE-767だからこそできる芸当だった。神戸ACCや福岡ATMCとの専用の回線を開いて、必要とあらばこちらから直接情報を渡せるようにした。


「――J-SKY3554が、下を何か通るのを見たと言っていますが、現場空域の確認を」

「空域は?」

「セクター5、S6T8シエラシックスタンゴエイトです」

「深川、J-SKY3554の機影は捉えてるな? 周辺に敵航空機は?」

「ありません。周辺は民間航空機のみ」

「江奈、周辺護衛艦から通報ないか?」

「こちらには来ていません」

「よし。神戸ACCに伝えろ。周辺空域に敵機なし」

「了解」

「ラクーン3、まもなく燃料ビンゴ。CAP時間残り15分――」


 重本が次々と指示をしつつ、報告も受け取る。民間機との調整は初めてであったが、半ば手探りではあるにせよ、互いに情報を交換し合う程度なら何とかやれる。

 羽浦は民間機担当ではなく、幾つかある防空警戒エリアの一つに防護戦闘空中哨戒(BARCAP)に上がった機体の管制を担当していた。今CAPに上がっている部隊のうち、ラクーン3が、まもなく燃料低下により帰頭する時間となる。CAPの残り時間を伝えた後は、ラクーン3に無線で指示を出した。


「RACCOON 3-1, report in.(ラクーン3-1、状況を報告せよ)」

『RACCOON 3-1, We’re currently unable to see enemy aircraft.(ラクーン3-1、こちらは現在敵を確認できていない)』

「AMATERASU roger. You’re remaining CAP time is 15 minutes. Next CAP team is already standby.(アマテラス了解。貴隊のCAP残り時間は15分。後続隊は既に準備完了)」

『RACCOON 3-1 roger.』


 さらに羽浦は、沖縄本島より南東にいる空中給油機を確認した。次の部隊は、まずこっちにくる。そこから、現在のCAPチームと交代になるのだ。自衛隊としてはほとんどあり得なかった、“完全武装”のF-15Jが飛び立つのだ。離陸重量の問題や、那覇基地にある燃料ストックの節約の関係もあり、空中給油機の能力を如何なく発揮することになった。


「那覇から次発上がりました」

「よし、上がった奴は全部給油空域レストエリアに向かわせろ。KC-46Aメインレストに連絡」

「了解。MAIN REST, this is AMATERASU, next CAP team――」


 別の管制員が、次発の部隊の接近を予告した。KC-46A“ペガサス”は、空自が導入した新型の空中給油/輸送機である。KC-767とほぼ同じ形状を持ち、旧式化した米軍給油機を置き換え中である。空自では既に3機導入しており、これはそのうちの1機。現場空域にはKC-46AとKC-767が1機ずつ待機しており、それぞれをメインとサブに分けて空中給油を担当している。


「次のCAP、那覇からエアボーン。レストエリアETA、ネクスト05」


 那覇基地周辺を監視している管制員の報告を耳にしながら、レーダー画面を拡大し、那覇基地の方を見た。今上がったばかりらしい4機の機影が、羽浦の目に映った。


「……バザード?」


 見覚えのある部隊名。しかも、コールサインは1-1~1-4だった。無線交信を聞くに、一人は女性だ。やはり、こちらも聞き覚えのあるものだった。


「……アイツ、飛んだのか」


 もちろん、任務があるので嫌とは言えないのだが、恋人が死んだ直後である。相当狼狽えているだろうとは思っていたが、それでも飛んだあたり、極端にマズい精神状態というわけではないらしい。再び自分が管制することになる。一抹の不安が、彼の脳裏をよぎった。


「(神野さんの二の舞だけは……)」


 ましてや、彼女自身にそれを経験させるわけにはいかない。他であればいいというわけではないが、せめて、見知った人間が死ぬところを目にするのだけは避けたいと思うのが人間である。彼もまた、普通の人間でしかないのだ。

 バザード1の4機は一旦南東に進み、順番にKC-46Aから燃料の補給を受けると、完全武装に加え燃料満タンの状態で、東シナ海へと進出する。その中で、管制担当は羽浦へと移った。


「アラートセクターに入ります」

「羽浦。そっちにバザードいくぞ。ラクーンと交代させろ」

「了解」


 重本の指示の下、羽浦はラクーンを下がらせると、バザードが入れ替わるように現場空域に入ってきた。CAP部隊交代。ラクーンは一直線に那覇基地に戻っていく中、羽浦は無線を開く。


「BUZZARD 1-1, this is AWACS AMATERASU, how do you read?(アマテラスよりバザード1-1、聞こえるか?)」

『BUZZARD 1-1, reading 5, over.(バザード0-1、よく聞こえる。どうぞ)』


 聞いたことのある声だ。昨日も聞いた、近藤の声。ということは、やはり二番機にいるのもそうだろうと、大方の予想を付けた。


「BUZZARD 1-1, Your CAP-point, area C-2A and C-2B, ALT 30, flight pattern 8 over.(バザード1-1、貴隊のCAP地点、エリアC-2A及びC-2B、高度3万ft、第8飛行パターンを使用)」

『BUZZARD 1-1 copy. Area C-2A and B, ALT 30, pattern 8.(バザード1-1了解。エリアC-2AとB、高度3万ft、第8パターン)』

「BUZZARD 1-1, read back is correct. You start the CAP.(バザード1-1、復唱を確認。CAPを開始せよ)」

『Roger. Start tha CAP. ……1-3、4を連れてアルファに向かえ。こっちはフェアリーを連れてブラボーに行く』

『1-3、ラジャー』


 羽浦が指示を終えると、バザードは2機ずつの編隊に別れ、それぞれ、C-2A、C-2Bとよばれた担当の哨戒空域で8の字を描くように飛び始めた。どちらに敵機が来ても、すぐにもう片方が急行できるよう即応体制を整えたうえで、E-767からの敵に関する連絡を待つ。

 哨戒空域C-2は、宮古島の北西120km程離れた地点、ちょうど宮古海峡の東シナ海側入り口に当たる海域の上にある。そのうちBは、沖縄本島側に寄ったほうの空域だが、先の無線を聞くに、どうも近藤と、やはり飛んできていた蒼波が、ここを担当することにしたらしい。というより、あの二人、またコンビを組んで飛んできたのか。


「今のところはちゃんと飛んでるか……」


 尤も、“あの程度のことで”飛行に支障が出てしまっては困るというのも正直ある。感情論抜きにして考えれば、幾ら親しかったとはいえ人が死んだぐらいで真面に飛べないとなるような“軟弱者”には、戦闘機パイロットは務まらないのだ。誰でもない蒼波本人もわかっているはずなので、そう易々と腕を落とすようなことはしないはずだ。こういう時、パイロットというのは冷徹なぐらいが実際はちょうどよかったりするのである。


 暫くの間は何も飛んでこないでいた。しかし、定期的な燃料と機体の状態確認の無線を羽浦が入れた直後、他の警戒管制ユニットとの無線交信を担当していたとある管制員が、少し張り気味の声で重本を呼んだ。


「韓国軍から直接回線ダイレクトです。向こうの早期警戒管制機ピースアイが、東シナ海方面に南下する航空部隊を捉えたそうです。まもなくこっちに入ると言っています」


 無線は韓国空軍のB737-700 AEW&C“ピースアイ”からだった。昨日からの一連の事態を受けて、在日米空軍主導で、急遽日米韓で相互連絡をできるようにした臨時周波数を使ってのものだった。1分1秒を争う状況下において、少しでも迅速性を確保する上での緊急処置だったが、どうにかうまく機能していた。

 昨日から韓国では、海空両面で散発的な戦闘が発生しており、対北朝鮮警戒と同時並列で対応に当たっていた。ソウルは厳戒態勢で、韓国全土の軍が総出で警戒に当たる中、早期警戒管制機ピースアイは、新たに南下する敵を捉えたのだ。韓国の西岸側を舐めるように動いていたため、警戒のために戦闘機を送ったが、これを見た敵は攻撃を開始。ミサイルの応酬が繰り広げられ、数機の撃墜に成功したが、残りは全て東シナ海に向かっていった。


「一部味方が囮になって、他の味方を逃がしたようです。確認できただけで5~6機ほどと」

「そいつらはどこからきたんだ?」

「詳しくはわかりませんが、どうも山東半島付近で見かけたと言っていますので、たぶんそこ近辺から、さらに北からかと」

「ゴーストの連中だな」


 重本は確信した。大陸側からやってくる正規の中国軍は今はいない。間違いなく極東革命軍の一派だ。詳細は規模は不明だが、確認ができた5~6機だけであっても、南西諸島方面にやってくるとなれば脅威だ。

 韓国側曰く、中国軍かどうかの無線にも反応がなく、識別信号も明らかに違うものに変更されていたため、少なくとも中国軍のものではないとのことらしい。ならば、こちらがやることは一つである。


「正確な機種を聞いてくれ。あと可能なら使用していたミサイルの種類も」

「了解」

「百瀬、レーダーには映ってるか?」

「まだこっちには来てません」

「よし、もうすぐくるはずだから映り次第迎撃に向かわせる。向こうには悪いが、今度は遠慮なく撃たせてもらうぞ」


 重本が威圧がかかった声で言った。前回、やりたいようにやらされたこともあり、今度はこっちの番だと意気込んでいた。犠牲を最小限にせねばならないのだ。今度は本調子を出せるのは有り難いことこの上ない。

 韓国軍からの情報がさらに更新された。確認できた機種はJ-11と思しきもの一つのみ。セルジュコフカラーで、ミサイルは中距離AAMと短距離AAMの混載。正確な種類までは特定できないが、前者はアクティブレーダー誘導系で、後者は赤外線誘導系のものであるらしいことまでは確認できたとのこと。

 これだけあれば十分だ。あとは自分たちで絞り込める。韓国軍から情報を受け取り終えると、それを他の部隊や地上の司令部にも通報しつつ、進攻方向をある程度特定し、迎撃の準備を始める。


「羽浦、ここからくるとして、一番近いのは誰だ?」


 重本が、羽浦の見ているレーダー画面の一部をペンで指しながら聞いた。黄海から東シナ海に入る部分に当たる。レーダー画面を少しだけ拡大し、飛行中の機体を確認して、


「……一番近いのは、ここのベア7の4機と思います。次に近いのは、少し南にあるベア5の4機」

「んで、次がこの4機か」

「はい。バザード1の4機です」


 ベア隊の2個フライトは、新田原基地の第305飛行隊から上がってきた合計8機のF-15Jから構成されている。バザードの4機も含め、こちらにある手元のカードから、すぐに出せるのはこの合計12機。こちらにやってくるのが、先に確認できた5~6機で全てなら、圧倒的な数的有利を持っているので、先制さえできれば難なく退けることは可能である。だが、油断はできない。

 一番近いベア7とベア5を順次迎撃に向かわせることにした。担当の管制員に命じると、それぞれが予想飛行ルートの南側に陣取り、迎撃の体制を整え始める。バザード1も、若干北寄りに位置をずらすよう命じ、必要に応じて援軍として迎える体制を作る。

 E-767の見ている戦況は、空だけではない。海も同様に監視を続けている。


「一時沖に出ていた駆逐艦『三明』と『泰州』が、宮古島方面へ針路を取り始めました。現在、海自の護衛艦『いかづち』が対応に向かっています」

「もうほとんど住民避難は済んでいますが、現地に伝えますか?」

「ミサイルの射程に入ったらマズいしな、宮古島防護についてる護衛艦は?」

「ミサイル艇『しらたか』です」

「念のため伝えておけ。接近する敵艦の詳細を『しらたか』に無線で報告」


 一時的に宮古島を離れていた2隻の艦艇は、所謂『揚陸艦隊』と呼ばれていた3隻の艦艇のうち、『八仙山』以外の護衛の2隻である。呼び戻しに来た“政府軍”たる中国海軍の迎撃に出ていたが、それが戻ってきた。離れていた隙に住民避難を急がせていたが、戻ってきたらミサイルの射程に入る。ミサイル防空がない伊良部島を、自らのミサイル防護の枠に入れんとする2隻を足止めるするべく護衛艦『いかづち』が向かったが、同時に、宮古島周辺を直接防衛している一部艦艇にも連絡が入った。

 

 暫くして、E-767のレーダー上でも報告にあった敵機が映った。「ゴーストコンタクト」との報告が百瀬から伝えられる。


「エリアS1Y8サウスワンヤンキーエイト目標針路ターゲット・ヘディング17……あー、165、高度アルト38、速度スピード890。反応解析、Su-27系統に合致。恐らくJ-11!」

「機数は?」

「機数はぁ……えー、7、いや、8機です。8機確認!」

「同数か、先手を打たないと」


 確認できた機体は8機だった。こちらの手元にある12機よりは多いが、最初にたどり着くベア7とベア5を先に交戦させるとなると、同数同士の空戦となる。被害を最小限とするならば、最初の一手はこちらから打たないといけない。


「ベア7とベア5の位置は?」

「ゴーストより南東70マイルにベア7、南80マイルにベア5」

「よし、視界外戦闘(BVR)を開始する。ベア7とベア5に交戦許可、レーダーはこちらの指示で照射。ミサイルはそのあとだ。射撃後は一時後方に退避」

「了解。ベア7と5に伝えます」


 担当の管制員がベア7とベア5に重本の指示を伝えた。敵はまだこちらの動きには気づいていない。E-767のレーダーには捉えているので、レーダー波そのものは向こうも捉えているはずだ。

 重本の指示の下、さらに細かい動きが伝達された。ベア7は一旦高度を下げて後方に回り込む動きを見せ、逆にベア5は敵の真正面に位置した。ベア5が真正面から、ベア7が後方からミサイルを打ち込みむという挟み撃ちの戦法だ。この間にも、ベア隊は自らレーダーを放つことはないため、敵は自らレーダーを放たない限り見つかることはない。


「ベア5-1がレーダー照射を受けたと」

「ロックオンか?」

「いえ、まだ捜索の段階です」

「もう少し我慢しろ。ミサイルの射程にはギリギリ入っていないはずだ。注意を引きつつ一旦退避させろ」

「了解」


 管制員から、レーダー使用許可が伝達される。ベア5の4機は一旦反転し、距離を取る。その隙にベア7が一気に加速し、敵の後方に回り込むことに成功した。ベア7には気づいていないらしい。後方を注意するような動きはレーダー上にはない。


「ベア7、ミサイル射程内」

「よし、今だ。レーダー照射を許可! BVR戦闘、攻撃開始!」


 始まった。重本の号令一下、BVRが開始される。ベア5、ベア7の4機のF-15Jは、直ちに自らのAN/APG-63(V)1レーダーを使って、LRS(長距離捜索)モードにより即座に敵の編隊を捉える。すぐにTWSモードに切り替え、それぞれの受け持つ目標を分配。既にE-767からデータリンクを通じて送っていたデータをもとに、自らの担当を決めると、それぞれが腹に抱えていたAAM-4Bを1発ずつ発射した。

 レーダー捜索は行いつつ、そろそろ攻撃を行おうとしていた敵部隊は不意を突かれた形になった。自らが捉えていたのはベア5のみであり、E-767の予測通り、ベア7の気配は察知できなかったらしい。とはいえ、ベア5の放ったAAM-4Bは射程ギリギリから放ったこともあり、回避そのものはがんばればできる状態にあったことが、彼らにとって不幸中の幸いであったかもしれない。ベア5に狙われた機に関しては、一気に射程外に逃れれば生存はできる。

 ただし、ベア7に狙われた機体はそうもいかなかった。射程に十分入り、命中もほぼ狙える有効射程に入った状態で放たれたために、高性能アクティブ(A)レーダー(R)ホーミング(H)シーカーによる高い命中精度を誇るAAM-4Bの餌食となった。


 一気に戦力は半減したものの、敵は逃げる選択肢を取らないらしい。一気に距離を取り、また旋回して再攻撃を行う動きを取り始めた。重本の指示の下、ベア7が中心となり、さらに攻撃を加えるべく追跡をかける。


「……優勢か」


 羽浦はレーダー画面を広域モードにしながら、戦況を見つめていた。これこそが、E-767“AWACS”の真価。戦闘機にレーダーを使わせず、代わりに、自らが“空の目”となって味方を適切に誘導し、敵を撃つ。そこで得られる情報は、まさしく“神の視点”ともいうべきもの。神の目を得た戦闘機たちは、戦場で得られる情報を膨大に抱えることができ、最大限の安全を確保しつつ、有利な空戦を展開できる。

 本格的な空戦においては、もはやドックファイトなどほとんどいらない。視界外からミサイルを数回放って終わりなのだ。一昔前の、敵味方乱れる空戦を演ずることは、ある程度の状況が整わない限りないと言っても過言ではない。


「……すごいな」


 羽浦は純粋にそう思った。これが神の視点。最初に、E-767に非公式で『アマテラス』なる仇名を付けた人間は、よくそのことを理解していたに違いない。太陽神、まさしく天空から見つめる女神。このE-767にぴったりな名前だ。

 戦闘は有利に進んでいたが、今度は敵の反撃も入ってきた。敵が放ったBVRAAMが、F-15Jに襲い掛かり、今度はベア7から2機、ベア5から1機の被撃墜機が上がった。


3スリーショットダウン! トータルスリー!」


 焦る管制員。自らが受け持っていた機が落ちたのだから無理はない。それでも、重本は慌てなかった。


「落ち着け、大丈夫だ。一旦後方に下がらせろ。那覇にレスキューを要請」

「了解」


 そして、羽浦にも指示が入った。


「羽浦! バザード1の4機を近くにもっていってくれ! BVRさせる」

「了解」


 ついにバザード1にも出番が来た。こちらもF-15J4機。無線で直ちに指示を送る。


「BUZZARD 1-1, this is AMATERASU. Mission change, mission change. BUZZARD 1-1 through 1-4 , BVR engage, heading 0-1-0, ALT 35.(バザード1-1、こちらアマテラス。ミッション変更。バザード1-1から1-4はBVR戦闘を実施。方位0-1-0、高度3万5000ft)」

『BUZZARD 1-1, copy. Heading 0-1-0, ALT35.』


 近藤がすぐに反応した。さらに、自らの編隊に指示を出す。


『1-3、1-4。すぐに合流しろ。BVRだ。味方の助太刀に行くぞ』


 近藤も、状況は無線を通じて把握していた。自分にお呼びがかかることは既に予測がついていたのかもしれない。バザード1の4機は、互いに合流しつつ、ほぼ北の方向に向かい始めた。当然、フェアリーこと蒼波もその編隊に続く。


「……死ぬなよぉ」


 蒼波の機のブリップを見ながら、羽浦は小さく呟いた。まだお前の死ぬ姿を見るには早い。BVR戦闘での優位はこちら側にあるとはいえ、不安にならないわけではない。空戦はさらに微妙な状況になりつつある。

 ベア5はさらに1機が喰われたが、代わりに相手を1機撃墜。撃っては逃げ、撃っては逃げを互いに繰り返し、数的な有利は確保していた。ここにバザード1の4機を差し向け、一気に落とす。


「……逃げる気ないのか」


 一向に逃げるそぶりを見せない敵に、羽浦は半ば呆れていた。端から帰還など考えていなかったのか、頑なにミサイルを撃とうとしていた。バカな、これでは特攻じゃないか。最初から帰る気などさらさらなかったのか。


「(……ここまで拘るのか)」


 ……何か変だ。ただの防空網破壊というわけでもなさそうだし、嫌がらせついでの戦闘機派遣にしては本気で死にに来過ぎている。戦力を減らすための目的だとしても、自分たちが死ぬ前提の作戦を作っては戦略上何の意味も成さない。何かがおかしい。羽浦の脳裏に、妙な違和感がうごめき始めた。


「――シゲさん、ちょっと」

「ん?」


 そんな不安を抱く羽浦の横では、別の管制員が重本を呼んでいた。地上との連絡を取っていた担当の管制員だ。受話器を手にしながら、少し困惑した表情で言う。


「ATMCからです。すぐに現場責任者を出してほしいと」

「なんだ、いきなり……」


 首を傾げつつも、重本は受話器を受け取って電話に応えた。


「はい、代わりました。……はい」


 何度か応対するうちに、顔を少しずつしかめていった。困惑も混じる中、「少しお待ちください」と言い残し、


「安藤、セクター6ってお前担当だよな?」

「はい、自分です」

「北西方向に民間機の反応あるか調べてくれ。コールサインは『スカイアメリカ225』だ」

「了解」


 民間機? 確か、この空域に民間機は通らないという話だったはずだ。離陸前のブリーフィングでも、重本が言っていたことを記憶していた。何かしらの手違いでここに迷い込んできたのか?

 バザード1を誘導しつつ、羽浦も、レーダー画面の表示をより広域のモードに切り替え、北西方向にいる民間機の反応を探す。ほどなくして、それらしい機体を見つけた。何もない洋上にポツンと1機だけ、南東に向けて飛んでいる。これか。高度を……、


「……え、2万フィート?」


 巡航しているにしては妙に低い。国内便でも、よほどの短距離で無い限りはもっと上を飛んでいるし、この高度は、空気抵抗の関係上燃料を無駄に食うため、洋上を巡行するには適していない。離着陸時以外なら、気圧に問題が発生した場合でなら低高度まで下りるが、そうすると今度は約1万フィートまで下りないといけない。2万フィート前後を行き来するのは中途半端だ。

 ……なんだこいつは? 不審に思う中、件の民間機がいたことが重本に伝えられた。


「それらしき奴はありました。高度2万フィートあたりを南東に向かって飛行中です」

「随分と低いな……。あぁ、失礼。いました。高度2万フィートを巡行中の奴ですね?」


 重本が再び電話に出た。レーダー上では、相変わらず奇妙な高度で飛行を続ける民間機。IFFは、確かに民間機を捉えていたが、まさか、昨日のように民間機に偽装した戦闘機であったりするのかだろうか。だが、そうなると単機で飛んでいるのは妙に思えるが……。


「(どこに行く気なんだ……?)」


 このままの針路と仮定して、その先を辿っていくと……


「……、沖縄?」


 次の瞬間、


「――はいィッ? 何ですってッ?」




「――機内でハイジャック!?」





 重本の発したその一言が、この奇妙な民間機の背景を全て語っていた……

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