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≫7月21日 AM04:30 日本 市ヶ谷 防衛省≪
――まもなく夜が明けようという頃。昨日の極東革命軍の起こした騒動は、深夜になっても衰えることのない“ホット”な話題となっていた。
日本の伊良部島と下地島は占領され、隣接する宮古島との唯一の橋も破壊されたことで、航路は封鎖。空路で行こうにも、空自のグローバルホークの偵察の結果、ターミナルに携行SAMを持った歩兵がいることが確認され、急遽取りやめになってしまう。
両島には、水陸両用戦車から成る2個戦車小隊と、歩兵部隊1個中隊が上陸したと推定された。また、歩兵に関しては、島にあった民間車両を使って、即席の移動車両とし、疑似的な機械化歩兵部隊を構成している可能性が示唆されている。グローバルホークの撮影した写真の中に、住民の者と思しき軽トラックの荷台に、明らかに歩兵と思われる人間が乗っているものがあった。これは、民間のトラックを横領し、自分らの移動車両として使っている何よりの証拠となる。
また、兵器は海だけではなく、空からも持ってきている様だった。深夜帯に、5機の輸送機が下地島に接近しているのを発見したが、護衛のJ-11と思しき戦闘機に遠距離から先手を撃たれ、8機もあったF-15Jの半数を失い、撤退を余儀なくされた。別働隊のCAPが向かったものの、低空進入でいたことにより発見の遅れも響き、時すでに遅く、輸送機は5機全て着陸した。すでに空港周辺は対空網が構築されつつあり、近づくことができなかった。
そこからさらに部隊が、戦闘に必要な物資と共に揚陸された。中には、移動式の対空機関砲らしきものもあるとの情報があり、島の防空網の強化を図ったものとされた。
グローバルホークからの画像データや、輸送機から物資を下す際の様子を、直前に島に送り込んでいた特殊作戦群の先遣隠密偵察隊が確認して送ってきた情報等を総合するに、揚陸させた戦力は、最低でも歩兵部隊が約300~400名程度、小型の装甲車が3両と、対空機関砲と思しき車両が4両程であると、防衛省は推測した。
「――比較的小規模といえば小規模だが、装甲車があるのは面倒だな」
『相澤』統合幕僚副長(陸将)は、目の前の小型モニターが表示している推定戦力を見てそう呟いた。
東京都新宿区市ヶ谷。防衛省本省庁舎A棟の地下。ここには、陸海空の各司令部と繋がっている事実上の最高指令部たる『中央指揮所』がある。各自衛隊との情報交換と指揮統制をつかさどるオペレーションルームをガラス越しに見ながら、比較的小さな半分ガラス張りの小暗い部屋の中で、陸海空幕僚のトップと側近らや、所謂背広組と言われる防衛省職員たち、そして、常駐していた数人の在日米軍幹部らも集まり、作戦を練っていた。
「輸送機で揚陸した分も合わせると、伊良部島と下地島にあるのは歩兵部隊が1~2個中隊分。装甲車両が2両、戦車が8両に、対空機関砲が4両程度……」
「奪還を行うならば、こちらの相当な戦力を送らねばなりませんな」
『稲葉』陸上幕僚長が隣から口を挟む。妙にやる気にあふれているのは、「いよいよ自分たちの出番か」と自分なりに意気込んでいるからであろう。さらに、彼は続けた。
「現在、特戦群の先遣部隊1個小隊が現地を隠密偵察中です。必要とあれば増強も可能ですが、その部隊は今沖縄の那覇駐屯地にいます」
「そこで待機させておけ。島全体への浸透と共に、情報収集を行うには現在の偵察規模では足りない可能性がある」
「了解」
稲葉は後ろに控えていた側近に顔を向け耳打ちするように指示を出す。業務用のタブレットを使ってその指示が特戦群に伝えられている間、さらに話は奪還の具体的な中身について入った。相澤が口火を切る。
「今後は、兼ねてから練られていた島嶼奪還作戦を実行することとなるが、場所は宮古島のすぐ隣だ。若干形を変えねばならない。空幕長、宮古島の住民避難の進捗は?」
「現在、C-2とオスプレイを総動員し避難を急がせています。早ければ今日の正午前後には全島民が避難できると」
『南武』航空幕僚長がメモを見ながら伝えた。
本来は民間船を使えられれば良かったのだが、今回ばかりはそうもいかなかった。宮古島で一番大きい港にして国指定の重要港湾である平良港は、海峡を隔ててすぐ近くに伊良部島がある場所に位置しており、船舶の往来は余りに危険であった。そうでなくとも、太平洋戦争時、旧軍の指導の下徴用された民間船が、米潜水艦により多大な被害を受けてしまった業界内でのトラウマもあり、民間船舶の借用には大変な苦労がいる。「商船乗りは 日章旗のもとでは死するとも 軍艦旗のもとでは死なじ」とは、商船乗りの誇りと決意の表れなのであり、統幕では、早い段階で航路での避難は諦めていた。
宮古空港だけは何とか使えることもあり、C-2輸送機を出せる限り出して住民避難に使うとともに、V-22オスプレイを、宮古島各地域の開けた場所に降ろして、少しでも住民避難のスピードを上げさせた。
また、民間会社からも有志が出たことは何より幸運だった。とある大手航空会社が、同空港への定期航路便として就けていた機材を数機ながら乗務員ごと貸し与えてくれたのだ。乗務員も、那覇空港の会社事務所内で有志を募って集まった者たちばかりだった。
沖縄から飛び立ったB787-8やB737-800が、那覇から飛び立ったF-15Jの護衛の下宮古空港に降り立った。民間機故、C-2やオスプレイより収容人数は上であったため、これらは優先的に離着陸が為された。民間機が乗せた分は、今頃那覇空港に降り立っているはずだ。
「伊良部島においた対空アセットが、機関砲だけでよかったな……」
一人の防衛部員がそう呟いた。
仮に伊良部島に対空ミサイルも配備されていたならば、民間機はもちろん、C-2やオスプレイすら、真面に宮古空港に降り立つことはできなかったであろう。射程によっては、宮古島も防空圏内に入ってしまい、宮古島の住民は、島そのものに敵がいないはずなのに、容易に島から脱出できないというストレスの溜まる状況下に置かれていたに違いない。対空機関砲なら、ギリギリ射程圏外であるはずだし、現に今まで攻撃されたという報告はない。
尤も、対空ミサイルの揚陸も恐らく時間の問題であるとされ、宮古島脱出作戦は昼夜を徹して行われている。今のところは何とか順調に進んでおり、同時並列的に、住民避難のために宮古空港にやってくるC-2には、本土から持ってきた分解されたJ/TPS-102移動式三次元レーダーや、随行の部隊、さらに、常駐警備に使う普通科部隊を載せている。先ほどからは、C-1をも使って、軽装甲機動車や96式装輪装甲車、16式機動戦闘車を空輸するべく準備が進められている。
「宮古島に置いた部隊は、伊良部島には向かわせず、常駐警備を想定しております。別働隊の準備も同時並行して行わせております」
「第8機動師団と第14機動旅団の準備はできているな?」
「はい。本格的な奪還となった場合は、この二つの即応機動連隊を水陸機動団に続く様に派遣する予定です」
第8機動師団は、西部方面隊所属の九州南部に所在する師団であり、第14機動旅団は中部方面隊所属の四国に所在する旅団である。
これらは、任務の性質上、他の部隊とは違う即応機動的な運用を想定し、平時から複数の兵科を統合した“諸職種連合”として編成された『即応機動連隊』を配下においている。各種迫撃砲や、16式MCV、装甲車両を備えた機動力と攻撃力を併せ持ち、島嶼部奪還においては早期に展開することを想定している。
稲葉は、先遣隊としての役割を持つ水陸機動団に続き、次の展開部隊として、これらを派遣する想定を考えており、既に陸自内でもその方向で調整している。。問題は輸送手段であるが、かき集めたヘリと輸送機、さらに海自のおおすみ型輸送艦をも使い、できる限り迅速な輸送を行うことで調整を進めている。
「すでに、可動全艦に対し出港命令を出しております。おおすみ型は1隻が整備中ですが、残り2隻はすぐにでも出せます。今佐世保に向かわせており、戦力を載せるための準備を向こうでさせています」
『岩波』海上幕僚長が報告した。海上自衛隊全部隊に対して『可動全艦出港せよ』の号令が出たのは、東日本大震災以来2回目で、それほどの大事であることを示唆していた。頷いて返した相澤は、さらに指示を出す。
「もしかしたらヘリがそっちに向かうことになるかもしれない、伝えておいてくれ。あと、恐らくだが、今回の作戦において編成される統合任務部隊の総指揮官が乗る艦は、海自のいずも型のどれかが使われることになるかもしれない」
「今すぐに動けるのは、『かが』ですね」
「ああ。そこに作戦指揮所と、横須賀にJTF司令部を置いて、自衛艦隊司令官を指揮官とした統合任務部隊を編成する方針で、官邸も動いている。統幕長からも、それでほぼ確定なのでその方向で動けとのお達しだ。恐らく、横須賀の司令官本人には既に伝わっているはずだが、『かが』にはまだ連絡は行ってないかもしれん」
「念のため、横須賀を通じて、呉にも連絡しておきます」
「ああ、頼む」
岩波が、やはり後ろにいる側近に耳打ちするように伝える。その後も、幾つかの指示が出されて行き、そのうち、「海自を中心にした3自衛隊の統合運用による奪還」の方向で、煮詰められていった。
「JTF司令部が出来次第、先遣部隊の情報を待って、投入戦力を正式に通達するとJTF指揮官に連絡しておけ」
「了解」
「占領されたのは一つだけとはいえ、仮に投入するなら、水陸機動団を除けば普通科だけでも最低1個連隊規模は考えておく必要がありますな」
稲葉が、目の前の小型モニターに表示された情報を見ながらそう言った。
意見が分かれている理論だが、もし『攻撃三倍の原則』を用いるなら、敵は歩兵部隊だけでも300~400名上陸させているので、自衛隊側としては普通科だけでも約900~1200名、大体1個連隊レベルの戦力は確実に投入しないといけない計算となる。勿論、単純な戦闘部隊だけではなく、実際には機甲科の装甲車や後方支援部隊等も上陸させる必要もあるし、元より投入できるならもっと多めの余裕をもって投入するのが望ましいため、もっと増える。
ある程度は第1次展開の水陸機動団が吸収するとしても、その後の主力部隊となる即応機動連隊が持つ戦力量は相当なものとなる。輸送手段も確保せねばならない。相澤の悩みの種は増える。
「(……輸送手段、足りるのか?)」
前々から、島嶼奪還作戦の実行に必要な輸送手段が足りないと言われてはいたが、現在に至るまでにある程度は改善されているにせよ、今あるものでどこまで足りるか、不安がないわけではなかった。おおすみ型も、使えるのは2隻のみ。相手は水陸両用戦車ももっているため、相手取るには16MCVの投入は不可欠だ。これは水陸機動団に同行できれば一番だが、それが叶わないなら第1次主力部隊派遣段階において、C-2かLCACに乗せて行かなければならない。限られた輸送リソースがそれらに食われて、肝心の普通科の輸送が遅れないようにもせねばならない。中々、悩ましいところだった。
「しかし、妙ですね」
「ん、何がだ?」
一人の制服組の人間が言った。統幕の防衛計画部部長だ。
「いえ、どうせ占領するなら、宮古島に近い伊良部島や下地島なんかより、周りは海ばかりの多良間島とか、与那国島あたりを狙いそうなところですが、そっちではないんだなと」
確かに。占領を行うのならば、奪回がされにくい場所を選ぶのが一番である。日本の南西諸島においてそれは、先に防衛部員が言ったように、多良間島と与那国島である。
宮古島は、確かに自衛隊の戦力はほとんど置かれてはいないにせよ、後々奪還のための戦力基盤が置かれたり、防空網確保のための部隊が配置されることが十分予測されるため、比較的早い段階で伊良部島上空の航空優勢は自衛隊が握ることになり得る。空を制する者は戦を制する。伊良部島の上空が自衛隊に掌握されれば、あとは伊良部島はただの島となり、煮るなり焼くなり好きに料理できる。何なら、宮古島に地対艦ミサイルを配備すれば、宮古島に近づく敵艦船を一方的に攻撃することも可能だ。
一見すれば、わざわざ伊良部島を占領する意義が薄いように見える。だが、そこは南武が手を遠慮気味に上げて言った。
「あー、それはたぶん、輸送機の運用に理由があるんだと思う」
「というと?」
南部は後ろに控えていた側近から手渡されたメモを見ながら説明した。
「こちらで確認した敵の輸送機は、中国空軍のIl-76MD“キャンディッド”だが、あれは図体がでかすぎて、小さな島にある空港では扱いきれない。平行誘導路もないし、滑走路の先にターニングパッドもない。滑走路長も、与那国はまだしも多良間の方はギリギリだ。パイロットに立ってみれば、そんな空港には降りたくはないんだろうな」
南武の指摘は正しかった。実際、Il-76MDの離陸・着陸滑走距離は、それぞれ850m/450m程とされている。もちろん、積み荷や燃料が重ければもっと長くなるかもしれない。滑走路距離が比較的ギリギリなので、長さに余裕のない空港に降りるパイロットの心的ストレスは増える。与那国空港は2000m滑走路なのでまだマシかもしれないが、多良間空港は1500m滑走路なので、着陸位置が悪ければ停止位置は滑走路エンドギリギリになってしまう。
また、仮に無事降りられたとしても、この二つの島の空港には滑走路に並行して伸びている平行誘導路も、誘導路と滑走路をつなぐ連絡誘導路もない。あるのは、エプロンと滑走路を直接つなぐ一本の誘導路のみで、そこは滑走路中央にあるため、一旦滑走路の先でUターンをしないといけない。だが、IL-76MDは、46.6mの巨体である。これに匹敵するのはB767-200型や、A300型、A321型といった中型機に分類されるものばかりで、ターニングパッドとよばれる、滑走路の先の膨らんでいる場所がなければターンしきれない。デカい故に、小回りが利かないのである。そうでなくても慣れない空港なので、そんなところで無理な動きはしたくないはずだ。だが、それができる空港はほとんど大型の島ばかりで、戦力規模を考えると占領が中途半端となる。
できれば島全体を占領したいが、その兵力はほとんど空輸。空輸に使うIL-76MDが真面に運用でき、自分たちの戦力だけで島全体を占領できるほどの小型の島で、尚且つ、当然自衛隊の戦力もないか、ほとんど置かれていない場所……、となれば、
「……伊良部島と下地島ぐらいしかないか」
「はい。あそこには下地島空港がありますが、そこは嘗て民間機の訓練に使われていただけあって、平行誘導路も、連絡誘導路もついている3000m滑走路持ちと、キャンディッドを運用するにはうってつけの条件が整っています。エプロンも広いですし、隣にある島は宮古島のみ。置かれている部隊も、空自のレーダーサイトの運用部隊のみです」
「しかも、そのレーダーサイトは工作員の破壊工作により無力化。宮古島分屯地の自衛隊は何もできず事実上放置となれば、実質的な戦力はないに等しい」
唯一、占領はしていないので宮古島には自衛隊の戦力が置かれてしまうことにはなるが……しかし、島の確実な占領そのものを目的とするならば、確かに伊良部島と下地島以外にはあり得ない。
相澤は唸った。極東革命軍なる組織も、中々考えたな。すぐ隣に自衛隊の各部隊が置かれてしまうという致命的な弱点はあるが、逆を返せば、それぐらいしか弱点がない。大きな空港がある小さい島は、沖縄より南では下地島だけだし、隣接するのは伊良部島のみ。
奴らの目的が、まさか永久的な島嶼部占領というわけではあるまい。彼らの戦力は、それを行うには余りに貧弱すぎる。もっと別のものがあるはずだ。となれば、“永久的な占領”という目的にとって問題視される「すぐ隣の島に敵の部隊が配置される」という点は、さほど重要ではなくなる。簡単に言えば、「例え一時的であっても、占領できればいい」という狙いがあるならば、それはほぼ達成された。すぐ隣に島があるとはいえ、そこに常駐する部隊がほとんどない以上、自衛隊が行う作戦は、遠隔地の孤島の奪還作戦とさほど変わらなくなる。多少、事前に部隊を展開できるのでやりやすくなるだけだ。
「(……何とも歯痒いな)」
相澤は、若干ながら悔しい思いをしていた。宮古島から見れば、すぐ目の前に自分たちの島があるのに、今は別の組織に占拠されている形だ。手が届くのに、届かない。自衛隊にとって、これほどの屈辱はなかった。
元々、伊良部島は“離島の離島”と呼ばれていた。宮古島は沖縄本島から見れば離島だが、橋ができる前は、伊良部島との連絡手段はフェリーしかなく、宮古島にとってはすぐ隣の伊良部島すらも“離島”と見られていたぐらいに、“僻地”扱いされていた。現地では『離島苦(離島の苦しみ)』という言葉もあり、伊良部大橋ができた時は大いに盛り上がり、地元新聞が「離島苦から開放される。40年の宿願、ついに」というタイトルをつけて大々的に報じていた程だった。
戦力も無く、程よく離島となる場所――そういった場所に、伊良部島・下地島はあったのである。
「投入戦力は、陸海空ありとあらゆるものを使おう。この際だ。我々が今までに練ってきた戦略が正しいのか、これで実証するぐらいの気持ちでかかるしかない」
相澤は鼓舞するように全員に行った。ここにいる全員の気持ちは同じである。すると、一人の背広組の人間が手を挙げた。
「その件なんだが、防衛省としては、ぜひともこの機会に、“アレ”を投入してみたいのだが、どうだろうか?」
「アレ、とは?」
「三沢にある『第302飛行隊』だ。対地攻撃にはうってつけではないかね?」
「三沢の302……?」
一瞬首をひねったが、相澤はすぐにハッと思い出した。三沢にいる戦闘機といえば、今はあの最新鋭機だ。対地攻撃という言葉の意図も、すぐに察した。
「……例の『30コンビ』、ですか?」
「そうだ、それの片割れだ」
だが、当の管理を行っていた南武がすぐに聞いた。
「しかし、彼らはまだ配備機数も少ない、いわば“虎の子”です。もう少し時間をおいてから、状況を見てということでもいいのでは?」
「それはそうかもしれんがな、空幕長。嘗て、旧海軍は戦艦大和を、あれほどの性能を持っていながら持て余した歴史があるではないか。当時は既に航空機の時代だったとはいえ、使い方によっては十分活躍のし甲斐があったはずなのに、ついにその真価を発揮できずに坊ノ岬沖に沈んだ。あのような歴史の繰り返しは避けなければならないだろう」
「つまり、出し惜しみはするな、と?」
相澤の言葉に、彼も満足げに頷いた。
「そうだ。やれないというわけではないのだろう?」
「もちろん、性能面では十分ですし、訓練も一通り済ませています。やれと言われれば、彼らは存分にやってくれるでしょう」
「なら大丈夫だ。向こうが持っているのは、対空機関砲のみ。レーダーもあるかもしれんが、自慢のステルス性の前には歯が立たないだろう」
「ええ、同感です。あのステルス性を探知する能力は、我が自衛隊にもありません。本気を出せば、まさしく“忍者”の如くやってくれるかと」
「違いない。実戦性能を確かめるチャンスだ、どうだね?」
「そうですな……」
相澤も顎に手を当てて頭をまわした。確かに、戦艦大和のような運用の仕方は避けるべきだ。そう考えれば、三沢の302飛行隊を持ってきて、自慢のステルス性能を用いて、ひそかに侵入。レーダーと、島の対空アセットを破壊すれば、少なくとも島の直上の航空優勢は確保したも同然だ。ヘリも輸送機も自由に降り立てる。
敵艦船や戦闘機の問題はまだあるが、そっちはまた別の話だ。まず島の防空能力を落とすための戦法として考えれば、確かに、これ以上の手はないか。
「……念のためお聞きしますが、米軍としてはこれには賛成ですか?」
相澤は、同席していた在日米軍の連絡将校に聞いた。後ろの側近とも一言二言意見を交わした後、彼は流暢な日本語で返した。
「我が在日米軍としては、そちらの作戦には基本口出ししないし、今出た案にも賛成だ。確かに、対レーダー性能のテストという意味では、十分意義があると思う」
「そうですか」
「ただ、あれは我が軍も運用する最新鋭機であることは確かだ。ステルス能力が、他国に少しでもバレる可能性を考えると、ホワイトハウスがなんていうか……」
「今までも何度か中東で出してたではないですか。今更何か問題でも?」
一人の防衛部員が尋ねると、彼は軽くこめかみを抑えて、ため息をつきながら、
「……あまり口外しないでほしいのだが、大統領閣下が、最近あの戦闘機の性能を余り公表したがらなくなってきた。中東で何度か出したはいいものの、それでロシアが過敏にその性能に反応したのを、どうやら“批判”と受け取ったらしい」
「ロシアが余りいい顔をしないと?」
「ああ。だから、余り西側戦闘機に活躍されると、自分達の戦闘機の輸出にも影響するとロシアは見ているのだと、大統領閣下は見ているらしい。それ故、ロシアとの関係調整もかねて、今は比較的慎重であってなぁ……」
「でも、我々としては出すときは出しますよ?」
「もちろん。先ほども言ったように、基本的に我々はそちらの作戦には余り口出しはしないし、もし使うとなれば、我々もそれを支持する。協力も惜しまないことを約束しよう。ただ……」
「ただ?」
「……正直な話、その際は、ホワイトハウスに対する言い訳の草案だけは、一緒に作ってくれるとありがたい……」
そう軽くジョークで締めると、「ハハハ……」と、疲れ切ったサラリーマンのような表情を浮かべて力ない笑みを浮かべていた。後ろにいる側近も似たり寄ったりな顔だった。周りにいる日本人勢、逆に笑えず仕舞い。
「(……苦労してるんだなぁ)」
相澤は彼らに同情の念を抱いた。一同盟国の緊急事態に、ライバル国の輸出がどうたらとか言っている暇はないだろうと思うのだが、それは自分が武官たる自衛官だからなのか。だが、文民であるはずの背広組の面々ですら苦笑を浮かべているあたり、考えていることは同じなのかもしれない。
「……と、とにかく、可能ならばでいい。検討してみてくれ」
「わ、わかりました」
さっさと切り上げようとばかりに行ってきた防衛部員の言葉に、相澤も乗っかった。
その後も、さらに作戦の大要を練っていき、何れ編成されるJTFの作戦立案に必要な諸情報をまとめていく。もうすぐ外は明るくなるはずだが、自然と眠気がない。無理にでも休むべきところなのだろうが、せめて、これが終わってからにしよう。
「……国家の非常事態なんだ。もう少しだけ耐えろよ……」
そう自分の体に言い聞かせ、彼は議論を進めていった……




